BMWが車のオプション機能をサブスクで提供開始へ、中古車も対応

米国時間7月1日、BMW(ビーエムダブリュー)は、仮想現実記者発表会を開き、一連の車載ソフトウェア体験の更新を公開し、ミュンヘン市内の仮想ドライブを通じて、そのいくつかの機能が紹介された。これらの機能は、Operating System 7(オペレーティングシステム・セブン)搭載のBMWの最新型車種に対応するもので、今年後半から提供される。なお、新車にはあらかじめ組み込まれる。

同社は、自動車情報システムの更新を可能にしただけではなく、現代の自動車に欠かせないさまざまなコンピューターシステムの、プログラムの各行の書き換えもバーチャルでできるようにした。これにより、以前から話題になっていたBMWのいくつかの新機能の市場投入がやっと実現する。

なかでも注目すべきは、特定のハードウェア機能のサブスクリプションを可能にするプログラムの更新だろう。たとえばシートのヒーターや高度な運転支援システムなど、BMW車に最初から備わっていながら、購入した時点では使えない状態にしているものもある。

BMWはずいぶん前からこの話をしていたのだが、ようやく現実化したわけだ。例えば新しいBMWを買ったとき、ハンドルやシートを温めるオプションを付けなかったとしても、3カ月間の無料お試しが可能になる。気に入れば、一定期間この機能をサブスクリプションとして購入することができるようになる。

画像クレジット:BMW

「新車も中古車も区別なく、BMWのオプション機能を選択される際に、最大限の自由度と安心感をお客様に提供したいと私たちは考えています」と本日の記者会見で同社の広報担当者は話していた。「オプション機器に関しては、ご自身の意志でいつでも簡単に購入でき、すぐにお使いいただける、大変に柔軟で素早いご提供となります。我々は20年以上前から接続性を重視しており、2014年からはデジタルサービスをオンライン予約できるConnected Drive Storeを運営しています」。

ただ、そのほとんどは情報機能だった。それが今回、車両の機能やオプション機器もオンデマンドのネット接続で選べるようになったということだ。同社は手始めに、停止発進機能を備えたアクティブ・クルーズコントロール、ハイビームアシスタント、BMW IconicSounds Sport(アイコニックサウンド・スポーツ)へのアクセスを提供する。今後、ラインアップに他の新機能が追加されていく予定だ。

意外なことに自動車メーカーにすれば、たとえ使われなくても、ハードウェアを車に組み込むほうが早くて安いのだという。理由は簡単。それにより製造時の手間が省かれるからだ。だが、今回BMWが話題にしている内容は、その多くがソフトウェアとハードウェアの組み合わせになっている。

新しいのは、特定の機能をサブスクリプションによって短期間だけ使えるという仕組みだ。

「近い将来、ここに新しい機能を追加するだけでなく、一定期間その機能を使いたいお客様のための、さらなる柔軟性を高めていく考えです。例えば、あるオプションを3年間だけ、1年間だけ、あるいは数カ月という短期間だけ使用するといった具合にです」

画像クレジット:BMW

同社はまた、中古車を購入する人は、その柔軟性の恩恵がさらに大きいと話している。Apple(アップル)のCarPlay(カープレイ)の対応についても話しておくべきだろう。この機能は、もともと年間80ドルというサブスクリプションで提供することになっていた。少しでも金を浮かせたいドライバーのための配慮のように見えるが、CarPlay対応が有料という自動車メーカーは他にない。BMWオーナーには大変に不評だったため、去年の12月に同社はこの決定を取り下げた。

新しく加わるサブスクリプションサービスにBMWオーナーがどう反応するかは興味深いところだが、重要なのは、普通なら新車購入時に決なければならないオプションが後からでも選べるという利便性だ。そう思えば、追加サービスへの反応は、あまり問題にならないだろう。

BMWが本日発表した、新規または更新されたデジタルサービスには、アップルの新サービスであるCar Keys(カーキーズ)も含まれていた。BMWではこれを「BMW Digial Key」(デジタルキー)と名付けている。また、BMW Personal Assitant(パーソナル・アシスタント)の更新も披露された。この新しい支援機能に、装飾的なものや車内ディスプレイの表示方法を変えられるものも含まれている。

もうひとつ面白い支援機能として、自動車用のIFTTT(イフト)のようなものがあった。これを使えば、たとえば会社の駐車場に入ると自動的に窓が開くようにプログラムできる。社員証をスキャナーにかざしてゲートを開けるときなどに便利だ。

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その他、BMWの内蔵GPSシステムMaps(マップス)の更新もあった。同社によれば「大きな飛躍」とのことだ。

これは、クラウドベースのサービスで、ルート検索が高速になり、より詳細な交通情報や、駐車場の空き状況が確認できるようになる。そしてその駐車場機能は、数多くのBMW車両から収集したセンサーデータと格闘してきたBMWの努力の賜物でもある。現在すでにドイツのハイウェイ網の99%近くがカバーされ、毎日、高精度マップに落とし込まれている。

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マップと言えば、BMWは現在、ハイブリッド電気自動車の販売に力を入れているが、現在はハイブリッド車のドライバーが充電ステーションを探しやすくする機能と、欧州の80の街に設定されている低排出ゾーンで自動的に電気走行に切り替える機能も発表された。将来的には、他の街にも対応させていく予定だ。

「高級車においては、ハードウェアとソフトウェアは同等の重要性を持つため、デジタルテクノロジーは、BMWの中核を成しています」と、BMW役員会会長Oliver Zipse(オリバー・ツィプセ)氏は言う。「私たちの使命は、高度なデジタルテクノロジーを卓越した最高級の製品に統合し、お客様のエクスペリエンスと運転の楽しさをさらに高めることにあります」。

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(翻訳:金井哲夫)

BMWがクラウドに賭ける理由

自動運転が主流を占めるようになる10年後には、私たちは車や運転と、これまでとは全く違う関係を結ぶことになるだろう。

大手の自動車会社は皆、これをよく認識している。しかしこの変化に対しての対応は深さや緊急度は各社まちまちだ。今月初めBMWは、シカゴのテクノロジーオフィスで、イノベーションデイズを開催した。同社によるコネクティビティサービスの現状を紹介し、将来のビジョンを提示するものだ。

他のメーカーたちとは違って、BMWは車内の体験を完全にコントロールしたいと考えており、それを外部の大手テクノロジー会社に委託はしないということを決定した。同社はAppleのCarPlayへのサポートを提供しているが、Android Autoをサポートする予定はいまのところない(CarPlayのサポート自身も、それほど熱心に行っているわけでもなさそうだ)。その代わりにBMWは、プレミアムブランドとしての自身の仕事を、カスタマーエクスペリエンスをコントロールして、運転体験の全てにぴったりと反映していくことだと位置付けた。

BMWのDigital Products and Servicesの責任者であるDieter Mayは、「当社のプロダクトや車を、お客様のデジタルライフスタイルと統合するという目的に向けて、最新かつ最高のテクノロジーとツールを使用しています」と、イベントに先立つプレスディナーの席で語った。「私たちの車が、お客様のデジタルライフスタイルに、うまく溶け込む必要があると考えているのです」。

BMWは現在シカゴ事務所に150人の人員を抱えており、上海、東京、マウンテンビューにある他のテクノロジーオフィスと協力しあっている。シカゴチームのコアメンバーはNokia出身者たちだ。BMWがシカゴのNokiaソフトウェアチームを買収したからだ。現在はこのコアチームがモバイル、クラウド、インターネットサービスで既に多くの経験を積んでいることをうまく活用している。

「私たちがここでやっていることは、自動車産業にとっては新しいことです」とMayは語った。「私たちは新しい仕事のやりかたを確立しました。もちろん課題もあります、インターネット業界や家電製品のの動きが激しいのに対して、車の開発サイクルは長いものだからです。なので、私たちはその橋渡しを行なう必要がありますが、これは私たちの目標の一部です。また、自動車業界で使用されているソフトウェアライフサイクルとツールは、デジタル業界やインターネット産業で使用されているツールとは異なります。しかし、それこそが私たちが、クラウド技術やクラウドの専門知識を、この会社に持ち込んだ理由なのです」。

伝統的にゆっくりと進む、自動車産業におけるソフトウェアライフサイクルは、現代的なソフトウェア開発サイクルの採用に踏み切る組織が少なかったことを意味している。よって、アジャイルのような開発手法は、スタートアップや、今どきの企業でさえも、難なく採用されているのにもかかわらず、BMWのような会社にとっては、Jenkinsを自動化サーバーに使いJIRAでバグトラッキングを行なう、といったことだけでも本当に大きな変化なのだ。車のメーカーの人びとと会話している中で、「スクラムチーム」という言葉に出会うことはそれほど多くない。しかしそれは現在の車メーカーにとっての新しい課題だ。

BMWは単純にCarPlayのような既存のプラットフォームも採用しているが、それは同社の戦略ではない。その代わりに、BMWはMicrosoftなどと提携して、そのプロダクトを車に持ち込もうとしている。現段階では、車のインフォテイメントシステムは、たとえばOutlookを用いて予定や電子メールを表示することができる(BMW所有たちによくフィットするユースケースだ)。Skype for Businessのサポートは間もなく開始される。しかし、これらのサービスを利用するときに、Microsoftのロゴは表示されない。ここでの計画は更に深く考えられていて、他のパートナーたちとも同様な形で行われる可能性が高いが、サードパーティーサービスではなく、あくまでもBMWのサービスと直接やりとりしているように感じさせようとしている。

