Adobe、MAXカンファレンスで画期的な音声合成システム、VoCoをスニーク・プレビュー

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今日(米国時間11/3)、Adobeはサンディエゴで開催中のMAXカンファレンスで開発中のプロジェクト、VoCoのプレビューを公開した。VoCoは音声をテキストと同様に簡単に編集することができる。それも既存の録音された音声を編集できるだけでなく、十分な音声データさえあれば、このシステムはまったく新しい発言を作り出すこともできる。

作動の仕組みは簡単に言えばこうだ。プロジェクトVoCoはまずそれぞれの話者につき20分程度の音声サンプルを必要とする。システムは音声素材を分析し、個々の音素(フォニーム)を抽出して音声モデルを作成する。VoCoのユーザーはこの音素を用いて新しい文章を発生させることができる。現段階では、耳をすませば、どこが編集された部分なのか、違いを聞き取れる。しかし実際の録音と生成された発言(つまりフェイク)との違いが判別できなくなる日も遠くないかもしれない。

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今日のデモは小人数のプレスが対象だったが、Adobeの説明によればVoCoは従来の音声合成システムとはまったく異なるテクノロジーだという。Adobeはこれをvoice conversionと名付けている(したがってVoCoだ)。 注目すべき点は、ユーザーがマニュアルで音声データを細かく修正する必要がほとんどないところだろう。もちろんテキストから自動生成された音声データをさらに自然に聞こえるようにするために手を加えることはできる。しかしたとえば編集のためにタイムスタンプを改めて設定するなどの必要はまったくない。こうしたことはすべてアルゴリズムが自動的にやってくれる。

このデモを見ると当然さまざまな疑問が湧いてくる。たとえば、近い将来、本人が喋ったとしか思われない録音を聞いてもそれが本物であるかどうか確信がもてない事態が訪れるのだろうか? もちろん純然たるテクノロジー上の見地からすればCoVoは画期的なシステムだ。

CoVoが紹介されたのと同じプレス・イベントでAdobeはさらに2種類の編集プロジェクトをデモした。Project Quick Layoutは―名前どおり―印刷物のレイアウトの編集を簡単にする。Project CloverはVR環境中で対象物を編集できるVRツールだった。

これらすべて「スニーク・プレビュー」で、Adobeは将来一般に利用できる商用プロダクトになることを約束しているわけではない。しかしこれまでの例をみると、こうしたブロジェクトの多くはAdobeのプロダクト中に活かされてきた。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

Adobeのデジタルメディア責任者、定期課金、Behance、ハードウェア、違法コピーを語る

今日(米国時間5/7)私はAdobeの上級副社長・デジタルメディア本部長で、Creative Cloudの顔であるDavid Wadhwaniと、今週ロサンゼルスで行われている同社のMAXカンファレンスで話をする機会を得た。Adobeはいくつもの新製品を今週発表したが、中でも最重要かつ影響力の大きい発表は、間違いなく同社のCreative Cloudによる定期課金への移行とCreative Suitesの開発中止だ。この動きに対しては反発も見られるものの、コミュニティーの殆どはこれを受け入れており、それがAdobeの革新を加速しユーザーによりよい製品を届ける一助になるとWadhwaniは信じている。

Creative Cloud

Wadhwaniは会話の中で、同社がCreative Suite 6を「無期限に」販売する計画であることを強調した。彼にとって重要なのは、同社がクリエイティブな進化を続ける方法を見つけることだ。Adobeは「クリエイティブ世界の方向と、これから起きるとAdobeが考える進化」を見極わめる必要があると彼は言う。Adobeの戦略は、この変化のいくつかに影響を与えリードしていくことであり、Creative Cloudはそのための同社の手段だ。今日のクリエイティブのワークフローに欠けているのは、「〈つながり〉の要素だ。現在のクリエイティブ作業は単独で行われることが多すぎる。共同作業者やもっと大きなコミュニティーとつながることは、多くのクリエーターに非常に大きな力を与えるだろう」とWadhwaniは言った。

