ナイジェリア拠点のフィンテック企業InterswitchのCEOが語る、アフリカ大陸の金融サービスの現状

アフリカ全土に展開するフィンテック企業のInterswitch(インタースイッチ)は、そのベンチャー投資部門を再開することを計画している。CEOであるMitchell Elegbe(ミッチェル・エレグベ)氏自身から、米国時間9月16日に行われたTechCrunch Disruptの壇上で語られた。

このナイジェリア出身の起業家は、同国の首都ラゴスに拠点を置くInterswitchが予定しているIPOについてはあまり新しい情報を語らなかったが、同社がアフリカのスタートアップへの投資を復活させることを明らかにした。

2002年にエレグベ氏によって設立されたInterswitchは、当時は主に現金ベースで行われていたナイジェリアを、デジタル化するインフラストラクチャを開拓した。同社は現在、アフリカ最大の経済と人口2億人を擁するナイジェリアのオンラインバンキングシステムに、多くのインフラストラクチャを提供している。同社は、アフリカの23の国で、個人向けおよびビジネス向けの決済商品を提供するまでに拡大した。

このフィンテック企業は、2019年に行われたVisaによる2億ドル(約209億6000万円)の株式投資によって、評価額が10億ドル(約1048億円)となりユニコーンの仲間入りをした(未訳記事)。

ベンチャー投資の復活

スタートアップの段階を十分に超えたInterswitchは、2015年に1000万ドル(約10億5000万円)のベンチャー部門(未訳記事)を立ち上げたが、ナイジェリアのフィンテックセキュリティ会社であるVansoを買収(techcabal記事)した2016年以降、そのベンチャー部門を休止していた。

しかしエレグベ氏によれば、Interswitchはまもなくスタートアップへの投資と買収を行うビジネスを再開するという。「私たちはチームを認定したばかりですが、そうした投資を再び開始する予定です」。

彼は新しいファンドの焦点を簡単に紹介した。「今回は、金融投資を行い、Interswitchが持つネットワークを投資企業が自由に活用できるようにしたいと考えています」と同氏はTechCrunchに語った。

「私たちは投資先の企業を厳選していきます。それらは、Interswitch自身が、明確に価値を与えることができる企業でなければなりません。私たちの行動と、私たちが既にお付き合いのあるお客様たちの力で、成長の加速をお手伝いできるような企業でなければならないのです」とのこと。

アフリカのテクノロジー業界における最近のベンチャーの動きが、Interswitchが投資分野に戻るように迫った可能性がある。エコシステムとして、アフリカ大陸のVCは過去5年間でほぼ4倍に増加し、2019年には約20億ドル(約2092億8000万円)に達した(未訳記事)。しかし、そのほとんどは単一企業による投資ファンドからのもので、ベンチャーファンド企業による投資とテクノロジーM&Aは、まだ軽微なものに留まっている。それは過去数カ月にわたって変化し、全体的な上昇がInterswitchの競合他社と見なされる可能性のある法人を中心としたアフリカのフィンテック周辺で発生してきた。

7月には、ドバイのNetwork International(ネットワーク・インターナショナル)が、ケニアに拠点を置くモバイル決済処理会社のDPOを2億8800万ドル(約301億4000万円)で買収(The Africa Report記事)した。買収後まもなく、DPOのCEOであるEran Feinstein(エラン・ファインスタイン)氏は、Network Internationa社はアフリカでの買収をさらに推進する予定だと語った。6月には、別のモバイルマネー決済処理会社であるMFS Africaがデジタル金融会社のBeyonic(ビヨニク)を買収(Venture Burn記事)した。そして8月には、保有資産と融資高でアフリカ最大の銀行である南アフリカのStandard Bank(スタンダード・バンク)が、フィンテックセキュリティ企業TradeSafeの株式を取得(AppsAfrica記事)した。

Safaricomによる主要なM-Pesaモバイルマネー製品(未訳記事)がケニアで台頭して以来、アフリカのフィンテックは成長を続け、競争が激化している。このセクターには数百のスタートアップがあり、現在アフリカ大陸でのすべてのVC投資のほぼ50%を受け取っている。

投資家と創業者が狙っているチャンスは、アフリカに多数いる銀行口座を持たない人々と銀行口座は持つものの活用できていない消費者(Investopedia記事)、そして中小企業たちをオンラインにしようとするものだ。世界銀行のデータによると、サハラ砂漠以南の10億人(世界銀行データ)のおよそ66%が銀行口座を持っていない。モバイルベースの金融プラットフォームは、そうした地域全体をシフトさせるための最良のユースケースを提示してきた。

Interswitchは、アフリカのデジタルファイナンスレースのリーダーとしての地位を確立している。しかし、革新的で若いフィンテックスタートアップに、投資や買収を行う積極的なベンチャー部門がなければ、現在の役割をどのように維持または拡張できるのかを想像することは困難だ。

