Discordは今後単なるゲーマーのための場としてだけでなく、Slackのソーシャルライフ版として大成するべく取り組んでいる。
新たな1億ドル(約107億円)の資金調達ラウンドが完了し、35億ドル(約3760億円)の評価額となった同社は、新しい売り込み内容と共にゲーマーのための場所(および白人ナショナリストのためのバーチャルな集いの場)としての過去を払拭しようとしている。
現在同社はユーザーベースを監視したり、同社のサービスがゲーマーのためだけのものではないというイメージを促進したりするための自由な資金を手に入れた。「多くのユーザーにとって、弊社のサービスはもはやビデオゲームのためだけのものではないことがわかりました」と、共同創設者のJason Citron(ジェイソン・シトロン)氏とStanislav Vishnevskiy(スタニスラフ・ヴィシュネフスキー)氏はブログにて述べている。
二人の創設者は同社を「自分のコミュニティや友達と共に遊び、話し合うためにデザインされた場所」であり、かつ「何かを学んだりアイデアを共有するなど、人々と共に誠実な会話を交わし質の高い時間を過ごせる場所」だと説明している。
同社のサービスはこれまでもずっとこのような場であったわけではない。3年前、同社は多くの人種差別主義ユーザーを追放しようと試みたのだが、ヘイトスピーチを広めるためにプラットフォームを使用するユーザーは依然として根深く残り続けた。2019年半ばまで白人ナショナリストたちは、極右ネオナチサイトDaily Stormerの創設者、Andrew Anglin(アンドリュー・アングリン)氏のメッセージを正当化するためにこのサービスを存分に利用しており、アングリン氏が彼のフォロワーに向けて同社のサービス使用を止めるよう促したほどである。
Data & Society Research Instituteのメディア操作主任研究員であるJoan Donovan(ジョアン・ドノヴァン)氏はオンラインマガジンSlateにて「Discordは常に極右グループの中に存在しています。彼らがドクシングや嫌がらせのキャンペーンの組織化を行う場所となっているのです」と述べている。
Discordによると、これらのユーザーは同社のユーザーベースの中でもごく一部であり、次第に人数も減少していると言う。今ではゲーマーの他、Black Lives Matterの主催者、ソーシャルメディアのインフルエンサーも含まれるようになったとのことだ。
同社によると、今ではこのサービスを利用するアクティブユーザーは1億人を超え、670万台のアクティブサーバーで40億分が会話に費やされていると言う。
Discordの成功は、ソーシャルゲームとソーシャルメディアの急速な成長がもたらしたものである。同社のサーバーはゲームプラットフォーム間でのリアルタイムのコミュニケーションを可能にし、世代を超えたプレーヤーにとっての主要なソーシャルエクスペリエンスの場となった。また、さまざまなソーシャルメディアプラットフォームのインフルエンサーが、ファンとより直接的な関係を持つことができるようにしたのだ。
Taylor Lorenz(テイラー・ローレンツ)氏が、ソーシャルメディアの起業家や有名人の間でDiscordが新たに獲得したファン層について次のような記事を書いている。
昨年3月、世界で最も人気のあるビデオゲームライブストリーマーの1人であるNinja(ニンジャ)が、フォートナイトをプレイしながらDiscordの使い方をラッパーのDrake(ドレイク)に教えました。Philip DeFranco(フィリップ・デフランコ)氏、Grace Helbig(グレース・ヘルビッヒ)氏、Try Guys(トライガイズ)などのYouTubeの大物は皆独自のサーバーを持っており、「The Bachelor」や「The Real Housewives」についての話し合いに特化されたサブレディットにも独自のDiscordグループがあります。2億人以上がこのサービスを利用しているのです。
「我々は単に話しをするためにDiscordをデザインしたのです。延々とスクロールしたり、ニュースフィードを見たり、いいねを集めたりするためのものはありません。表示すべきものを算出するアルゴリズムもありません。コミュニティや友人と一緒に過ごす、という感覚や経験を再現するためにDiscordを設計したのです。自分のサーバーに自分が招待した人を集め、個人的な空間を作り出し、自分が設定したトピックについて話し合うのです」と創設者らは言う。
より親切でフレンドリーになったDiscordは、同社の社名とルーツを良い意味で裏切るものとなった。これは投資家の認識をシフトし、潜在的な新ユーザーをサービスに呼び込むための努力の証である。
新たな資金に加え、同社は新しいユーザーエクスペリエンスを強化し、ユーザーがより簡単にコミュニケーションできるようにするためサーバービデオを追加した。ユーザーがサーバーを作成する際に役立つテンプレートを揃え、また音声と動画の容量を200%増やしている。
Discordは製品における新たなフォーカスの一環として、同社の規則や規制を明確に定義し、ヘイトスピーチやスペースの乱用が生じた際にサービスの使用を監視、管理するためにユーザーが実行できるアクションを明確にした「Safety Center」と呼ばれる取り組みを開始した。
「私たちは白人至上主義者、人種差別主義者、そして悪のためにDiscordを使用しようとする人々に対して断固たる行動をとります」と創設者らは述べている。
Discordへの最新の1億ドル(約107億円)の資金注入のため投資家グループを率いたIndex Ventures(インデックスベンチャーズ)の共同創設者であるDanny Rimer(ダニー・ライマー)氏は、Discordがビジョンを広げたことに対し賛同の意を表明している。
「Discordはしっかりと責任を持って管理されたサイトなら、共通の関心を持つ人々に安全なスペースを提供できるということを示しており、これこそがプラットフォームの未来であると感じています。Facebookのように単に生のコンテンツを投ずるのではなく、自分と友人が共に体験できるものを同社は提供しています。Slackがプロフェッショナルな会話のために作り出されたものなら、Discordはソーシャルな会話のために生み出されたものだと認識しています」とライマー氏は声明を出している。
Slackと同社の類似点は興味深いもので、両社は共に通信サービスに転換する以前にゲームスタジオとして事業を開始したという背景がある。
ライマー氏はIndex Venturesの最新の投資について説明した文中で、「今年フランスでは、政府公式の試みが失敗した後にDiscordが遠隔学習の主要なアプリとして採用されました。その結果、同社はフランスで3月にアプリダウンロード数のトップ10に達し、現在でもアメリカとイギリスではトップ50に入っています。Discordは次の成長段階に向けた計画を立案中です。今後同社は新たなユーザーやコミュニティにとってさらに包括的で快適なものとなり、また当初から発展に寄与してきたユーザーによって引き続き導かれていくことでしょう」と言及している。
関連記事:隔離生活で求められる自然発生的なコミュニケーションを生むソーシャルアプリ
カテゴリー:ゲーム / eSports
タグ:Discord 資金調達