スタートアップエコシステムのAWSを目指す、VCとエンジェル投資家がファンドを形成・運営するためのプラットフォーム「Vauban」

Vaubanチーム

AngelList(エンジェルリスト)がなぜヨーロッパでうまくいかないのか、常々少々不思議だった。数年前、恵まれないヨーロッパのスタートアップにとって有効な資金調達の選択肢が不足していた時期があったことを考えるとなおさらだ。しかし理由はごく単純であることは状況を見ればわかる。第1に、米国テック業界は過去10年間に急発展した。自国の市場が上昇している時、リソースを他に分散させる必要はない、そうだろう? もう1つ、ヨーロッパの無数の規制障壁を超えてそんなプラットフォームを作ることは恐ろしく複雑で、かなりの勇者であってもたじろぐだろう。つまり、その手の資金調達プラットフォームの市場が長い間それなりに空き地状態にあったのはそれが理由だ。これまでは。

ロンドンを拠点とする新しいスタートアップVauban(ヴォーバン)は、ベンチャーキャピタルのファンドマネージャーに、資金調達や投資のためのツールを提供する。このほど同社は470万ポンド(約7億2000万円)の「ポストシード / プレ・シリーズA」調達ラウンドを完了した。

Vaubanによると、今後テクノロジーと規制のインフラを強化し、ロンドンの本社に加えてルクセンブルグにもオフィスを新設する計画だ。これでヨーロッパ全体のエコシステムに展開できるようになる。

今回の投資ラウンドを共同リードしたのは、Pentech(ペンテック)とOutward(アウトワード)で、7percent VenturesとMJ Hudsonも参加した。他に、NestedのCEOであるMatt Robinson(マット・ロビンソン)氏、GrabayoのファウンダーWill Neale(ウィル・ニール)氏、ComplyAdvantageのファンダーでCEOのCharles Delingpole(チャールズ・デリンポール)氏、Augmentum FintechのパートナーPerry Blacher(ペリー・ブラッチャー)氏、法務サービスプロバイダーAxiomのAl giles(アル・ガイルズ)氏ら数々のエンジェル投資家も参加した。

Vaubanを使うと、VCやエンジェル投資家は、資金の調達、エンジェル組織の設立、資金調達や投資活動の管理などを行うことができる。ユーザーはファンドやSPV(特別目的事業体)を世界中の審査権限の下で「通常の何分の1かの時間とコスト」で設立、展開することが可能で、組織構成、法的文書、投資家の研修、銀行取引、報告書作成などがカバーされている。

Vaubanは「少なくとも毎日1社新規顧客」を受け入れる計画であり、現在のVCユーザーにはAnthemis、Passion Capital、Octobus Venturesらがいると話した。現在合わせて5000以上のLP(有限責任パートナー)が同社のプラットフォームを使っているという。

ファンダーで共同CEOのRémy Astié(レミィ・アスティエ)氏は次のように語った。「私たちのゴールは資金を持つ人たちと、人類最大の問題を解決するために資金を必要としている人たちとをスムーズに繋ぐことです。そこで、デジタル線路のインフラストラクチャーを再構築するところから始めることに決めました。なぜなら、ゼネラルパートナー、リミテッドパートナー、そしてファウンダーなど業界の全員に優れたユーザー体験を提供することが不可欠だからです」。

Vaubanは、ヨーロッパのテック業界で膨大な投資行動が起きているちょうどその時に登場した。2021年前半にヨーロッパ全体で418億ユーロ(468.6億ドル/5.39兆円)の資金調達があり、2020年の326億ユーロから大幅に増加した。

ベンチャーキャピタルが複数のファンドを管理し、最近では特別目的事業体(SPV)を利用して特殊な取引に参加したり、セカンダリー投資を行ったり、EIS(企業投資スキーム)や主要な基幹ファンドと並行して「サイドカー」ファンドを設定するなどさまざまな活動をしている今、あらゆるプロセスが複雑化しているために、この分野の「プラットフォーム化」が進んでいる。スプレッドシートや類似の簡易ツールで行うことはもはやありえない。

加えて、ヨーロッパのエンジェル投資家の間では、取引形成や取引フローを強化するためにますます専門化と組織が進められているので、専用のプラットフォームが歓迎されるのもうなづける。

ファウンダーで共同CEOのUlric Musset(ウルリック・ムセット)氏はこう語る「新しいスタートアップ形成を促進した最大の功労者といえるのが2000年代初期のAmazon Web Services(AWS、アマゾン・ウェブ・サービス)の登場でした。Vaubanはスタートアップエコシステムに対して同じ影響を与えると私たちは信じています」。

Outward VCの投資家、Andi Kazeroonian(アンディ・カゼルニアン)氏は次のようにコメントした。「近年、代替的投資が急成長しているにもかかわらず、業界が依存しているインフラは進化していません。単に投資手段を作って監視するだけでは、冗長で面倒で金のかかるプロセスが複数のサービスプロバイダーに渡って散らばっているのと同じことです。Vaubanの統合プラットフォームが、プロダクトとユーザー体験に徹底的にこだわることでこれを一新し、その結果並外れた有機的成長を達成し、ヨーロッパでこの分野の傑出したリーダーになったことは驚くにあたりません」。

PentechのパートナーであるCraig Anderson(クレイグ・アンダーソン)氏はこう付け加えた「私たちが投資したいのは、カテゴリーをリードし、成長への大きな野望をもつ会社です。Vaubanは、ユーザーがファンドやSPVをわずか数時間のうちに設定、展開できる代替資産マーケットのための新しいインフラストラクチャーを作っていると、私たちは確信しています」。

Vaubanのファウンダー・共同CEO,アスティ氏は次のように語った。「私たちがAngelList(エンジェル・リスト)と違うのは、国際的、世界的であることを念頭に作っていることです。狙いはグローバルなプラットフォームを作ることで、それは世界中どこのLPS(投資事業有限責任組合)からでも資金を調達できて、世界中どこの企業にも投資できることを意味しています。そして、これは当社の中核となる強みだと考えていますが、すべてを国際的LPを想定して設計しているので、複数の通貨で資金調達することができます。

画像クレジット:Vaubanチーム

原文へ

(文:Mike Butcher、翻訳:Nob Takahashi / facebook

AngelListが初心にかえり、平凡だが難解な企業立ち上げプロセスの一部を単純化する創業者向けサービスを強化

AngelList(エンジェルリスト)は、新しいプロダクトスイーツ「AngelList Stack(エンジェルリスト・スタック)」を公開した。ファウンダーが会社を立ち上げ、運営し、自分たちの会社の所有を維持するためのサービスを提供するもので、Carta(カータ)と競合する。新ソフトウェアは4つの要素を扱う。エンド・ツー・エンド・インコーポレーション(会社設立の始めから終わりまで)、ビジネス・バンキング、アドバイザーへの株式提供、およびキャップテーブル(資本政策表)管理だ。

「会社を立ち上げる人は誰でも、まず楽観的に始めます」とAngelList CEOのAvlok Kohli(アブロック・コーリ)氏はいう。「自分にはこのアイデアがある、自分には絶対的自信がある、どうしてもそれもやりたい。そしてそこには、何とかしなくてはならない現実的な作業がたくさんあります」。

AngelList Stackのアイデアは、それらの平凡かつ難解な企業立ち上げプロセスの一部を単純化しようとするものだ、とAngelListに参加するまでに連続起業家だったコーリ氏は語る。

エンド・ツー・エンド・インコーポレーションサービスは、会社設立に必要なペーパーワークを、どの州で法人化するかを決めることから、達成しようとする事業区分まで細かく支援する。さらに、ファウンダーが83(b)申請を管理、提出するのも手助けする。これは株式を保有する企業にとっては細かいことだが重要な書類で、正しく行わないと数百万ドル(数億円)の追徴課税を払うことになりかねない。

ファウンダーにわかりやすいUX(ユーザー体験)を提供することで、AngelListは正式な会社立ち上げにおいて弁護士に相談する以上のものを提供したいとコーリ氏は考えている。

「弁護士は概して、法人化をファウンダーとの関係を構築し、将来一緒に仕事をするための客寄せ、あるいはペーパーワークを簡単にするだけの仕事だと思っています」とコーリ氏はいう。「しかし、そこで終わってしまいます」。AngelListはそうではなく、そこでファウンダーを次のツールへと案内する。バンキングサービスだ。

バンキングツールには2種類ある。利息が付く預金口座とデビットカードだ。どちらもファウンダーが投資家からの電信送金を受け取るのを容易にし、その情報はAngelListの新しいキャップテーブルツールに取り込まれる。キャップテーブル・ツールはデジタル株式、SAFE(将来のエクイティに関する簡易同意書)の発行、409Aの報告、従業員オプションの授与などを行う。

画像クレジット:AngelList

「ファウンダーは最初のSAFEラウンドを、投資家にリンクを送ってデジタル署名をもらうことで、すべてStack上で行うことができます」と同社は声明で語った。「資金が銀行口座に届いたら、自動的にキャップテーブルに追加されます」。

Cartaのフルバージョン

AngelList Stackには、Carta(旧称eShares)との類似点がある。AngelListがエンジェル投資家とベンチャーに焦点を当ててスタートしたのに対して、Cartaは従業員とファウンダーをターゲットにして登場した。時間が経つにつれ、両社ともにスケーリングを追求し、Cartaはキャップテーブルの分野を支配し、AngelListはシンジケート投資と資金運用を引き受けた。両社が成長するにつれ、ベンチャーとスタートアップのためのエンド・ツー・エンド・スタックになるというビジョンはオーバーラップしている。

AngelListは、Cartaと比べて小さな組織で、Crunchbase(クランチベース)によると、これまでに獲得した資金は2620万ドル(約29億3000万円)にすぎない。資金調達する能力は必ずしも会社が成功する能力を表さないが、顧客(他のスタートアップ)がボラティリティに直面した時のランウェイ(会社が存続できる猶予期間)を会社に与える。両社とも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの早い時期にレイオフを経験した。それ以来変わったことの指標として、AngelListはプロダクト・ロードマップに遅れないために、95名のスタッフをこの1年間で2倍近くに増やしたと語った。Cartaは最近自社ツールを使って自身のキャップテーブル管理と評価サービスを74億ドル(約8284億3000万円)と評価した。

関連記事:販売や顧客担当が新型コロナの影響で最も解雇されている

画像クレジット:AngelList

「ファウンダー固有のさまざまな問題を解決することに関して、固有の解決法の実験が数多く行われています」とコーリ氏が競合他社を指して語った。「ファウンダーは常に1つにまとまることを好む、というのが私たちの見方です」。

開始時点でAngelList Stackのサービスは無料だが、将来AngelListは、SaaS管理手数料、あるいは同社の財務ツールの手数料を通じて収益化するつもりだ。

まずネットワーク、次にプラットフォーム

プラットフォーム事業はAngelListにとって新しいものではない。2020年、同スタートアップはローリングファンドを開拓した。関心を持つ投資家から四半期サブスクリプションを通じて資金を調達する投資ツールだ。同サービスの初期の勢いは、同社がベンチャーSaaSにより広く、より深く焦点を合わせるべくピボットするきっかけになった。

AngelListはファウンダーに関しても同じような戦略を追求している。ファウンダーがキャップテーブルに1行記載するだけで250の認定投資家から資金調達ができるロールアップツールの先駆者となり、現在多くのサービスへと拡張している。言い換えると、AngelListはベンチャーをバラバラにしてファウンダーサービスをまとめ直しているように見える。

「私たちは2つの事業をまったく異なるやり方で構築しています」とコーリ氏はいう。ファウンダー向けプロダクトはワークフローソフトウェアにより焦点を合わせ、投資家向けのメインプロダクトはワークフローソフトウェアと資本配分に焦点を絞っている、と同氏は説明した。

資金提供者とファウンダーをつなぐことはAngelListが追求すべき自然なシナジーのように感じられるかもしれないが、同社はHum Capital(ハム・キャピタル)やClearCo(クリアコ)のような資金調達マーケットプレイスになるつもりはないとコーリ氏は説明した。

「この市場はかなり効率的だというのが私たちの見方であり、現在起きているものよりずっと良い体験を提供することはできません」と彼はいう。皮肉なことにこの発言は、エンジェル投資家と起業家を結びつけるというAngelListの当初目標からは一歩離れている。サポートSaaSツールへのピボットが進むにつれ、AngelListは10年前、いや5年前と比べても大きく異る会社になっている。

かつてコーリ氏は、AngelListの強みは資金ネットワークだと説明していた。この度の発表は、AngelListを資金とクリエイターのネットワークにしようとする大きな動きを感じさせる。創業10年の同社は再ブランド化を行った。AngelList.comは最近、ブランドを変えてAngelList Venture(エンジェルリスト・ベンチャー)とローリングファンドだけを扱うようになった。Talent(タレント)とProduct Hunt(プロダクトハント)というAngelListの他のサービスは別のウェブサイトに移動し、独立組織として事業を継続している。

画像クレジット:melitas / Getty Images

原文へ

(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Nob Takahashi / facebook

竹製の寝具とパジャマのD2Cスタートアップettitudeが約1.7億7円を調達

米国ロサンゼルスを拠点とするD2Cスタートアップで、竹の繊維を使ったサステナブルな寝具とパジャマを製造しているettitudeは、景気後退の中にもかかわらず会社を運営していくのに十分な資金を調達した。

ettitudeは、オーストラリア・メルボルン出身のPhobe Yu(フィービ・ユー)氏と連続起業家のKat Dey(カット・ディ)氏が共同で創業した企業だ。同社が販売する高級竹製寝具は、ユー氏がかつて中国内で織物を調達するチェーンストアを、輸出業者として手伝っていた際に初めて知った手法を使って作られている。

ユー氏によれば、上海の近くにある中国浙江省の工場から調達される竹織物は、無害な溶剤と工程に水を再利用する循環システムを使用して作られているという。同氏は、当初メルボルンでettitudeの名の下に、cleanBambooブランドの寝具を販売していた。だが米国からの注文が増え始めたのを見て、彼女は会社ごと移転を決意した。

米国にやってきたユー氏は、米国の大規模な市場の案内役として、ブランディングの経験豊かな共同創業者を必要としていた。そこでユー氏はAngelListの中を探してディ氏と出会ったのだ。ディ氏は小売業界での経歴を持つ連続起業家で、その最初の会社であるTryTheWorldは2017年にEarthBoxに買収されている。ディ氏は次のプロジェクトを探していたところだった。

「フィービは私にサンプルを送ってくれました、その夜私は人生最高の睡眠を体験できました」とディ氏は言う。そして2人の共同創業者は、彼らのビジネスの長くて辛いマーケティングを開始した。彼女らによれば売上高は伸びており、Drumbeat Venturesとヨーロッパの女性が設立した技術革新に焦点を当てたファンドであるTA Venturesからの資本注入によって、同社のチャンスは確実に向上しているという。

調達された160万ドル(約1億7000万円)は、寝具以外にも拡大しようとしている同社のセールスとマーケティングに使われる予定だ。現在寝具であるクイーンサイズのシーツセットの平均価格は178ドル(約1万9000円)だが、それに加えて寝間着やその他の商品にも広げていく予定である。

「フィービ、カット、そして彼らのブランドettitudeの組み合わせは、私がこの20年間に市場で見てきたものの中でも、情熱、目的、そして素晴らしい製品の、とりわけ本物の組み合わせなのです」と声明で語るのは、Drumbeat Venturesの創業者であるAdam Burgoon(アダム・バーガン)氏だ。「彼らはサステナビリティと快適さという使命を、より多くの人に届けられる完璧な位置にいるのです」。

画像クレジット: Ettitude

原文へ]

(翻訳:sako)