「200兆円にのぼる間接費市場はブラックボックスすぎて、全然適正化が進んでいない。そこにコンサル時代の知見を基に開発したプロダクトとデータを持ち込み、現場の購買担当者が『最適な商品を適正な量だけ、適正な価格で』調達できる仕組みを提供したい」
そう話すのはLeaner Technologiesで代表取締役CEOを務める大平裕介氏だ。同社は5月21日、間接費の無駄を徹底的に見える化し、コスト削減をサポートするSaaS型のプロダクト「Leaner(リーナー)」を公開した。
間接費とは個々の製品やサービスに紐付けることが難しい費用のことで、コピー用紙からシステム機器まで扱う費目は多岐に渡る。いわゆる総務や経理といった部門のメンバーが様々な商品・サービスを調達しているのだけれど、この領域は不透明なことが多くブラックボックス化しているという。
それゆえに経営層や現場の購買担当者が抱えている課題を「テクノロジーとコンサル流のナレッジ」で解決していくのがLeanerの役割だ。
ブラックボックスすぎる間接費市場を透明化する
Leaner Technologiesは2019年2月の創業。学生時代に起業経験もある大平氏は大学卒業後にコンサルティングファームのATカーニーに入社し、幅広い企業のコスト改革を支援してきた。
Leaner Technologiesで代表取締役CEOを務める大平裕介氏
そこで大平氏が痛感したのが、「マーケットの不透明さ」と「経営者の課題」だったという。
「個人におけるAmazonのような存在がないため、費目ごとに無数の商品から最適なものを選ぶ難易度が高い。多くの費目では見積もりをとらなければ価格がわからず、しかも合見積もりと交渉によって価格が変動するため適正な価格を判断するのも困難。加えて他社と比較することも難しいので自社のタクシー代やコピー費が使いすぎなのかどうかも判断しづらい」(大平氏)
まさに最適な商品、適正な価格、適正な調達量を見極める上で必要なものがほとんど透明化されていないので、最適化をしようと思ったところで「自社だけではどうしようもない」という状況に陥ってしまう企業も多い。
そこで重宝されるのがATカーニーなどコスト削減のプロフェッショナル集団だ。
「自社の間接費が他社や業界水準と比べて多いか少ないかを比較したり、ビッグデータを活用して現在の調達条件が適正価格とどのくらい離れているかを分析して見える化したり。実際の実行支援も含めて、コスト削減に関する一連のサポートを行っている」(大平氏)
ただ、どんな企業でもこのようなサポートを受けられるわけではない。相場観としてはだいたい数千万円半ばあたりからのオーダーになることが一般的で、その場合コスト削減額が1億円を超える規模くらい見込めないと発注しづらいのだという。
大平氏によると、ATカーニー在籍時に企業の経営層と話をしていて「株主からイノベーションを期待されたり、事業改善を求められたりするが、そのために必要な原資がない。そもそもの原資を生み出すためにコスト削減をお願いしたい」というリクエストが多かったそうだ。
本来このようなニーズは大企業に限らず中小企業でも抱えているもの。だが一定の予算や事業規模がないとマッチせず「(中小企業の経営者には)コンサルティングファームに相談したけど、費用が見合わず断られた人も少なくない」(大平氏)という。
間接費市場を抜本的に変革でき、かつより多くの経営者が挑戦できるように原資を生み出すサポートができないか。最終的に大平氏が行き着いたのが、それまでATカーニーでやってきたようなことをプロダクト化し、より安価に提供することだった。
大手コンサルの約1/10の価格でコストを適正化する
大平氏いわくLeanerは「めちゃくちゃ簡単なプロダクト」だ。
既存の財務・購買データ(3年分くらいのデータがあると望ましいとのこと)をアップロードするだけで、データを基に自社のこれまでや他社の動向と比較して割高な間接費目を一覧できる仕組みを構築。そこに専門的なナレッジを用いて「各費目がどのくらいコスト削減できる余地があるのか」を試算し、最優先で手をつけるべきポイントを示す。
つまり自社の間接費の中で「どの費目を、どのように改善するのがいいのか」を提案してくれるわけだ。
コスト削減の手順とサプライヤーについてもオススメのプランをレコメンドする機能を備え、トータルのコスト削減効果を定量的に評価するまでの工程をサポートする。
同業他社や業界水準との比較、削減余地の算出などはデータを基に機械的に対応。一方で各費目の改善プランなどはベースとなる部分は人間が作り、顧客の状況や条件に合わせて最適なものをテクノロジーでマッチングする。
