Walmartが経営する会員制大型ディスカウントストアのSam’s Clubが、最新の小売テクノロジーのテストベッドとして利用する新しい店舗を、ダラスにオープンする準備を進めている。具体的に言えば、同社が特にテストしようとしているのは、モバイルチェックアウト、在庫管理を行うAmazon Go式のカメラシステム、電子的な棚ラベル、店内案内テクノロジー、拡張現実、そして人工知能を活用したショッピングなどの、新しいコンセプトたちだ。
同社は6月の時点で、まずダラスにコンセプトストアを開店する計画を発表した、そしてそれが実世界における、技術ドリブンのショッピング体験の実験室であることを表明した。
米国時間10月25日、同社はそのプロジェクトのベールを上げて、新規店舗での計画の詳細について語った。店舗の名前は“Sam’s Club Now”である。
他のSam’s Clubの店舗と同様に、買い物をするためには顧客はSam’s Club Nowの会員になる必要がある。しかし、実際に買い物をする方法は、著しく異なることになる。
精算レジ担当者が置かれる代わりに、店舗にはコンシェルジュのように行動する「メンバーホスト」が配置されていると同社は語る。
またPOSレジでアイテムをスキャンする代わりに、顧客は特別に用意されたSam’s Club Nowモバイルアプリを利用する。
このアプリは、Sam’s Clubの既存の“Scan & Go”テクノロジーを利用している。この技術は現在他店舗で既に、精算をスピードアップするために使われている。既存のScan&Goモバイルアプリは、買い物客が商品をカートに入れる際に、自分でスキャンするオプションを選ぶことができ、そのまま電話を使って支払いを済ませることが可能だ。しかし、Sam’s Club Nowの場合には、これはオプションではなく、必ずスキャンして支払いを行うことが求められる。
Sam’s Club Nowアプリにはそれ以外の機能も満載である。いずれも同社がテストを行いたいと思っているものばかりだ。たとえば統合された店内案内/誘導システム、拡張現実機能、AI支援ショッピングリストなどだ。
最初の段階では、アプリは指定された商品がある通路へのビルトインマップを提供する、しかしやがてこのマップシステムはビーコンを使うようにアップグレードされて、消費者のショッピングリストに紐付けられ店内の最適ルートを表示するようになる。
ショッピングリストはAIによる支援も受ける。機械学習と顧客の購買履歴を用いて、ショッピングリストには、頻繁に購買するものが事前に入力されるようになる。もし不要な場合には、リストから項目を取り除くこともできる。
こうすることで、顧客は普段買う品物を買い忘れることがなくなる、と同社は語る。
また一方で、このアプリは、売られている商品の「物語」と機能を、店側から強調させるための拡張現実をテストすることが可能だ。同時に商品がどのような経路で得られたかの情報にアクセスするための手段も提供する。しかし、こうした機能は一種のギミックである。顧客たちが単に買い物をしようとするときには、こうした「インフォテイメント」に興味を抱くことはほとんどないからだ。
しかし、少なくとも、このテスト店舗は、そうした想定を実世界のデータで確認するチャンスを与えてくれる。
このアプリではまた、1時間以内に店頭受け取りが可能になる注文を行ったり、同日配送を指定して注文を行ったりすることができる。
このSam’s Club Nowと他の店舗の違いは、精算レジの有無だけではない。同店舗は、平均的なSam’s Clubの規模の四分の一の大きさで、3万2000平方フィート(約2973平方メートル)に過ぎない。それが意味することは、場合によっては、他の店舗のものよりも、小さいパッケージサイズのものを扱う可能性があるということだ(Sam’s Clubの他店舗は、大きな倉庫のような形態で、売られている商品の多くがまとめ買い用に大きなパッケージになっている)。
店舗のサイズが小さいため、店員の数も通常の四分の一である44名である。しかし、スタッフを排除し、技術で置き換えることが目標ではないと、同社は明言している。
「不便さを取り除くことは、素晴らしい会員サービスをデジタル体験で置き換えるということを意味しているわけではありません」と語るのは、Sam’s Clubの社長兼CEOのJohn Furnerだ。「会員の皆さまは、両方をお望みです」。
同社は、肉、生鮮食品、冷凍食品、ビールとワイン、弁当や惣菜類などの幅広い製品を取り揃える予定だと語る。
さらに重要なことは、新しい在庫管理と追跡技術も含まれているということだ。この先、700台を超すカメラを使ったシステムが、在庫管理とストアレイアウトの最適化のために使われることになる。
棚では、電子的な棚ラベルのテストも行われており、簡単に価格を変更することが可能だ。これによって紙のラベルや値札を印刷する必要がなくなる。
これらはみなサードパーティ製のシステムではないと同社は語っている。
「ここで構築に使っている技術の大部分は、私たち自身が社内で開発した技術に基づくものです。モジュールの一部にはサードパーティから入手したものがあるかも知れません。しかし、大部分は私たちが社内で開発した技術の上に構築されたシステムなのです」と話すのは、SamsClub.comのCEO兼Membership & Technologyの上級VPであるJamie Iannoneだ。「そうすることで、非常に迅速な繰り返しと改善が行えるのです」と彼は指摘した。
同社が「迅速」という言葉で意味するのは、わずか数週間で様々な変更を行えるということだ。この店舗では、コンピュータビジョン、AI、AR、機械学習、そしてロボットにまたがる、新しい様々な体験に対する実験を、素早く繰り返して行く計画だ。
そこで有効性を証明できた機能は、全米のSam’s Clubへと展開されて行くことになる。
同社によれば、ダラスがテストマーケットとして選ばれた理由は、アーカンソー州ベントンビルのWalmart本社から行きやすいということと、ダラスが擁するテクノロジー人材とリクルートの可能性からだと言うことだ。現在、同社はダラスに100人以上のエンジニアを抱えており、機械学習、AI、コンピュータビジョンの分野での雇用をさらに進める予定だ。
Sam’s Club Nowの企画が立ち上がり、開発が行われ、開店準備が整うまでにわずか5ヶ月しかかからなかったことも注目に値する。
店舗は、来週すぐに、テストのために地元の会員たちに招待制でオープンされる。一般に対する正式オープンは、とりあえず数週間以内に行われる予定だ。
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(翻訳:sako)