アップルとグーグルで活躍した3人のチップ開発者がNUVIAを設立、シリーズAで58億円調達

かつてそこは、ベンチャー投資家が踏み込んではいけない領域だった。半導体の分野に新規参入するには、長い開発期間と技術面での高いリスクを覚悟しなければならないからだ。だが今やそこは、企業やデータを対象とするベンチャー投資家の、もっともホットな場所に変わった。

例えば、スタートアップのGraphcore(グラフコア)は1年前にシリーズD投資のおよそ2億ドル(約220億円)を獲得してユニコーン企業に発展し、Groq(グロック)はSocial Capital(ソーシャル・キャピタル)で知られるChamath Palihapitiya(カマス・オアリハピタイヤ)氏から5200万ドル(約57億円)の投資を決め、Cerebras(セレブラス)は、初の1兆個以上のトランジスター数のチップを製造したことを発表し、Benchmark(ベンチマーク)などの投資会社から1億1200万ドル(約122億円)を調達した(同社については夏に記事を書いている)。

米国時間11月15日、またひとつ偉大なる技術チーム率いる新規参入企業が登場した。それは、米国カリフォルニア州サンタクララを拠点とするスタートアップであるNUVIA(ヌビア)だ。同社は本日朝、Capricorn Investment Group(カプリコーン・インベストメント・グループ)、Dell Technologies Capital(デル・テクノロジーズ・キャピタル:DTC)、Mayfield(メイフィールド)、そしてWRVI Capital(WRVIキャピタル)からシリーズA投資5300万ドル(約58億円)の調達したことを発表した。これにはNepenthe LLC(ネペンシー有限責任会社)も参加している。

年初にスタートしたばかりにもかかわらず、同社はおよそ60名の従業員を抱え、加えて、誘いに応じ、移籍の準備段階にある人たちが30名いる。年末までには従業員数が100名を超える勢いだ。

ここで起きていることは、コンピューター業界の2つのトレンドの合体だ。現在は、データ量が爆発的に増大した。その延長線上に、複雑な機械学習アルゴリズムにそのすべてのデータをバリバリと食わせたいという私たちの欲求の加速度的な増大があり、データセンターはそのデータをすべて保存することが要求されている。しかし残念なことに、ムーアの法則は鈍化し、コンピューターの計算能力はそれに追いつけなくなっている。Intel(インテル)などは物理的な限界に達し、演算密度を継続的に向上させる今の我々のノウハウも限界に来ている。それが、この分野の新規参入者と新しいアプローチに場所を提供することになった。

やる気満々のドリームチームの探し方と作り方

NUVIAの物語は2部構成になっている。最初は、John Bruno(ジョン・ブルーノ)氏、Manu Gulati(マニュ・グラティ)氏、そして後にCEOとなるGerard Williams III(ジェラード・ウィリアムズ3世)氏の3人の創設者の話だ。3人は、何年もの間、同時にアップルに在籍していたことがある。彼らはそこに、それぞれの異なるチップ開発のスキルセットを持ち寄り、アップル独自SoCのAシリーズなど、iPhoneとiPadを支えるさまざまな独創的プロジェクトを主導した。NUVIAの広報資料によれば、3人の創設者はApple在籍中に合計で20個のチップを開発し、シリコン関連で100以上の特許を取得している。

グラティ氏は2009年、Broadcom(ブロードコム)を経て、マイクロ・アーキテクト(SoCアーキテクト)としてアップルに入社し、その数カ月後にウィリアムズ氏がチームに加わった。グラティ氏は、インタビューの中で私にこう教えてくれた。「私の仕事はチップを組み立てるといったもので、彼の仕事はもっとも重要な部分をそこに入れ込むことでした。つまりCPUです」。

グラティ氏によれば、ブルーノ氏が加わったとき、彼はシリコン担当と期待されていたのだが、その役割は即座に広がり、iPhoneとiPadのチップセットは、エンドユーザーに何を届けるべきかを戦略的に考える立場になったという。「この世界のシステムレベルのあれこれや、競合分析や、どのようにして他の人たちと張り合うか、この業界で何が起きているのかを、彼はしっかりと吸収していきました」と彼は話す。「3人の技術的な経歴はまったく違いますが、私たちは3人とも手を動かすことが大好きな、とにかく、根っからのエンジニアなんです」。

2017年、Googleでモバイル・ハードウェアに関連する大きな仕事を引き受けることにしたグラティ氏は、ブルーノ氏をアップルから引き抜いてともに移籍した。やがて2人は、The Informationが5月に初めて報じたとおり、今年前半にGoogle(グーグル)を去った。一方、ウィリアムズ氏はアップルに10年近く留まり、今年の5月に退社した。

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開発、製造、そして市場展開までに何年もかかるのが普通のシリコン業界で、彼らが何をしているのかは明らかにされていない。とはいえ、3人の創設者たちはみなモバイル用チップセットの経歴を持ちながら、データセンター(クラウド・コンピューティグなど)に力を注いでいると広く考えられている。また、機械学習のワークフローの温暖化対策のコストと、計算集約型の処理に立ち向かうことができるエネルギー効率の高い方法の探究が、その行間から読み取れるところが面白い。

