“根性エクセル”は不要、小売業の売上アップと在庫削減をITで支援するフルカイテンが1.7億円調達

小売企業の売上増加と在庫削減の両立を支援するSaaS「FULL KAITEN」を開発するフルカイテンは1月15日、大和企業投資、京銀リース・キャピタル、みずほキャピタルを引受先とする第三者割当増資により総額1.7億円を調達したことを明らかにした。また同社によるとみずほ銀行から融資も受けているという。

フルカイテンにとって今回は2017年5月、2018年6月に続く3回目の外部調達。投資家3社は全て前回ラウンドから(大和企業投資に関しては初回から)のフォローオン投資となる。

調達した資金は主に開発体制とカスタマーサクセス体制の強化に向けた人材採用に用いる計画。プロダクトのアップデートも実施し、さらなる事業拡大を目指す。

自社の倒産危機を救ったテクノロジーをSaaSとして提供

フルカイテンは2012年5月にハモンズという社名で始まったスタートアップだ。

しばらくはベビー服ECを主力事業として運営していたものの「不良在庫」や「仕入れ数量」の課題にぶちあたり、3度の倒産危機に直面。その都度自分たちで在庫削減機能や仕入れ最適化機能を持つ社内ツールを構築し、危機を乗り越えてきた。

現在社名にもなっている主力サービスのFULL KAITENは、この社内ツールをSaaSとして製品化したものだ(EC事業は2018年に売却)。

今まで多くの企業は「在庫を増やさない限り売り上げは伸ばせず、売り上げを拡大しようとすると不良在庫も増えてしまう」という問題を抱えてきた。要は売り上げ増加と在庫削減の両立が難しく頭を悩ませてきたわけだ。

そこに対してFULL KAITENではAIを用いた需要予測や自社で培ってきた独自のテクノロジーを通じて、在庫をそこまで増やさなくても売り上げを増やせる仕組みを提案する。一言で言うと「『手持ちの在庫を使って』もっと売り上げを増やせる」(代表取締役の瀬川直寛氏)ことが特徴だという。

同サービスは「在庫消化率を上げる」「在庫回転率を上げる」「客単価を上げる」という大きく3つの機能を持つ。まず在庫消化率を上げるための機能。これは全在庫の実力を分析した上で“危険な在庫”を可視化して、適切な削減時期や方法を教えてくれるというものだ。

SKUごとに各在庫を不良(まったく売れない)、過剰(売れ残る)、フル回転(よく売れる)に自動で分類。不良在庫や過剰在庫の増加傾向を日々ウォッチしながら「この商品は今すぐ消化しないと経営が悪化する」「早めに販促しておくと値引きしないでも済む」といった形で在庫削減すべきタイミングがわかる機能や、対象となる在庫をリスト化して削減策を作成できる機能などを備える。

2つ目の在庫回転率を上げる機能は、必要な在庫数量を自動で分析して仕入れを最適化する役割。「売り上げに貢献してくれる商品がどれか」をSKUごとにスコアリングした上で、売れ行きをAIで予測し「各商品をどれくらい追加で仕入れるべきか」を算出する。

これによって売り上げに貢献しない商品は仕入れをストップするという意思決定もできるので、余計な在庫を増やさず余った予算を他の商品の仕入れや新商品の開拓などに回すことも可能だ。

3つ目の客単価を上げる機能では各店舗ごとに「狙うべき客単価帯」を分析し、そのための販売施策を提案してくれる。この商品は単体で売るのがいいのか、それとも他の商品とセットで売るのがいいのか。またセットで売るならどの商品と組み合わせるのが効果的か。

どのくらいの単価の買い物を増やすことで売上増加に繋がりやすく、そのためには既存の在庫をどのような方法で売るのがいいのか。その施策を考えるための手助けをしてくれる機能だと言えるだろう。

「どの企業も売れ筋の人気商品で売り上げを作っている。この商品が欠品するのが嫌なので在庫を多めに保有し、次の売れ筋商品を作るために新商品の在庫を増やす。2つの方法でしか売り上げを増やせなかったので、どんどん在庫が増える構造だった。FULL KAITENではお客さんが気づいていない売れ筋の商品を発見したり、反対にセールで値引きしても売れない危険な商品も直感的にわかるようになる」(瀬川氏)

個人的に興味深かったのが、FULL KAITENでは商品の売れ行き予測にAIを活用しているものの、その精度を疑った設計になっていること。「AIを活用した需要予測は理論的には正しくても、(様々な要因が絡むため)実際の現場では思っているほど当たらない」というのが瀬川氏らの考えだ。

