日本のスタートアップNatureが米国とカナダで家電スマートリモコン「Remo 3」を発売

ホームデバイスのIoTに注力する日本のハードウェアスタートアップであるNature(ネイチャー)は9月23日、米国とカナダでの家電スマートリモコン「Remo 3」発売を発表した。価格は129ドル(約1万3500円)。Bluetooth対応のRemo 3を使用すると、スマートフォンやスマートスピーカーでエアコン、テレビ、ロボット掃除機、扇風機など赤外線リモコンで動く複数の機器を操作できる。

Natureは、Remoシリーズが日本で最もスマートなリモコンであり、これまでに20万台以上が販売されたと主張している。Remo 3は壁に取り付けられる設計だ。温度、湿度、照度、人の動きを感知するセンサーを備えているため、ユーザーはデバイスの電源をオン・オフにするタイミングの設定をカスタマイズできる。Remo 3のアプリにはGPS位置情報機能もあり、ユーザーが自宅に近づくと家電が自動でオンになる。

新型コロナウイルスにより以前に比べ多くの時間を家で過ごすことを強いられる中、多くの人が自宅改善プロジェクトに取り組んでいる

景気低迷により世の中全体が新しい家電の購入に消極的になっているとしても、Remo 3などの比較的安価な製品であれば消費者を引き付ける可能性がある。家にある電化製品の消費エネルギーを削減できるからだ。またRemo 3は、スマートスピーカーに新機能のレイヤーを追加することになる。パンデミック前にあたる昨年の世界のスマートスピーカーの売上高は過去最高を記録し、出荷台数は1億4690万台に達した。Remo 3は、Echo DotなどのAmazonスマートスピーカー、Google HomeやApple HomePodなどのスピーカーと互換性がある。

Natureの創業者で最高経営責任者でもある塩出晴海氏はTechCrunchに、「Natureは同社の製品によりエアコンの電力使用量を削減できることを立証するため、日本最大の電力会社の1つである関西電力とパイロットテストを実施した」と語った。 また同氏は「実際、パンデミックが日本におけるNature Remoデバイスの販売を加速させ、米国での発売を決定するきっかけにもなった」と付け加えた。

塩出氏によると、新型コロナの感染拡大によりNatureのチームが毎月深センに行けなくなり、Remo 3の量産は困難になった。だが、Remo 3はNatureが発売する製品としては6作目であるため、生産と品質保証に関して工場とリモートで連携する方法を見出すことができた。

「パンデミックが始まって以来、米国人の70%が自宅改善プロジェクトに取り組んでいるというのを読んだことがある」と塩出氏は付け加えた。「同じように、世界中の人々は自宅待機を平凡でなく便利なものにする方法を模索している。Nature Remo 3により、日本にあるのと同じ利便性と効率性を米国市場でも提供したいと考えている」。

画像クレジットNature

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(翻訳:Mizoguchi

すべてを支配するチップ?IoT、そしてハードウェアの偉大な新時代

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編集部注:本稿を執筆したNarbeh Derhacobianは、Adesto Technologiesの共同創業者であり、現CEOである。同社は各アプリケーションに特化した、電力消費量を極限まで抑えた不揮発性のメモリを製造している。

 

AppleがiPhoneを発売してから10年あまり。あの日以来、スマートフォンはテクノロジー業界におけるイノベーションの原動力として存在してきた。カメラ、Wi-Fi、バッテリー、タッチセンサー、ベースバンド・プロセッサー、メモリー・チップ。10年と経たないうちに、スマートかつパワフルなデバイスを求める消費者の声に応えるため、これらの部品は毎年驚くべき進化を続けてきた。

チップメーカーに与えられた使命は、次々に現れるスマートフォン向けに、より小さくてよりパワフルな部品を製造するということだった。高密度、高速、低価格。これまで途方もなく長い間、これらの言葉が私たちの業界をつき動かす原動力だった。

しかし、そこから状況は変わった。スマートフォンの時代はまだ終わっていないものの、その成長速度には陰りが見えるようになった。近い将来、「モノのインターネット」こそがハードウェア業界の成長の支えとなるだろう。今後10年のうちに、ネットと接続されたセンサーデバイスが何百億と生まれるであろう。高速道路から幹線道路にいたるまで、そのデバイスは世界のありとあらゆる場所に設置され、私たちの生活をより良くするための情報を与えてくれる。

その時代が来ることにより、ハードウェア業界は重大な変化を遂げる。そして、スマートフォンの時代におこった進化が巻き戻される。この重大な時代の変化を理解するためには、マーケットとともに変化してきたコンピューター製造の歴史をひも解く必要がある。

サーキットボードからすべては始まった

ほんの数十年前のコンピューターは、部屋を丸ごと1つ埋めてしまうくらいの大きさだった。その当時のコンピュータの部品は、それぞれが個別に製造されたあと、サーキットボードの上でつなぎ合わされていた。ロジック処理部品が片面にあり、ラジオ部品が端の方につけられているという基板を覚えている人もいるだろう。それぞれの部品はワイヤや銅線によって接続されていて、簡単に部品を追加したり、取り除いたりすることができた。

この「システム・オン・ボード」という製造のあり方は長い間採用されていた。しかし、科学者がトランジスタを小型化させ続けたことによって、コンピューターのサイズも小さくなっていった。トランジスタとは、電気のスイッチのような役割をもつ、現代のコンピューターに欠かせない部品だ。

1965年、インテルを創業したGordon Mooreは、かの有名な「将来予測」を発表した(「法則」という誤解を呼ぶ名前がつけられている)。集積回路上のトランジスタの数は18カ月から24カ月ごとに倍になるという予測だ。短期間のうちにコンピューター部品の小型化が進み、サーキットボードには急に大きなスペースが生まれた。

