ドイツの金融スーパーアプリVivid Moneyが評価額約1020億円で130億円調達、欧州全域で展開へ

50万人の顧客を持つベルリン発のチャレンジャーバンクVivid Money(ビビッドマネー)は、基本的な当座預金と資金管理のサービスに加え、株式や暗号資産投資も扱う金融ワンストップショップの「スーパーアプリ」として有名になった。そしていま、同社はプラットフォームにサービスを追加し、欧州全域で事業を展開しようと、1億ユーロ(約130億円)を調達した。同ラウンドはGreenoaks Capitalがリードし、Ribbit Capitalと新規投資家のソフトバンク・ビジョンファンド2が参加した。

今回の資金調達でのVividの評価額は7億7500万ユーロ(約1020億円)だ。参考までに、この数字は同社が6000万ユーロ(約79億円)を調達した2021年4月の前ラウンド時の評価額(約473億円)の2倍以上だ。また、この間にユーザー数は5倍、売上は25倍になったという。Vividはプラットフォームへの預け入れ総額や取引件数など詳細については公表していないが、Vividの共同創業者であるAlexander Emeshev(アレクサンダー・エメシェフ)氏は、2022年中にユーザー100万人達成を目標としている、と述べた。

Vividは現在、ドイツ、フランス、スペイン、イタリアの4つの市場で事業を展開しており、2022年中に新たに5つの市場に進出し、2023年末までに欧州全域で利用できるようにする計画だ。新商品としては、保険商品の展開が初期段階にあり、エメシェフ氏によれば、2022年後半に初のクレジット商品を導入する予定だ(Vividは現在、ユーザーにVisaデビットカードを提供している)。

2020年にスタートしたVividは「COVIDネイティブ」のスタートアップと言えるかもしれない。モバイルファーストのサービスは、従来の銀行や投資サービスからすでに遠ざかっていただけでなく、パンデミックのために自宅で過ごす時間が増え、金融面の管理方法を再考していた30代のユーザーに訴えるものだった。

他の多くのネオバンクと同様、Vividの基本となるフリーバンキングは、他のプロバイダー(Vividの場合は、ドイツの組み込み型金融の大手Solarisbank)のインフラの上に構築されている。顧客が目的に応じて資金を最大15個の「ポケット」に分けることができ、ポケット間の移動も簡単にできるなど、よりカスタマイズされた資金管理サービスやその他のパーソナリゼーションサービスを加えている。

こうした基幹サービスとともに、暗号資産やETF(上場投資信託)などの新しい取引形態の金融サービスの波も押し寄せてきており、Vividはこれらも取り込むつもりだ。

Vivid Moneyのもう1人の共同創業者であるArtem Iamanov(アルテム・アイアムノフ)氏はインタビューで「当社のビジョンは、投資と貯蓄の巨大市場であるヨーロッパ大陸をターゲットにすることでした」と語った。「我々は、分散型金融や他の種類の代替投資アプローチがブームとなっていて、それらが従来型の銀行の世界とあまりよくつながっていないことを知っていました」。

そのつながりのなさは、理解という点でだけでなく、消費者の金融生活全体が伝統的なプラットフォームに基づいているときに、新しいサービスに足を踏み入れる方法という点でもそうだった。

Vividのソリューションは、ユーザーが既存のフィアット口座を使って簡単に株式や通貨について学び、その後投資できるような一連のサービスを作ることだった。例えば、同社は現在50の暗号資産と3000の株式やETFを選択できるポータルを提供し、分散型金融の分野に慣れておらず、さまざまなことを試しているかもしれないユーザーにアピールするように設計されている(これらの新しい投資ビークルの中にはSPACもあり、Vividは欧州で一般消費者がこれらのビークルに投資できる数少ないプラットフォームの1つだ)。

「古いものと新しいものの間に大きなギャップがあることがわかったので、この2つの世界の間で交わる商品にユーザーがアクセスできるようなスーパーアプリを作ることにチャンスを見出しました」とアイアムノフ氏は話した。

Vividのプラットフォームでの投資は無料で、ユーザーが米国株に投資する場合など、為替レートやその他の手数料でVividは利益を得る仕組みになっている。また「Prime」(Amazonはどう思っているのだろう)として販売するサブスクリプションを設け、月額9.90ユーロ(約1300円)を払えば、ユーザーはそうした手数料を払わなくてもいいようになっている。

チャレンジャーバンクがひしめく市場で、Sequoiaの支援を受けたネオブローカーのTrade Republicなど、Vividと非常に近い競合相手もいるが、Vividの出資者は同社の牽引力と、新しい消費者投資家にアピールするオールインワンで簡単なアプローチにより、同社が事業を拡大するにつれ、ユーザーと利用が増えるだろうと考えている。