実際に在庫を抱える中で、どのような売り方をすれば売り上げがあがるのかといった部分は、自分たちがかつてEC事業を通じて導き出したメカニズムをフル活用しているそう。ここが同社のコアな技術(瀬川氏いわく“考え方”にも近いとのこと)であり、在庫問題解決テクノロジーとして特許出願中だという。

“根性エクセル”は不要、担当者が実行レベルに集中できる環境を

フルカイテンのメンバー。1番左が代表取締役の瀬川直寛氏

瀬川氏によると現在FULL KAITENはエンタープライズ企業を中心に約40社強が導入済みとのこと。アシックスジャパンやドーム(UNDER ARMOUR)、アーバンリサーチなどが同サービスを活用している。

2017年のリリース当初は中小企業を主な顧客として想定していたものの、蓋をあけると大手企業の問い合わせが多かったそう。そこでエンタープライズ向けにアップデートする形でバージョン2.0を2019年2月にリリースし、事業を拡大してきた。現在は価格もミニマムで月額22万円から(導入費用やオプションなど除く)と、ある程度月商が大きい事業者の利用を想定した設定になっている。

業界や規模は違っても現場のペインは共通だ。これまで担当者はエクセルを使って膨大な数の在庫をリスト化し、1つ1つ分析してきた(業界では「根性エクセル」と言うらしい)。ただ扱う商品数が数万、数十万と増えてくれば人間でやれることには限界がある。結果として最終的には担当者の経験と勘頼みになることも少なくない。

「FULL KAITENを使えばこれまで時間のかかっていた分析業務を一切やらなくて済む。ユーザーは分析結果を見て、そこからどんな販促施策を実施するのかなど、ひたすら“実行”レベルに集中できる。この点に価値を感じてもらえている」(瀬川氏)

たとえば初期のバージョンでは「導入から9ヶ月で在庫が半減し、売上は導入前の前年同月比で毎月更新した事例」や「導入後1年間で在庫数量は変化していないのに、売上は2倍に成長した事例」など具体的な成果に繋がった。余計な会議の時間が減ったり、部署間で認識を合わせるための指標になったりといった効果も出ているという。

今後は顧客の要望なども踏まえ3つの機能をさらにアップデートしていくほか、組織体制を強化しさらなる事業拡大を目指す方針。まずは国内での展開に注力するが、ゆくゆくは海外進出も見えているようだ。

「ものが生産されて、それを誰かが買う。デジタルな社会でもこの流れはこれからも続く。その工程において長年解決できていなかった在庫問題をFULL KAITENを通じて無くしていく」

「もともとは在庫問題で苦しむ人たちの役に立ちたいと思って始めたが、事業を続ける中で企業の在庫削減を実現できれば、必要以上に物を生産したり廃棄したりすることがなくなるとわかった。つまり国内外で導入企業を増やし実績を積み上げることができれば、地球の資源を守ることにも貢献できうるということ。高い視座を持ってチャレンジを続けていきたい」(瀬川氏)

3回の倒産危機を救った自作の在庫削減ツールを世の中へ、ハモンズが1.2億円を調達

ECやリアル店舗向けの在庫削減クラウドサービス「FULL KAITEN」を開発するハモンズ。同社は6月12日、大和企業投資、ユナイテッド、ベンチャーユナイテッド、みずほキャピタル、京銀リース・キャピタルを引受先とする第三者割当増資により、約1.2億円を調達したことを明らかにした。

本ラウンドはハモンズにとってシリーズAにあたるもので、2017年5月に大和企業投資から資金調達をして以来2度目となる。同社では今回調達した資金をもとに人材採用を進め組織体制を強化する計画。合わせてFULL KAITENの新バージョンや新機能の開発を進めるという。

小売業者にとって切実な在庫の問題を解決

FULL KAITENは小売事業者が抱える在庫の問題を解決するクラウドサービスだ。小売企業の在庫データをもとに取り扱うひとつひとつの商品に対して、これからどれくらい売れるのかを独自のアルゴリズムで予測。現在保有する在庫と照らし合わせ、適正な量なのかどうかを自動で導き出す。

ハモンズ代表取締役の瀬川直寛氏の話では、FULL KAITENの大きな特徴は3点だ。

1つ目は数万〜数十万の取扱商品を適正在庫、過剰在庫、不良在庫に自動で分類した上で、削減リストを数クリックで自動生成できること。資金繰り悪化の原因となる在庫の増加を検知し、削減すべき在庫の推奨セール価格まで提示する。

