NEDOが100平方メートル規模の触媒パネル反応器で人工光合成によるソーラー水素製造に成功

NEDOが100平方メートル規模の触媒パネル反応器で人工光合成によるソーラー水素製造に成功

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)とARPChem(人工光合成化学プロセス技術研究組合)は8月26日、100m2規模の「太陽光受光型光触媒水分解パネル反応器」と「水素・酸素ガス分離モジュール」を連結した光触媒反応システムを開発。世界初の実証実験に成功したことを発表した。この実験結果は8月25日公開の英科学誌「Nature」オンライン速報版に掲載されている

これは、2019年8月から1年以上にわたって実施された自然太陽光下での光触媒パネル反応システムの実証実験。水を分解して水素と酸素の混合気体を生成し、そこから高純度のソーラー水素を分離・回収するというもの。ソーラー水素とは、太陽光で水を分解して水素を製造する技術のことで、クリーンで持続可能性のあるエネルギーとして注目されている。今回の実験では、ソーラー水素製造を大規模化しても安全性や効率性が保たれることが実証され、実用化とさらなる大規模化への道筋が見えてきた。

このプロジェクトは、NEDOとARPChemが、東京大学、富士フィルム、TOTO、三菱ケミカル、信州大学、明治大学との協力のもとに進めてきたもので、光触媒パネル反応器の開発、分離膜の開発、合成触媒の開発という3つのテーマで構成されている。

人工光合成プロジェクトの概要(今回の成果は「光触媒開発」のテーマ)

  • 光触媒開発:太陽光エネルギーを利用した水分解で水素と酸素を製造する光触媒およびモジュールの開発
  • 分離膜開発:発生した水素と酸素の混合気体から水素を分離する分離膜およびモジュールの開発
  • 合成触媒開発:水から製造する水素と発電所や工場などから排出する二酸化炭素を原料としてC2~C4オレフィンを目的別に合成する触媒およびプロセス技術の開発

光触媒パネル反応器の実証

光触媒パネル反応器は、ひとつのモジュールが3m2。透明なガラス板の下に、25cm角のチタン酸ストロンチウム光触媒シートが並べられている。ガラスと光触媒シートとの間には0.1mmの隙間があり、そこに水を流し込むことで反応が起きる。そこで発生した水素と酸素の気泡がスムーズに流れ、気泡の滞留によって光が散乱しないようにすることが重要となるが、このシステムでは、光の散乱の影響はほとんどなかった。

NEDOが100平方メートル規模の触媒パネル反応器で人工光合成によるソーラー水素製造に成功

光触媒パネル反応器の基本単位(写真左)と紫外光照射時の水分解反応時の様子(写真右)

NEDOが100平方メートル規模の触媒パネル反応器で人工光合成によるソーラー水素製造に成功

3m2規模の光触媒パネル反応器(左)と100m2規模の光触媒パネル反応器から生成した水素と酸素の混合気体(右)

このシステムでは紫外光のみに反応するが、量子収率(光子ひとつが反応を起こす割合)がほぼ100%と高効率を示した。また実験室では、水分解の活性が、初期の8割以上を2カ月以上維持できた。これは、日本の屋外条件では約1年の耐久度に相当する。この光触媒シートは、光触媒を基板にスプレーするだけで簡単に作れるとのこと。

疑似太陽光を昼夜連続照射したときの活性の時間変化

混合気体からのソーラー水素の分離

光触媒パネル反応器で発生した水素と酸素の混合気は、ガス分離モジュールに送られる。そこでは、水素は分離膜を通過し、酸素は通過できずに残留する。今回の実験では、開発中の分離膜ではなく、市販のポリイミド中空糸分離幕を使用したが、擬似実験では、1日分離を行った結果、混合気は、水素濃度約94%の透過ガスと酸素濃度約60%の残留ガスに分離でき、水素の回収率は天候、季節に関わらず73%を達成した。

100m2規模の光触媒パネル反応器に接続されたガス分離モジュールの性能

合成触媒

合成触媒は、水分解で作り出した水素を、工場や発電所から排出された二酸化炭素と反応させて、C2からC4オレフィン(高分子化合物)を目的別に合成するというもの。これはプラスティックの原料として利用される。

光触媒パネル反応システムの安全性試験

ソーラー水素の製造では、非常に燃えやすい水素の管理が課題になるが、1年以上にわたるこの屋外実験では、1度も自然着火や爆発は起きなかった。また、爆発リスクの確認のために、光触媒パネル反応システムの混合気体が存在する場所に意図的に火を点けてみたが、光触媒パネル反応器、ガス捕集用配管、中空糸分離膜を含むガス分離モジュールともに破損は確認できなかったという。

今後は、このシステムの社会実装を目指して、光触媒を可視光に対応させて太陽光エネルギーの変換効率を5〜10%に引き上げ、低コスト化、さらなる大規模化、ガス分離システムの性能とエネルギー効率の向上を目指すとしている。

豊田中央研究所が36cm角実用サイズ人工光合成セルで世界最高の太陽光変換効率7.2%を実現

豊田中央研究所が36cm角実用サイズ人工光合成セルで世界最高の太陽光変換効率7.2%を実現、植物を大きく上回る

36cm角の人工光合成セル

トヨタグループの豊田中央研究所(豊田中研)は4月21日、太陽光のエネルギーを利用しCO2(二酸化炭素)と水のみから有用な物質を合成する人工光合成について、実用太陽電池サイズ(36cm角)セルで実現し、同クラスでは世界最高の太陽光変換効率7.2%を達成したと発表した。将来的には、工場などが排出するCO2を回収し、この人工光合成で再び資源化するシステムの実現を目指す。

豊田中研の人工光合成は、半導体と分子触媒を用いた方式でCO2の還元反応と水の酸化反応を行う電極を組み合わせ、常温常圧で有機物(ギ酸)を合成するクリーンな技術。

2011年、豊田中研による世界初の原理実証時には太陽光変換効率は0.04%だったという。しかし2015年には、1cm角サイズで、植物を大きく上回る変換効率4.6%(当時の世界最高)を実現した。

また人工光合成セルの社会実装には、変換効率を低下させず実用サイズに拡張することが必要が必要となるものの、技術的には困難とされてきたという。

そこで人工光合成の基本原理はそのままに、太陽光で生成した多量の電子を余すことなくギ酸合成に使用する、新しいセル構造と電極を考案した。その特徴は、太陽電池で生成した電子量とのバランスが良いサイズに電極面積を拡張するとともに、ギ酸合成に必要な電子、水素イオン、CO2を電極全面に素早く途切れることなく供給し、ギ酸合成を促進するものとしている。

36cm角実用サイズ人工光合成セル

人工光合成の基本原理

その結果、36cm角の実用サイズで、同クラスでは世界最高の変換効率を実現した。新セル構造は、より大きなサイズにも適用できるとしている。

36cm角実用サイズ人工光合成セル

カテゴリー:EnviroTech
タグ:人工光合成(用語)炭素 / 二酸化炭素(用語)太陽光 / 太陽光発電 / 太陽電池(用語)豊田中央研究所(組織)日本(国・地域)