Uberの悲痛な叫び声がアメリカ国内にこだまする中、中国で成長を遂げた新たなオンデマンドサービスがアメリカに進出しようとしている。
これはカーシェアリングでなければバスシェアリングでもない。街中の交通手段の変化を必死に追っている投資家や自動車メーカーが、バスシェアリングに注目しているというのは間違いないが、この記事のテーマは別だ。その新たなビジネスとはバイクシェアリング(自動車レンタル)、それも自転車を停めるドックが必要ないバイクシェアリングサービスだ。世界中の起業家やVCが、このサービスの可能性に大いに期待している一方、規制機関は(また)突然のように現れたトレンドで被害を被らないよう格闘している。
「ドックレス・バイクシェアリングは、人々がその(社会的な)メリットに気付くまでは、何かと不安をかき立てることになるでしょう」とAtomicoの共同ファウンダーMattias Ljungmanは話す。さらに彼は、目的地がどこであれ、ユーザーが移動し終えたタイミングで自転車を手放すことができる仕組みこそ「このサービスの本当に革命的なポイント」だと言う。ドッキングステーションの仕組みは「とても複雑」で、「ユーザーは予めどこに自転車を停められるか把握しておかなければならない上、ステーションがいっぱいで自転車が停められないということもあります。これは大変不便なことです」と彼は付け加える。
Atomicoは数ある企業の中でも、北京を本拠地とするドックレス・バイクシェアリングサービスのOfoに賭けることにした。同社はこれまでに、複数のVCから総額5億8000万ドルを調達しており、ポストマネーの評価額は10億ドルを超えている。Ljungmanによれば、Ofoの勢いを見た中国の投資家は、設立から3年しか経っていない同社にさらにお金をつぎ込もうとしているようだ。Ofoは100万台以上のコネクテッドバイクを中国の街中に配備しており、1日あたりの利用数は1000万回を超えるという。ちなみに、ロンドンが運営しているバイクシェアリングサービスの利用数は”1年で”約1000万回と言われている。
上海生まれで設立から16ヶ月が経ったMobikeも、Ofoと同じような過程をたどっており、保有している自転車の数は100万台以上、累計調達額は4億1000万ドル、さらに評価額は10億ドル強とのこと(WSJ調べ)。
上記の2社には劣るものの、半年前に設立されたばかりで北京に拠点を置くBluegogoも、既に6500万ドルを調達している。
とは言っても、アメリカと中国は全く別の国だ。中国で成功をおさめたビジネスモデルが、アメリカでもうまくやっていけるかどうかはまだわからない。「世界中でうまくいっているビジネスが、5000年におよぶ歴史を持つ中国ではうまくいかないケースがあるように、中国で成功したビジネスが、(アメリカでも)人気を呼ぶかどうかはわかりません」とSOSVのファウンダーでマネージングパートナーのSean O’Sullivanは言う。
仲間か敵か
O’Sullivanは、誰よりもドックレス・バイクシェアリングサービスに注目してきた。多くのVC同様、彼もこの分野の投資合戦に参加している。アメリカでは、ニューヨーク発のSocial Bicycles(またはSoBi)が、位置確認のためのGPSシステムを搭載したドックレスバイクや、ユーザーがどんな駐輪場にでも自転車を停められるような統合型ロックシステムを作った初めての企業だと言われている。
ファウンダーのRyan Rzepeckiは、2010年のSoBi設立以前、ニューヨーク市運輸局にプロジェクトマネージャーとして17か月間勤めていた。彼は、ニューヨーク市が当時Citi Bikeの親会社だったAltaとパートナーシップを結ぶずっと前の段階から、バイクシェアリングに関する同市の構想について知っていたと言う。今やアメリカ最大のバイクシェアリング・プログラムを運営しているニューヨーク市だが、その実現に向けては、何年も前から入念な準備を行っていたのだ。このことについてRzepeckiは、「街がどのように管理されているかや、何が地方自治体にとっての心配点なのかを知るきっかけになった」と話す。
