【コラム】エネルギーエコシステムは不安定な未来に適応する「エネルギーインターネット」の実現に向かうべきだ

編集部注:本稿の著者Brian Ryan(ブライアン・ライアン)は、多国籍エネルギー企業National Gridのイノベーションおよび投資部門であるNational Grid Partnersのイノベーション担当バイスプレジデント。

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National Grid Partnersのイノベーション担当バイスプレジデントとして、私はNational Gridの現在の事業に有益なだけでなく、独立した事業になる可能性を秘めたイニシアティブの開発を担っている。だから私は、エネルギー産業の未来について確かな見解を持っている。

しかし、私は未来を映し出す水晶玉は持っていない。持つ人はいないだろう。イノベーションポートフォリオを適切に管理する職務において、私の仕事はすべてを挙げて1つに投じるというものではない。有限の資産を複数のバスケットに最適に配分し、最大の集合的アップサイドを実現するものだ。

別の言い方をすれば、世界や地域のトレンドは「次なる潮流(Next Big Thing)」が単一ではないことを明白に示している。それよりも、エネルギーサプライチェーン全体にわたるオープンイノベーションの推進と要素の統合が、未来に大きく関わっている。このようなオープンエネルギーエコシステムがあって初めて、エネルギー産業が直面する極めて不安定な(予測できないとさえいう人もいるかもしれない)市場状況に適応することができる。

このオープンでイノベーションを可能にするアプローチを「エネルギーインターネット」と捉え、それが今日のエネルギーセクターで最も重要なオポチュニティであると私は確信している。

インターネットアナロジー

エネルギーインターネットのコンセプトが有用だと思う理由はここにある。デジタルインターネット(ここで使用する用語にはその構成要素であるすべてのハードウェア、ソフトウェア、標準が含まれる)が登場する以前は、メインフレーム、PC、データベース、デスクトップアプリケーション、プライベートネットワークなど、複数のテクノロジーがサイロ化されていた。

しかし、デジタルインターネットの進化にともない、これらのサイロの壁は取り払われた。メインフレーム、コモディティハードウェア、クラウド内の仮想マシンなど、デジタルサービスのバックエンドにある任意のプラットフォームを利用できるようになった。

デジタルペイロードは、速度、セキュリティ、キャパシティ、コストの最適な組み合わせを選択して、世界中のあらゆる顧客、サプライヤー、パートナーと接続するネットワーク間で転送できる。ペイロードにはデータ、音声、動画があり、エンドポイントとしてデスクトップブラウザ、スマートフォン、IoTセンサ、セキュリティカメラ、小売店のキオスクなどが挙げられる。

この種々さまざまな物がうまく組み合わされた(mix-and-match)インターネットは、オープンなデジタルサプライチェーンを生み出し、オンラインイノベーションにおける画期的なブームを牽引した。起業家や投資家は、サプライチェーン全体のどこにいても特定のバリュープロポジションに集中することができ、サプライチェーン自体を継続的に見直す必要はない。

エネルギーセクターも同じ方向に向かうべきである。サーバープラットフォームのように、さまざまな世代のモダリティを扱えることが重要だ。データネットワークと同等にアクセス可能な送電網が必要であり、あらゆる消費エンドポイントに柔軟にエネルギーを供給できることが求められる。テクノロジー業界と同様に、こうしたエンドポイントでもイノベーションを促進する必要がある。

デジタルインターネットが、優れたアプリの構築や洗練されたスマートフォンの設計など市場に貢献するあらゆる場面でイノベーションに恩恵をもたらすように、エネルギーインターネットも、エネルギーサプライチェーン全体でより優れた機会を提供する。

5Dの未来

ではエネルギーインターネットとはどのようなものだろうか。まずデジタル化、分散化、脱炭素化という既存のモデルから始めて、さらに先を見据えた見解を示したいと思う。

デジタル化(Digitalization):イノベーションは需要、供給、効率、トレンド、イベントに関する情報に依存する。こうしたデータは正確性、完全性、適時性、共有性を備えていなければならない。IoE、オープンエネルギー、そしていわゆる「スマートグリッド」のようなデジタル化の取り組みは、エネルギー供給の物理、ロジスティクス、経済性を継続的に改善するために必要な洞察をイノベーターに提供する。

分散化(Decentralization):インターネットが世界を変えた理由の1つとして、集中管理された少数のデータセンターからコンピューティング力を取り出し、適切な場所に分散させたことが挙げられる。エネルギーインターネットも同じように機能するだろう。デジタル化は、オープンエネルギーサプライチェーンに資産を統合することで、分散化を促進する。しかし分散化は既存の資産の統合にとどまらず、必要な場所に新しい資産を広げることにもつながる。

脱炭素化(Decarbonization):脱炭素化はもちろんこの運用における核心だ。徹底したエネルギー活用を通じてあらゆる場所でエネルギー需要を満たす分散型インフラの上に構築される、よりグリーンなサプライチェーンを推進しなければならない。市場はそれを求めており、規制当局も要請している。したがって、エネルギーインターネットは単なる投資機会ではなく、実存的な必須事項である。

民主化(Democratization):インターネットに関連するイノベーションの多くは、テクノロジーを物理的に分散させることに加えて、テクノロジーを人口統計学的に民主化したという事実から生まれた。民主化とは、力(この場合は文字通り)を人々の手に委ねることである。エネルギー業界の課題に取り組む頭脳と手腕を大幅に拡充することは、イノベーションを加速し、市場のダイナミクスに対応する能力を高めるだろう。

多様性(Diversity):先に述べたように、未来を映す水晶玉を持つ人はいない。したがって、大規模なイノベーションに投資する際には、リスクを低減し、リターンを最適化するためだけでなく、可能性を高めるための戦略として多様化が必要となる。つまり、もしエネルギーインターネット(あるいは用語を選ぶならグリッド2.0)により、エネルギーサプライチェーンのすべての要素の協働が必要になると真に信じるのであれば、相互運用性と統合を促進するために、これらの要素にまたがるイノベーションイニシアティブを多様化しなければならない。

デジタルインターネットはまさにそのようにして構築された。標準化団体は重要な役割を果たしたが、標準化とその実装を主導したのはMicrosoftやCisco、さらにはトップVCたちであり、こうした業界プレイヤーがサプライチェーン全体の統合を推進することで、エコシステムの成功が実現した。

エネルギーインターネットでも同じアプローチを取る必要がある。そのための力と影響力を持つものは、個々の要素の改善とともに、エネルギーサプライチェーン全体にわたる統合の積極的な推進を支援すべきである。この目的を達成するために、National Gridは2020年、NextGrid Allianceという新しい業界団体を立ち上げた。この団体には、世界中の60を超える電力会社から上級幹部が参加している。

また、エネルギーエコシステムにおける思考の多様化も不可欠であると私たちは考えている。National Gridは、エネルギー産業に携わる女性とSTEMプログラムの学部に占める女性の割合が著しく低いことに警鐘を鳴らしてきた。その一方で、Deloitteの調査では、多様性に富むチームは革新性が20%高いことが示されている。NGPに在籍する私のチームの60%以上は女性であり、その視野の広さは、National Gridが全社的なイノベーションへの取り組みについて強力な洞察を得るのに大きく貢献している。

予測を超える多くの勝利

エネルギーインターネットのコンセプトは、抽象的な未来の理想というものではない。それがどのように市場を変えるのか、具体的な例を私たちはすでに目にしている。

グリーントランスナショナリズム:エネルギーインターネットは、デジタルインターネットと同じようにグローバルに展開しつつある。例えば英国は現在、ノルウェーとデンマークから風力発電による電力供給を受けている。国境を越えて分散化されたエネルギー供給を活用するこうした取り組みは、各国経済に大きな利益をもたらし、エネルギーのアービトラージに向けた新たな機会を創出するものだ。

EV充電モデル:電気を送り出すのはガソリンをくみ上げるようなものではないし、そうあるべきでもない。スマート計測および高速充電エンドポイント設計におけるイノベーションの適切な組み合わせにより、オフィスビルや住宅地などの自動車と利便性が同等の価値を持つ場所において、エネルギーインターネットが新たな機会を生み出すだろう。

災害緩和:テキサスで起きた最近の出来事は、エネルギーインターネットが存在しないことによる弊害を浮き彫りにした。責務を負う公益事業および政府機関は、インフラストラクチャのトラブルシューティングと地域社会の保護をより効果的に行うために、デジタル化と相互運用性を積極的に取り込む必要がある。

ここに挙げたものは、オープンでany-to-any型のエネルギーインターネットがイノベーションを促進し、競争を活性化し、大きな勝利を生み出すという、限りない進展のほんの一部にすぎない。その大きな勝利が何であるかを正確に予測することは誰にもできないが、確実に多く存在し、すべてに恩恵をもたらすだろう。

だからこそ、未来を映し出す水晶玉はなくても、私たちはデジタル化、分散化、脱炭素化、民主化、多様性にコミットすべきである。そうすることで、エネルギーインターネットを協働して構築し、公平で、経済的で、クリーンなエネルギーの未来を実現するのである。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:コラムエネルギー産業電力脱炭素自然災害電気自動車National Grid

