5月は全米のOld American Month(米国人高齢者月間)だが、今年のテーマは「つながり、創造、貢献」だ。今日、高齢者とのつながりを阻害している大きな問題がある。それが、デジタルデバイドだ。
米国では、65歳以上の高齢者の3分の1がインターネットを使った経験がなく、半数は自宅にインターネット接続のための設備がないと言われている。インターネット利用している人たちの中でも、半数近くは新しいデジタル機器のセットアップに人の助けを必要としている。Twitter、Facebook、Googleといった巨大ハイテク企業のお膝元サンフランシスコにおいても、高齢者の40パーセントは初歩的なデジタルリテラシーすら持たず、そうした人たちの半数以上が、インターネットを使った経験がない。
デジタル技術の習得は、今や完全な社会参加には欠かせない鍵となっている。もし、高齢者にこのテクノロジーの利用法やトレーニングを提供できなければ、その人たちを社会から締め出すことになり、すでに問題化されている高齢者の孤立化や孤独を増長してしまうことになる。
非営利団体のLittle Brothers Friends of the Elderlyが率いるTech Alliesプログラムの一員として、高齢者に低価格のインターネットやタブレットやデジタルトレーニングを提供し、孤立高齢者に直接関わる活動を行なっている私は、定期的に高齢者の心情に触れている。
私は、62歳から98歳のTech Allies参加者のもとを、8週間のマンツーマンのテクノロジートレーニングの前後に訪問し、彼らの体験を話し合い、現在のテクノロジー事情を説明している。高齢者たちがインターネットの使い方を学ぼうという動機に関連して、1人の高齢者は私にこう話してくれた。「入り方を知らない建物の外に立たされている感じなんだよ」
インターネットの利用環境がなくテクノロジーの使い方を知らない別の女性は、こう話していた。「もうこの世界の一員ではなくなった感じ。社会のある一面に、どうしても参加できない。インターネットの流れの中にいないと、できないことがあるのよ」
テクノロジーを使うことで孤立を深める若者たちとは対照的に、インターネットで可能になるコミュニケーションやつながりは、家族から離れて自宅で独居している人や、若いころに心理的な支えとなっていた愛する家族を失った人たちには特別な価値がある。高齢者も、メッセージプラットフォーム、ビデオチャット、ソーシャルメディアなどを使えば、物理的に訪問することなく、友人や家族とつながることができるのだ。
高齢者は、インターネット上で自分の健康状態を共有できる支援グループと出会うことができる。また、ニュース、ブログ、ストリーミングサービス、電子メールなどを使えば、昔のように自由に出歩けなくなった人でも、外の世界とつながることができる。ある高齢者はこう話していた。「ヘルパーの手を借りなければ簡単には動けない。それにヘルパーが来るのは1日に2時間程度だ。だから(タブレットは)最高の相棒だよ。他の人たちとつなげてくれるからね」。
特に高齢者にとって、社会からの孤立は深刻な問題だ。高齢者の孤独は、うつ病、循環器疾患、機能低下、さらには死を招く。テクノロジーは、こうした危険性の低減を助けることができる。しかしそのためには、このデジタル世界にアクセスできる技術を高齢者に学んでもらわなければならない。
そのギャップは埋められる。私たちの調査によれば、Tech Alliesによって、高齢者はテクノロジーの利用率を大幅に高め、主要なスキルに自信を持つようになった。既存のコミュニティを基盤とする組織にテクノロジートレーニングを組み込むこうしたプログラムは、もっと拡大させるべきだろう。地方、州、さらに国家レベルの経済的支援も充実させ、ハイテク企業や投資家も巻き込む必要がある。昨年1年間だけでデジタルヘルスケア業界が調達した80億ドル(約8857億円)の投資の数分の1だけで、私たちは高齢者のためのツールを作り、使い勝手を改善し、トレーニングの実施、ブロードバンドやデバイスへのアクセスを劇的に拡大できた。
ハイテク企業からの支援には、いろいろな形が考えられる。デバイスを寄付する活動だけに留まらず、高齢者向けのデバイスの開発も必要だ(手が震える人にはスワイプは難しい)。インターネットに不慣れな高齢者専用の技術サポートも必要だろう(キャッシュにクッキーにクラウドに、大変な話だ!)。
さらに、ComcastやAT&Tといったブロードバンド回線事業者は、安価な利用プランの契約を簡便化して、利用資格をもっと緩和すべきだ。そうした努力が的確に高齢者の要求に応えられるように、プロバイダーや高齢者支援を行う各地の団体と協力し合うことも大切だ。
テクノロジーに興味を示さない高齢者が少なくないことも事実だ。そうした中には、デジタルツールを使いたいという気持ちがまったくない人もいるが、それ以外の人たちは、テクノロジーへの恐怖心やスキルの欠如が根底にあって敬遠しているにすぎない。その場合は適正なトレーニングを行えば、恐怖心を取り除き、興味を抱かせることが可能だ。とくに、インターネットの安全教育には最新の注意を払わなければならない。高齢者はインターネットの詐欺に騙されやすく、個人情報を危険にさらしてしまうリスクが高い。だがそれも、高齢者のために特別に組み立てたデジタルリテラシートレーニングを提供することで、安全にインターネットの世界を楽しんでもらえるようになる。
今後数十年で世代が交代したところで、デジタル多様性が重要でなくなることはない。テクノロジーの進化は止まらない。新たなデジタル革新が起きるごとに、若い人たちですら付いてゆくのが難しくなる。
高齢者にデバイス、ブロードバンド、デジタルトレーニングを提供するための投資を大幅に拡大すれば、テクノロジーは高齢者の孤立を解消する強力なツールになり得る。そして、社会につながり、創造し、貢献する力を与えられるようになる。ある高齢者はこう言っていた。「追いついて、世界に加わるときが来たよ」。
【編集部注】
Jessica Fields
ズッカーバーグ・サンフランシスコ総合病院(Zuckerberg San Francisco General Hospital)で、社会的弱者のためのUCSFセンターの調査分析者およびプログラムマネージャーを務める。The OpEd Projectの共同研究者。
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(翻訳:金井哲夫)