半導体メーカーEswinが中国でのチップ生産加速のため約305億円調達

半導体のデザインとソリューションを手がけるBeijing Eswin Computing Technology(ベイジン・エスウィン・コンピューティング・テクノロジー)は新たな投資ラウンドで2億8300万ドル(約305億円)を調達した。世界最大の人口を抱える中国が、チップセットに関して米国や英国に依存している状態から脱却しようと模索している中での資金調達となる。

設立4年の同社によると、今回のシリーズBラウンドはコンピューターメーカーLenovo(レノボ)の投資部門であるLegend CapitalとIDG Capitalがリードした。そしてRiverhead Capital Investment Management、Lighthouse Capital、海寧市、浙江省が参加した。

Eswin Computingはディスプレイやビデオ、AIデータ処理、無線接続向けの集積チップとソリューションを開発している。同社を率いるのはWang Dongsheng(ワン・ドンシェン)氏で、同氏は以前テレビやスマートフォンのディスプレイを製造し、Huawei(ファーウェイ)を顧客に抱える中国の大企業であるBOE Technology Group(BOEテクノロジーグループ)の会長を務めていた。

中国のメディアCaixinによると、BOEはEswinとのビジネス関係を維持(Caixin記事)している。刊行物には、BOEがEswinのチップ関連事業の株式37.35%を保持しているとある。

発表文の中でEswinは今回調達した資金をR&D、製造、人材採用にあてるとしている。これは中国国内でのチップ製造の推進に役立つと考えられる。中国は現在、チップに関して米国と英国の企業にかなり依存している。2019年、米国はセキュリティの懸念と中国との貿易摩擦によりHuaweiをブラックリストに載せた(未訳記事)。

画像クレジット:Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

アップルとグーグルで活躍した3人のチップ開発者がNUVIAを設立、シリーズAで58億円調達

かつてそこは、ベンチャー投資家が踏み込んではいけない領域だった。半導体の分野に新規参入するには、長い開発期間と技術面での高いリスクを覚悟しなければならないからだ。だが今やそこは、企業やデータを対象とするベンチャー投資家の、もっともホットな場所に変わった。

例えば、スタートアップのGraphcore(グラフコア)は1年前にシリーズD投資のおよそ2億ドル(約220億円)を獲得してユニコーン企業に発展し、Groq(グロック)はSocial Capital(ソーシャル・キャピタル)で知られるChamath Palihapitiya(カマス・オアリハピタイヤ)氏から5200万ドル(約57億円)の投資を決め、Cerebras(セレブラス)は、初の1兆個以上のトランジスター数のチップを製造したことを発表し、Benchmark(ベンチマーク)などの投資会社から1億1200万ドル(約122億円)を調達した(同社については夏に記事を書いている)。

米国時間11月15日、またひとつ偉大なる技術チーム率いる新規参入企業が登場した。それは、米国カリフォルニア州サンタクララを拠点とするスタートアップであるNUVIA(ヌビア)だ。同社は本日朝、Capricorn Investment Group(カプリコーン・インベストメント・グループ)、Dell Technologies Capital(デル・テクノロジーズ・キャピタル:DTC)、Mayfield(メイフィールド)、そしてWRVI Capital(WRVIキャピタル)からシリーズA投資5300万ドル(約58億円)の調達したことを発表した。これにはNepenthe LLC(ネペンシー有限責任会社)も参加している。

年初にスタートしたばかりにもかかわらず、同社はおよそ60名の従業員を抱え、加えて、誘いに応じ、移籍の準備段階にある人たちが30名いる。年末までには従業員数が100名を超える勢いだ。

ここで起きていることは、コンピューター業界の2つのトレンドの合体だ。現在は、データ量が爆発的に増大した。その延長線上に、複雑な機械学習アルゴリズムにそのすべてのデータをバリバリと食わせたいという私たちの欲求の加速度的な増大があり、データセンターはそのデータをすべて保存することが要求されている。しかし残念なことに、ムーアの法則は鈍化し、コンピューターの計算能力はそれに追いつけなくなっている。Intel(インテル)などは物理的な限界に達し、演算密度を継続的に向上させる今の我々のノウハウも限界に来ている。それが、この分野の新規参入者と新しいアプローチに場所を提供することになった。

やる気満々のドリームチームの探し方と作り方

NUVIAの物語は2部構成になっている。最初は、John Bruno(ジョン・ブルーノ)氏、Manu Gulati(マニュ・グラティ)氏、そして後にCEOとなるGerard Williams III(ジェラード・ウィリアムズ3世)氏の3人の創設者の話だ。3人は、何年もの間、同時にアップルに在籍していたことがある。彼らはそこに、それぞれの異なるチップ開発のスキルセットを持ち寄り、アップル独自SoCのAシリーズなど、iPhoneとiPadを支えるさまざまな独創的プロジェクトを主導した。NUVIAの広報資料によれば、3人の創設者はApple在籍中に合計で20個のチップを開発し、シリコン関連で100以上の特許を取得している。

グラティ氏は2009年、Broadcom(ブロードコム)を経て、マイクロ・アーキテクト(SoCアーキテクト)としてアップルに入社し、その数カ月後にウィリアムズ氏がチームに加わった。グラティ氏は、インタビューの中で私にこう教えてくれた。「私の仕事はチップを組み立てるといったもので、彼の仕事はもっとも重要な部分をそこに入れ込むことでした。つまりCPUです」。

グラティ氏によれば、ブルーノ氏が加わったとき、彼はシリコン担当と期待されていたのだが、その役割は即座に広がり、iPhoneとiPadのチップセットは、エンドユーザーに何を届けるべきかを戦略的に考える立場になったという。「この世界のシステムレベルのあれこれや、競合分析や、どのようにして他の人たちと張り合うか、この業界で何が起きているのかを、彼はしっかりと吸収していきました」と彼は話す。「3人の技術的な経歴はまったく違いますが、私たちは3人とも手を動かすことが大好きな、とにかく、根っからのエンジニアなんです」。

2017年、Googleでモバイル・ハードウェアに関連する大きな仕事を引き受けることにしたグラティ氏は、ブルーノ氏をアップルから引き抜いてともに移籍した。やがて2人は、The Informationが5月に初めて報じたとおり、今年前半にGoogle(グーグル)を去った。一方、ウィリアムズ氏はアップルに10年近く留まり、今年の5月に退社した。

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開発、製造、そして市場展開までに何年もかかるのが普通のシリコン業界で、彼らが何をしているのかは明らかにされていない。とはいえ、3人の創設者たちはみなモバイル用チップセットの経歴を持ちながら、データセンター(クラウド・コンピューティグなど)に力を注いでいると広く考えられている。また、機械学習のワークフローの温暖化対策のコストと、計算集約型の処理に立ち向かうことができるエネルギー効率の高い方法の探究が、その行間から読み取れるところが面白い。

「エネルギー効率は、私たちの思考回路に組み込まれたものなのです」とグラティ氏は私に話してくれた。

お金を出してくれる投資家の組合を作る

創設者の話とは別に、NUVIAにはテーブルを囲んだ投資家たちの物語もある。どの投資家も技術職の豊かな経歴を持つばかりか、新規のシリコン系スタートアップの技術的リスクに対処できるだけの十分な財力がある。

カプリコーンは、特にTechnology Impact Fund(テクノロジー・インパクト・ファンド)と呼ばれる、世界に好影響を与える技術を扱うスタートアップへの投資に特化したファンドから出資している。同社の説明によれば、そのポートフォリオには、Tesla(テスラ)、Planet Labs(プラネットラブス)、Helion Energy(ヘリオン・エナジー)も含まれている。