マスターチップ

すぐに、エンジニアたちは1つのシリコン基板上に複数の部品を取り付けようとし始める。やがて、彼らはたった1つのシリコン基板にコンピューターを丸ごと取りつけることに成功した。それは綺麗に包装され、すべての機能が詰まったパッケージとして発売された。

私たちはこれを「システム・オン・チップ(SoC)」と呼ぶ。あなたのスマートフォンにも搭載されていることだろう。複数の部品を小さく統合させる技術は大きな進化をもたらすことになった。部品同士がより近くなったことで、シグナルのやり取りのスピードも早くなり、処理速度も上昇したのだ。

大抵の場合、SoCは低価格でもある。従来では大量の部品ごとにテストを行う必要があったが、SoCではチップ1つにつき1回のテストを行うだけで良い。そして、もちろんサイズも重要だ。この統合された小さなパッケージのおかげで、AppleSamsungといったメーカーはより軽量かつスマートなデバイスを製造することが可能になったのだ。

しかしSoCには重大な欠点もあった。SoCは、「fab」と呼ばれる巨大な施設において共通のプロセスで製造される。この巨大施設は月に何百万個ものSoCを製造することが可能だ。

高密度、高速、低価格。これまで途方もなく長い間、これらの言葉が私たちの業界をつき動かす原動力だった。

SoCのパラダイムにおける問題点とは、たった1つのチップ上に構成された全ての部品(プロセッサー、ラジオ、メモリーなど)が、たった1つのプロセスによって製造されているという点だ。その1つの製造工程では、各部品それぞれにおいて「最高品質」を生み出せるというわけではないのだ。例えば、ある製造プロセスはプロセッサーの製造ではとても優秀だが、埋め込み式のフラッシュメモリーの製造では劣るかもしれない。しかも、部品のアップグレードや取替えは、「fab」を丸ごとアップグレードしなければ難しい。

スマートフォンやその他の製品向けに製造されていた時には、SoCが与える恩恵のおかげで、それが持つ欠点が取り沙汰されることはなかった。しかし、新しいハードウェアの時代が誕生したことにより、チップの製造メーカーに難題が降りかかることになる。

「モノ」の時代における新しいルール

モノのインターネット(IoT)を考えてみよう。これが未来のハードウェアであり、何百億ものセンサー・デバイス上で稼働することになる。しかし問題は、それらのデバイスがありとあらゆる環境に存在するという点だ。あるデバイスは工場に、またあるデバイスは屋外に取り付けられる。水の中でデータを集めるデバイスもあるだろう。これらのデバイスの基本的な機能は共通している(データを感知し、集め、保存し、送信する)。しかし、その設置に必要な条件はそれぞれ大きく異なるのだ。

例えば、車のエンジンに取り付けられたセンサー端末には、高熱にも耐えられる構造が必須だ。広大な農場に設置された端末には、長距離でもデータを送信できる強力なラジオ部品が必要になるだろう。多くのIoTのセンサーには少ない電力消費量で動作することが求められるが(コンセントとつながれないため)、ある特定のセンサーにとっては電力消費量がその他のどの機能よりも重要なものになるだろう。

より厄介なことに、多くのIoTアプリケーションで求められる必要条件は、現時点ではハッキリと分かっていない。この時代は、まだ始まったばかりだからだ。しかし、それでも私たちはハードウェアを製造せざるを得ないのだ!この状況こそが今のチップ製造モデルが抱えるあらゆる問題を引き起こしている。

統合しない方法を模索する

PCやスマートフォン業界では同じチップを何億もの個体に搭載させることが可能だった。統合された巨大なSoC製造施設は、その時代にはとても適したものだった。だがIoTはそうではない。そこには何百万通りのアプリケーションが存在するであろう。このことは、これまでにない程に多様化されたチップ製造のあり方が必要になることを示している。

その結果、新しいチップ製造モデルが誕生しつつある。それをマルチチップ・モジュールと呼ぶものもいれば、2.5Dや、System in a Package(SiP)と呼ぶものもいる。これらすべてに共通するのは、各部品は近接に構成されながらも、SoCのように完全に統合されたものではないという点だ。これらのアプローチが提供する、コスト、パフォーマンス、電力消費をコントロールする方程式は、IoTデバイスに適した選択肢としてSoCからシェアを奪い、その地位を確立しつつある。

ある意味では、PCやスマートフォンの時代はデバイスの標準化を推進する時代だった。偉大なビジョンをもつAppleは、人々は統合された美しいパッケージを求めているのであって、ハードウェアに多くの選択肢を求めているわけではないことを理解していた。だが、大抵の場合ソフトウェアはその逆だ。それぞれが違ったニーズを持ち、それぞれに最も適したアプリやプログラムを選びたいと思っている。

インターネットに接続されたスマートな世界において、設置される工場が違えばセンサーに求められる必要条件も大きく異なる。農業、都市計画、自動車など異なる業界ごとに違う条件が必要になることは言うまでもない。スマートフォンの使用者がそれぞれ違ったアプリを求めるように、IoTメーカーも単一の「fab」にとらわれず、それぞれが求める部品を選びたいと思うだろう。

この時代の変化の重要性を大げさに言うのは難しい。3000億ドル規模以上のセミコンダクター業界が、PCとスマートフォンのハードウェア標準化時代とともに成長してきた。屋内で使用され、壁のコンセントにつながれた「箱」の時代だ。その一方で、IoTはハードウェアに大きな多様性を求める。シリコンバレーの「シリコン」基板に巻き起こる巨大な変化に、心の準備を。

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(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Twitter /Facebook