パブリック・ファイナンスについて考える

もしあなたが特定の年齢であるとしたら、地方債の購入や債券の購入方法など考えたこともないかもしれない。それらを思いついたことがあったとしても、そうしたプロセスは意図的に漠然としたものとなっている。

とはいえ、スタートアップ、投資先を探している個人、インフラを再構築しようとしている自治体にとって、それらは現状を刷新するのに大きな機会となるかもしれない。

まず第一に、債券購入は検討に値するだけの理由がある。昨年後半、トランプ政権は、納税者の財産税や地方・国の所得税の控除額に1万ドルという上限を設けた。さまざまな税金の支払いをしなければならないほとんどの納税者は、他の新税制により何らかの形で恩恵を受けている。しかし、それらが非常にいいというわけではない。そこで地方債の出番だ。というのも、地方債による利子収入に課される税金をみると、連邦税が免除されるからだ(住んでいる州が発行した地方債なら州税も免除される)。

では、さほど税金に苦しんでいない人ではどうか。1つ言えるのは、債券というのは非常に安全な投資であるということだ。すごく魅力的というわけではない。本当だ(通常、利率は1桁だ)。しかし低いデフォルト率という特徴も持つ。州や市、郡といった自治体の債務は通常、国が保証していて、債券の満期時には満額が支払われる。事実、地方債のデフォルト率は過去10年間で0.3%以下とかなり低い。加えて、いやそれ以上に意味があるのが、地方債は住民にとって住んでいるコミュニティを手助けする手段となることだ。例えば、カリフォルニア州オークランドの住民は2016年、古くなった道路の改修や手ごろ価格の住宅の建設などを行うための6億ドルの債券を承認した。

ここまで読んだあなたは、そうした投資機会がどこにあるのか、その際にテックがどんな役割を果たすのかと思うだろう。具体的に、地方債マーケットで動いているお金で考えてみよう。Morningstar Directによると、昨年は地方債ファンドと上場投資信託へ340億ドルもの流入があった。こうした商品以外でも、投資家向けのポートフォリオに幅を持たせるためにたくさんの債券を組み合わせたパッケージなどの動きも活発だった。

ファイナンシャルサービスディスラプターと同様、ここで言えるのは、大きな金融機関が提供するような商品がたくさん出回り始めているが、より低コストになってきていることだ。

また、現状よりもたくさんの債券を発行する余地がある。今年はじめNew York Timesが報じたように、2008年の金融危機以降、地方債の発行は少ない。さらに、トランプ政権の新たな税法は“期限前借り換え問題”と呼ばれる要素を排除している。この問題に関し、Timesは地方債のような種のファイナンスは市場の15%を占める、としている。つまり、供給を強いるような環境にあり、需要もある。

今のところ、パブリック・ファイナンスに関心を持つスタートアップはそう多くない。おそらく、地方債マーケットを21世紀にもたらすことに焦点をあてているスタートアップは1社、Neighborlyだけだ。設立6年、ベイエリアを拠点とする債券ブローカーとしてはかなり革新的なスタートアップだ。2017年には、同社のテックのおかげで、マサチューセッツ州ケンブリッジ市は200万ドルの“ミニ債”を発行できた。このミニ債で、住民は通常より少額の債券に適用される非課税の利子を稼ぐことができた。また、仲介人なしにさまざまなプロジェクトに直接投資することができた(明らかにこれは成功例で、ケンブリッジ市は今年はじめ2回目のミニ債を発行した)。

年初にNeighborlyはカリフォルニア州バークレー市に“イニシャル・コミュニティ・オファリング”と名付けたICO(Initial coin offering)を提案した。これは、バークレー市の資金不足プロジェクトに投資してもらう代わりに暗号通貨トークンを発行するというものだートークンは地方債により保護される(債券保有者はデジタルコインか現金で元金を受け取ることができる)。この試みはまだ進行形だが、もしうまくいけば他都市にとってもロードマップとなるはずだ。

この分野でNeighborlyがこの先も先駆者でい続けられるのか、それとも新規参入社がその位置を奪うのかはまだ見えないが、長年、政治戦略家だったインベスターBradley Tuskが我々に今後の可能性についてヒントをくれた。以下にTuskとの会話の一部を紹介する。TuskはNeighborlyのインベスターではなく、最近同社へのアドバイスを始めていることを記しておく。長さの関係上、以下の会話は編集されている。