数ある必要条件の中には「各自転車がきちんと検査・整備されるかや、ドッキングステーションがきれいに管理されるか、街全体に偏りなく自転車が配備されるか、データは共有されるか」といったものがあったと、当時はRzepeckiの上司にあたるニューヨーク市運輸局長で、現在はさまざまな地方自治体で都市計画関連の顧問を務めているJanette Sadik-Khanは話す。さらに彼女は、諸々の条件が「かなり基本的なもの」で、ニューヨーク市民の利益を最優先してプログラムに関する議論が進められていたという。しかし、「自分勝手な企業が提供するサービス」では、市民の優先順位が下げられてしまう危険性もあるとSadik-Khanは漏らす。
彼女はOfoやMobikeに関し、「最近設立された企業は、(自転車を)マーケティング用の車両のようなものと捉え、公共の道路を自分たちの利益のために使おうとしているように見えます」と語っている。上海のような渋滞の多い街では、バイクシェアリングサービスの登場によって、市民が自由に街中を移動することができるようになったが、その過程では、自転車が歩道に散乱したり、空に向かって高く積み上げられたりしている光景も見られた。「津波のような自転車の流入を全て受け入れてしまうと、街中の至るところに乗り捨てられた自転車が散乱するという危険な状況が生まれかねません」
Rzepeckiも、OfoとMobikeはSoBiに比べ、街への影響をしっかり考えていないと感じている。なおSoBiは、何千台もの自転車を既にカリフォルニア州のサンタモニカやオレゴン州のポートランド、その他のアメリカ、カナダ、ヨーロッパの各地に配備している。
さらに重要なこととして、SoBiは「営業している全ての都市で、地方自治体とパートナーシップを結んでいる」と彼は話す。「自治体側での経験から、私たちは彼らにとっての良きパートナーであることの重要性を理解しています」
さらにSoBiは駐輪に関してインセンティブを提供しているため、ユーザーは「自転車を探し求めて街を歩き回る代わりに、事前に数ブロック先にたくさん自転車が停めてあると把握できる」ようになっている。その仕組は次のようなものだ。まず利用料は、1時間あたり3〜8ドル(都市によって異なる)に設定されている料金に基いて、1分ごとにチャージされるようになっている。利用時間の平均は15分程度なので、1回あたりの利用料は2ドル前後となる。しかし、もしも自転車がSoBiの定めるエリア外に停められた場合、その自転車を利用していたユーザーは追加料金を払わなければならない。逆にSoBiがリクエストするエリアに自転車を停めたユーザーに対しては、クレジットが支払われるようになっている。
それだけで本当に効果があるのかと疑う人もいるかもしれないが、街全体に自転車を配備する上で、この作戦には「かなりの効果がある」とRzepeckiは話す。一方OfoとMobikeは、そのようなインセンティブプログラムを導入しておらず、将来的に自主規制されていくだろうと高をくくっている。さらに両社は、中国の各都市へ進出した際にも、現地規制当局との相談なしに営業を開始しており、投資家(XiaomiやTencent Holdingsなど中国の大企業を含む)はこの動きを容認しているようだ。
しかし、それも最近変わりつつあるようで、「Ofoは政府と協力して営業しています」とLjungmanは主張する。一方Rzepeckiは、「Ofoは常に解決策を探していますからね」と話し、彼らには政府と協力する以外の道はなかったことを示唆した。「深センや上海では、街で混乱が起きないようサービス基準が導入され始めています」
善か悪か
それぞれの街が、バイクシェアリング・プログラム(ドックレスかどうかは置いておいて)の成功を願う理由はたくさんある。自転車は二酸化炭素を排出しないし、車よりも場所をとらず、サイクリング自体も心臓に良い運動として知られている。
OfoとBluegogoの突然のアメリカ進出計画で不意をつかれたサンフランシスコでは、最近ドックレス・バイクシェアリングサービスの認可に関する法案が提出された(当初は公共の自転車置場を使うつもりでいたBluegogoも、最近では民間の駐車場内に設置されたバイクステーションを使う予定だと言いはじめている)。
北米の主要51都市が加入しているNACTOは、今週はじめに「街の交通網やビジョンに沿った」ものであれば、どんなバイクシェアリングサービスも歓迎するという旨の声明を発表した(さらに同声明には「本当の意味での交通手段を市民に提供するつもりがなく……(むしろ)メディアの注目を集め、いち早くエグジットすることを画策しているような(企業は)……各都市にとっての脅威だ」とも記載されている)。
