今年のf8でFacebookがローンチしたもののすべて…そしてその背景

今年のf8には、ステージでMark Zuckerbergのパロディを演ずるコメディアンのAndy Sandbergはいなかった。そして、それは賢明だった。今やFacebookは何百万人ものデベロッパの生活を支えているソーシャルネットワークだから、おふざけは似合わない。その代わり今度のf8は、Facebookのプラットホームがデベロッパに対して敵対的で勝手にコロコロ変わるというイメージを払拭し、彼らのアプリケーションの成長と収益に貢献する新しい方法を提供する、という方向に集中した。

それは、一般大衆にとっては、おもしろくなかったかもしれない。Zuckのキーノートには、Timelineが発表された2011年のときのような輝きと情熱がなかった。しかしデベロッパのためのカンファレンスを消費者製品のローンチで濁(にご)すことなく、メッセージは明快だった。Facebookは大人になり、デベロッパに頼りにされる存在でなければならない。

Zuckerbergによると、Facebookは“クロスプラットホームなプラットホーム”になりたいのだそうだ。iOS、Android、Windows Phone、Webなど、すべてのプラットホームを横断する、という意味だ。AppleやGoogleと違って、Facebookは自分自身がモバイルのオペレーティングシステムを持っていないから、このように構えるのが便利である。

しかしFacebookはあくまでもソーシャルのレイヤ(層)にすぎないから、f8で行われた数々の発表も、現実的で自分の立場をよくわきまえている。その多くは、Facebookの目的をデベロッパの目的と合わせる、という努力に関連している。デベロッパの成長を助け、良質なアプリケーションの開発に貢献するものを提供していけば、彼らの信頼と愛着を獲得でき、News Feedのコンテンツや、広告収入という形でFacebookへの大きな貢献が返ってくる。だからこの記事でFacebookがデベロッパの成長を助ける云々と言うときも、それは単純な博愛精神という意味ではない。

今年のf8を取り上げた記事の総覧はここにあるが、ここではf8でローンチされたもの*の概要と、それらのFacebookにとっての意味を見ていこう。〔*: 各プロダクト名は英語の名前のままとします。〕

広告とeコマース

Audience Network(オーディエンス(の)ネットワーク)

広告主がFacebookの個人データを利用して、サードパーティのパブリッシャーのアプリケーション上で、標準のバナー広告でもカスタムのネイティブ広告でもターゲティングができる。Facebookは広告収入の一部を取るが、残りはデベロッパへ行くので、デベロッパは自分のアプリケーション上の広告が収入源になる。

Why? 収入の増大のため。Facebook自身のサイトやアプリケーションをこれ以上広告で混雑させるのではなく、ユーザが自発的に提供している個人データや活動データのデータベースを、ほかのところに出る広告で収益に結びつける。

Autofill With Facebook(Facebookから自動記入)

Facebookは、前にテストしていたAutofillプロダクトを、Ecwidのプラットホームを使ってeコマースのサイトを構築している45万の商業者に対し展開した。Autofillは、ユーザがどこかのeコマースで買い物をしたとき、決済のためのクレジットカード情報などをFacebook上の自分のデータから供給して、はやく買い物ができる、という仕組みだ。

Why? Facebookはマージンを取らないが、Autofillから決済データが行くと、商業者から見て、広告媒体としてのFacebookの価値が上がるのだ。

プラットホームとしてのFacebook

Anonymous Login(匿名ログイン)

“試してから買う”ための方法。Anonymous Login(匿名ログイン)によりユーザは、違うユーザ名やパスワードを作ることなく、また自分の個人データを明け渡すことなく、アプリケーションのデモなどを試せる。そのときの活動はFacebookが記録するから、完全に匿名ではない。またデベロッパは‘匿名優先(anonymous-first)’というタイプのアプリケーションを作れる。それはSecretのクローンのように、ユーザの名前は使わないが、そのユーザの過去の投稿やハイスコア、進捗段階(今どこまで来ているか)などのデータは記録し更新する。

Why? ユーザが新しいアプリケーションを試したいだけのときには、もっと気軽にログインできるようにする。あとでそのユーザが名前や共有許可を与えるとFacebookはそのコンテンツを収益源にでき、フィードにシェアできる。どちらの場合も、デベロッパの利益にもなる。Facebook自身も、アプリケーションを‘匿名優先(anonymous-first)’にできる。

友だちのデータを取り出せないようにする

デベロッパはユーザの友だちのデータ、すなわち顔写真、誕生日、ステータスアップデート、チェックインなどを勝手に取り出せないようになる。

Why? 当人の許可なく個人データを利用できる、という状態は、つねにヤバい。Facebookはプライバシー保護がいいかげん、という世評がますます高まる。でもデベロッパは、アルバム閲覧、検索エンジン、カレンダー、位置マップなど、Facebook自身のプロダクトと競合するようなアプリケーションを作れなくなる。

モバイルのプライバシー許可の選別制

これまでの個人データの共有許可は、‘すべてのデータ’を意味した。今度からデベロッパは、自分が利用したいデータのチェックリストを提出して、許可を求める(友だちリスト、いいね!、メールアドレス、News Feedにポストできる能力、など)。

Why? ユーザがサードパーティのアプリケーションにデータを与えるときの、プライバシー保護と透明性とユーザサイドのコントロールを強化する。Facebookでログインすると安全だ、という信頼感を持っていただく。

中核的APIの2年間安定保証

今回のf8のテーマは”Stable Mobile Platform”(安定したモバイルプラットホーム)になり、スローガンはそれまでの”Move Fast And Break Things”(快足イノベーション)から”Move Fast With Stable Infra”(安定したインフラで快足を)に変わった。コアAPIを変えたり廃止したりするときは、2年以上前に伝達する。

Why? デベロッパが安心してFacebookのAPIでアプリケーションを作れるため。前のように、知らない間に変わっていた、なくなっていた、ということがないように。

Graph API 2.0

アプリケーションスコープのユーザIDによりセキュリティを強化
アプリケーションを試験するためのフレームワーク
Social Context APIによりユーザの友だちの活動にアプリケーション内でアクセス
Tagged Places APIでユーザの位置(場所)を利用、タグの改良、ストーリー中の招待。

Why? より強力なアプリケーションの構築。

FbStart

新人デベロッパにFacebookや11社のサードパーティ企業(UserTesting.comなど)のサービスの3万ドルぶんの無料利用を提供。それらのサービスは、A/Bテスト、デバッグ、Adobe Creative Cloudによるクリエイティブなプロジェクトのためのクラウドストレージ。

Why? Facebookがアプリケーションを始動させることにより、今後の広告収入やコンテンツなどで3万ドルは十分取り返せる。

モバイルのいいね!ボタン

モバイルアプリに埋め込めるいいね!ボタンにより、ユーザはNews Feedでコンテンツを友だちと容易にシェアできる。

Why? Facebookが広告収入を得られるコンテンツを、より多くシェアできるようにする。それと同時にアプリのオーディエンスを増やす。

Send to Mobile

Webアプリケーションのデベロッパがユーザにプッシュ通知で関連のモバイルアプリをダウンロードするよう、おすすめする。

Why? アプリのオーディエンスの増。

Message Dialog

デベロッパがモバイルアプリにこのダイアログを埋め込んでおくと、ユーザは友だちにプライベートでFacebook Messageして、アプリ内コンテンツやアプリそのもののリンクを知らせる。

Why? Messengerのエンゲージメントを強化し、アプリの成長を助ける。

AppLinks

このオープンソースの技術により、デベロッパはアプリ内にクロスプラットホームでほかのコンテンツやアプリへのリンクを張れる。そのリンク(“ディープリンク”)はリンク対象のアプリやコンテンツをブラウザのウィンドウではなくデバイスのスクリーン上に開く。

Why? ディープリンクが普及すると、それを広告内で使用して広告のエンゲージメント、ひいては広告収入を増やせる。たとえばHotelTonightのサイトを訪れなくても、直接、ニューヨークのホテルのディスカウントを利用できるだろう。

メディアのための視覚化API

テレビ番組などのメディアが、Facebook上の最新トレンドなどを視覚化して表示できる。トレンドは個人データを抜いて集計され、またそのトレンドの中心となっている層の特性(例: 10代の女性)も教える。また、特定の話題が言及されている公開ポストや、ハッシュタグの言及を集計できる。

Why? Facebookはメディアに、もっと自分のことを話題~ニュースソースにしてもらいたい。そうすれば、Facebookへのビジターが一層増えることだろう。

Parse

料金の変更

段階的な料金体系をやめて、一律の無料制を導入し、デベロッパが多く使ったぶんは後から請求がいく。無料の範囲内では、毎秒のAPIリクエストが30まで、ファイルストレージは20GB、データベースストレージも20GB、ファイル転送1TB、プッシュ通知は100万まで。

Why? Parseを多くのデベロッパに使ってもらうために、無料化。デベロッパたちを、このモバイルバックエンドサービスのとりこにしたい。

アクセス分析オフラインストレージ

Parseは分析プロダクトをアップデートして、デベロッパがオーディエンスやユーザ維持率に関してより深いインサイトを持てるようにした。オフラインストレージは、デベロッパがアプリケーションのデータをローカルに保存でき、インターネット接続がない状態でもアプリケーションを動かせる。

Why? Parseをよりロバストにして、安心して有料で利用するデベロッパを増やす。

Internet.orgとオープンソース

Internet.org Innovation Lab

FacebookとEricssonが今回初めてその実装を披露したInternet.orgプロジェクトは、地球上の50億の取り残された人びと全員をインターネットに接続できるようにする。デベロッパは、途上国に多い、遅くて途切れがちな接続の上でも使えるアプリを作れるために、そんなシミュレーション環境でアプリを試験できる。

Why? Internet.orgを、単なるお話で終わらせないこと。Facebookの無人機や衛星などが提供する安価なインターネット接続の上で、自分のアプリがまともに使えることを、デベロッパはテストし、必要なデバッグを行うことができる。

DisplayNode

Facebookが近く提供するオープンソースツールDisplay Nodeは、Paperアプリも使っており、アニメーションのレンダリングがよりスムースにできる。

Why? Facebookのモバイル技術の優秀性を見せつけて、優秀な人材を確保。デベロッパのアプリの改良と成長を支援。DisplayNodeの今後の開発を進めるコミュニティの育成。

今回のローンチの数々に感動しなかった人も、もっとビッグなアップデートを経験するために長く待つ必要はない。これまで、任意の間隔で行われていたf8が、これからは例年行事になる。

毎年恒例の行事になれば、打ち上げパーティーも簡素化され、これまでのように3時間ということはなくなるだろう。今回は、派手なライティングを浴びて真打ちのDiploが登場したころには、彼のDJに合わせて踊る、最後まで残った人びとは、Facebookの社員とボランティアの人たちばかりだった。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))