航空会社がオーバーブッキングする理由―統計専門家に聞いてみた

頻繁に飛行機を利用していれば誰にも経験があると思うが、チケットを片手にゲートにたどり着いたのに席がないという事態に出くわすことがある。A地点からB地点まで飛ぶ飛行機の席の数よりゲートで待っている人数の方が多いのだ。そこで誰しも「飛行機に200席しかないんだったらチケットも200席分だけ売ればいいだろう!」と思う。しかし航空会社がオーバーブッキングすることについてはビジネスの収支上、効率上の理由がある。これは統計データの分析に基づくものだ

アメリカだけでも毎年9億人が空路で移動している。これは控えめに言っても大事業だ。人々が旅行する理由はさまざまだが、ビジネスとレジャーがニ大要因だ。問題は搭乗を予約した乗客の全員がゲートに現れるわけではないという点だ。平均して5%の乗客が現れない。場合によっては15%に跳ね上がる。当然これは航空会社の経営に影響を与える。

ある場合には定員以上の乗客が飛行機に乗ろうとすることがある。通常、乗客は自発的に降機するよう要請される。しかしこれで解決しない場合がある。昨年は4万6000人の乗客が強制的に飛行機から降ろされた。

航空機のチケットには特定の座席を確保する力はない

たとえばニューヨークからサンフランシスコに飛ぶ場合、われわれは通常、特定の便の特定の座席を予約する。しかし法的関係を厳密に言えば、 この予約には特定の座席を確保する力はない。乗客はニューヨークからサンフランシスコへの空路の旅行の権利を買ったことになる。ロンドンからニューヨークに飛んだときに、乗り継ぎ便を逃したとしよう。多くの場合、航空会社は無料で別の便に変えてくれる。交通渋滞で乗り遅れた場合も同様だ。これは「旅行の権利を買った」ことに基づく。

ビジネス旅行者は乗客数ではわずか12%だが売上では60%を占めるので王様だ。その理由は、ビジネス旅行者はなるべく制限の少ないチケットを必要とするため高い料金を払うからだ。フレキシブル(変更可能な)チケットを持っている場合はぎりぎりの時点で予約の変更を申し出ても受け入れられる可能性が高い。ビジネスで飛行機を利用する乗客の場合、会議が長引く、思いがけないビジネスチャンスを発見するといったことが始終起きる。1便遅くしたり早くしたり目的地を変えたりする必要が生じる。このクラスの乗客(ビジネスクラスや正規のフレキシブル・チケットの所有者)は予約した便でほぼ間違いなく飛ぶことができる。

では、チケットを200枚売っても200人がゲートに現れるわけではないという問題はどうしたらよいか?

ひとつは空席のまま飛ぶことだ。しかし航空会社の利益率は1%前後なのでこれは最悪の選択だ。空席を残して飛べば赤字が出る。しかも多くの場合、販売されたチケットは依然としてVALID、つまり有効な状態なのでその乗客がいつどの便を再予約するのかわからない。

乗客がゲートに現れなかった場合

自発的に飛行機から降りた場合、航空会社は500ドルのバウチャーをくれる。つまり後で別のフライトのチケットを購入したときに500ドル分として使えるわけだ。

私は航空会社の統計専門家に話を聞くことができた。TechCrunchのインタビューに答える許可を会社から得ていないというので、ここでは仮にジョージと呼んでおこう。ジョージによれば「空席を放置して飛ぶより〔オーバーブッキングの場合に〕500ドルのバウチャーを払う方がすっと適切だ」という。もし500ドルの現金を払ったのなら会社の口座から500ドルが消えることになる。しかし500ドルのバウチャーの場合、そもそも現金は減らない上に、実は会社の実損は現金500ドルよりはるかに少ない。【略】

オーバーブッキングをコントロール可能にするには?

「旅行というのは統計的にかなりの精度で予測できる。たとえばスーパーボウルがテキサスのヒューストンで開催されるとしよう。すると乗客がゲートに現れる率は急上昇する。スーパーボウルのチケットを持っていたら無駄にしたくないのは明らかだ。そこで飛行機にも実際に搭乗することになる。われわれはその時期にはオーバーブッキング率を下げる。この時期にオーバーブッキングして乗客を飛行機から降ろすと非常に悪いパブリシティになるからだ。航空会社のオーバーブッキングのせいでスーパーボウルを見損なったなどという記事が出るより空席を抱えて飛ぶほうがましだ」とジョージ。

「同様に感謝祭とクリスマスの前後にも乗機率が急上昇する。休暇で実家に行き帰りする季節には予約のキャンセル率は減る。スーパーボウルの場合と同じような事情で航空会社はオーバーブッキングを減らす。こういう時期に飛行機から降ろされた乗客は2度とわれわれの便を利用しないことになりがちだ」。

