障がい者向け脳モニタリングヘッドセットを開発するCognixion、Alexaと統合しスマートデバイスのハブにもなる

身体障がい者向けの直感的な脳モニタリングヘッドセットとインターフェースを設計しているスタートアップCognixionが、アクセシビリティの向上を追求するため、1200万ドル(約13億8000万円)のAラウンドを実施した。今回の資金調達により、同社は医療機器や支援機器が広く普及するために必要な長い要件を満たすことができるはずだ。

5月に詳しく紹介したように、同社は脳波を検査して脳の活動パターンを見つける。そしてそれがカーソルをコントロールして、画面上を行き来するための完全なインターフェースを構成する。現在の対象機器はiPhoneとそのディスプレイだが、そこからさらにスピーカーやアクセシビリティデバイスに信号を送り、単一のUIで必要なことはすべてできる。

その基盤となっているのは、新しいタイプの(人体に傷を付けない)電極と、ヘッドセットに埋め込まれた電極から発生する信号をすばやく解釈する機械学習システムだ。脳波は有用ではあるが一般的には遅くてノイズが多いが、Cognixionのアプローチだと、脳を使って最新のUIを確実にナビゲートできるほど、迅速で比較的正確なものとなる。

この脳波によるUIコントロールシステムは、ジョイスティックや視線追跡デバイスといった従来から存在するアクセシビリティの手法が使えない人にも向いている。そんな状態の人のための選択肢はほとんどなく、あっても遅くて面倒なものばかりだ。

ステルス状態を脱してから以降のCognixionは、支援デバイスを市場に出すための、さまざまな困難な仕事に追われていた。アーリーアダプターたちによるパイロットテストは何度か行ったが、保険やメディケイドなどの対象になるためには、もっといろいろなことが必要だった。また支援者にとっても、使いやすく、人にすすめたくなるものでなければならない。

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CEOで共同創業者のAndreas Forsland(アンドレアス・フォースランド)氏によると「最近では臨床と規制という2つの方面で仕事が多く、最適化と効率アップが重要でした。開発に参加してくれたユーザーや医療関係者や支援要員は150名近くに達し、彼らを顧問としてとても充実したフィードバックが得られた。ハードウェアの改良は何度もやったのsで、そろそろ最終設計に近いといえるでしょう。今後は、ユーザーインターフェースと言語システムで細かい改良がたくさん必要になりそうです」という。

2つの新しい機能にも取り組んでいる。1つは、予測的発話認識のアルゴリズムで、ユーザーの断片的な発話から完全な文を構成し、そのニーズに対応すること。もう1つは、Amazon Alexaとの直接的な統合だ。CognixionはAmazonと強力して、ヘッドセットに強化された真のスマートデバイスのハブを統合した。直接的な統合であるため、ヘッドセットからの脳波信号が言語に翻訳されてAlexaへ入力されるというわけではない。

画像クレジット:Cognixion

「この工程のサポートに関して、Amazon Alexaのチームにすごく感謝している。また企業としてのAmazonがこのような例外的な開発努力を認めてくれたことにも、深く感謝したい。重要なのは、そのコンテキストだ。現在、ホームオートメーションのシステムやツールはたくさんあるが、それらとのコミュニケーションを補助したり、それらに直接インターフェースする支援技術はほとんど存在しない。そのためAmazonの尽力は、アクセシビリティ業界にとって最初の大きな第1歩であり、ユニバーサルデザインにとっても初めてのことです」とフォースランド氏は語る。

1200万ドルのラウンドはPrime Movers Labが主導し、Northwell Health、Amazon Alexa Fund、Volta Circleが参加した。

Prime Movers LabのゼネラルパートナーであるAmy Kruse(エイミー・クルーゼ)氏は同社のプレスリリースで次のように述べている。「Cognixion ONEは、まだ存在していなければ、SFの世界のものだと思うでしょう。私たちは、脳性麻痺、脳幹の脳卒中、ALSをはじめとする言語障がいや運動障がいを抱えて生きるあらゆる年齢層の人々を支援するために、AIソフトウェアプラットフォームとハードウェアを融合させた、根本的に人生を変える不可欠なものになると信じています」。

ONEのヘッドセットが購入できるようになるまでには、まだ少し時間がかかりだが、フォースランド氏によると、ほぼすべての研究大学と提携しているリセラーとディストリビューターをすでに確保しているという。この革新的なアクセシビリティへの取り組みは順調に進んでおり、近い将来、必要とする人の頭に届いて欲しい。

画像クレジット:Cognixion

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)

米FDAが脳血管内手術で利用されるステントを応用した脳コンピューター接続デバイス「Stentrode」の臨床試験を許可

米食品医薬品局が脳梗塞の治療などに利用されるステントを応用した脳コンピューター接続デバイス「Stentrode」の臨床試験を許可

Synchron

米食品医薬品局(FDA)が、埋込型の脳コンピューターインターフェース(BCI)の臨床試験に許可を出しました。

この脳コンピューターインターフェース”Stentrode”を開発するSynchron社は、今年後半にもニューヨークにあるマウントサイナイ病院で6人の被験者を対象として、早期実現可能性を確かめる試験をに開始する予定です。なお、Synchronは「重度の麻痺を持つ患者に対する安全性と有効性」を評価するとのこと。

脳コンピューターインターフェースというワードを見れば、Engadget読者の方々ならあのイーロン・マスクが設立したNeuralinkはどうしたと思うかもしれません。

Neuralinkは2020年に脳埋込デバイスLinkを発表し、今年春にはそれを埋め込んだサルがゲームをプレイする様子を動画で公開するなど、技術開発が着々と進んでいることをアピールしていました。

しかしBCIのような人体に作用する器具を米国で販売するには、FDAに対して機能と安全性を示し、認可を得なければなりません。米国で先に臨床試験にたどり着いたのはNeuralinkではなくSynchronでした。

Synchronはオーストラリアにおいては、米国に先駆けてStentrodeの臨床試験をすでに始めています。こちらでは4人の患者にこのデバイスをインプラントしており、「脳の運動野から電極を通じてデータを転送し、デジタル機器を制御する」ことができるのを確認しています。

そしてJournal of NeuroInterventional Surgery誌への報告によると、被験者のうち2人はStentrodeの機能を通じた体外への脳インパルスの伝達によって頭で考えるだけでコンピューターを操作し、テキストメッセージを送ったり、オンラインバンキングやネット通販で買い物をしたり、仕事関連のタスクをこなしたりできるようになったとのこと。

ちなみに、Stentrodeのインプラントには約2時間かかる手術をする必要があります。この手術は低侵襲ながら、デバイスを首にある血管に挿し入れ、そこから脳内にまで移動させると言う手順が必要です(脳動脈瘤の治療など脳血管内手術に用いられている網目状のチューブ「ステント」を応用しており、頭蓋骨を開く開頭手術に対して患者の肉体的な負担が比較的小さい)。

Synchronは、3~5年でStentrodeが医療現場で広く利用できるようになるだろうと述べています。

米食品医薬品局が脳梗塞の治療などに利用されるステントを応用した脳コンピューター接続デバイス「Stentrode」の臨床試験を許可

Synchron

米食品医薬品局が脳梗塞の治療などに利用されるステントを応用した脳コンピューター接続デバイス「Stentrode」の臨床試験を許可

Synchron

(Source:SynchronEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:ヘルステック
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