「Vivid Moneyはわずか1年余りで、すでに欧州で最も愛されている消費者向けバンキングプラットフォームの1つを構築し、ユーザーは金融生活全体を1つのアプリで管理できるようになりました。2021年投資して以来、Vivid Moneyの新製品開発のペースの速さを目にして感激しており、Vivid Moneyは既存ユーザーを喜ばせ、新規顧客を引き付け、プラットフォームの価値提案を深化させています」とGreenoaksのパートナー、Patrick Backhouse(パトリック・バックハウス)氏は声明文で述べた。「我々は消費者金融における革命のまだ初期段階にいると考えており、事業を拡大し続けるVividとのパートナーシップをさらに深化させることをうれしく思っています」。

画像クレジット:Vivid Money

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】組込型金融ですべての企業がフィンテック企業になるわけではない

ソフトウェアが世界を席巻し始めてから10年に満たない頃、エンベデッドファイナンス(組込型金融)のビジネスモデルの革新と成長によりあらゆる企業がフィンテック企業になりつつある、という見出しが現れた。

このナラティブは、金融サービスセクターで起きている進化を単純化しすぎている。規制された環境での資金の保管・移動や信用供与は難しい。また、自社のオファリングを既存の金融機関と差別化するには、表面的な調整だけでは不十分だ。

フィンテック企業の本質は、ユーザーインターフェイスの強化や、金融サービスをエンドカスタマーに提供することを超えたところにある。それは「水面下にある重要な要素」、つまりフィンテック企業が顧客のために真に革新することを可能にするフルスタックのアプローチにある。

組込型金融は、中核的な金融セクター以外の企業やブランドによる金融サービスの提供を支援するものだ。これには多様なレベルの労力が企業に求められる。例えばStarbucksはアプリ内で統合されたウォレットと支払い機能を提供し、Lyftはドライバーにデビットカードを提供しているが、そうした取り組みに付随するものだ。しかし、それはStarbucksやLyftのフィンテック企業を作るものではない。

誇張の背後にある誤った解釈

「あらゆる企業がフィンテック企業になる」というスタンスの投資家たちは、ホワイトラベルの金融サービス(数十年前から存在する)の復活と、増え続けるバンキング、ペイメント、LaaS(Lending-as-a-Service)のプレイヤーを組み合わせた複数のアプローチを融合させることに強気の姿勢を示している。後者のアプローチでは、企業は多くの中核的な金融サービス業務をアウトソーシングしながら、金融プロダクトのエクスペリエンスをカスタマイズできる。前者は、埋め込み型デリバリーによるシンプルな流通だ。

金融サービスプロバイダーとして完全に機能する上での中核的な原則として、顧客向けプロダクト、取引インフラストラクチャ、リスク管理とコンプライアンス、顧客サービスの4つの要素が挙げられる。融資の場合は第5の原則がある。企業も資本を管理できる必要がある、というものだ。組込型金融は、企業がフィンテックであることの本質の大部分を回避することに役立つ。

ホワイトラベリング対「フィンテックになること」

組込型金融サービスは最近注目を集めているものだが、ホワイトラベルの金融サービスは何十年も前から存在している。例えば、ブランド付きクレジットカードは、ホワイトラベリングの一般的なパラダイムである。それはすぐに消費者の忠誠心を刺激する永続的な方法となったが、金融サービスにおける真の取り組みやノウハウを示すものではなかった。UnitedとAlaskaは、カード所有者である顧客に対して、信用調査、請求の設定、紛争処理を行うことはなく、また、カードにロゴを刻印することによってリスクを負うこともない。パートナーシップは航空会社にとって主要な収益源だが、リスクは金融機関側(Chase、Bank of America、Visa)にある。American Expressによると、クレジットカードローン未払い額の21%は、数年前にDeltaのクレジットカードを所有していた人々によって占められているという。

このホワイトラベルによるアプローチは、他のサービスでも一般的になりつつあり、携帯電話会社のバンキングオファリングのような形式で提供されるようになってきている。金融サービスは複雑で、規制が厳しいため、ブランドはほとんどの業務を専門家に委ねることを選択する。そのため、United、Delta、T-Mobileはそれぞれのブランドで金融サービスを提供しているが、フィンテック企業になりつつあることは決してない。

これとは対照的に、金融サービスをゼロから構築する機会を見出している企業もある。WalmartがGoldman Sachsの人材を獲得し、金融分野(Ribbitがトップ)への進出をリードするという動きは、真のフィンテック企業へのスピンアウトを約束するものだ。

コンプライアンスとリスク管理の専門知識への投資により、導入当初から詳細で関連性の高いインフラストラクチャを構築できるポテンシャルが高まる。これは小売業者の既存の多くのホワイトラベル付き金融パートナーシップの先を行く、重要なステップである。

サービスとしてのプラットフォームの制限

非金融企業が金融アプリケーションを構築するのを支援するツールやターンキーソリューションは、最近になって登場したものである。VCは、APIやバックエンドツールを介して、支払いや融資、そして最近ではバンキングプラットフォームサービス(BaaSとも呼ばれる)を構築する新しいプレイヤーに積極的だ。

支払いサービスや台帳サービスを手がけるスポンサー銀行や処理業者が直接提供する金融インフラストラクチャサービスとは対照的に、これらのプラットフォームは基盤となるインフラストラクチャを抽象化し、使いやすいAPIでラップし、リスク管理、コンプライアンス、サービスなどの中核的な金融要素をバンドルする。こうしたプラットフォームは、企業が金融サービスを提供する際にある程度の自己効力感を提供するが、その主な制限として、設計上汎用であるという点がある。

フィンテックは、従来の金融サービスでは見過ごされ、十分なサービスを受けられなかった顧客に、専門化を通じてサービスを提供する機会を見出した。伝統的な金融機関は、数百のSKUを保有し、すべてのセグメントにサービスを提供するゼネラリストモデルを長い間適用してきた。この戦略は必然的に、銀行が最も収益性の高い顧客のためのサービスにより多くの投資をし、そうした顧客のニーズに向けて最適化すること帰結した。収益性の低いセグメントには、古くて画一的なオファリングが残された。

こうした十分なサービスを受けていないセグメントにおけるフィンテックの成功は、コア顧客の固有のニーズに対応し、顧客のために設計されたプロダクトとサービスの構築に、飽くなき追求と集中力を注ぐことに基づくものだ。この約束を実現するために、フィンテックは、プロダクトのエクスペリエンスや機能セットから、インフラストラクチャやリスク管理、サービスに至るまで、スタックのすべてのレイヤーを革新する必要がある。

UIは差別化には不十分であり、全体的なユニット経済性を考慮しながら顧客のニーズに対応することが重要である。これらの問題に対するあるフィンテックの選択は、異なるセグメントを対象としている場合、他のフィンテックとはまったく異なる可能性がある。例えば、大規模な中小企業ではなくフリーランサー向けに最適化すると、どのデータソースを使用するかを決定したり、オンボーディングとトランザクションのリスクのバランスを調整したりすることに違いが生じてくる。

対照的に、サードパーティのプラットフォームプロバイダーは、幅広い企業に動力を供給し、複数のユースケースを可能にする汎用性を備えている必要がある。これらのサービスと提携している企業は、プロダクトの機能レベルでは構築とカスタマイズを行うことが可能だが、インフラストラクチャと中核的な金融サービスについてはプラットフォームパートナーに大きく依存しているため、パートナーの構成と機能に制限される。

そのため、組み込み型プラットフォームサービスは、クレジットカード処理のようなコモディティ化された単純なタスクには適しているが、エンド・ツー・エンドの最適化を必要とするバンキングのような、より複雑なオファリングで差別化する能力には限界がある。

より一般的にいうと、顧客の視点から考えると、特定のユーザーフロー内に限定された金融サービスを提供して全体的なユーザーエクスペリエンスを向上させる場合は、組み込み型フィンテックパートナーシップが最も効果的と言える。

例えば、企業は販売時点で、第三者プロバイダーを通じてクレジットを提供して購入を可能にすることができる。しかしながら、汎用的な金融サービスや独立型の金融サービスを考えると、組み込み型フィンテックのメリットははるかに小さい。

選ばれるプロダクトの構築

組込型金融の最大の支持者が主張するのは、大企業やブランドは、そのブランド認知度とインストールベースの故に、自社のプラットフォーム上の金融アドオンで成功することができるということである。

しかし、それは市場における選択の現実を見落としている。顧客が会社とのビジネスの一面に携わっているからといって、必ずしもその会社をあらゆるもののプロバイダーにしたいと思うとは限らない。特に、そのサービスが他の場所で手に入るものより劣る場合はそうだろう。

フィンテック市場が活況を呈し、レガシーブランドがこの機会に乗り続ける一方で、垂直化されたフルスタックのフィンテックは、ジェネリックプロダクトに繰り返し勝利するだろう。組込型金融やホワイトラベリングのいくつかの側面は、支払い処理や「Buy Now, Pay Later(今買って後で支払う)」サービスのように、今後も新たなものが現れたり普及したりしていくと思われる。しかし、顧客は「すべての企業はフィンテックである」という誤った見方を退けながら、顧客のために、そして顧客独自のニーズに基づいて構築された銀行やネオバンク、貸し手やツールを引き続き選定していくだろう。

画像クレジット:Busakorn Pongparnit / Getty Images

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(文:Eyal Lifshitz、翻訳:Dragonfly)