一方、DTCは、デル・テクノロジーズとその関連企業のベンチャー部門だ。企業活動とデータセンターに豊富な経験がある。とりわけ同グループのDell EMCなどのサーバービジネスから得た知見が深い。今のところNUVIAは役員会の顔ぶれは公表していないが、DTCを率いるScott Darling(スコット・ダーリング)氏はNUVIAの役員会に加わっている。メイフィールドを率いるNavin Chaddha(ナービン・チャダー)氏は、正式に電気技師の教育を受けた人物だが、HashiCorp(ハシコープ)、Akamai(アカマイ)、SolarCity(ソーラーシティ)といった企業に投資している。そしてWRVIは、企業活動と半導体企業を扱った長年の経験を有している。

私はDTCのダーリング氏に、このチームと彼らのデータセンターの展望をどう見るかについて、少し聞いてみた。それぞれの創設者に好感を抱いていることに加え、ダーリング氏は、チームの結束は大変に強いと感じたという。「もっとも驚かされるのは、集団としての彼らを見たときに、専門技術を有していることです。そして、その幅の広さにも息を呑みます」と彼は話していた。

同社が広い意味でデータセンターのプロジェクトに取り組んでいることを彼は認めたが、製品開発の間は、彼らの特別な戦略に基づいて身を低くしているという。「具体的な話はできません。競合他社から免疫反応を引き起こしてしまうためです。なので、しばらくの間は静かにしているのです」とのこと。

「ものすごく謎めいた言い方」を彼は謝っていたが、製品に対する彼の視野から得られる投資テーマは「データセンター市場は、データセンターの外で展開する技術改革に敏感に反応するようになり、そのためデータセンターに素晴らしい製品を提供できるようになる」というものだ。

この言葉を、グーグルとアップルで培った創業者たちのモバイル向けチップ開発の経験から補足すると、特にデータセンター所有者が抱える電力消費量と気候変動の心配が高まっている今、モバイルでのエネルギー対性能の比率の制約がデータセンターに役立つことは明らかということだ。

DTCは、これまで何度も次世代シリコンに投資してきた。2016年のグラフコアのシリーズA投資にも参加している。DTCは、このスペースに野心的に投資してきたのか、または様子を伺う方針なのか、ダーリング氏に聞いてみたところ、シリコンレベルには一定量の投資が行えるよう努力していると答えてくれた。「シリコンへの投資に対する私の考え方は、逆さピラミッドのようなものです。いや、シリコン投資を大量にやろうというのではありません。調べればわかりますが、私が行ったのは5つか6つです。それらは、基礎的なものだと私は考えています。その上に、新しいものが大量に構築されてゆくのです」と彼は説明した。このスペースへの投資はどれも、製品を開発して展開するために必要とされる仕事に対して“高額”だ。そのためこの種の投資は、企業を長期的に支援する意思を持って、慎重に行わなければならない。

この説明は、私がグラティ氏に、彼と彼の共同創設者たちが、なぜこの投資家組合と契約を交わすことにしたのかを尋ねたときの答と重なる。3人の名声があれば、シリコンバレーのベンチャー投資家から簡単に資金が調達できたはずだ。彼は、この最後の投資家についてこう語った。

こうしたものを組み立てるのは簡単なことではなく、すべての人のためのものでもないことも、彼らは理解しています。ここに好機があることは誰でもわかるでしょう。しかし、実際にそこに資本を投入して、チームを組織して仕事にあたらせるというのは、誰にでもできるものではありません。同じように、すべての投資家が取り組めるものではないと、私は考えています。彼らは、私たちの物語を信じるだけでなく、自分たちの側にビジョンを持っていなければなりません。そして、支援したいという気持ちを抱き、資金を投入し、長期にわたってそこに留まることを戦略的に行う必要があります。

長期戦になるだろうが、「友だちに囲まれて仕事ができることは、本当に素晴らしいと日々感じます」とグラティ氏は話している。おそらく、今年の年末には従業員数は100名に達する。銀行にはすでに数千万ドルがある。自前の軍事費があり、出撃準備を整えた軍隊もある。いよいよ、楽しい(そして苦しい)ところに入る。そして私たちは、その結果を見ることになる。

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(翻訳:金井哲夫)

Teslaは独自開発の自律運転用新型チップを「世界最高」と誇示

TeslaのAutonomy Day(自律の日)イベントが始まり、同社の自律走行用ソフトウエアを走らせる新しいカスタムチップの詳細が発表された。Elon Muskはこれを「世界最高のチップ、客観的にね」と自慢げに呼んでいた。背伸びをしている感はあるが、完成したことは確かだ。

現在はFull Self-driving Computer(完全自律運転コンピューター、FSDC)と呼ばれているが、自律運転と安全確保を目的とした高性能な専用チップだ(製造はテキサスのサムスン)。競合他社のチップよりも性能が上回るのか、またどう優れているのかを判断するのは簡単ではない。もっと多くのデータが提示され、詳しい分析が行われるのを待ってからでなければ、なんとも言えない。

AppleのチップエンジニアだったPete Bannon氏は、FSCDの仕様を調べてこう話した。この数値は、ソフトウエアのエンジニアがこのプラットフォームで仕事をするためには重要だが、より高いレベルでさらに重要になるのは、自律運転特有の多岐にわたるタスクの要求を満たすことだと。

おそらく、自律走行車両に求められる機能のうち、ひとつ明確なものは冗長性だろう。FSCDでは、まったく同じ2つのシステムが、ひとつの基板の上に並んでいる。これにはすでに前例があものの、大きな決断だ。システムを2つに分ければ、当然のことながらパワーも半分になる。性能だけを重視するなら(たとえばサーバーなど)、決して行わないことだ。

しかし冗長性は、なんらかの原因でエラーが発生したりダメージを受けたときに効果を発揮する。異常のあるシステムは全体のシステムから切り離され、照合ソフトエアによって不良箇所を特定し通報できるからだ。その間も、正常なほうのチップは、専用の電源とストレージを使って異常とは関係なく動作する。もし、両方のシステムが故障するような何かが起きたときは、自律運転アーキテクチャーなど心配している場合ではないはずだ。

冗長性は自律走行車両にとっては自然な選択だが、それは、今日ニューラルネットワークで可能となった非常に高いレベルでの高速性と専門性によって、より好ましい選択になる。私たちが使っている普通のノートパソコンの汎用CPUは、グラフィック関連の計算が必要になるとGPUに教えを請うわけだが、ニューラルネットワーク用の特殊な演算ユニットは、GPUを超える。Bannon氏によると、計算の大部分は特別な数学的演算で、そこを支えることで性能は劇的に向上するという。

高速なメモリーとストレージを組み合わせれば、自律運転システムの最も複雑な処理を行う上でのボトルネックは大幅に低減できる。その結果として得られる性能は驚異的で、プレゼンテーションの間、TeslaのCEOであるイーロン・マスク氏が自慢げに何度も主張するほどだった。

「なぜ、今までチップ開発などやったことのないTeslaが、世界最高のチップを開発できたのか? しかしこれは厳然たる事実です。ほんのわずかな差で最高なのではなく、大きな差を付けての最高なのです」。

NVIDIAやMobileye、その他の自律運転関連のエンジニアからは、この出張にはさまざまな角度から異論が出るに違いないことを考慮すれば、話半分に聞いておくのがよいだろう。もしこれが世界最高のチップだったとしても、数カ月後にはこれを上回るものが出て来る。またそれとは別に、ハードウエアとは、そこで走るソフトウエアの性能以上の能力は発揮できないものだ(幸い、Teslaにはソフトウエア方面でも優秀な人材が揃っているが)。

ここで、OPSという専門用語をご存知ない方のために、簡単に解説しておこう。これは1秒間の演算回数を示す単位だ。現在は、10億とか1兆という桁で語られる。FLOPSもよく使われる言葉だ。こちらは1秒間に浮動小数演算が行える回数のこと。どちらも、科学演算を行うスーパーコンピューターの性能を語る上では欠かせない尺度だ。どちらかが低くてもう片方が高いということはなく、これらは直接比較することはできず、取り違えたりしないよう注意が必要だ。