公共交通機関ではカバーできない短い距離を移動する手段を求めている通勤者にとっても、ドックレスバイクは大変便利なサービスだろう。Rzapeckiは既にこの時点で、SoBiの自転車が電動になり、自動運転車や自動運転シャトルバスと共に通勤の足となる未来を思い描いている。Ofoも同じような野望を抱いているとLjungmanは言う。これには配車サービス大手のDidiがOfoの株主であるということも大いに関係しており、既にDidiのユーザーはDidiのアプリを通じて、Ofoの自転車を予約することができる。
設立当初から物流企業を目指しているUberのことを考えると、自転車には人以外のものを運ぶ力もあるということに気がつく。デリバリーサービスを例にすると、「(Ofoは)現状デリバリーサービスを始めようとは考えていませんが、同社が構築しているネットワークやそこでの流通の可能性を考えると……彼らのネットワークを利用できる製品やサービスはかなりたくさんあると思います」とLjungmnaは言う。
いずれにせよ、投資家やファウンダーがいわゆるデカコーン企業(評価額100億ドル以上の非上場企業)を目指したレースの先頭を走っているということは、恐らく間違いないだろう。
Ofoは、今年7月までにアメリカの約10都市に5万台の自転車を導入するという、グローバルな野望を抱いているようだが、Ljungmanはアメリカ市場はそう簡単に攻略できないと考えている。「進出先の都市は慎重に選ばなければいけません。世界の都市の中には、自動車の利用には適していない街がたくさん存在します。そのような街は、歩行や自転車、さらには馬での移動を前提につくられているのです」と彼は話す。「文化的な側面も重要です。例えばアムステルダムでは、街のいたるところで自転車を見かけ、自転車が主要な移動手段だということがすぐにわかります」しかし、アメリカの多くの都市では、通勤で自転車を利用している人の割合が1%以下だ。
また、バイクシェアリングというビジネスの経済性自体にも課題が残っているように見える。各社は中国メーカーとタッグを組んで、できる限り効率的かつコスト効率よく自転車を製造していると主張しているが、現時点でもバイクシェアリングが本当にもうかるビジネスなのかどうかはハッキリしていない。例えば、2014年にAltaからCiti Bikeを買収したMotivateは、国内10都市で1万台以上の自転車を管理しており、去年の利用回数は1400万回を記録していたものの、まだ黒字化を果たしていない、と同社に近い情報筋は語っている。電動自転車を使うとなると、コストはさらに上がってくるだろう。
さらにこの業界にはペテン師のような輩までいる。O’Sullivanによれば、あるドックレス・バイクシェアリングサービス企業の共同ファウンダーたちが、投資家を装ってSoBiのRzepeckiに近づき、累計調達資金額700万ドルで黒字化を果たしながら現在大型資金調達を検討している同社の詳細を聞き出していたという。その後、彼らは手に入れた情報をもとに資金を調達し、別のスタートアップを立ち上げたのだ。
Rzepeckiはこの件についてはコメントを控えており、「この業界に参入しようとしている人は大勢いて、なかには他社のスキに付け込もうとしている人もいるのかもしれません。これはバイクシェアリングがビジネスとして成り立つということを表しているという意味では、良いサインなのかもしれませんが、必ずしも全てのプレイヤーが私たちと同じことを重要視しているわけではないようです」と話すに留まっている。
バイクシェアリング業界の様子を見ていると、第二のUberとなる企業が誕生しそうな気さえする。少なくとも、同業界に注目している人たちはそう願っているようだ。
「Uberの問題児っぽい行動に影響を受けた企業は、法を破って何かしらの報いを受けるまで突進しようとしているように感じます」とO’Sullivanは言う。「実際にUberはそのような戦略をとった結果、何億ドルという罰金を支払いながらも、莫大なお金を手にしました」
「Uberが登場するまで、そのような戦略がうまくいくとは思ってもみませんでしたが、最近ではUberを真似しようとする企業もいるのかもしれません」
取材協力(かつ貴重な情報提供者):Lora Koldony
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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter)