スマホ向けゲームメディア運営のAppBroadCast、KDDIグループのmediba傘下に

右からmediba執行役員の小野村嘉人氏、AppBroadCast代表取締役社長の小原聖誉氏、AppBroadCast執行役員の中村啓次郎氏

右からmediba執行役員の小野村嘉人氏、AppBroadCast代表取締役社長の小原聖誉氏、AppBroadCast執行役員の中村啓次郎氏

KDDI子会社で広告事業を中心に展開するmedibaは4月8日、スマートフォンゲーム向けメディア「ゲームギフト」を展開するAppBroadCastの株式を取得。連結子会社化したことを明らかにした。株式の取得数や割合については非公開だが、関係者によるとバリュエーション(評価額)は十数億円になるという。

AppBroadCastは2013年1月の設立。当初はAndroid向けのアプリとしてゲームギフトを展開していた。ゲームギフトはアプリストアで人気のゲームのアイテムの提供のほか、ゲームのニュースや攻略記事、レビューといったコンテンツを配信。現在ではベータテストサービス「サキプレ」、事前予約サービス「ハヤトク」、ゲーム会社公認のコミュニティ「ファンページ」といったサービスも提供している。Androidアプリは410万ダウンロード、これに加えてiOS向けのウェブサービスも提供している。

同社はスマホゲームのユーザーの消費者行動について「PIPAS」というキーワードを掲げている。それぞれP=Pre、I=Install、P=Play、A=Action、S=Sleepの頭文字を取っているのだが、事前予約からユーザーが休眠するまでの行動にあわせて、それぞれ最適なマーケティングソリューションを提供してきた。

実はAppBroadCastとKDDIグループ、両者は以前からは様々なかたちで関わりを持っていたのだそうだ。AppBroadCastは2014年1月にKDDIとグローバル・ブレインが手掛けるベンチャーファンド「KDDI Open Innovation Fund」などを引受先とした資金調達を実施。これと前後してKDDIと業務提携も行っている。また現:Supershipが手がけるモバイルポータル「Syn.」のアライアンスにも参画している。KDDIとの業務提携においては、medibaとも頻繁にやりとりをしている関係性があった。

KDDIグループではすでに定額制のコンテンツサービス「auスマートパス」上でゲームコーナーの「auゲーム」を展開している。auスマートパスのユーザー数は現在1300万人以上。このauユーザー向けに限定したゲーム関連サービス、そしてゲームギフトで培ってきた広くモバイルユーザー向けのゲームサービス、いわば「内」と「外」向けのゲームメディアについて、medibaとAppBroadCastが一体的な運営を進めていく。

「もともとフィーチャーフォンの時代から、広告やポータルに関わってきた。だが今は『メディア』と『広告』を分けるのではなく、一体にしてコミュニケーションやビジネスを考えていく必要がある。また、ユーザーのスマートフォンリテラシーは上がってきている。さまざまなメディアやサービスが出てきている中で、ただ単純に広告を売るだけでは先行きが見えてしまう。ただバナーを出すのではいけない。メディアとして、コンテンツして魅力がないと広告も成り立たない」

今回の子会社化の背景についてこう語ったのは、mediba執行役員の小野村嘉人氏。KDDIグループでのメディア系スタートアップの買収についても、「大きい構想としては(可能性は)ある」(小野村氏)とした。

両者による新事業や具体的な施策についてはこれから発表されることになる。その方向性については「ユーザーが継続してプレイするゲームはせいぜい4タイトル程度。そうなるとゲームの継続率が大事になってくる。それは顧客満足度に繋がる話で、これからの(ゲームメーカーの)課題はそこにある。そうであれば、顧客満足度向上のための手段をmedibaのノウハウもあわせて提供していく」(ゲームギフト代表取締役社長の小原聖誉氏)

将来的にはアジアを中心にしたゲームギフトの海外展開なども想定されるという。「我々はゲーム会社を応援したいという気持ちで起業した。今までアイテムのギフトやベータテストなどをやってきている。国によってゲームマーケターの課題は違う。そこに合わせて提供できるモノはあるはず」(小原氏)

コアゲーマーを囲い込み、DeployGateの事前テストでスマホゲームを最適化する「サキプレ」

スマホゲームは今や、資本力がモノを言う時代。1本あたりの開発費は億単位にまで高騰し、集客のためのプロモーション費も欠かせない。投じた金額や時間を考えると、“絶対に負けられない戦い”が、スマホゲームにもあるのだ。

そこで重視されているのが、ヒット作の前提条件とも言える「初動」を後押しする施策。最近では、メールアドレスを登録することで、新作ゲーム情報が得られる“事前登録”がトレンドに。ゲーム会社としては、予約特典を付けることでユーザー獲得が見込める。

その事前登録よりも前段階に注目したのが、スマホゲームのテストマーケティングサービス「サキプレ」だ。コアなゲーマーに事前テストしてもらい、正式リリース前にゲームの最適化を図れる。いわば、ヒット作を生み出すための最終調整作業を行うサービスだ。

スマホゲームの無料アイテムや攻略情報を配信するアプリ「ゲームギフト」や事前予約サービス「ハヤトク」を手がけるAppBroadCastと、スマホアプリのテスト配信サービス「DeployGate」のデプロイゲートが共同で4月にスタートする。

アプリストアの低評価対策

ゲームギフト経由でテスターを募集し、プロダクトとプロモーションの両面でテストマーケティングを実施する。ゲーム提供者は、事前にユーザーから評価してもらうことで、レビューに書かれそうなネガティブコメントを把握。リリース後にアプリストアで低評価がつかないように対策が取れる。

プロモーション面では、アンケート結果からキャッチコピーやメインビジュアルで使うキャラの選定、訴求ポイントを判断できるのが特徴。アプリストアで使うべきタイトルや説明文、キーワードもわかってくるので、ASO(アプリストア最適化)につながるのだという。

テスト環境は、公開前のベータ版アプリを配信できるDeployGate上で実施。ユーザーのログやクラッシュレポートを収集したり、アップデートしたアプリを随時テストしてもらえる。

テストユーザーのメリットは、気になるゲームをいち早く体験できること。ゲーム会社としては、新作タイトルへの愛着を深めてもらうことで、リリースと同時に好意的なレビューや評点を獲得することが見込めるのだと、AppBroadCastの小原聖誉社長は話す。

スマホゲームの成否は初動が分ける

AppBroadCastの調査によれば、Google Playではリリース初月に売上TOP100に入らなかったタイトルのうち、2カ月目以降で売上100位に入る率はわずか1%。つまり、初動がヒット作の条件になっていることが伺える。

小原氏によれば、Google Playの新着ランキング上位に掲載されことで見込めるダウンロード数は1日約1万件。リリース2カ月目には新着ランキングから除外されることから、「リリース直後に新着ランキング上位に入り、売上TOP100に食い込むのが鉄板マーケティングとなっている」。

熱量の高いゲーマをファン化

公開前のアプリをテストするサービスとしては、Google Playのベータ版配布機能があるが、ユーザーは自前で集客する必要があったり、取得できるデータはサークル内でのコメントのみ、といった制限もある。

サキプレは、ゲームギフトを通じてコアなゲーマーに告知できるのが利点。熱量の高いゲーマーにファンになってもらえる可能性もあるので、「テスト」というより「マーケティング」の側面が大きいかもしれない。ただし、課金テストはGoogle Playのベータ版配布でしか行えないので、併用するケースもありそうだ。

ゲーム会社はAPKファイルのダウンロード数に応じて料金を払う。金額の目安は「アドネットワークで獲得できるCPIと同程度」(小原氏)で、年内に約30社の導入を見込んでいる。AppBroadCastは、事前予約サービスのハヤトクに続く、収益の柱としたい考え。一方、ミクシィから3月にスピンアウトしたばかりのデプロイゲートの藤﨑友樹社長は、「サキプレを通じてゲーム会社にリーチできるようになったのが大きい」と、今回の提携の意義を話している。

AppBroadCastの小原聖誉社長(左)とデプロイゲートの藤﨑友樹社長