【更新情報】まさにタイミングよくNVIDIAは、Teslaが示した資料の比較内容を「不正確」だと反論してきた。Teslaが比較対象としたXavierチップは、自動運転車のための機能を提供する軽量チップであり、完全自律運転のためのものではない。比較をするなら320-TOP Drive AGX Pegasusのほうがふさわしい。確かに、Pegasusは電力消費量が約4倍になるのだが。そのため、ワット数あたりの性能となれば、Teslaが、宣言どおり上回っていることになる(ウェブキャスト中にChrisが指摘してくれた)。

高速なコンピューター処理には、大量の電力が必要になる。トランスコーディングや動画編集をノートパソコンで行えば、45分で電池切れになるだろう。それが自動車で起きたら、かなり慌てる。当然のことだ。ただ嬉しいことに、高速化は別の効果ももたらしてくれる。効率化だ。

FSDCの消費電力は、およそ100ワット(1ユニットあたり50ワット)だ。携帯電話のチップほど低くはないが、デスクトップパソコンや高性能なノートパソコンのチップに比べれば低い方だ。たいていのシングルGPUよりも低い。自律運転車両用のチップの場合は、これよりも消費電力が高いものもあれば低いものもあるが、Teslaは、それらの競合チップとは違い、ワット数あたりの性能が高いと主張している。自律運転車両の開発は秘密裏に行われることが多いため、今すぐそれを詳しく検証することは、やはり難しい。しかし、Teslaのチップには少なくとも競争力があり、一部の重要な基準において競合他社製チップを大きく上回っていることは確かだ。

このチップには、二重化はされていないが(どこかでパスが合流している)、自律運転車両専用の機能があと2つある。CPUのロックステップとセキュリティーレイヤーだ。ロックステップとは、2つのチップのタイミングを正確に合わせて、まったく同じデータを同時に処理させるものだ。2つのチップの間で、または周囲のシステムとタイミングがずれてしまっては致命的な問題となる。自律走行車両の中のすべてのものは、遅延のない、非常に正確なタイミングに依存している。そのため、しっかりとしたロックステップ機能を組み込み、タイミングを監視させるのだ。

チップのセキュリティーセクションは、とくにハッキングの攻撃から身を守るための、命令とデータの暗号化を厳しく検査する。自律運転車両のすべての搭載システムがそうであるように、これも精密に作られ、いかなる理由があろうとも外部の干渉を受けないようになっている。人の命が掛かっているからだ。そこで、このセキュリティー・セクションは、たとえば歩行者がいるかのように車を騙す偽の視覚データなどの疑わしい入力データから、実際に歩行者を検知したたときも適切な警告を出さないよう改ざんされた出力データなど、入出力データを慎重に監視する。

Teslaがフル自動運転コンピューターを全新車に搭載、次世代チップも「完成半ば」

とりわけ驚いたのは、このまったく新しいカスタムチップが、Teslaの既存のチップと下位互換だということだ。そのまま置き換えることができて、コストもそれほどかからない。このシステム自体の原価がいくらなのか、消費者向けの価格はいくらなのか、正確なところは変動があるだろうが、「世界最高」のわりには、このチップは比較的安価だと言える。

その理由のひとつには、他社が採用している10nm以下のプロセスルールではなく14nmプロセスを採用している点が考えられる(いずれTeslaも微小化に進まざるを得ないだろうが)。省電力の観点からは、大きいよりも小さいほうがよく、すでに実証されたことだが、この世界では効率化が命だ。

マスク氏には申し訳ないが、より客観的な情報、本当に客観的な事実は、このチップと他社のチップをテストすれば判明することになる。それはともかく、わかったことは、Teslaはサボってなどいないこと、そして、このチップにはモデル3を公道に送り出す以上の力があるということだ。

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(翻訳:金井哲夫)

すべてを支配するチップ?IoT、そしてハードウェアの偉大な新時代

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編集部注:本稿を執筆したNarbeh Derhacobianは、Adesto Technologiesの共同創業者であり、現CEOである。同社は各アプリケーションに特化した、電力消費量を極限まで抑えた不揮発性のメモリを製造している。

 

