GPSのような月面ナビネットワークをマステン・スペース・システムズが開発中

2023年に月面に着陸機を送ることを目指しているスタートアップ企業のMasten Space Systems(マステン・スペース・システムズ)は、地球におけるGPSのような、月面でナビゲーションとポジショニングを行うシステムを開発する。

このシステムの試作機は、Air Force Research Laboratory(米空軍研究所)のAFWERXプログラムを通じてMastenが受注した契約の一環として開発されており、実用化されたら人類初の地球外ナビゲーションシステムとなる。

これまで月に向かう宇宙船には、危険を検知してナビゲーションを補助する機器が搭載されていた。共通のナビゲーションネットワークが確立されていないことも、ある程度は納得できる。人類が月面に着陸したことは数えるほどしかなく、無人探査機の着陸は何度も行われているものの、未だ月面ミッションが定期的に行われるようになったわけではないからだ。

しかし、SpaceX(スペースX)のような企業による打ち上げ技術の革新もあって、軌道やそれより先へ行くためのコストが劇的に減少しているため、宇宙はもっとにぎやかになりそうだ。多くの民間企業や国の宇宙部門が、特に月に狙いを定めている。Mastenもその1つであり、同社は月の南極にあるHaworth Crater(ハワース・クレーター)付近のサイトにペイロードを届ける業者としてNASAに選ばれた。当初2022年12月に予定されていたそのミッションは、2023年11月に延期されている。

関連記事:SpaceXが2022年にMasten製の月面着陸機「XL-1」を初打ち上げへ、月の南極点へペイロード運ぶ

他の組織も月へ行くことを目指している。その中で最大規模のものは、2024年に2人の宇宙飛行士を月面に送るNASAの「Artemis(アルテミス)」計画だ。このようなミッションは、今後数十年の間にさらに増えていくことが予想されるため、共通のナビゲーションネットワークが必要になってくる。

「地球と違って、月にはGPSが展開されていないため、月宇宙船や軌道上の機器は、基本的に暗闇の中で運用されています」と、Mastenの研究開発担当バイスプレジデントであるMatthew Kuhns(マシュー・クーンズ)氏は声明の中で説明している。

このシステムは次のような仕組みになっている。まず、宇宙船が月面にPNT(ポジショニング、ナビゲーティング、タイミング)ビーコンを展開する。PNTビーコンによって、無線信号を放送する地表ベースのネットワークが構築される。宇宙船や他の軌道上の機器は、このネットワークに無線で接続し、ナビゲーション、タイミング、位置追跡の情報を取得する。

画像クレジット:Masten Space Systems

Mastenはすでに、PNTビーコンのコンセプトデザインを完成させるというプロジェクトのフェーズIを終えている。しかし、技術的な課題の多くは、PNTビーコンを開発するフェーズIIで直面することが予想される。ビーコンは月の過酷な環境に耐えなければならないため、Mastenは防衛・技術会社のLeidos(レイドス)と提携し、衝撃に強いビーコンの筐体を作ることにした。フェーズIIは2023年の完了を目指している。

「月面における共有ナビゲーションネットワークを構築することで、宇宙船のコストを数百万ドル(数億円)削減し、ペイロードの容量を増やし、月面で最も資源の豊富な場所の近くに着陸する精度を向上させることができるようになります」とクーンズ氏は述べている。

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カテゴリー:宇宙
タグ:Masten Space SystemsGPSアルテミス計画宇宙船

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

NASAが月試料収集プロジェクトに日本のiSpaceなど4社を選択、宇宙鉱業のパイオニア育成を目指す

NASAは、月の表土サンプルを収集し地球に持ち帰るプロジェクトへの参加企業を募集していた。多数の民間企業が応募した中からispace Japanなど4社が選択された。

選定された4社はNASAの月着陸ロケットへの機器の搭載をすでに予約している。NASAはペイロードに民間企業を加えることでプロジェクトのコストの大幅削減ができることを実証しようと考えている。またNASAは、月試料採集にあたって民間企業に支払いを行う。企業は取得した物質の一時的な所有権を持ち、独自の目的に使用した後でNASAに譲渡することとなる。今回のプロジェクトこうした方式の前例となるだろう。

選定は簡単な基準に基づいて評価された。つまり、まず技術的に実現可能かどうか、次にどれほどの費用がかかるかという2点だ。4社はそれぞれが異なる手法でNASAの要求条件を満たそうとしている。プロジェクトは50〜500g程度の月のレゴリス(要するに月の土だ)を採集して地球に持ち帰ることだ。地球での回収作業はNASA自身が実施する。2024年までにサンプルの取得を実現できるという点が要求仕様に含まれていた。これはNASAのアルテミスミッションに間に合うようにするためだ。NASAは実際にサンプルを購入する義務はないが、必要なら購入できるようオプションが設定されている。

選定された4社は以下のとおり。

Lunar Outpost:米国・コロラド州ゴールデン。契約金額はわずか1ドル(約104円)。2023年に完成予定のBlue Originの月着陸船を利用する。

ispace Japan:日本、東京。契約金額5000ドル(約52万円)。現在、2022年に設定されている最初のミッションでHakuto-R着陸船を利用して収集を行う。

ispace Europe:ルクセンブルグ。ispace Japanと同一のグローバル宇宙企業グループに属する。契約金額5000ドルで2023年の2回目のHakuto-Rミッションに参加予定。

Masten Space Systems:米国・カリフォルニア州モハベ。契約金額は1万5000ドル(約156万円)。2023年に自社開発のMastenXL着陸船を使用する予定。

NASAには16ないし17社から22の応募があった。このプロジェクトはNASAが官民パートナーシップという手法のメリットを実証することも重要な目的で、月のような地球外天体から試料を収集するための方式に1つの先例を作れるよう意図している。

NASAの国際関係・省庁間関係担当副長官代行のMike Gold(マイク・ゴールド)氏はこう述べている。

これが内部的にも外部的にも先例となり、民間企業とのパートナーシップというNASAのパラダイムを今後も前進させていくことと信じています。NASAはこれまでのようにシステム開発自体の資金を負担するのではなく、民間企業の事業に対して顧客として料金を支払う役割となります。

具体的にいえば、今回の契約は月試料の収集に関して民間企業が主導的役割を果たすこと、また試料の所有権を収集した企業が持つことについて重要な先例となるだろう。ゴールド氏はこう述べている。

宇宙開発においてロケット工学はむしろやさしい部分だと私は常々いっています。政府の政策、各種の法的規制、予算などの課題には対処することは非常に困難な課題です。こうした問題を事前に解決しておかないと公的部門と民間部門の協力によって生じる素晴らしい進歩がひどい遅延に見舞われかねません。民間セクターの能力を利用する先例を確立することは重要です。企業のリソースを使ってNASAがその成果物を購入利用できるようにすることはNASAの活動だけでなく、官民協力による宇宙開発、探査に新しいダイナミックな時代を開くでしょう。我々はまず月にやがて火星にたどり着くでしょう。

NASAは民間企業が月(将来は火星)に行き試料を収集し所有権を保持し後に、公的および民間の顧客に試料を売却することができるというビジネスモデルを確立することを望んでいる。

今回の選定にあたって入札価格が非常に低かったのはこれが理由の1つだ。ispaceやLunar Outpostのような企業は地球外天体の宇宙鉱業を含む未来的ビジネスモデルを持っていいる。さらに月着陸ミッションはすでに計画されており、NASAが今回の提案要項に明示したとおり、NASAは月着陸船の開発費を支払うことを考えていない点だ。 NASAは月に実際に収集された試料の料金だけを支払うというモデルとなっている。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook