VR空間のモノに触れるデバイス「EXOS」開発のexiiiが8000万円を資金調達

VR/AR空間でバーチャルなモノに触れることができる、触覚ウェアラブルデバイス「EXOS」を開発するexiii(イクシー)。同社は2017年7月に大成建設と共同で、遠隔操作システム開発を発表。また今年2月には「CADデータに触れる」3Dデザインレビューシステム開発と、ビジネス向け開発者キット「EXOS DK1」の受注開始を発表している。

そのexiiiが4月16日、グローバル・ブレインが運営するファンドを引受先とした第三者割当増資の実施を明らかにした。調達金額は約8000万円だ。

2月に発表された3Dデザインレビューシステムは、VRにEXOSを組み合わせることで、視覚と触覚を合わせた直感的なレビューを目指したもの。製作に時間のかかるモックアップに代えて、データでデザイン検証ができるようになるもので、日産自動車のグローバルデザイン本部による活用検討が明らかになっている。

またEXOS DK1シリーズでは、手のひらを前後・左右に動かしたときの力触覚を提示してVR内のオブジェクトに「触れる」感じを再現する「EXOS Wrist」と、指の開閉の力触覚を提示することでオブジェクトを「つかむ」感じを再現する「EXOS Gripper」の2種類を製品として提供。製造・シミュレーション・エンターテインメントなど、さまざまな分野でパートナーデベロッパーを募っている。

「EXOS Wrist」(左)と「EXOS Gripper」(右)イメージ

exiiiは今回の資金調達で、EXOS DK1の販路拡大と、中長期的な触覚再現のための研究開発体制強化や次世代デバイスの開発を視野に、グローバル・ブレインと協力していくという。

exiii代表取締役社長の山浦博志氏は、「今後ますます普及していくVR/ARにおいて、触覚提示は人間とコンピューティングをより直感的に繋ぐために不可欠な技術。触覚デバイスを世界の当たり前にできるよう、チーム一同一層精進していく」とコメントしている。

筋電義手を手がけたexiii、VR空間上のモノを“触れる”外骨格型デバイス「EXOS」を発表

exiii 共同創業者でCEOの山浦博志氏(左)、共同創業者でCCOの小西哲哉氏(右)

exiii 共同創業者でCEOの山浦博志氏(左)、共同創業者でCCOの小西哲哉氏(右)

3Dプリンタを使用して、低価格(本来100万〜150万円程度はかかるところ、数万円で実現する)で作成できる筋電義手「handiii」、そしてその後継機でオープンソース化されている「HACKberry」を提供するexiii。同社が次に取り組んだのはVR空間での触覚を提供するプロダクトだ。同社は1月18日、触覚提示デバイス「EXOS(エクソス)」を発表した。

EXOSは外骨格型(手の外側を覆うかたち)の触覚提示デバイスだ。デバイスには角度センサーを備えたモーターを4つ内蔵しており、このモーターによってデバイスを使ったユーザーの指に対して反力を与えることで、実際に物に触れたような感触を再現できる。

僕もこのEXOSのデモを昨日体験してきたばかり。デモ環境ではHTC Viveと組み合わせて利用する環境だった(ViveのコントローラーをEXOSに付けることで、センシングの部分はViveに任せているという環境だ)のだが、VR環境に用意されたオブジェクトにゆっくり手を触れると、そのオブジェクトに触れた感覚が伝わってきた。固定されたオブジェクトを無理に押そうとすると、手に強い抵抗がかかって、それ以上押し込むことが難しく感じる。さらにおきあがりこぼしのようなオブジェクトを動かしては止め、止めては動かし……なんてことも体験できた。デモ環境では立方体や円柱状の単純なオブジェクトを触るだけだったので、今後どういったオブジェクトの触覚を体感できるかというのは未知数ではあるけれども、それでも「VR×触感」という領域に新たな可能性を感じることができた。

exiiiではVRを用いたゲームやロボットの遠隔操作、手を動かすリハビリテーションなどに利用したい考えで、今後は広くパートナーを募りたいとしている。本体の価格は非公開。今後提供する形式により決めていくとしている(当面はC向けでなく、開発者やパートナー向けの提供を検討している)。

同社は2014年設立のIoTスタートアップだ。筋電義手のプロジェクトをオープンソース化した際、共同創業者でCEOだった近藤玄大氏が同プロジェクトに注力するためexiiiを退社。同じく共同創業者であった山浦博志氏がCEOに就任したのは2016年11月のこと。EXOSは新体制での第1弾プロダクトとなる。

EXOSのデザインモック

EXOSのデザインモック

「もともと大学生の頃に外骨格を使ったリハビリの装置を研究していたので、新しいプロダクトではその知見を何かに生かせないか考えた。2016年はVRが盛り上がり、私もいろいろと体験したが、コントローラーがモノ(VRスペース上のオブジェクト)を突き抜けてしまう現象がある。これを手持ちの技術で解決できないかと考えたのがEXOS開発のきっかけ」(山浦氏)

EXOS開発には筋電義手のノウハウも大いに役立った。「人間の手には20以上の関節がある。だがそれを全て外骨格で再現すると、(複雑すぎて)動かないプロダクトになってしまう。どうやって手の動きを簡略化するかは、義手の知見があったからこそ実現できた」(山浦氏)。外骨格の機構は特許も取得している。なおデザインはhandiii、HACKberry同様に共同創業者でCCOの小西哲哉氏が担当した。

筋電義手「handiii」

筋電義手「handiii」

海外を見ると、オランダでVR用グローブ「Manus VR」なども発表されているが、山浦氏は「振動によって没入感を得られるプロダクトは他にもあるが、モーター制御で『押し戻される感覚』までを得られるかというとまた別の話。触覚は没入感を提供するだけでなく、精密作業を行うためにも必要だと思う」(山浦氏)としている。