もしそれがクリエイティブの方向なら、「ツールからサービス、コミュニティーにいたるまで真の統合体験を作ることが、Adobeにとって最良の方法であることは極めて明白だ」と彼は言った。Adobeは最大の価値を付加できる分野にリソースを注ぎたい。その意味でCreative Cloudは同社の進化にとって自然な一歩だと彼は言う。

Creative Cloudに対する初期の反応が肯定的であり、「良好かつ強力な加速的成長」を得ているという事実によって、Adobeは「クリエイティブ・コミュニティー全体がオープンであり、この方向へ進むことに明らかな関心を寄せている」ことを確信した。しかし同時に彼は、誰もが準備万端というわけではなく、浸透するには少々時間のかかる変化であることも認識している。Adobeはこの変更についてユーザーとオープンな会話を持ちたく、今後数週間をかけてメッセージを伝えていく考えだ。今のところMAXでのクリエイティブ・コミュニティーからの反応に、彼は非常に満足している。

Creative Cloudに関してAdobeがあまり公に話していない一面は、この変更によって違法コピーが著く減ることだ。Photoshopや他のクリエイティブツールが手に入りやすくなることは、ユーザーにとって月額の定期利用料を払う方が違法コピーより簡単になることを意味している。さらに彼は、Behance、ストレージ、同期、および同社が販売する多くの新しいツールなどの付加サービスによって、ユーザーはCreative Cloudを定期利用することの価値が単なるツール以上のものであることを理解すると信じている。

彼にとってCreative Cloudへの移行は、ビジネスモデルだけでなく、カルチャーの変化だ。「Adobeのカルチャーは常に、われわれの顧客が創造した作品に感謝することだった」。今後Adobeはユーザーへのリーチ拡大を促進することが願いであり、Behanceがその中心的役割を演じることは明らかだ。このツールはMAXのどの基調講演でも詳しく紹介されなかったが、Wadhwaniは私との会話の中で長い時間をかけてその役割について話してくれた。彼はこれを、Adobeにできることの非常に楽しみな新しい一面だと考えている。

では、デベロッパーは?

しかし、今週のMAXの焦点は明らかにデザイナーとクリエイティブに当てられていて、以前と比べてデベロッパーの話題がずっと少なかった。Wadhwaniはこれについても会話の中で認めた。Adobeは今後もデベロッパーから目をそむけることはないが「焦点を精緻化していく」。Adobeは、UIデザイナー、UIデベロッパーのためのツールに力を入れ、ブラウザー開発者との共同作業も続けていく。大企業デベロッパーのバックエンドツールに関しては、他の選択肢が多いのでAdobeはあまり多くのリーソスを割くつもりがない。

Adobeのハードウェア

もう一つ、MAXで行われた大きな発表は、もちろんAdobeがハードウェア製品の実験を行っていることだ。しかし、いくら聞いてもWadhwaniはAdobeがこれらのプロトタイプを実際の製品にするつもりがあるかどうか言わなかった(私のフィーリングとしては、間違いなくその気だ)。Adobeがハードウェアやりたいのは、現在のツールセットの隙間を埋めることだという。もし他のハードウェアメーカーが同じようなツールを作ったり、共同開発したいというなら歓迎する彼は言った。これはある意味でGoogleがNexus製品で他社のためのリファレンスを作ったアプローチと似ている。今日同社が披露したツールは、iPadなどのタッチ端末をクリエイティブ専門家のための本格的ツールへと変えるものだと彼は信じている。

Adobeは他のハードウェアのアイディアも進めているようで、Wadhwaniは同社のスタイラス、MightyについてAdobeが取り組んでいる先進的イノベーションの先鋒だと説明した。今晩、MAXの閉会イベントで、Adobeは同社のラボで進められている他のプロジェクトをいくつか紹介する予定なので、さらにハードウェアの発表が見られるかもしれない。

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(翻訳:Nob Takahashi)