「重要なのは、いかに不良在庫になる前に在庫を動かしていくか。在庫が過剰になっている時にいち早く抽出して、セールなどで上手に販売していくことが必要。『気づいたら売上は増えているものの、売れない在庫も増えている』というありがちな問題をなくしたい」(瀬川氏)

2つ目は最適な仕入れ量を自動で算出できること。これには大きく2つの側面がある。要は「そもそも売れない商品は仕入れない、もしくはポテンシャル以上の量を仕入れない」ようにする一方で、「売れる商品についてはしっかりと仕入れる(機会損失を減らす)」ということだ。

瀬川氏によると、仕入れについては担当者が勘と経験に基づいて「どの商品を、どれくらい仕入れるか」を決めていることも多いそう。前回すごく売れたからという理由で安易にたくさんの在庫を抱えてしまうことが、経営を圧迫する原因にもなりうる。

FULL KAITENの場合は商品ごとの販売データを使って、各商品がピーク状態にあるのか、下降トレンドにあるかといった状況を分析し、適切な仕入れ量を計算するという。

そして3つ目が在庫の収益性を分析し、粗利が上がるような売り方を見える化できること。粗利を軸に考えた際に、自社にとって重点商品といえるものは何か。そしてそれをどのように売るのがいいのか。たとえば「他のどの商品と一緒に購入された時に粗利が増加したか」を始め、自社の粗利を伸ばすための方法を自動で分析するという。

「小売事業で売上を増やそうと思った時、絶対にやるのが在庫を増やすこと。ただやみくもに在庫を増やせば、売上が上がっても売れない商品も溜まるばかり。これまでも小売企業は担当者をつけて在庫のコントロールをしようと努力してきたが、商品点数が多いところほど人力でやるのには限界があった。FULL KAITENはシステムでその限界を解決する」(瀬川氏)

もともとは自社ECの課題解決のために生まれたツール

FULL KAITENのストーリーで興味深いのが、もともとは自社の課題を解決するために作られた社内ツールであったということだ。

ハモンズは2012年5月の創業以来、自社でECサイトを運営してきた。2014年2月から続けているベビー服EC「べびちゅ」では3回ほど倒産しかけたそうだが、そんな時に危機を救ったのが自作の在庫削減ツールだったという。

「今でもよく覚えているが、最初は2015年の12月。このままでは翌年2月の給料が払えないからと、『不良在庫を徹底的に削減しよう』と動き出した。ただ考えてみるとそもそも不良在庫とは何を意味するのかも曖昧。そこから在庫に関する議論が始まって、最終的に不良在庫かどうかは在庫の数だけでは判断できず、これからどんな売れ方をするのか予測する必要があるという結論に至った」(瀬川氏)

ハモンズには統計学や機械学習、コンピュータシミュレーションといったバックグラウンドを持つ理系出身のメンバーがいたこともあり、まずは移動平均のロジックを使って不良在庫を洗い出す仕組みを開発。該当するものはセールで販売し、危機を乗り切ったという。

ハモンズのメンバー。写真右から2番目が代表取締役の瀬川直寛氏

ところがその半年後には在庫がたまり、またピンチが訪れる。

「不良在庫を算出する仕組みはできても、そもそも不良在庫を生まない(仕入れない)仕組みはできていなかった。そこで予測結果を活用して、不良在庫になる商品を仕入れないで済むシステムを作ろうと。合わせて過剰在庫のコントロールをできるような機能もとりいれた」(瀬川氏)

このようなプロセスを繰り返した結果、不良在庫リスクを極小化する独自アルゴリズムの開発に成功。今では年間で在庫が17回転するような体制を構築できている(中小のアパレルECではだいたい5~6回転が多いそう)。

この自社ツールのアルゴリズムや汎用性をアップデートしたものこそが、2017年11月にリリースしたFULL KAITENだ。現在はアパレル企業を中心に、家具やスポーツ用品を扱う小売事業者などがすでに導入済み。導入企業数は非公開だが、規模でいくと月商1億円以上の企業がほとんどとのこと。現状は7割がECで、残りの3割がリアルな店舗だという。

同社では今回調達した資金をもとに組織体制を強化し、マーケティングやセールスを本格化していくほか、長い期間の需要予測ができる機能を備えた新バージョンの開発にも取り組む。

「近年ECであればCVRやCPAなどを最適化するためのツールが増えている。もちろんこれらのツールは価値があるが、『○○率』の改善は分母が大きいからこそインパクトがある。小売の場合は商品こそがカギで、売上を増やすには商品を増やすのが王道。だからこそFULL KAITENはどの商品をどのくらい保有しておくべきなのか、何を売れば効果的に売上が上がるのかを把握し、実行に移せるようなサービスにしていきたい」(瀬川氏)