ただしプロダクトを渡して終了という類のものではないので、カスタマーサクセスチームが定期的に担当者とコミュニケーションをとり、細かいチューニングを行っていく。
Leaner上にデータを蓄積することで、担当者が変わった際の引き継ぎや経営陣による確認がよりスムーズになる効果も見込める。
一般的にこのようなデータはほとんどの企業がエクセルを使って管理しているそう。担当者ごとに名寄せが変わることもしばしばで、そういった意味でも非常に属人化しがちな業務と言える。そこをクラウド上でわかりやすく、かつ統一したルールで管理・把握できる点はメリットだ。
Leanerではこれらの仕組みをミニマムで月額10万円から提供する。「ほとんど手間なく、既存のコンサルの1/10くらいの価格でコストを適正化できるのが最大の特徴」(大平氏)で、同サービスとコンサルティングファームの関係性は「税理士事務所とfreeeの関係性にも似ている」という。
またLeaner Technologiesには創業メンバー兼アドバイザーの1人としてクラウドワークス取締役社長兼COOの成田修造氏が参画している。
今回成田氏にも話を聞くことができたのだけれど「『SmartHR』などと近しい存在なのではないか。本来もっと効率的にやれるはずなのに、膨大な手間がかかっている領域。そこにテクノロジーを用いて、シンプルに、かつ安価にやれる仕組みを作った」のがポイントだと話す。
コンサルティングファームで培った知見とクラウド上に蓄積されるデータを活用して、導入企業の間接費管理とコスト削減を効果的にサポートする
総務担当者が正しく評価される仕組みとしても活用
当初こそマーケットの現状と経営者の課題に着目してLeanerの開発を始めたが、実際に現場の声を聞いたりトライアル版を試してもらったりする中で、大平氏はもう1つの大きな課題と提供できる価値に気づく。現場で必死にコスト削減に向き合う購買担当者の悩みだ。
「経営者からコスト削減してと言い渡されるが、何をやっていいかもわからなければ、トラッキングする仕組みもないので(成果を出しても)なかなか正当な評価を受けられない。結果的に頑張っても報われない傾向になりがちで、モチベーションが上がりづらい構造だ」(大平氏)
Leanerの場合だとどうなるか。誰にでもわかる形でコスト削減効果が見える化されるので、営業が顧客を獲得して売り上げをあげれば評価されるのと同じように、総務のメンバーも正当に評価されやすくなる。
実際Leanerの問い合わせの約半数は経営者から、そして残りの半数が総務担当者からなのだそう。コスト削減の正しいやり方がわかるのはもちろん、評価される軸ができるという点に対する反応は良いという。
間接材マーケットプレイスの展開も見据えて事業拡大へ
今回Leaner Technologiesではプロダクトのローンチと合わせて、インキュベイトファンドから5000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。
資金は主にプロダクト開発チームとカスタマーサポートチームの体制強化に用いる計画だ。同社には大平氏やCOOの田中英地氏などATカーニー出身のメンバーに加えて、成田氏とともにVapes創業者の野口圭登氏が創業メンバー兼アドバイザーとして参画している。
Leaner Technologiesのメンバー
初期のスタートアップとしてはなかなか豪華な顔ぶれだが、今回の調達を機に、かつてMonotaROの創業投資にも携わっていたインキュベイトファンドの本間真彦氏が投資家として加わったことも大きいという。
今後Leanerでは間接費の管理と最適な改善プランのレコメンドを軸にプロダクトを磨いていく方針。水平的に全ての間接費の状況がしっかりと管理された上で、担当者にとって1番良い製品やサービスが出てきたときに教えてあげられるようなプラットフォームにしていくのが直近の目標だ。
「アメリカの大企業だとCPO(最高購買責任者)という役職の人がいて、コストに対してものすごくシビアに向き合う。それが企業の営業利益や株価の差にも繋がっている。今まではコンサルにお金を払える企業だけがコスト削減を導入できたが、そうではない企業でも使える仕組みを通じて、日本企業を強くするサポートもできる」(成田氏)
大平氏や成田氏によると、中長期的にはLeaner自体にコマースの機能を組み込み「間接材全体のマーケットプレイスを担うこと」も考えているそう。大平氏も認めるように「なかな地味な領域」ではあるが、これからLeanerがどのようなポジションを確立していくのか。今後の動向にも注目だ。