アイドル×コミュニケーションは、マネタイズの次なるフロンティアとなるか

「人と人のつながりを大事にするミクシィなので、アイドルやアーティストとも1対1でつながりを持てるサービスを作った」——ミクシィがそう説明するのは、3月17日に正式サービスを開始した「きみだけLIVE」だ。

きみだけLIVEは、アイドルやお笑い芸人、アーティストと1対1のライブコミュニケーションができるサービスで、事前の抽選に当選したファンは、Skypeを使って10分間のライブや会話を楽しめる。ミクシィはプレスリリースで「ファンはその時間アーティストを独占することができます」とうたっているが、ファンにとってはたまらないものだろう。

ちなみに1アーティストごとのライブは休憩時間も含めて合計2時間程度で、当選するファンは5人ほど。なかなか貴重な体験になるようだ。また抽選に応募すればもれなくアーティストからメッセージが届くほか、限定グッズの引換券などを入手できるという。

きみだけLIVEには「ハート」と呼ぶ仮想通貨があり、新規登録時に20個、またサービスへのログインで1日1個付与されるほか、1個100円で購入できる。そのハート5個でライブへの応募が可能。複数応募にも対応する。ちなみにライブへの応募数に応じて、アーティスト別のファンランキングも表示されるのだそうだ。

さらに「推しメーター」と呼ぶメーターを備える。これは1日1回押すことで10%ずつパラメーターが増加。ライブの当選確率が上がるのだそう。メーターは最大300%まで増加。ライブに5口で応募した場合、5口+15口(応募口数×推しメーター値)で20口の応募となる)。

仮想通貨による課金、抽選というガチャ的要素、ランキングによるファンの可視化、メーターによる継続アクセス——ソーシャルゲームのノウハウをつぎ込んだなんともすごいサービスだ。ちなみにこのきみだけLIVE、ノハナやDeploy Gateを生んだミクシィの新規事業プロジェクト「イノベーションセンター」発のサービスで、2014年11月から試験的にサービスを提供していた。

フォッグのCHEERZは課金も含めて「想定以上」

とはいえ、こういったアイドルコミュニケーションという領域では、ミクシィは後発組だ。ディー・エヌ・エーは2013年12月に「SHOWROOM」を立ち上げたし、ユナイテッド子会社のフォッグは2014年12月に写真をベースにした「CHEERZ」を立ち上げている。メッセージベースのサービスだがサイバーエージェントの「755」なんかもある。ニコニコ生放送やTwitCasting(ツイキャス)なんかでも、サービスの公式・非公式を問わずアイドルやアーティストがユーザーと直接コミュニケーションをとっている。

フォッグにCHEERZの話を聞いたのだけれども、サービスは非常に好調だそう。CHEERZは、250人以上の若手アイドルが自らの写真をコメントとともにアップロード。ユーザーはその写真に対して、Facebookの「いいね!」同様の「CHEER」を送ることができる。このCHEERはログインや時間経過で回復するほか、ポイントを購入して回復することができる。ソーシャルゲームによくある体力とかスタミナという項目と同じような仕組みだ。

アイドルにとってもファンにとってもきわめてシンプルなサービスだったこともあり、積極的な写真投稿、そしてそれに対するファンからのCHEERがものすごい勢いで付いているそう。ユーザーから送られたCHEERの数は、サービス開始から3日で100万件を達成。サイト上で公開している数字は5100万件以上になっている(ちなみに記事を書いている間にも数万件のCHEERが増えていてびっくりした)。

ダウンロード数は数万件と聞いているし、実際Google Playでは5000〜1万件のレンジとなっている。ダウンロード数だけ見れば決して大きくないが、DAUは非常に高いのだそうだ。また課金についても「想定以上の数字」(フォッグ)をたたき出しているとのこと。売上に関しては、ストアの手数料を引いたところから、フォッグとアイドルの所属する事務所がレベニューシェアするのだそう。

フォッグではCHEERZの海外進出も進めており、1月には日本のガールズポップカルチャーを英語で配信する「Tokyo Girls’ Update」の運営元であるオールブルーと協業を開始。アプリも英語、中国語に対応した。さらにCHEERZに登録するアイドルの写真集「CHEERZ BOOK Vol.1」も発売している。あと、CHEERZについてはそのサービスのモデルを特許出願をしているとのことだった。

サイバーエージェントの755は年内1000万ダウンロードを目指す

メッセージベースでアイドルや著名人とコミュニケーションを取れるサイバーエージェントの755は、3月に入って400万ダウンロード突破を発表。2014年末から年始にかけてはAKB48やE-girlsといった著名アイドルを起用したテレビCMを実施していたが、今度は乃木坂46によるテレビCMを放映する。

プロモーション施策にに加えて通知機能やアルバム機能なども好調らしく、関係者からは「年内1000万ダウンロードも見えている」という声が聞こえてくる。マネタイズはこれからのようだが、今夏以降はテスト的に広告配信なども検討しているようだ。


著名人と話せるアプリ「755」がCM効果で250万ダウンロードに――最大のライバルは「Ameba」

年末年始は普段よりテレビを見る機会が増えたのだけれども、やたら見かけるIT関連のテレビCMがあった。サイバーエージェントグループの7gogoが手掛けるトークアプリ「755(ナナゴーゴー)」だ。同社の発表によると、アプリの累計ダウンロード数がこの2週間で約200万件も増加。1月3日時点でiOS、Androidアプリの累計で250万ダウンロードを突破したという。CMにはAKB48とE-girlsを起用。2014年12月26日からAKB48バージョンを、2015年1月1日からE-girlsバージョンを全国で放映。20代を中心にユーザー数を増やした。

755がスタートしたのは2014年2月。サイバーエージェントと堀江貴文氏がファウンダーを務めるSNSが共同で立ち上げた。755という名称の由来は堀江氏の囚人番号だ。著名人をはじめとしたユーザーの「トーク(チャットルーム)」を閲覧したり、その内容に対して「やじうまコメント(コメント)」をしたりできるほか、気になった投稿をリトーク(リツイートのように投稿を自分のトーク上にシェアする)したりできる。このトークは著名人(オフィシャルユーザー)でも一般ユーザーでも作成可能だ。テレビCMでは「AKB48やE-girlsと話せる」とうたっているが、厳密にはトークを開設したユーザーが、気になったやじうまコメントを拾い、それに対して返事をして会話が成り立つという仕組みだ。

ちなみに少し前まで「芸能人・有名人の返信率 92%以上!」とアプリの紹介などでうたっていたが、これは755を利用する著名人の92%がやじうまコメントに返信を行っているという意味であり、決して92%のユーザーが自分宛の返信をもらえるわけではない。AKB48メンバーなどのやじうまコメントを見れば、コメントが多すぎてそりゃ92%にレスできないだろうなとも思うのだけど、利用していないユーザーに対して誤解を与えかねない。これについては7gogo代表取締役社長の森正樹氏も「誤解を招く表現になっていたと思い、アプリの説明文などからは削除した。App Srore上のiOSのスクリーンショットに関しても削除に向けて対応作業中(筆者注:App Storeはスクリーンショットの差し替えにも承認が必要なため時間がかかる)」と語っている。

森氏いわく、サービス開始から数カ月はチューニングの時期だったという。細かな機能もさることながら、もともとのコンセプトであった「複数人の著名人の会話に対してユーザーがやじうまコメントを入れ、それを著名人が拾う」というスタイルでは、コメントをどこまで拾うかが難しく、話が盛り上がらなかったそうだ。そこで著名人同士ではなく、著名人1人がつぶやき、それに対してユーザーがコメントし、さらに著名人がそれにレスをするという今のスタイルに落ち着いたのだそうだ。

755では6月以降に本格的に著名人のオフィシャルアカウントを拡大。現在は800人以上の著名人が参加している。ちなみに著名人に対して金銭の支払いはしていないとのことで、「自分のファンが一極集中していることもあってコミュニティが形成されやすく、モチベーションが高い」(森氏)のだそう。将来的にはメルマガのように、著名人に対する興味関心が高い人に対する課金なども検討しているそうだが、「とりあえず(マネタイズは)気にせず行けるところまで行ってみようと考えている」(森氏)。いわゆるファンクラブの置き換え、オンラインサロンのようなビジネスが展開されるのかもしれない。ちなみに今回のプロモーション費用についても聞いたのだが、「Amebaが渋谷の広告をジャックした(2012年に1カ月で30億円の広告を展開した)程ではないが、それなりに大きい額」(森氏)としか回答を得られなかった。

最大のライバルは「Ameba」

ところでこの発表と前後して、あるサイバーエージェントの幹部と話す機会があったのだけれども、その際に「755のライバルは何なのか」という質問をした。

例えばユナイテッド子会社のフォッグが12月にリリースしたアイドル応援アプリ「CHEERZ」。これはアイドルが自ら写真とコメントを投稿するというサービス。ユーザーは「いいね!」にあたる「CHEER」をするのだが、このCHEERの数がサービスリリースから1カ月たった現在、なんと1280万回を超えているのだ。ユーザーがCHEERできる回数は、ソーシャルゲームの体力のように一定時間で回復するようになっている。そして回復を待てない場合はポイントを購入する必要があるのだが、このCHEER数を見ているとそれ相応の課金がなされているようにも見える。ほかにもDeNAの「SHOWROOM」など、著名人やアイドルとユーザーがコミュニケーションをとれるサービスがある。だがその幹部は社外のサービス名を挙げることなく、「本当のライバルはAmebaかもしれない」と語った。サイバーエージェントグループはこれまでもグループ内で競合関係になるようなサービスを作ることもあったが、PC、ガラケー時代Amebaのように、755をスマホ時代の新しいプラットフォームに育てたいのだという。

森氏にも同じ質問をしてみたのだけれど、「Amebaを批判するわけではないが、ブログは書く、コメントする、くらいしかできない。755はもう少しスマホに特化した機能があるし、Amebaではできなかったようなコミュニケーションを軸にしたスペースを作れる。そこは狙っていきたい」とだけ語った。また7gogo取締役の水野信之助氏は、755はAmebaがあったからこそできたサービスだと語る。「タレント事務所とのネットワーク、コメント監視などAmebaのノウハウが生きている」(水野氏)

大々的なキャンペーンでユーザーを獲得した(といってもどれだけアクティブになるかはこれから気になるところ)755だが今後の展開はどうなるのか。両氏によると、今後は引き続き著名人のアカウントを拡大しつつ、一般ユーザー向けの機能を強化していくという。「サービスのフェーズがあると思っている。今はまずは著名人アカウントで遊び方を理解してもらおうとしている」(水野氏)「一般ユーザーの手でコンテンツが生成される場所にしたい。使い方も含めてユーザーが考えてくれれば」(森氏)。

7gogo取締役の水野信之助氏(左)と代表取締役社長の森正樹氏(右)