「エネルギー効率は、私たちの思考回路に組み込まれたものなのです」とグラティ氏は私に話してくれた。

お金を出してくれる投資家の組合を作る

創設者の話とは別に、NUVIAにはテーブルを囲んだ投資家たちの物語もある。どの投資家も技術職の豊かな経歴を持つばかりか、新規のシリコン系スタートアップの技術的リスクに対処できるだけの十分な財力がある。

カプリコーンは、特にTechnology Impact Fund(テクノロジー・インパクト・ファンド)と呼ばれる、世界に好影響を与える技術を扱うスタートアップへの投資に特化したファンドから出資している。同社の説明によれば、そのポートフォリオには、Tesla(テスラ)、Planet Labs(プラネットラブス)、Helion Energy(ヘリオン・エナジー)も含まれている。

一方、DTCは、デル・テクノロジーズとその関連企業のベンチャー部門だ。企業活動とデータセンターに豊富な経験がある。とりわけ同グループのDell EMCなどのサーバービジネスから得た知見が深い。今のところNUVIAは役員会の顔ぶれは公表していないが、DTCを率いるScott Darling(スコット・ダーリング)氏はNUVIAの役員会に加わっている。メイフィールドを率いるNavin Chaddha(ナービン・チャダー)氏は、正式に電気技師の教育を受けた人物だが、HashiCorp(ハシコープ)、Akamai(アカマイ)、SolarCity(ソーラーシティ)といった企業に投資している。そしてWRVIは、企業活動と半導体企業を扱った長年の経験を有している。

私はDTCのダーリング氏に、このチームと彼らのデータセンターの展望をどう見るかについて、少し聞いてみた。それぞれの創設者に好感を抱いていることに加え、ダーリング氏は、チームの結束は大変に強いと感じたという。「もっとも驚かされるのは、集団としての彼らを見たときに、専門技術を有していることです。そして、その幅の広さにも息を呑みます」と彼は話していた。

同社が広い意味でデータセンターのプロジェクトに取り組んでいることを彼は認めたが、製品開発の間は、彼らの特別な戦略に基づいて身を低くしているという。「具体的な話はできません。競合他社から免疫反応を引き起こしてしまうためです。なので、しばらくの間は静かにしているのです」とのこと。

「ものすごく謎めいた言い方」を彼は謝っていたが、製品に対する彼の視野から得られる投資テーマは「データセンター市場は、データセンターの外で展開する技術改革に敏感に反応するようになり、そのためデータセンターに素晴らしい製品を提供できるようになる」というものだ。

この言葉を、グーグルとアップルで培った創業者たちのモバイル向けチップ開発の経験から補足すると、特にデータセンター所有者が抱える電力消費量と気候変動の心配が高まっている今、モバイルでのエネルギー対性能の比率の制約がデータセンターに役立つことは明らかということだ。

DTCは、これまで何度も次世代シリコンに投資してきた。2016年のグラフコアのシリーズA投資にも参加している。DTCは、このスペースに野心的に投資してきたのか、または様子を伺う方針なのか、ダーリング氏に聞いてみたところ、シリコンレベルには一定量の投資が行えるよう努力していると答えてくれた。「シリコンへの投資に対する私の考え方は、逆さピラミッドのようなものです。いや、シリコン投資を大量にやろうというのではありません。調べればわかりますが、私が行ったのは5つか6つです。それらは、基礎的なものだと私は考えています。その上に、新しいものが大量に構築されてゆくのです」と彼は説明した。このスペースへの投資はどれも、製品を開発して展開するために必要とされる仕事に対して“高額”だ。そのためこの種の投資は、企業を長期的に支援する意思を持って、慎重に行わなければならない。

この説明は、私がグラティ氏に、彼と彼の共同創設者たちが、なぜこの投資家組合と契約を交わすことにしたのかを尋ねたときの答と重なる。3人の名声があれば、シリコンバレーのベンチャー投資家から簡単に資金が調達できたはずだ。彼は、この最後の投資家についてこう語った。

こうしたものを組み立てるのは簡単なことではなく、すべての人のためのものでもないことも、彼らは理解しています。ここに好機があることは誰でもわかるでしょう。しかし、実際にそこに資本を投入して、チームを組織して仕事にあたらせるというのは、誰にでもできるものではありません。同じように、すべての投資家が取り組めるものではないと、私は考えています。彼らは、私たちの物語を信じるだけでなく、自分たちの側にビジョンを持っていなければなりません。そして、支援したいという気持ちを抱き、資金を投入し、長期にわたってそこに留まることを戦略的に行う必要があります。

長期戦になるだろうが、「友だちに囲まれて仕事ができることは、本当に素晴らしいと日々感じます」とグラティ氏は話している。おそらく、今年の年末には従業員数は100名に達する。銀行にはすでに数千万ドルがある。自前の軍事費があり、出撃準備を整えた軍隊もある。いよいよ、楽しい(そして苦しい)ところに入る。そして私たちは、その結果を見ることになる。

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(翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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