トマトが熟れる際の遺伝子発現を深層学習で予測、遺伝子編集で果実のデザインも可能に

トマトが熟れる際の遺伝子発現を深層学習で予測、遺伝子編集で果実のデザインも可能に

岡山大学は3月8日、AIを使ってトマトが熟れるときに重要となる遺伝子の働きを予測する技術を開発したと発表した。また、「説明可能なAI」(XAI。Explainable AI)と呼ばれる技術を用いてAIの判断の根拠を探ることで、重要なDNA配列の特定も可能にした。その配列を編集すれば、果実の特徴に関する緻密なデザインも可能になると期待される。

果実の色や甘さや香りなどは、数万にもおよぶ遺伝子発現(遺伝子の働き)の組み合わせによって決まる。遺伝子発現は、プロモーターと呼ばれる領域に転写因子というタンパク質が結合して調整されているが、プロモーターのDNA配列には複数のパターンがあり、遺伝子発現は転写因子の複雑な組み合わせによって変化する。そのため、全ゲノム配列の情報がわかっていても、予測はきわめて難しいという。

そこで、岡山大学学術研究院環境生命科学学域(赤木剛士研究教授、増田佳苗氏、桒田恵理子氏)、農業・食品産業技術総合研究機構筑波大学大学院生命環境系九州大学大学院システム情報科学研究院からなる共同研究グループは、深層学習を用いた遺伝子発現の予測と、そこで重要となるDNA配列の特定を試みた。まずは、分子生物学で標準的に使われるモデル植物シロイヌナズナの、転写因子が結合するDNA配列情報のデータベースをAIに学習させ、3万4000以上あるトマトの全遺伝子のプロモーターの転写因子が結合するポイントを予測させた。次に、トマトが熟れる過程の全遺伝子発現パターンを学習させることで、遺伝子発現の増減を予測するAIモデルを構築することができた。

さらに、「説明可能なAI」を用いて、そのモデルで「AIが判断した理由を可視化」することで、予測した遺伝子発現の鍵となるDNA配列を「1塩基レベル」で明らかにする技術を開発した。このDNA配列を改変した遺伝子をトマトに導入すると、AIによる予測と同じ結果が得られた。つまり、トマトのゲノム情報の複雑な仕組みをAIが正確に読み解いたことになる。

この技術は、トマトの食べごろの予測に限らず、果実の色、形、おいしさ、香りなど、様々な特徴に関する遺伝子の発現予測にも応用できるという。また、予測した遺伝子の発現に重要なDNA配列を特定する技術を使えば、遺伝子編集により最適な遺伝子発現パターンを人工的に作り出して、自由に果実のデザインができるようになるとも研究グループは話している。

東京大学と農研機構が作物の品種改良を行う育種家の感性を解明、柑橘類の皮の剥きやすさと実の硬さを深層学習で定量化

Pythonを用いることで、カンキツの果実断面の画像から、果実のさまざまな形態的特徴を定量的かつ自動的に評価する技術を開発

Pythonを用いることで、カンキツの果実断面の画像から、果実のさまざまな形態的特徴を定量的かつ自動的に評価する技術を開発

東京大学農研機構は2月10日、育種家(作物の品種改良を行う人)が独自の感性でもって評価してきた柑橘類の剥皮性(皮の剥きやすさ)と果実の硬度を、AIによる画像解析などにより定量化することに成功したと発表した。これにより、効率的な品種改良が可能になるという。

東京大学大学院農学生命科学研究科(南川舞氏・日本学術振興会 特別研究員、岩田洋佳 准教授)と農研機構(野中圭介氏、浜田宏子氏、清水徳朗氏)からなる研究グループは、柑橘類の果実の剥皮性と硬度を、果実断面のAIの深層学習を用いた画像解析などから、自動的に、定量的に評価する技術を開発した。そうした評価は、これまで育種家の感性に頼ってきたものであり、何を持って評価を行っているかは当事者にしかわからない「ブラックボックス」状態だった。

育種家の感性による達観的評価の方法

育種家の感性による達観的評価の方法

深層学習による剥皮の難易もしくは果実の硬軟の分類と、分類に寄与した特徴の可視化

深層学習による剥皮の難易もしくは果実の硬軟の分類と、分類に寄与した特徴の可視化

柑橘類の果実は、外皮(フラベド)、中果皮(アルベド)、じょうのう(袋)、果肉、種子、果芯(中心部)で構成されている。その断面画像を解析したところ、果芯の崩壊(空間ができること)が進んだ果実ほど皮が剥きやすく実が柔らかいという関係性がわかった。このほか、種子の面積と硬度の関係、アルベドの崩壊の状態も剥きやすさと柔らかさに寄与することもわかった。こうした関係性の推定には、変数間の因果関係を推定するベイジアンネットワークが用いられている。

ベイジアンネットワークにより推定された、カンキツ果実の形態的な特徴と剥皮性・果実硬度との関係

ベイジアンネットワークにより推定された、カンキツ果実の形態的な特徴と剥皮性・果実硬度との関係

この技術により果実の形態的な特徴のデータを自動的に大量に収集できるようになれば、ゲノム情報を活用した効率的な品種改良が可能となる。また、「果芯の崩壊程度や種子面積を改良することで、望ましい剥皮性や果実硬度を有する新品種」の開発も可能になるという。今後は、剥皮性と果実硬度の総合的な遺伝システムの解明を目指すとのことだ。