米名門VCの共同創業者・ベン・ホロウィッツがWeWorkやUber、企業文化について語る

シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタル、Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)の共同創業者である ベン・ホロウィッツ氏の新しい本が来週に出る。同氏は著書「What You Do is Who You Are」(やってきたことがその人自身)で企業文化とその作り方について語っている。

言い古された言葉だが、その意味を捉え常に実行するとなると非常に難しい。ホロウィッツ氏はこのことをCEOとして直接体験してきた。同氏は前著「HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか」に欠けていたのが企業文化に関する分析だったことに気づき、フォローアップを書くことにしたという。自身の経験に加えて他の経営者や組織のリーダーの行動、体験を詳しく観察して取り入れている。ハイチ独立の父で史上初めて黒人による共和国を作ったトゥーサン・ルベルチュールからモンゴル帝国の基礎を築いたチンギス・ハーン、殺人罪で有罪となり20年近く服役した後、著作家、大学講師となり人間の更生の可能性を説くシャカ・センゴアまで幅広く取り上げている。

これらの人々のストーリーは大いに参考になるし、歴史ファンなら特にそうだろう。我々は先日のTechCrunch取材のDisrupt SFイベントにホロウィッツを招き、本書について話を聞くことができた。またこれに関連して最も注目され、社会的にも大きな影響を与えているスタートアップであるUberとWeWorkについても尋ねた。

以下の抜粋は簡明化のために若干編集してある。

TC:あなたの企業文化に関する本が出たとき、ちょうどWeWorkの企業文化について多くの疑問が質問が出された。いったいどういうことが起きたのだろう?

BH:(WeWorkの共同創業者である)アダム・ニューマン氏には、確かにある種の文化があった。同時に彼の人格には大きな穴が空いていた。能力も桁外れだったが欠陥も桁外れだった。こういうことは時折起きる。ある部分で非常に優れていると、自分は必要なものがすべて手に入る人間だと錯覚しやすい。ところが実際は別の部分で非常に無能なのだ。

アダムは驚くべき才能がある。あれだけの巨額を資金を集める力があったことを考えてみるといい。未来に対する素晴らしいビジョンを持っていた。人々がそれを信じたからこそ資金も優秀な人材も集まった。しかしそこまでオプティミスティックな場合、周囲に本当のことを言ってくれる人間、悪いニュースであっても告げてくれる人間を置く企業文化が必須となる。たとえば資金が流出して手がつけられないなどだ。

TC:Uberの創業者で元CEOのトラビス・カラニック氏についても企業文化が非難されていた。これに対してWeWorkのアダム・ニューマン氏は非常にオープンは会社運営をしていた。彼がどういう人間であるかは誰もが知っていたと思うが。

BH:実のところ、トラビスがどのように会社を運営していたかは誰もが知っていた。シリコンバレーでは誰もが知っていたし、もちろん取締役会のメンバーはなおさらだ。企業文化は公開されていた。この記事を読むといいが、当時のUberの企業文化が詳しく説明されている。

トラビスは非常に説得力ある企業文化を創造し、その価値を確信していたし、文章を公開していた。しかし見逃しているものがあり、その結果は誰もが知るとおり(の失脚)だった。つまりトラビスの欠点に対する世間の圧力が耐え難くなってきたと取締役会が判断したわけだ。

TC:こうした例から得られる教訓は?

BH:我々はLyftに(6000万ドルを)投資しているので当然ライバルのUberについてもよく知っている。あれは非常に微妙な問題だった。いってみればトラビスは非常にすぐれたアプリだったが隠れたバグがあった。

トラビスが(社員の)悪い行動を奨励したように報じられがちだ。そんなことは決してなかったと私は見ている。彼に問題があっとすれば、倫理性、合法性は競争に勝つことより決定的に重要だということを周知させることに失敗した点だ。その結果、とにかくUberのような会社では機能は広く分散するので、その一部では人々が暴走することになったのだと思う。

しかもトラビスのおかげで関係者はみな大金を稼いだ。Uberはとてつもない急成長を続けていたから、私のみるところ取締役会も「これだけ儲かっているなら多少のことをとやかく言うまい」という気持ちになっていたのだろう。

最後に誰も責任を取らなかったのは不公平というしかない。 トラビスに落ち度はあった。しかし彼を責めるなら、見て見ぬふりをした人間にも責任はある。ごく控え目に言ってもそうだと私は思う。

いかにして企業文化を確立すべきかという本を私が書いた理由は、スタートアップを立ち上げたCEOにしてみたら、企業文化なんて小さい問題だと思えるかもしれない。しかしやがて大問題に発展するのだ。倫理問題というのはセキュリティ問題に似たところがある。あまりにも本質的な問題なので実際に問題が起きるまでは問題だと気づかない。

TC:なぜこの問題に興味を持つようになったのか?