またそれは、BMWがどのように音声アシスタントを統合すべきかを検討しているということを意味する。”Alexa”とか”Hey Google” と言わなければならないというのは、プレミアムブランドの立場には相応しくない、と言うこともできるだろう。BMWやその他の企業たちが、どのようにこれを処理するのかは興味深い。なぜならドライバーたちは、自分の好きなパーソナルアシスタントを自分の車の中で使えるようになりたいと思う筈だからだ。

コネクテッドカーを手に入れると、ドライバーがインフォテインメントシステムとどのようにやりとりをしているかに関する、大量の分析結果を得ることができるようになる。伝統的に、自動車メーカーは、インフォテイメントシステムを構築し、ユーザテストを行い、調整し、レビューが戻って来るのを待っている。それから、1〜2年後に、次のバージョンがより良くなることが期待されるというわけだ(しかし、ドライバーは車の寿命が尽きるまで、古いシステムに付き合わされる)。

今では、車から戻ってくるデータを使って、BMWは常にフィードバックを得ている。そして、ソフトウェアチームはそれに対して迅速な対応を行うことができる。何故なら更新されたソフトウェアはクラウドにプッシュすることが可能で、もし必要なら、車にも配信することもできるからだ。実際に、あるBMWのエンジニアは私たちに、同社が今年、既に260件のアップデートを出していると語った。

BMWのエンジニアたちとの雑談の中では、沢山のMVP(minimal viable products:最小限の機能だけを実現したプロダクト)の話が出された。それらはもちろん、非常に高いプレミアム性を誇るものとは言えない。そしてMayは、それらは顧客がある程度慣れなければならないものかもしれない、ということを認めた。しかし、今やBMWのような企業は、新しい車載技術を開発する際に、迅速なソフトウェア開発とフィードバックサイクルの条件下で考えることができる。

このすべてを行い、そのさまざまなプラットフォーム上で100万人のユーザーにサービスを提供するために、明らかにBMWはクラウドのパートナーを必要としていた。そこでMicrosoftのAzure Cloudを戦略全体の技術基盤として利用することを決定したのだ。明らかにBMWはMicrosoftのロードマップを見た上で、その先にあるものを好んだのだ。しかし、現在BMWの主要な成長市場の1つが中国であり、Azureが中国内に2つのリージョンを持つほど重要な存在であることは注目に値する。

現在、BMWはAzureの3つのデータセンター(米国、ヨーロッパ、中国にそれぞれ1つ)からグローバルな運用を行っている。そこでコアサービスとサードパーティーベンダーのサービスも統合されている。そうしたサービスには、例えば、天気情報のためのWeather.comや、ドライバーの携帯にリマインダーを送信するためのTwilioなどがある。それに加えてBMWは、Azureのレポート機能とMicrosoftのPower BIチャートツールを、大いに活用している。

さらに、BMWは依然独自のレガシーデータセンターも運用しているが、それは主に顧客口座を取り扱うためだ。これらのシステムはずっとうまく機能しており、BMWのエンジニアの1人が私に語ったように、それをAzureに持っていく理由は全くない。BMWが所有するこのインフラストラクチャーは、車へのリモートサービス指令も処理している。私の理解する限り、BMWのワークロードの中にはAWSでも動作しているものがある筈だ、しかしそれらが正確にはどういうものなのか、あるいはAWSは縮退運転や、開発とテスト用に利用しているだけなのかは不明だ。

間違いなく、彼らの作り上げたこれらの仕組みと機能は素晴らしいものだが、彼らはこれを来るべき完全自動運転車の時代に向けての準備として行っているのだ。その時代が到来した瞬間に、ドライバーたちは運転に使っていた時間を、なにか生産的なあるいは娯楽を楽しむための時間に使うようになる。これは突如出現する巨大な市場なのだ。

もし、そのときに自動車メーカーとして、顧客との関係を維持できていない場合には、他の誰かがそれを行なうだけのことだ。しかし、自動車の所有形態も大きく変わる可能性がある未来は、BMWのような企業にとって、沢山のお金を稼ぐことができるチャンスとなる。そして、(今ほどではないにせよ)車とブランドはまだまだ重要ではあり続けるものの、差別化の鍵を握るのは主役はやはりソフトウェアサービスだ。この分野の賢いプレイヤーたちは、こうした状況がBMWのような企業をカービルダーに加えてソフトウェア企業にしていくことを知っているのだ。

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(翻訳:Sako)