AppleがiPhoneを発売してから10年あまり。あの日以来、スマートフォンはテクノロジー業界におけるイノベーションの原動力として存在してきた。カメラ、Wi-Fi、バッテリー、タッチセンサー、ベースバンド・プロセッサー、メモリー・チップ。10年と経たないうちに、スマートかつパワフルなデバイスを求める消費者の声に応えるため、これらの部品は毎年驚くべき進化を続けてきた。

チップメーカーに与えられた使命は、次々に現れるスマートフォン向けに、より小さくてよりパワフルな部品を製造するということだった。高密度、高速、低価格。これまで途方もなく長い間、これらの言葉が私たちの業界をつき動かす原動力だった。

しかし、そこから状況は変わった。スマートフォンの時代はまだ終わっていないものの、その成長速度には陰りが見えるようになった。近い将来、「モノのインターネット」こそがハードウェア業界の成長の支えとなるだろう。今後10年のうちに、ネットと接続されたセンサーデバイスが何百億と生まれるであろう。高速道路から幹線道路にいたるまで、そのデバイスは世界のありとあらゆる場所に設置され、私たちの生活をより良くするための情報を与えてくれる。

その時代が来ることにより、ハードウェア業界は重大な変化を遂げる。そして、スマートフォンの時代におこった進化が巻き戻される。この重大な時代の変化を理解するためには、マーケットとともに変化してきたコンピューター製造の歴史をひも解く必要がある。

サーキットボードからすべては始まった

ほんの数十年前のコンピューターは、部屋を丸ごと1つ埋めてしまうくらいの大きさだった。その当時のコンピュータの部品は、それぞれが個別に製造されたあと、サーキットボードの上でつなぎ合わされていた。ロジック処理部品が片面にあり、ラジオ部品が端の方につけられているという基板を覚えている人もいるだろう。それぞれの部品はワイヤや銅線によって接続されていて、簡単に部品を追加したり、取り除いたりすることができた。

この「システム・オン・ボード」という製造のあり方は長い間採用されていた。しかし、科学者がトランジスタを小型化させ続けたことによって、コンピューターのサイズも小さくなっていった。トランジスタとは、電気のスイッチのような役割をもつ、現代のコンピューターに欠かせない部品だ。

1965年、インテルを創業したGordon Mooreは、かの有名な「将来予測」を発表した(「法則」という誤解を呼ぶ名前がつけられている)。集積回路上のトランジスタの数は18カ月から24カ月ごとに倍になるという予測だ。短期間のうちにコンピューター部品の小型化が進み、サーキットボードには急に大きなスペースが生まれた。

マスターチップ

すぐに、エンジニアたちは1つのシリコン基板上に複数の部品を取り付けようとし始める。やがて、彼らはたった1つのシリコン基板にコンピューターを丸ごと取りつけることに成功した。それは綺麗に包装され、すべての機能が詰まったパッケージとして発売された。

私たちはこれを「システム・オン・チップ(SoC)」と呼ぶ。あなたのスマートフォンにも搭載されていることだろう。複数の部品を小さく統合させる技術は大きな進化をもたらすことになった。部品同士がより近くなったことで、シグナルのやり取りのスピードも早くなり、処理速度も上昇したのだ。

大抵の場合、SoCは低価格でもある。従来では大量の部品ごとにテストを行う必要があったが、SoCではチップ1つにつき1回のテストを行うだけで良い。そして、もちろんサイズも重要だ。この統合された小さなパッケージのおかげで、AppleSamsungといったメーカーはより軽量かつスマートなデバイスを製造することが可能になったのだ。

しかしSoCには重大な欠点もあった。SoCは、「fab」と呼ばれる巨大な施設において共通のプロセスで製造される。この巨大施設は月に何百万個ものSoCを製造することが可能だ。

高密度、高速、低価格。これまで途方もなく長い間、これらの言葉が私たちの業界をつき動かす原動力だった。

SoCのパラダイムにおける問題点とは、たった1つのチップ上に構成された全ての部品(プロセッサー、ラジオ、メモリーなど)が、たった1つのプロセスによって製造されているという点だ。その1つの製造工程では、各部品それぞれにおいて「最高品質」を生み出せるというわけではないのだ。例えば、ある製造プロセスはプロセッサーの製造ではとても優秀だが、埋め込み式のフラッシュメモリーの製造では劣るかもしれない。しかも、部品のアップグレードや取替えは、「fab」を丸ごとアップグレードしなければ難しい。