BH:いくつかあるが、第一にこれが CEOとして体験した中で最も困難で解決にいちばん時間がかかる問題だったからだ。 なるほど誰もがこれは重要だと助言してくれた。「ベン、企業文化に注意しろよ。これがカギになるぞ」というので「オーケー、じゃどうしたらいい?」と尋ねると「ああ、そうだな、会議で検討したらいいんじゃないか?」といった話になって要領を得ない。誰も問題の本質はどこにあり、具体的に何をすればいいか教えてくれない。それなら、ここに私の知識の穴があるのだろうと考えるようになった。

もう1つ、今何をしていようと文化を作ること以上に重要なことはない。 社員たちに常々言っているのだが、10年後、20年後、30年後に振り返ったときに個々の取引で勝ったとか負けたとか、どれだけ儲けたとか覚えている人はいない。覚えているのは、ここで働いていたときの気分、我々とビジネスをしたときの気持ちや印象、我々が周囲に与えた影響だ。つまりそれが企業文化であり、誰もここから逃げることはできない。これはどんな企業にも当てはまることだと思う。

加えて、シリコンバレーの企業は非常に急速に成長し強力になってきたのでこの文化について厳しい批判が出ている。一部はもっともだ。しかし解決策の提案となると、はっきり言って奇妙なものが多い。そこで単に批判や非難をするのではなく、具体的どうすればいいのかまとめてみる必要があると感じるようになった。

TC:先ほどUberの話が出たが、こうした急成長企業の多くは高度に分散的な環境であることが多い。本書ではこうしたリモートワークの場合ついてあまり触れられていないように感じる。広く分散した職場で働く社員についてはどのように考えているだろうか?

BH:確かにこの本ではリモートワークについては触れていないが、もちろん非常に重要な分野だ。ただその環境を支えるテクノロジーが急激に発達しており、リモートワークは進化中だ。以前はコミュニケーションその他のシステムが不十分だったためにエンジニアリングを中心とする組織がリモートワークで機能を発揮するのはほぼ不可能だった。だからMicrosoft(マイクロソフト)は(本社が所在する)レドモンドに移転できるスタートアップだけを買収していた。

しかし最近はSlackやTandemなどがのサービスが普及し、環境は大きく改善されている。企業文化を作ることもこうしたツールの発達によってリモート化可能だろう。ただ、ミーティングで顔を合わせたり廊下でつかまえたりした社員に直接に企業文化を普及させるのに比べて、電子メディアを通じて文化の伝達を図るのはかなり難しいだろう。

実際、最近もメールでいろいろやったし、電子的ツールにはもちろん文化的価値がある。私は起業家をあれこれ批判したくはない。そのアイディアがばかばかしく見えようと問題ではない。起業家はゼロから何かを作ろうとしている。夢に賭けているわけだ。だから我々は彼らをサポートする。以上だ。

(Benchmarkの著名ベンチャーキャピタリストである)ビル・ガーリー氏ばりにTwitterに「あんなクソ会社、1ドルだって儲けていないじゃないか」などと書き込むと誰もが読むことになり会社をクビになるだろう。我々のポッドキャストにはニュース部門があるが「WeWorkの失敗の教訓」といった安易な話はしたくない。そんなことは他の連中がやればいい。企業文化的の問題で教訓などを書きたい人間はいくらでもいる。

つまりリモートで企業文化を構築しようとすることは可能だが、慎重にやる必要がある。また誰がそれを読むのか考えなければならない。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

ベン・ホロウィッツがDisrupt SFに登場する

HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうかThe Hard Thing About Hard Things〕が出版されてから4年になる。われわれTechCrunchの編集部を含め、多くの読者にとってこの本は今でももっとも権威がありもっとも率直に書かれたビジネス書の一冊となっている。これほど役立つ経営書は他に例を見ない。そこでAndreessen Horowitzの共同ファウンダーであり、この本の著者であるベン・ホロウィッツが9月のTechCrunch Disruptに登場することが決まったことを発表できるのはたいへん嬉しい。

他のベンチャーキャピタリストが書いた類書に比べて、われわれがホロウィッツの会社経営に関するアドバイスを真剣に受け止める理由はどこにあるのだろう? 簡単にいえば、ホロウィッツの現実の経営経験だろう。この本ではその体験が率直に語られている。たとえばホロウィッツはクラウドビジネスのパイオニアであるOpsware(元LoudCloud)の共同ファウンダー、CEOであり、2007年には同社をヒューレット・パッカードに16億ドルで売却することに成功している。しかしそれまでにホロウィッツは何度も窮状を詳しく報じられてきた。ドットコム・バブルの破裂で最大の顧客が倒産するなど、Opswareは一度ならず危機に襲われている。

Netscape Communicationsはマーク・アンドリーセンが創立した後、わずか16ヶ月で上場を果たした。ホロウィッツはそこでいくつかの事業部の責任者を務めた。エキサイティングな経験だったが、ホロウィッツはここでも若きアンドリーセンとの間で緊張した関係があったことを率直に書いている。ホロウィッツらが準備していた株式上場にについてアンドリーセンがメディアに情報を漏らしすぎると不満を述べたところ、アンドリーセンから「この次はお前が取材を受けてみろ、バカ野郎」という意味の答えが返ってきた。

今となってはユーモラスなエピソードだが、当時ホロウィッツは(すでに結婚して3人の子供がいた)は真剣に新しい職を探さねばならないと考えたという。

ホロウィッツの本の魅力は著者が実際に体験したことを書いている点にある。彼は自分が何を言っているか熟知している。 決してものごとをオブラートに包んだりしない。しかし多くの経営コンサルタントや彼らの本は抽象的、理論的すぎる。どうともとれるあいまいな表現も多い。ホロウィッツは本質をずばりと突く。CEOにとって困難なのは社員の降格や解雇、昇給の時期やタイミグなどの問題であり、往々にしてここで失敗するという。起業家が必ず学ばねばならない重要なコンセプトは、なにごとを決定するのでもきわめて広い視点を持たねばならないという点だとホロウィッツはアドバイスする。つまりその決定によって直接の影響を被る人間の視点だけでなしに、それが会社にとってどういう意味を持つのかを意識しなければならないわけだ。

企業のトップは意思決定にあたって非常に大きな圧力にさらされるのが常だから、これを実行するのは容易でないとホロウィッツも認めている。しかし会社の視点で判断するというのは決定的に重要だ。組織を健全に保つ上で最重要なポイントといえるだろう。

この秋、ホロウィッツから直接に話を聞けることになり楽しみにしている。Adreessen Horowitzは創立後9年でシリコンバレーを代表するベンチャーキャピタルとなったが、その経緯、これにともなう起業家精神の深化についても聞けるものと期待している。

読者がスタートアップのファウンダーか、またはそれを目指しているなら、このチャンスを逃すべきではないだろう。Disrupt SFは来る9月5日から7日までサンフランシスコで開催される。チケットはこちらから

〔日本版〕『HARD THINGS』は高橋、滑川が翻訳を担当した。刊行に先立ってTechCrunchでも紹介している。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

R&Bのライアン・レスリー自ら開発したサービスにベン・ホロウィッツが投資―SuperphoneはSMSのeコマース

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ボーカリスト、音楽プロデューサーとして有名なライアン・レスリー(Ryan Leslie)がなんと、ファンに電話番号を公開した。 (915) 600-6978だ。何百万という馬鹿げた着信を集めようとしているわけではない。音楽界で他の誰よりも密接にファンと交流しながら、しかも収益源になる新たなビジネス・モデルの実験だ。

それがシリコンバレーを代表するベンチャーキャピタル、Andreessen Horowitzのベン・ホロウィッツやBetawork他の投資家が150万ドルのシード資金をレスリーのスタートアップ、Disruptive Multimediaに投じた理由だ。 簡単にいえばSuperphone はSMSベースのeコマースと顧客管理のシステムで、レスリーは自らこのサービスをコーディングした。セレブであれクリエーターであれ、ファン向けに販売したいアイテムを持っている人間は誰でもこのプラットフォームを利用できる。

私の取材に対してレスリーは「われわれはアーティスト自身が自分のファンと交流し、関係を築ける方法を作っている。実は今のソーシャル・ネットワークは少しもソーシャルではないと分かった」と語った。

レスリーはR&Bやヒップホップで成功した後、Snoop Dogg、Cassie、Usherといったミュージシャンをプロデュースしたことで広く知られるようになった。

FacebookやTwitterのようなプラットフォームはアーティストがファンと交流するためには確実性に欠ける。しかし生まれたときからモバイル環境にいる世代はメールを使おうとしない。Superphone開発の動機はそういう点にある。なんといっても個人にコンタククトするのに1番確実な情報は電話番号だ。

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現在Superphoneは非公開ベータ版で、2700人がプラットフォームをビジネスに利用しているという。ベータ・ユーザーにはリル・ウェイン、ケビン・ジョーンズ、ボニン・ボウといった著名人がいる。利用料金は受信メッセージ数とeコマース支払額の5%で、ユーザーは誰がいつ、何に対していくら支払ったかなどの情報を最大漏らさず保存できる。また個人宛てにカスタム・メッセージを送ってアイテムのプロモーションをすることも可能だ。

「Superphoneにちょっと電話くれ」

Superphoneの仕組みはこうだ。セレブその他のクライアントはまず自分のSuperphone用の電話番号を用意してファンに公開する。ファンがその番号に電話するなり、テキスト・メッセージを送るなり、あるいはオンライン・ストアで何か購入するなりすると、セレブ・ユーザーはSuperphoneを通してファンに個人的なサンキュー・メッセージを送る。このメッセージはファンの発信場所や経歴情報などを利用してセグメントすることができる。

Superphoneはeコマースのプロモーション・ツールであると同時に未来的な電話帳であり、顧客管理データベースの役割も果たす。現在Superphoneはブラウザ・ベースだが、開発チーム数週間後にはモバイル・デバイス向けのネイティブ・アプリをリリースできるとしている。Superphoneのダッシュボードにはグラフ化機能もあり、誰が何を買っているかなどの情報を視覚的に把握できる。

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対話を購入に誘導する

レスリー自身のSuperphoneには4万人のファンがいる。今年、ウィーンの古城でニューイヤー・コンサートを開いたとき、レスリーはSuperphoneの顧客管理機能を利用してもっとも高額の支払いをしたファンをヨーロッパに招待した。また1700ドルという高額なチケット200枚を48時間で売り切ることができた。同時に、レスリーは「ライフタイム・アルバム」と呼ばれる音楽サービスを持っており、新曲をリリースするたび1ドルから100ドルの任意の金額を投ずる(プレッジする)ことでファンは誰よりも早く曲を聞くことができる。

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Ryan Leslie

このサービスを開発するためにレスリーはCodeacademyのチュートリアルを見ながら2年かかったというが、ミュージシャンとしては大したものだ。スタートアップBevelのファウンダーであり、Andreessen
Horowitzのメンバーでもあるアフリカ系アメリカ人のTristan Walkerの強い推薦があってベン・ホロウィッツの支援を受けることができるようになった。ちなみにホロウィッツは生涯変わらぬ熱烈なヒップホップのファンでもある。投資家の長いリストは以下のとおり。

[MOOR & MOOR AB, Betaworks, Anxa Holding, Donald Katz, Keith Smith, Linda Bernard, Anthony G. Aguila, Base LV Tech, Judge Ventures, Kofi Kankam, Nnemdi Kamanu Elias, Robert T. Melvin, Ryan Babel, Shanti Kandasamy, BPG Fund, Jennifer Byrne, Radiary Creations, LLC, Taj Clayton, RPM, Sherrese Clark-Soares, Mychal Kendricks, Williams Anderson Investments, Monami Entertainment, Galvanize Ventures, and Transmedia Ventures.]

次のステップとしてレスリーは新たにエンジニアを採用して開発チームを編成することを考えている。「人工知能と機械学習を取り入れるのが長期的なビジョンだ。サービスに知能レイヤーを加えることが絶対に必要だ。なんといってもこういうサービスには自然な対話性がいちばん重要な要素だと思う」とレスリーは見ている。

インターネット・スタートアップといえば誰もが広告を収入源と考える中で、ファンにリーチするためのまったく異なるニッチを発見したことは非常にスマートだ。Superphoneを使えばクリエーターは友達に電話する気軽さでファンと交流し、アイテムをプロモーションできる。

LinkedInによればRyan Leslieはハーバード大学で政治学、政府政策(Government)のB.A.を取得している。発音は「ライアン・レズリー」が近い。ここではLeslieのカナ表記として一般的な「レスリー」を採用している。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+