日本が抱える深刻な社会問題はいくつもあれど、「労働力人口の減少による人手不足」はメディアなどでも頻繁に取り上げられる代表的な課題の一つだ。
そんな状況だからこそ多くの企業がこれまでにも増して人材採用に投資し、魅力的な仲間を増やそうと努めている。積極的に自社の特徴を発信する採用広報の動きが加速。採用を支援するHR Techツールもここ数年で細分化が進み、より細かいニーズに応えられるようになっている。
一方で健康経営やエンプロイー・エクスペリエンス(EX)といった言葉を目にする機会が増えたように、新たなメンバーを採用することと同じくらい「今いるメンバーが安心して働き続けられるような組織を作ること」も重要だ。そのためにはメンバーの離職につながる原因を予め突き止め、適切な対策を講じることが必要になる。
本日1月24日にβ版が公開された「ハイジ」は離職の原因に繋がる要因を見える化するサーベイツール。このプロダクトを手がけるのは、累計で1500社への導入実績があるサブスク型の社食サービス「オフィスおかん」運営元のおかんだ。
ハイジの特徴は職場環境や給与、社内での人間関係など、それが整っていないと従業員の不満足に繋がる「ハイジーンファクター(衛生要因)」に特化していること。企業はサーベイの結果をハイジスコアとして定量的に分析できる。
ハイジスコアをマッピングした「ハイジマップ」
基本的な使い方はすでに存在するサーベイツールに近しい。まず導入企業は従業員にオンライン上でアンケートに回答してもらう。回答にかかる時間は約10分ほど。PCだけでなくスマホにも対応する。
その結果を執務環境や制度の充実、休暇の取りやすさなど12要素に分け、各項目ごとにスコアを算出。このスコアを年齢や性別、所属部署ごとにマッピングしたハイジマップ機能も備える。
経営者や管理部門のスタッフにとっては、これまで可視化することの難しかったハイジーンファクターにおける問題点を数値ベースで把握することが可能。社内のどこに問題点があるのか、どこから着手すればいいのかを判断する材料になるだけでなく、継続的にサーベイを実施することで打ち手の効果検証や数値目標の設定にも活用できるという。
離職要因の約80%を占める衛生要因に特化したサーベイツール
開発元のおかんが2018年7月に7億円の資金調達を実施した際に、代表取締役の沢木恵太氏は「(労働力人口が減少していく中で)企業側が正しい課題意識を持ち、正しい施策に対して投資をしていく」ためのサポートをしたいと話していた。それに向けてオフィスおかん以外のソリューションも仕込んでいるということだったけれど、それがハイジだったということらしい。
それにしてもなぜこの領域なのか。従業員サーベイを通じて組織の現状を診断・改善できるサービスはすでに複数存在する。代表的なサービスで言えばリンクアンドモチベーションの「モチベーションクラウド」や以前TechCrunchで紹介したアトラエの「wevox」などがそうだ。
そもそもハイジが着目したハイジーンファクターとは、アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグ氏が提唱した二要因理論の中で出てくる考え方だ。この二要因理論で従業員の仕事に対する満足度を二つの要因に分類していて、一方が満足に関わるモチベーターと呼ばれる要因(動機付け要因)。そしてもう一方が不満足に関わるハイジーンファクターと呼ばれる要因(衛生要因)になる。
モチベーターはあればあるほど意欲が向上するような要因のことで、たとえば理念への共感や仕事内容に対するやりがいなどが該当する。その反面、ハイジーンファクターは冒頭でも触れた通り「あることが当たり前」の要因で、なくなってしまうと著しい不満足に繋がってしまうもの。職場環境や給与、社内での人間関係、健康や家庭との両立などが当たる。
沢木氏の話では、あくまで厚労省の統計ベースにはなるが離職原因の80%以上がハイジーンファクターにまつわるものなのだという。
「離職を減らすためには、“働きやすい”環境というよりも“働き続けられる”環境を作ることが重要。そのためには働き続けられない理由を潰すツールが必要だと考えた。採用に投資をすることももちろん重要だが、入社後のサポートがしっかりしていないと意味がなくなってしまう」(沢木氏)
既存のサーベイツールはやりがいやモチベーションなど、どちらかというとモチベーターに着目したものが多い。一方でハイジーンファクターに特化したサービスはまだこれといったものがなく、自分たちでやる意義があるというのが沢木氏の見解だ。
オフィスおかんとの親和性も
なおかつ、ハイジはこれまで展開してきたオフィスおかんのユーザーとも親和性が高い。オフィスおかんの直接的な窓口となるのは、総務や人事といった管理部門の担当者や経営者が中心。管理部のスタッフからは「健康経営に対するプロジェクトにアサインされたが、定量的な目標設定や優先順位付け、各施策の評価やフィードバックが難しい」といった課題を聞いていたという。
同様の悩みは経営者も抱えている。ハイジーンファクターに分類されるような施策は費用対効果の判断が難しい領域。「結構な投資が必要だと意思決定も難しく、後手後手になって状況が悪化してしまうケースもある」(沢木氏)ため、その判断材料となる指標が欲しいという声は多い。
すでに複数社には試験的にα版の提供を始めていて、上述したような課題の解決や「なんとなくそう思っていた」要因を可視化することに役立ててもらっているそうだ。今後ハイジで見つかった課題に対するソリューションの一つとして、オフィスおかんを提供することもできるだろう。
おかんでは今回のβ版を経て、今年の春〜夏頃を目処にハイジの正式版をリリースする計画。ゆくゆくは国から義務化されているストレスチェックも内包できるようにプロダクトをアップデートするほか、サーベイの結果を基に「どの領域にどのくらい投資をすればいいか、どんな対策を講じるべきか」までレコメンドする機能も提供していきたいという。