スマートフォンやその他の製品向けに製造されていた時には、SoCが与える恩恵のおかげで、それが持つ欠点が取り沙汰されることはなかった。しかし、新しいハードウェアの時代が誕生したことにより、チップの製造メーカーに難題が降りかかることになる。

「モノ」の時代における新しいルール

モノのインターネット(IoT)を考えてみよう。これが未来のハードウェアであり、何百億ものセンサー・デバイス上で稼働することになる。しかし問題は、それらのデバイスがありとあらゆる環境に存在するという点だ。あるデバイスは工場に、またあるデバイスは屋外に取り付けられる。水の中でデータを集めるデバイスもあるだろう。これらのデバイスの基本的な機能は共通している(データを感知し、集め、保存し、送信する)。しかし、その設置に必要な条件はそれぞれ大きく異なるのだ。

例えば、車のエンジンに取り付けられたセンサー端末には、高熱にも耐えられる構造が必須だ。広大な農場に設置された端末には、長距離でもデータを送信できる強力なラジオ部品が必要になるだろう。多くのIoTのセンサーには少ない電力消費量で動作することが求められるが(コンセントとつながれないため)、ある特定のセンサーにとっては電力消費量がその他のどの機能よりも重要なものになるだろう。

より厄介なことに、多くのIoTアプリケーションで求められる必要条件は、現時点ではハッキリと分かっていない。この時代は、まだ始まったばかりだからだ。しかし、それでも私たちはハードウェアを製造せざるを得ないのだ!この状況こそが今のチップ製造モデルが抱えるあらゆる問題を引き起こしている。

統合しない方法を模索する

PCやスマートフォン業界では同じチップを何億もの個体に搭載させることが可能だった。統合された巨大なSoC製造施設は、その時代にはとても適したものだった。だがIoTはそうではない。そこには何百万通りのアプリケーションが存在するであろう。このことは、これまでにない程に多様化されたチップ製造のあり方が必要になることを示している。

その結果、新しいチップ製造モデルが誕生しつつある。それをマルチチップ・モジュールと呼ぶものもいれば、2.5Dや、System in a Package(SiP)と呼ぶものもいる。これらすべてに共通するのは、各部品は近接に構成されながらも、SoCのように完全に統合されたものではないという点だ。これらのアプローチが提供する、コスト、パフォーマンス、電力消費をコントロールする方程式は、IoTデバイスに適した選択肢としてSoCからシェアを奪い、その地位を確立しつつある。

ある意味では、PCやスマートフォンの時代はデバイスの標準化を推進する時代だった。偉大なビジョンをもつAppleは、人々は統合された美しいパッケージを求めているのであって、ハードウェアに多くの選択肢を求めているわけではないことを理解していた。だが、大抵の場合ソフトウェアはその逆だ。それぞれが違ったニーズを持ち、それぞれに最も適したアプリやプログラムを選びたいと思っている。

インターネットに接続されたスマートな世界において、設置される工場が違えばセンサーに求められる必要条件も大きく異なる。農業、都市計画、自動車など異なる業界ごとに違う条件が必要になることは言うまでもない。スマートフォンの使用者がそれぞれ違ったアプリを求めるように、IoTメーカーも単一の「fab」にとらわれず、それぞれが求める部品を選びたいと思うだろう。

この時代の変化の重要性を大げさに言うのは難しい。3000億ドル規模以上のセミコンダクター業界が、PCとスマートフォンのハードウェア標準化時代とともに成長してきた。屋内で使用され、壁のコンセントにつながれた「箱」の時代だ。その一方で、IoTはハードウェアに大きな多様性を求める。シリコンバレーの「シリコン」基板に巻き起こる巨大な変化に、心の準備を。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Twitter /Facebook