しかしそれ以外の普通のウィークデイの場合は事情が異なる。乗客はフライトを予約してもさまざまな理由でゲートに現れない。接続便の遅れの場合もあるし、交通渋滞もあるだろう。乗客個人の事情で旅行を延期したり、別のことをしなければならなくなることもある。

「格安チケットはこの問題を解決する一つの方法だ。当初の価格は安い代りに高額のペナルティーを支払わなければ別の便に再予約はできない。その便に乗り損ねたらもう一度チケットを買い直すしかない」。

10億ピースのジグソーパズルを解く

また航空会社はチケットにいくつもの等級を設定している。実はこの等級はその便に乗れないリスクを乗客が選べるようにしてあるのだという。

「乗客がYクラス(ジョージの航空会社ではエコノミークラス)のノンフレックス・チケットを購入したとする。航空会社ではこのチケットの保有者がゲートに現れないリスクを計算できる。われわれは何十年も前からの膨大なフライト・データを持っている。たとえばエコノミー・チケットの保有者が4月11日にサンフランシスコからニューヨーク行き直行便を乗り継ぎなしに予約した場合、という具合だ。これに天気予報その他関連ある要素を加えて処理する。17Aの切符を予約した乗客が無事にその席に座って飛び立てるかどうか、われわれはきわめて確度の高い予測ができる」とジョージは言う。

しかし問題は、オーバーブッキング問題に限らず、統計予測には必ず一定の範囲で誤差がつきものだといいう点だ。

「予測を間違えて空席が出そうな場合はキャンセル待ちの人々を乗せようと試みる。逆の場合、たいていは何百ドルかのバウチャーと引き換えに自発的に飛行機を降りてくれる乗客がいる」

「もちろんチケットのビジネスモデルを変更して予約した全員が必ず座れるようにすることは可能だ。【略】しかしその場合にチケットの価格は非常に高くなる」という。ジョージの説明によれば飛行機のチケットというのは基本的にコモディティーだという。つまり同種の他社の同種商品と交換可能な商品ということだ。チケットに印刷してある航空会社がUAであろうがVirginであろうがAAであろうが、要するに「A地点からB地点への移動」を約束しているに過ぎない。

航空業界というのは恐ろしく利幅が少なく、競争が激烈なビジネスだ。もしジョージの航空会社が予約モデルを変えて、予約者全員が必ず飛べるようにしたとしよう。すぐに飛行機は空席だらけで飛ぶ羽目になる。それどころか廃業ということになるだろう。一部の乗客は座席を確保できるなら20%くらい料金が高くなっても構わないと思っている。…しかしその程度ではまだまだ普及するビジネスモデルとなるには足りないのだという。

画像: Dave and Les Jacobs/Getty Images

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

米規制当局、指定13か国からのフライトで携帯電話より大きい電子機器を禁止

米国規制当局は中東およびアフリカの航空会社各社に対して、近々乗客は携帯電話より大きい電子機器はチェックインしなくてはならなくなると通告した。数多くメディアが報じた。つまり、遠からず対象の航空会社の乗客はノートパソコン、タブレット、Kindle、ポータブルゲーム機などはチェックイン荷物に入れなくてはならなくなる。

この禁止令についてはいまだに情報が錯綜している。例えば、どの国のどの航空会社が対象なのかもはっきりしていない。CNNのJon Ostrowerは、この新たな措置の影響を受ける航空会社は10社以上に上ると報じているが、具体的な会社名は不明だ。

これまでにロイヤル・ヨルダン航空だけがこの件についてツイートしている(しかし後に削除した)。エミレーツ航空などの主要中東航空会社はどこもこのノートパソコン禁止令についてコメントしていない。本誌は対象となりうる航空会社数社に連絡を取っているがまだ返信はない。例えばカタール航空の予約係と話したところ、まったくこの電子機器規制については知らなかった。

アップデートサウディア航空もこの大型電子機器禁止についてツイートした。

運輸保安局(TSA)にも問い合わせたところ、国土安全保障省(DHS)を紹介された。DHSから受け取った声明は以下の通り。「本省は安全保障予防措置の可能性についてはコメントしないが、時期が来れば情報を提供する」。

ロイヤル・ヨルダン航空のツイート(後に削除された)

この禁止令がいつまで有効なのかもわかっていない。初期の報道では禁止期間が96時間かと思われたが、どうやら航空会社が指示に従うまでの猶予期間が96時間らしい。

TSAが発令したとGuardianが報じているこの命令の理由もはっきりしていない。しかし、テロリストの脅威が迫っているとの情報に対する行動である可能性はある。

ほとんどの航空会社が、リチウムイオン電池を電源とするあらゆる機器のチェックインを禁止していることを踏まえると、今回の決定は実に紛らわしい。これらの航空会社を利用する乗客は、対象デバイスをチェックインできるのか、一切持ってはいけないのか、いずれかを意味することになる。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook