ANAやLINE Fukuokaがドローン配送実験、玄界島からアワビとサザエ運ぶ

LINE Fukuokaは8月1日、ANAホールディングスと協業によるドローンを利用した海産物輸送の実証実験を報道関係者に公開した。

福岡市西区の玄界島と糸島半島の東側に位置する釣り船茶屋ざうお本店までの片道6.4kmの距離、玄界島と能古島キャンプ村までの片道10.3kmの距離を、完全自律・自動操縦のドローンを複数使って、アワビとサザエを運ぶという内容だ。代表事業者はANAホールディングス。

ドローンは、自動制御システム研究所(ACSL)が開発した「PF-1」と呼ばれる機体を使用。PF-1は、建物・インフラ点検用の「PF1-Vision」、計量・測量用の「PF1-Survey」、防災・災害用の「PF1-Protection」、物流・宅配用の「PF1-Delivery」の4モデルがある。今回の実証実験で使われたのはPF-1をベースにカスタマイズしたもので、通常はオプションのLTE通信機能を搭載している。なお、PF-1自体のペイロード(積載可能重量)は3kgだが、今回の機体は0.9kgとなっている。

LTE通信にはNTTドコモの回線を使用。ドコモでは今回の実証実験のため、上空のLTEの電波状況などのデータを提供し、飛行ルート作成に協力したそうだ。またウェザーニュースが、気象情報やドクターヘリなどの有人航空機の飛行位置データなどを提供している。もちろん実証実験エリアを提供しているのは福岡市だ。

LINE Fukuokaでは、LINEアプリ内に実装したモバイルオーダー機能を提供。BBQ会場でスマートフォンから海産物をオーダーすることで、そのオーダーが玄界島に届き、海産物がドローンで運ばれてくるという流れだ。なお、ドローンの離着陸時には30m以上に離れなければならないという規制があるため、実際にはスマートフォンで注文後にBBQ会場まで運ばれるわけではなく、ドローンの着地点に取りに行く必要がある。とはいえ、この取り組みが実用化すれば、いけすなどの貯蔵施設を持たない飲食店に新鮮な海産物をすぐに届けられるという大きなメリットが生まれる。

  1. IMG_0226

  2. IMG_0227

  3. IMG_0228

  4. IMG_0231

  5. IMG_0233

  6. IMG_0234

  7. IMG_0235

  8. IMG_0236

  9. IMG_0238

  10. IMG_0239

今回のドローン制御はすべてANAホールディングスが担当。同社は現地での人間の監視が不要の完全自立・自動操縦技術を確立しており、今回の実験は3回目(初回のみ人間の監視付き)。位置制御には基本的にGPSなどを利用しているが、GPSなどでの位置捕捉では数mの誤差が生じる。そのため、着陸地点には専用のマーカーを用意し、このマーカーをドローン内蔵のカメラが認識して誤差50cmのレベルで位置を捕捉する。このマーカーを認識して位置情報を補正する処理を担っているのは、英ラズベリー財団が開発するワンボードマイコンのRaspberry Pi 3。ちなみに、RF-1の建物・インフラ点検モデルであるPF1-Visionには、エヌビディア社のJETSON TX2を搭載しており、PF-1の柔軟性が伺える。今回の実証実験では便宜上、ざうお本店2階に制御ルームが設けられていたが、制御ルームをドローン着地点近くに設置する必要はなく、天神や博多はもちろん、東京からの制御も可能だ。

現在のところ規制や住民の合意が得られるかという問題があるため、ドローンは無人地帯での飛行に限られているが、ANAホールディングスでは将来的に有人地帯での完全自立・自動操縦を進めたいという意向だ。

今回の実証実験ではランニングコストは明らかにされなかった。今回の実証実験を踏まえて2020年の導入を目指すとしているが、完全自立・自動制御が実現できたとしても、30m以内に人が侵入できない離着陸場所の確保、ドローンのバッテリーの取り替え作業、ペイロードの増量など課題は山積している。特に離着陸場所やバッテリーの交換にはどうしても人員が必要となるので、そのぶんのランニングコストをBBQのメニューの価格に転嫁するのは現実的ではない。

建物の屋上など人が立ち入れない場所に離着陸場所を設け、着陸した際に自動的にバッテリーを充電できるシステムなどが考案されないと、本格導入はまだまだ先だと感じた。今回の実証実験の最大高度150mなので飛行に関してはそれほどの騒音にはならないため、都市部であっても近隣住民の理解は得られやすいかもしれない。しかし、看板は電柱などの障害物も多いので着陸地点の詳細なマッピングや万が一の衝突回避機能なども実装する必要があるだろう。

当面は、浜辺やリゾート地など人口や建物が密集していない場所間での輸送が現実的だが、スマートフォンでオーダーした食材がドローンで届くという未来は、すぐそこにある。

千葉大発のドローンスタートアップACSLが未来創生ファンドなどから21億円を資金調達

空撮などで主に使われる一般向けの民生用ドローンでは、安価な中国製の製品が世界的にもシェアを取っているのが現状だ。そうした中で、土木建築現場での点検や測量・測地、物流・宅配といった産業用途に特化した国産ドローンを開発するのが、千葉大学発のドローンスタートアップである自律制御システム研究所(以下ACSL)だ。

そのACSLが1月9日、未来創生ファンドおよびiGlobe Partnersが運営するファンド、みずほキャピタルが運営するファンド、投資家の千葉功太郎氏が運営するDrone Fund東京大学エッジキャピタルが運営するファンドを引受先とする、総額21億2000万円の第三者割当増資の実施を発表した。

ACSLは2013年11月、当時、千葉大学教授だった野波健蔵氏により設立された。研究室で1998年から行われていた独自の制御技術とドローン機体開発・生産技術をベースに、大手企業向けの産業用ドローンに特化して開発を進めてきた。2016年3月には楽天およびUTECから総額7.2億円の資金調達を実施し、共同でゴルフ場での実証実験を行っている。今回の調達で、ACSLの累計資金調達額は約28億円となる。

ACSLが2016年後半にリリースしたドローン「PF1」は、さまざまな用途に対応できるのが特徴。高解像度カメラとジンバルを搭載すれば建物やインフラの点検に、キャッチャーを搭載すれば物流に……といった感じで、農薬散布や測量、災害対策などにも活用できる。

 

2017年前半には、周囲をレーザーでスキャンして周辺環境の3Dマッピングを行う「SLAM」画像処理を実装した、非GPS環境対応ドローン「PF1-Vision」も提供。この機体では、例えばGPS信号の受信できない橋桁下やトンネル、屋内といった環境でも自律飛行でき、施設内壁の撮影による点検作業が可能だ。

また、ドローンを活用して業務改革・無人化を実現したい顧客に対して、最新ドローンとパイロットによる検証環境を提供するサービスも、ACSLでは行っている。本格導入の前に、ドローン導入による効果、有用性の評価検証が実施できる。

ACSLは今回の調達資金について「今後の海外進出によるグローバル環境での競争、技術革新の加速を見据えた、中期的な経営資本の増強」と位置付け。「画像処理やAIによるエッジコンピューティング、自律制御の進化、さらに、目視外や第3者上空飛行を見据えた安全性・信頼性の向上、IoT等最新技術の統合のための開発激化を見通し、中期的な成長戦略の実現を目指す」としている。