画像クレジット:metamorworks / Getty Images

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(文:Brian Ryan、翻訳:Dragonfly)

公益事業の未来には自動化と機械学習が不可欠と米大手電力会社National Gridは考える

コーポレートベンチャーキャピタル企業のポートフォリオが、親会社の戦略的優先事項のシグナルと考えられるならば、National Grid(ナショナル・グリッド)は、公益事業の未来として自動化に大きな期待を寄せているようだ。

約2000万人の顧客基盤を持つ米国最大の民間公益事業会社の1つが、自動化と機械学習に重点を置いていることは、非常に重要な意味を持つ。そしてそれは、この産業がどこに向かっていくのかを示している。

ナショナル・グリッドのベンチャー企業であるNational Grid Partners(ナショナル・グリッド・パートナーズ)は、その立ち上げ以来、機械学習を事業の中核に据えた16のスタートアップ企業に投資してきた。最近では、機械学習アルゴリズムを使用して衛星画像を分析し、ナショナル・グリッドの送電線に植生が侵入するのを察知することで停電を回避するAI Dashを支援している。

もう1つの最近の投資先であるAperio(アペリオ)は、重要なインフラを監視するセンサーから得たデータを使用して、劣化やサイバー攻撃によるデータ品質の低下を予測する企業だ。

実際、同社が行った1億7500万ドル(約181億円)の投資のうち、約1億3500万ドル(約140億円)が機械学習をサービスに活用している企業への投資となっている。

「AIはエネルギー業界が積極的な脱炭素化と分散化の目標を達成するために、不可欠なものになるでしょう」と、ナショナル・グリッドの最高技術・イノベーション責任者であり、ナショナル・グリッド・パートナーズの創設者兼社長でもあるLisa Lambert(リサ・ランバート)氏は述べている。

2020年は新型コロナウイルス流行のために、ゆっくりとしたスタートを切ったナショナル・グリッドだが、投資のペースは回復し、今年の投資目標を達成する軌道に乗っている、とランバート氏はいう。

ランバート氏によると、この業界では、いまだにほとんどがスプレッドシートと集合的な知識に基づいて運営されており、従業員の高齢化が進み、退職した際には不測の事態に備えた計画もないため、近代化は非常に重要な課題であるという。そのような状況が、ナショナル・グリッドや他の公益事業会社に業務の自動化を迫る要因となっている。

「現在、公益事業部門のほとんどの企業が、効率性とコストの理由から自動化に取り組んでいます。今日では、ほとんどの企業がすべてをマニュアル化していますが、いまだに業界としては、基本的にネットワークをスプレッドシートと従業員のスキルや経験に基づいて運営しています。そのため、そのような人たちが退職してしまうと深刻な問題が発生します。Next Grid Alliance(ネクスト・グリッド・アライアンス)で話を聞いたすべての公益事業者は、自動化とデジタル化を最優先に考えています」。

これまでに自動化されてきた作業の多くは、ビジネスプロセスの基本的な自動化が中心だった。しかし、様々な活動を自動化してバリューチェーンを強化する新しい技術が現れていると、ランバート氏はいう。

「機械学習は次のレベル、つまりアセットの予測的な維持として、顧客のために提供されるものです。たとえばUniphore(ユニフォア)では、顧客とのあらゆる相互関係から学習し、それをアルゴリズムに組み込み、次に顧客に会ったときには、より良い結果が得られるようにします。これが次世代です」と、ランバート氏は語る。「すべてがデジタル化されれば、アセットからも人間からも、それらとの関係において学習することができるようになります」。

新しい機械学習技術に対するもう1つの需要源は、電力会社が急速に脱炭素化を進める必要性にあると、ランバート氏はみている。化石燃料からの脱却には、送電網の運用と管理においてまったく新しい方法が必要になる。人間がループの中にいる可能性が低くなるような方法だ。

「今後5年間で、ネットゼロの世界を実現するためには、電力会社は自動化と分析を正しく行う必要があります。つまりこれらのアセットを別の方法で運用する必要があるということです」と、ランバート氏は語った。「風車やソーラーパネルは、従来の配電網(の一部)ではありません。従来のエンジニアの多くは、おそらく革新の必要性について考えていないでしょう。なぜなら、彼らは数十年前にアセットが構築された時代に関連するエンジニアリング技術を発展させているからです。その一方で、(風車やソーラーパネルのような)再生可能なアセットは、すべてOT / ITの時代に構築されているのです」。

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:National Grid公益事業機械学習

画像クレジット:dowell / Getty Images

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(翻訳:TechCrunch Japan)