TC:あなたは地方債マーケットは破綻していると考えている。それはなぜか。

BT:我々には今、片手で動かせるシステムがある。政府は国債を発行でき、人々がそれを支払う。つまり、プロジェクトを立ち上げ、人々はそれに伴う返金を受け取れる。それが仕組みの基本だ。しかし非常に曖昧で、閉ざされたシステムでもある。他の閉ざされた産業をテックがどうにかディスラプトし、変革をもたらし、そして効率的で透明なものにしたのと同じように、同様のことをパブリック・ファイナンスに活用しない手はない。

[キャリア初期]私はLehman Brothersで働いた。彼らは私をどこに配置してよいかわからず、パブリック・ファイナンスを割り当てた。その部門で働いていた人たちは率直で、世界経済を破綻させたような人々ではなかった。しかし実のところ彼らは効率的に多くの金を稼ぎ、納税者としてはトップランクだった。そうした額は、[銀行の]契約査定コストに組み込まれていた。今では必要ないものだろう。

TC:現在、債券はブローカーを通じて入手できる。あなたの目にはブローカーは課金しすぎだと映っている。しかし途中をスキップして“イニシャル・コミュニティ・オファリング”やブロックチェーンテクノロジーに直に移行するのが正しい道なのか。それは人々をおののかせることになるかもしれない。

BT:ブロックチェーンは暗号という点で誤解されているように思う。究極的には、ブロックチェーンはつなぐためのより良いシステムで、台帳でポイントAからポイントBへとデータを移すのにより効率的な手法だ。ディストリビュートされた多くの異なる場所で作業が行えるので、より安全で、ハッキングもされにくい。それは配管作業だ。要するにインフラなのだ。だからこそ、複雑で部分やパーツを伴う移送を、より簡単に素早く行うことができるレベルに持っていける。かつて我々が行なっていたことをインターネットがいかに素早く行えるようにしたかということと大差はない。電子メールは、手紙を書くより早い。テキストは電子メールよりも早い。

[あなたの質問に答えると]Neighborlyが成し遂げようとしていることは、ブロックチェーンに完全に頼るというものではない。[Neighborlyの創業者でCEOのJase. Wilsonが]最初にこのアイデアを思いついた時、Neighborlyが現在のような形で存在していたとは思えない。言いたいのは、現在のパブリック・ファイナンスは高価なもので、しかも明瞭でなく、特に民主的でもないということだ。一方で、[債券の金がどこに行くべきかについての]判断で影響を受ける人々がそうした問題を認識していないという事実もある。それこそが、Neighborlyや他の企業が指摘しようとしている、マーケットプレイスにおける真の非効率性だ。ブロックチェーンはそれをより効率的にするのを手助けするだけでいい。

TC:Neighborlyはプラットフォームユーザーが利用可能な債券をすでに作っているのか、それとも新たな債券商品を作ろうとしているのか。

BT:どちらもだ。プロセスに参加して債券を発行することもできるし、コミュニティが幅広く所有する債券を発行したいと考えている地方自治体と共同で作業することもできる。

TC:Neighborlyのようなスタートアップに協力するよう政府を説得するというチャレンジについてはどうか。この点について特に考えるところ、改善すべきことはあるか。

BT:いま、非常に大きな問題を抱えている。その問題というのは、そうしたスタートアップは政府に国債を発行するよう、あるいはそうしたプロセスに参加するようアドバイスしている。それらの企業の多くは候補者にお金を提供することを禁じられているにもかかわらず、だ。彼らは非常に用心深く身を隠している。そして彼らは予算を組むオフィスの中堅どころと関係を築いている。

これは、Uberがタクシー業界を、Airbnbがホテル業界を相手に競争を展開しているように、戦わなければならないカルテルだ。ある意味、戦うのが難しいカルテルといえる。というのも、かなり不透明だからだ。誰も、予算のプロセスが内部でどうなっているのか実のところを知らない。ゆえに、大きくかつ静か、そして最もパワフルなカルテルとも言え、かなり大きな戦いだ。Neighborlyはそれを受けて立つと考えている。

TC:先例はあるか。

BT:[ほとんどない]1社がうまくいけば、15社がその後に続くだろう。最初の会社というのは開拓の重荷を背負い、あらゆる戦いに挑まなければならない。おそらくそれが今起こっていることだ。マーケットが開かれたとき、人々はお金の活用法があると認識し、さらなる参入が予想される。しかし今現在、作業の多くを行なっていると私が認識しているのは1社のみだ。

パブリック・ファイナンス部門というのは債務を発行し引き受ける人と協働するのが得意だ。そしてどちらというとNeighborlyはパブリック・ファイナンス部門がゲームをしなくてもいいような世界で事業を行う。しかしそこにはある程度、政治の現実も介在する。

イメージクレジット: Bryce Durbin / TechCrunch

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(翻訳:Mizoguchi)