IPOについての具体的な話は出なかった

エレグベ氏は、長い間期待されてきたInterswitchのIPOに対してはあまり語らなかった。会社はまだ上場するつもりなのかと尋ねたところ、彼はそれについては回答を控えたいとした。「現時点では、ビジネスの成長と顧客のための価値の創造に注力していて、それが私たちの主な焦点なのです」とのこと。

IPOの可能性がまだあるのかどうかについて「はい」または「いいえ」の回答を求めたところ、エレグベ氏はそれは「はい」だと答えた。「私たちはプライベートエクイティの投資家を抱えていますが、この先ビジネスのある時点でのエグジットを彼らは望んでいます」という。「イグジットのタイミングを迎えるときには、テーブルにはさまざまなオプションが置かれることになりますが、IPOもそのオプションの1つです」。

InterswitchのIPOについては長年話題されてきた。エレグベ氏は2016年に、TechCrunchに対して、ラゴスとロンドン証券取引所の二重上場が可能だと語っていた。その後、他のInterswitchチャネルを通じて、2017年のナイジェリアの景気後退と通貨のボラティリティのために公開が遅れたという噂が流れた。2019年11月には、状況を知る情報筋が、TechCrunchに対してその背景を語っていた「IPOの可能性はいまでも非常に高いままです。おそらく2020年の前半のいつかでしょう」。その後、新型コロナウイルス危機とそれに伴う世界経済の低迷が起こり、それがInterswitchのIPO計画を再び遅らせた可能性がある。

同社が上場すれば、それはナイジェリアとアフリカのフィンテックにとって大きな出来事となるう。アフリカ大陸には、VCが支援し世界的に上場しているフィンテック企業は存在していない。Interswitchの投資家のイグジットは、アフリカ大陸のスタートアップに対する投資機会の様子をうかがっている主要なファンドから、より多くのVCをナイジェリアやアフリカ全土へと引き寄せることになるだろう。

アフリカへ再注力

グローバルな製品展開に関してエレグベ氏は、今のところアフリカへの注力を継続する予定だと説明した。「アフリカ大陸の中で、Interswitchには十分な機会があります。私たちはできるだけ多くのアフリカ諸国に広がることを望んでいます。そしてInterswitchをアフリカ大陸への(金融)ゲートウェイとして位置付けたいと考えています」と彼はいう。

エレグベ氏は、主要な金融サービス企業との提携を通じて、アフリカの顧客基盤にグローバルな金融アクセスを提供し続けると説明した。2019年8月にInterswitchは、Verveカード所有者がDiscoverのグローバルネットワークを使って支払いを行えるようにするパートナーシップを開始した。

同氏は、ナイジェリアでのビジネスを行う際の欠点と可能性のバランスをとる見方を示しながら、今回のDisruptにおけるセッションを終えた。近年ナイジェリアは、アフリカにおける大規模な技術拡大、VC投資、そしてスタートアップ形成のための非公式なハブ化が進んでいる。しかし、ナイジェリアはインフラストラクチャーに関しては厳しい運営環境が続いている、それはしばしば政治的腐敗とボコ・ハラムのテロ行為による北東部地域の不安定に関連していることが多い。

「ナイジェリアは非常に大きな人口と非常に大きな市場を抱えています。私たちには解決する必要のある課題がたくさんありますが、ナイジェリアにはチャンスがあるので、多くのお金がそこへ向かっていることは理解できます」と彼はいう。

ナイジェリアの検討をしているテック投資家へのエレグベ氏のアドバイスは以下のものだ「短期的な見方をしないでください。そこには素晴らしい仕事をしている素晴らしい人びとがいます。インパクトを与えたいと思う正直な人たちです。そうした人たちを探し出す必要があります」。

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(翻訳:sako)

トランプ政権がアフリカのトップテック国ナイジェリアからの移民を制限

米国のトランプ政権は1月31日、ナイジェリアからの入国を制限すると発表した。ナイジェリアの人口はアフリカで最多、そして経済規模も最大で、アフリカのテックをリードする国だ。

入国制限は、人口2億人のナイジェリアに米国への渡航を完全に制限するものではなさそうだが、エリトリア、キルギス、ミャンマーと共にナイジェリア市民への移民ビザの発給を一時停止する。

これは、米国永住を検討している市民に適用される。移住ではない人の入国や観光ビザ、ビジネスビザ、医療目的の訪問などには適用されないとされている。

タンザニアとスーダンにも制限が課された。グリーンカード抽選として知られる米国移民多様化プログラムから除外される。

このニュースは米国土安全保障長官代理のChad Wolf(チャド・ウォルフ)氏が発表し、最初にAP通信が報じた。国土安全保障省はその後、TechCrunchにウォルフ氏の発言内容と制限の要約を提供した。

同省によると制限の主な理由は、対象となった国々が「強化されたセキュリティ基準」を満たしていないことにある。

ウォルフ氏は「対象国に変化がみられる場合、入国制限は永久に課すものではない」と述べた。

トランプ政権は2017年にイスラム教徒が大半を占める国からの入国を制限した。トランプ政権がその対象国リストにナイジェリアやいくつかのアフリカの国を加えることを検討しているとの報道が先週あったが、今回の措置はそうした動きに続くものだ。

ナイジェリアの人口のおおよそ45%がイスラム教徒で、同国ではテロが繰り返されている。テロの多くが北東部でのボコハラムに関連するものだ。

ナイジェリアから米国への移民制限は特に2国間の商業テック関係に影響を及ぼすかもしれない。

USTR(米通商代表部)と米国務省の概要によると、ナイジェリアは米国にとってアフリカで2番目に大きな貿易相手であり、米国はナイジェリアにとって最大の外国投資家だ。

2国間のビジネス関係はますますテックにシフトしつつある。ナイジェリアは着実にVCやスタートアップ、創業者にとって、またシリコンバレー企業への入り口としても「アフリカの首都」に育っている。

VC会社Partechの最新のレポートで、2019年のナイジェリアのベンチャー投資額はアフリカで最多だったことが明らかになった。

投資の多くは米国からのものだ。米国はテックにおいて紛れもなくナイジェリアの強固なパートナーで、シリコンバレーはアフリカ開拓のためのゲートウェイとしてナイジェリアを選んだ。こうした関係を示す例は数多くある。

2019年6月、Mastercard(マスターカード)は、ナイジェリアに本社を置き、アフリカで広く展開しているeコマース企業Jumia(ジュミア)に5000万ドル(約54億円)を投資した。後にJumiaは主要証券取引所であるNYSEでIPOを行ったアフリカ初のテックスタートアップとなった。

8月にはJumiaの投資家の1つ、Goldman Sachs(ゴールドマンサックス)がナイジェリアのトラックロジスティックスタートアップKobo360の2000万ドル(約22億円)の投資ラウンドをリードした。

米国とラゴスにオフィスを構えるソフトウェアエンジニア企業のAndelaは米国のソースから1億ドル(約108億円)を調達し、エンジニア1000人を雇用している。

Facebook(フェイスブック)はナイジェリア出身の管理職を抱え、Ime Archibong氏もその1人だ。同社は2018年にNG_Hubと呼ばれるイノベーションラボをナイジェリアに開設した。Google(グーグル)は先週ラゴスに自前のデベロッパースペースを立ち上げた。

ナイジェリアのテックはまた、米国でサービスを展開するスタートアップの増加にも貢献している。ナイジェリアのフィンテックスタートアップFlutterwaveは米国サンフランシスコに本社を置き、ラゴスでオペレーションを展開していて、同社のクライアントはUberからCardi Bまで多岐にわたる。Flutterwaveはアフリカで操業する米国企業が支払いを受けられるようするB2Bの決済プラットフォームのためのデベロッパーチームを米国とナイジェリアの両方に置いている。

Macy’s(メイシーズ)やBest Buy(ベストバイ)、Auto Parts Warehouse(オートパーツウェアハウス)のアフリカでの販売を支えているナイジェリアのeコマース企業MallforAfrica(モールフォーアフリカ)は、米国で勉強して働いた経験を持つナイジェリア人のChris Folayan(クリス・フォラヤン)氏が率いている。同社はラゴスでナイジェリア人を、オレゴン州ポートランドの処理プラントで米国人を雇用している。

アフリカのVOD(ビデオオンデマンド)業界をリードするスタートアップであるiROKOtvはニューヨークにオフィスを構え、(Nollywoodとして知られる)ナイジェリアのコンテンツを貸したり、世界にストリーミングしたりしている。

トランプ政権の最初の入国制限と同じように、ナイジェリアに対する制限も裁判沙汰になるかもしれず、実施が遅れる可能性はある。

その前に、トランプ政権の動きはナイジェリアとの米国行政部のイニシアチブの勢いをそぐものとなるかもしれない。

トランプ大統領にアフリカ問題を担当する米国務次官補に指名されたTibor Nagy (ティボル・ナギー)氏は1月31日、2月3日に予定されている国務省主催の米国・ナイジェリアの2国間会議にナイジェリアの外務大臣Geoffrey Onyeama(ジョフリー・オニェアマ)氏を迎えるとツイートした。

このイベントのテーマは「ナイジェリア人と米国人が共有する起業家精神、独創的精神、勤勉精神を反映するイノベーションと創意工夫」だ。

画像クレジット: Saul Loeb / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi