2020年の新型コロナウイルスが流行した際には「Netflix Party(ネットフリックス・パーティ)」という無料のブラウザ拡張機能が人気を博した。これを使えば、自宅に閉じ込められた人々が、遠く離れた友人や家族とつながって、同じNetflixの番組や映画を同時に視聴できる。さらに画面右側のチャットで、一緒に見ている動画について語り合うこともできる。
後にTeleparty(テレパーティ)と改名したこの会社はまだ創業したばかりだが、他にシード資金を調達した2つの若い会社と競合している。1社はロンドンで2020年12月に設立された新興企業で、7月初めにCraft Ventures(クラフト・ベンチャーズ)の主導でラウンドを終えたばかりだ。もう1社はベイエリアに拠点を置く創業4年目の会社で、500 Startups(ファイブハンドレッド・スタートアップス)を含む未公開のシードラウンドで300万ドル(約3億3000万円)を調達している。
多くの投資家がバーチャルイベントや教育テック企業に資金を提供しており、人々がオンライン上でより多くのことを一緒に行えるような、一種のマルチプレイヤーブラウジング体験を開発することには、まだ大きなチャンスがあると、両社は考えている。スポーツ観戦や映画鑑賞はもちろん、将来的には医師と一緒にレントゲン写真を見ることさえ可能になるかもしれない。両社は、特に若いユーザーにとって、誰かと一緒にウェブサーフィンをする機会が増えることは必然だと述べている。
両社のアプローチはやや異なっている。Craft Venturesが見込んで220万ドル(約2億4200万円)のシードラウンドを行ったGiggl(ギグル)は、2020年創業したロンドンを拠点とするスタートアップで、ウェブアプリによってユーザーをバーチャルセッションに招待する。これらのセッションは「ポータル」と呼ばれ、ユーザーは友人を招待して一緒にコンテンツを閲覧したり、テキストチャットや音声通話をすることができる。ポータルは、友人のみで集まるプライベートな部屋にすることも、誰でも参加できるように「パブリック」に設定することも可能だ。
Gigglは、19歳のCPO(最高製品責任者)であるTony Zog(トニー・ゾグ)氏を含む、一緒に育った4人のティーンエイジャーによって設立された。最近LAUNCH(ローンチ)アクセラレータープログラムを卒業したばかりだが、すでに約2万人のユーザーが毎月アクティブにサービスを利用しており、ダウンタイムを最小限に抑え、コストを削減するために、独自のカスタムサーバーを用いたインフラを構築し始めている。
同社のさらに大きなアイデアは、あらゆる種類の状況に対応できるプラットフォームを構築し、それらに応じて課金することだ。例えば、ウェブサーフィンをしているときや、Apple Worldwide Developers Conference(アップル世界開発者会議)のようなイベントを一緒に見ているときには無料でチャットできるが、さらにプレミアムな機能を有料で提供したり、コラボレーションの方法を模索している企業にはサブスクリプション販売することも計画している(Gigglが現在提供しているサービスのデモは下の動画で見ることができる)。
Hearo.live(ヒアロ・ライブ)は、500 Startupsや多数のエンジェル投資家に支援された、もう1つの「マルチプレイヤー」スタートアップだ。この会社は、Sony Worldwide Studios(ソニー・ワールドワイド・スタジオ)で13年間エンジニアリングディレクターを務め、一時期はElectronic Arts(エレクトロニック・アーツ)の一部門でCTOを務めていたこともあるNed Lerner(ネッド・ラーナー)氏が発案した。
Hearoは、Gigglのようにユーザーが何でも一緒に見ることができるわけではない。そういう意味ではより狭い戦略をとっている。その代わり、ユーザーはNBC Sports(NBCスポーツ)からYouTube(ユーチューブ)、Disney+(ディズニー・プラス)など、米国で見られる35以上の放送サービスにアクセスでき、すべてのユーザーが同じオリジナルのビデオ品質で視聴できるように、データの同期化が行われている。
Hearoはサウンドにも力を入れており、例えばユーザーたちがバスケットボールのプレーオフを一緒に見ながらコメントする場合など、複数のオーディオストリームが同時に生成される際に、参加者全員がノイズの多いフィードバックループに見舞われることがないように対策も講じている。
実際に、Hearoの小さなチームが開発したエコーキャンセラーなどの「特別なオーディオトリック」によって、ユーザーは「ノイズやその他のものに邪魔されることなく」体験を楽しむことができると、ラーナー氏はいう。なお、ラーナー氏は「Clubhouse(クラブハウス)にできることは、ほとんどすべて私たちにもできます」と語っている。「ただ、正直に言って、人が単に座って話しているだけなんて、大したことだとは思わなかったので、ご覧のように他のことに力を入れているのです」。
Gigglと同様に、Hearoとラーナー氏はサブスクリプションモデルを想定している。また、最終的にはスポーツ放送局と広告収入を分け合えるようになることを見越しており、そのためにEuropean Broadcasting Union(欧州放送連合)とすでに協力しているという。Gigglと同様、Hearoのユーザー数は、iOS、Android、Windows、macOS用のアプリのこれまでのダウンロード数が30万件、月間アクティブユーザー数が6万人と、一般的な基準からすると控えめな数字に留まっている。
このことは「オンラインで一緒に見る」ことが、果たして大きな商機になるのかという疑問を投げかけている。そしてその答えは、HearoとGigglが注目に値する技術を持ち、収益を上げる道筋を用意していても、まだ明確にはなっていないようだ。
「一緒に視聴」体験に注力しているのは、これらのスタートアップ企業が最初というわけではない。シリアルアントレプレナーのRichard Wolpert(リチャード・ウォルパート)氏が設立したアプリ「Scener(シーンナー)」は、200万人のアクティブな登録ユーザーを擁し「すべてのスタジオと最良かつ最も活発な関係を築いている」と述べている。しかし、このアプリは自らをバーチャル映画館として販売しており、その使用目的は少々異なる。
2013年に創業したRabbit(ラビット)は、人々が同じコンテンツを同時に見たり、テキストチャットやビデオチャットをすることを可能にした。Gigglが構築しているものに近いと言えるだろう。しかし、Rabbitは結局、暗礁に乗り上げてしまった。
ラーナー氏によると、Rabbitは他人の著作物をスクリーン共有していたため、同社のサービスに対する料金を請求することができなかったからだという(基本的には「個人的な金銭的利益のためでなければ、ある程度の海賊行為は許される」とラーナー氏は述べている)。しかし、新型コロナウイルスの流行が遠のき、人々が物理的な世界により積極的に関わるようになった今、このようなサービスに大きな需要があるだろうかと疑問に思うのは当然だろう。
しかし、他の人はいざしらず、ラーナー氏は心配していないようだ。同氏は、他の場所よりも携帯電話で動画を視聴する方がはるかに快適だと感じている世代がいることを指摘する。また、画面を見ている時間が「孤立したもの」になっていることに言及し、いずれは、それが「仲間と一緒に過ごす理想的な時間」、つまり一緒のソファでゲームを見るようなものになると予測している。
その予測には根拠となる前例がある。「この20年の間に、ゲームはシングルプレイヤーからマルチプレイヤーになり、ゲームの中にボイスチャットが登場して、人々が実際に集うようになりました」と、ラーナー氏はいう。「モバイルはどこにでもあり、ソーシャルは楽しいものです。同じことが、他のメディアビジネスにも起こると我々は考えています」。
Gigglのゾグ氏は、このトレンドが彼の会社にも有利に働くと考えている。「コロナ禍が終息すれば、人々がより頻繁に会うようになることは明らかです」と、同氏はいう。しかし、現実の世界における交際は、インターネット上の至るところですでに行われているオンライン交際の「代用にはならない」と考えている。
さらに、Gigglは「オンラインで一緒の時間を過ごすことが、現実の生活で一緒にいるのと同じくらい良いことだと思えるようにしたい」と考えていると、ゾグ氏は付け加えた。「それがGigglにおける最終的な目標です」。
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(文:Connie Loizos、翻訳:Hirokazu Kusakabe)