Blockstreamの「ビットコイン衛星」が双方向通信をサポート、日本や中国もサービス地域に

ビットコイン関連技術にフォーカスするカナダのスタートアップ企業Blockstream社のサービス「Blockstream Satellite」がサービス内容を大幅に拡充、双方向通信に対応するとともに、アジア太平洋地域がサービス対象となった。新たに導入した対話型サービスによりトランザクション送信、つまりビットコイン支払いに対応した。またサービス地域として新たにアジア太平洋地域を追加し、日本、韓国、中国、オーストラリア、インドなどが新たにサービス対応地域に含まれるようになる。利用に必要なのはパソコン、専用ソフトウェア、USBレシーバ、小型のパラボラアンテナだけだ。

Blockstream社のSCO(Chief Strategy Officer)であるSamson Mow氏は記者に対して「大きな進歩だ。世界のどこでも、誰でも検閲を受けないブロードキャスト(ビットコインのネットワークへのトランザクション送信)が可能となる。面白い利用方法が登場するだろう」とコメントした。発表文では「山頂でも砂漠でも、晴天でコンピュータと低コストのTV用パラボラアンテナがあれば利用できる」と説明している。またBlockstream社CEOのAdam Back氏は「ビットコインのインフラの次の段階を指し示すもの。世界人口の90%がアクセス可能となった」と発表文中でコメントしている。

ビットコインの分断耐性、可用性、耐検閲性を高める

Blockstream Satelliteとは静止軌道上にある通信衛星の回線をBlockstream社が借り受けて展開するサービスで、地球上のどこからでもビットコインにアクセスできる世界を実現する狙いがある。例えば国家によるインターネットの大規模監視や遮断、大停電や自然災害によるインフラ機能不全などの状態に陥ったとしても、衛星通信を利用してビットコインのブロックチェーンの同期を続けることができる。しかも誰にも許可を得る必要はなく、誰からも監視されずに、である。

Blockstream Satelliteの最初のサービスは2017年8月に発表された。最初の段階のサービスは受信専用で、なおかつ南北アメリカ、ヨーロッパ、アフリカが対象でアジア太平洋地域はサービス範囲外だった。この段階では受信専用だったので、ブロックチェーン上の入金確認には利用できたが、ビットコインによる支払いのためには衛星電話のような別の手段を併用する必要があった。それでも、世界中のほとんどの地域でビットコインのブロックチェーンを同期できる点で大きな意味があるサービスだったといえる。例えばこのサービスの存在により、災害やインターネット遮断によりビットコインのブロックチェーンが分断されてしまうリスクが減り、ブロックチェーンネットワークの可用性を高める効果があった。

今回のサービス拡充では、ブロックチェーンの同期だけでなくビットコイン支払い(トランザクションの送信)にも利用可能となり、アジア太平洋地域が含まれるようになった。これはビットコインのネットワークの耐検閲性がより高まることを意味する。

Blockstream社は、さらにビットコインのレイヤー2(第2層)で高頻度少額決済を実現する技術Lightning Networkを使うことで衛星通信で送信するデータ量を1Kバイト程度まで減らすことができると語る。さらに通信の秘匿性を高めるOnion-Routing技術を併用することで、匿名性を保ったままビットコインを利用可能となる。サービス提供者であるBlockstream社を含めて誰にも送信者、送信者、メッセージ内容を秘匿することができるとしている。例えば国家による監視や弾圧が続く国の人々でも国の監視の影響を受けずにビットコインを自由に使えるようになる。今回のBlockstream Satelliteのサービス拡充は、ビットコインの出自である「サイファーパンク」の価値観を形にしたものといえるだろう。

ブロックチェーンをどう言い換えると人びとは理解するか?

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ブロックチェーン(blockchain)は、界隈の人びとにとって分かりづらい技術だ。そこらのコンピュータおたくたちでも、相当レベルの高い人でないと無理。ブロックチェーンをベースとするスタートアップにとっては、まずこの、ふつうの人にとって分かりづらい、という技術の特性が障害になる。

そこで本誌主催TechCrunch Disrupt London 2015は、ブロックチェーンのエキスパートたちに、それをもっと分かりやすい言葉で言い換える試みに、挑戦してもらった。

ブロックチェーンとBitcoinに投資しているPantera CapitalのパートナーSteve Waterhouseのは、単語が一つだけで、いちばんコンパクト、しかも一見、分かりやすそうだ: ‘分散化(decentralized)’。

独立系のブロックチェーンプラットホームEthereumのファウンダVitalik Buterinは、ちょっと気取って: ‘crypto 2.0’。cryptoはふつうに暗号の意味だから、ブロックチェーンほど技術用語っぽくはないけどね。

Blockstreamの協同ファウンダでCEOのAustin Hillは、“マーケティングのお遊びだ”と言ってこのパネルそのものに反対した。しかし、技術を多くの人びとに分かりやすくするためには、マーケティング的努力こそが必要だ。ブロックチェーンベースの生命保険や、今の銀行よりも安全な分散化銀行を一般消費者が理解納得するためには、まずそのための努力が必要。なお、Blockstreamはサイドチェーン(sidechains)というものを作っている。それは同社の言葉を借りれば、“互いに相互運用性のある並列ブロックチェーン”だ。

結局Hillが提案したのは、“分散化台帳技術(distributed ledger technology)”と“プログラマブルな信用のインフラストラクチャ(programmable trust infrastructure)”だ。ブロックチェーンよりもさらに難解になったようだが。

パネルの最初の方の雑談で彼は、ブロックチェーンは“大規模な分散化信用マシン”だ、と言った。こっちの方が、ましだと思うけどね。

ブロックチェーンを一般消費者向けにマーケティングするためには、10分間のブレーンストーミングを一回やったぐらいでは、名案は生まれない、ということ。

“ブロックチェーンについて考えるための一般的なアプローチは、それをプログラマブルな信用*のインフラストラクチャととらえることだ”、とHillは述べる。“信用をルールやコンセプトでプログラムできることが、重要な利点であり、それによってシステムのリスクを取り除けるのだ”。〔*: “信用”については、この本誌日本語記事などを。プログラム自身が信用を実装していることに比べると、国や大銀行に対する人びとの信用の方が、むしろ物理的な根拠も保証もなく、あやうい。 〕

“ブロックチェーンはリアルタイムの先験的な監査の機構(==信用の実装)として働く。それを長期的な視点で見ると、ほんとにすごいということが分かる”。

現在の監査の方式は、たとえばスポットチェックというものを行って、それらが事業全体の財務の過程を表している、と期待する。しかしブロックチェーンなら、それ自身に継続的連続的な追跡可能性(トレーサビリティー)がある、とHillは言う。そこで理論的には、スポットチェックで財務の不正を見抜けなかった場合には、別の検死的監査をしなければならない(Enronの場合のように)が、ブロックチェーンではその必要がない。監査は、ユーザがそれを利用するたびに行われるからだ。

ブロックチェーンの将来性を示すアイデアとしてHillが挙げるのが、P2P経済のための取引保険(transactional insurance)だ。

“今やあらゆる業界、あらゆる産業に、新しいタイプの新進企業が続々生まれている。先日保険業界で見たのは、P2P経済のための取引保険をやろう、という企業だった。たとえば、ある人が、週に2日Uberのドライバーをやり、週末にはAirbnbの貸主になる、という場合、そういうばらばらなユースケースをどうやって保険でカバーするのか? そこでその新進企業は、ブロックチェーンベースの保険市場というものを、作ろうとしている。すばらしいよね。ブロックチェーンの、斬新でエキサイティングなユースケースだから”、とHillは語る。

EthereumのButerin(前出)は、Ethereumのネットワークでも将来性のある保険業プロジェクトが進行中だ、と言った。たとえばそれは、フライトの遅れに対する保険だ。

“その場合おもしろいのは、暗号化によってWebページのセキュリティを確保し、そこから取り出したデータを実際に直接、スマートコントラクト*へプッシュする、という実用技術やサービスがすでにあることだ。ブロックチェーンによる分散化保険市場も、そんな技術の応用にすぎない”、と彼は言う。〔*: スマートコントラクトについては、英語Wikipedia本誌日本語記事などを。従来のコントラクトのように国など第三者による監査監督規制を要さず、コントラクト自身に(プログラミングによる)厳しい自己監査機能があるのが、スマートコントラクト。不正行為があり得ない。〕

Buterinが挙げたもうひとつのエキサイティングな事例が、IoTへのブロックチェーンの統合だ。ブロックチェーンの自己監査能力を利用して、物理的なオブジェクト(物)の所有権やレンタル等を支え、追跡するのだ。

“たとえば、完全に自動化された自転車レンタルシステムなら、ブロックチェーンによる暗号化決済技術で完全に実現可能だ。そういうものは、いったん立ち上げたら、その後は完全に自律的に動いていける”、とButerinは語る。

“そのほか、いろんなものがブロックチェーンで自動的自律的に不正なく管理運用できるから、応用例はあらゆる業界/産業にわたって無限にある。そう考えると、ぞくぞくしてくるよね”、と彼は付言した。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa)。