オンラインでプリペイド法人カードを即発行できる「paild」正式ローンチ、TC Tokyo2019ファイナリスト

フィンテックスタートアップのHandiiは8月24日、法人向けカード決済サービス「paild(ペイルド)」の正式ローンチを発表した。

paildは、法人カードをオンライン上ですぐに発行できる法人向けのプリペイド式ウォレットサービス。従来の法人カードとは異なり、paildでは、カードの発行や停止、上限金額設定、使用履歴の確認といった操作が、オンラインの管理画面で即、完結できる。

paildのカード発行画面と管理画面

また、従来のプリペイドカードのように1枚ずつ入金する必要がなく、会社のキャッシュを一括でチャージ可能。複数のカードで残高をシェアして、paildの管理画面上で各カードの上限設定を行うことで管理できる仕組みとなっている。チャージは現時点では、会社の預金口座からの口座振替で行える。

カードは国内外のVisa加盟店で使うことができ、バーチャルカードだけでなくプラスチックカードも発行可能だ。プリペイド式だからカード会社による与信審査や利用限度額の制約がかかることはなく、何枚でも発行できるため、各社員に配布して立て替え経費精算にかかる時間やコストを抑えたり、用途に応じて別々のカードを使い分けたり、という使い方もできる。

Handii代表取締役社長兼CEOの柳志明氏は「資金調達を実施済みのスタートアップで、お金はあるのにクレジットカードの与信枠が小さくて使える限度額が低いといったケースはよくある。paildなら、会社の与信とは関係なくチャージされた額が使えるので、事業に必要な月額サービスなどの決済にも安心して使ってもらえる」と話す。

Handii代表取締役社長兼CEO 柳志明氏

また新型コロナウイルスの影響でリモートワークが増えた関係で、法人カードの利用環境にも変化が出ていると柳氏はいう。「これまでは管理部門に1枚ある法人カードを、必要なときに必要な部門が持って行って決済に使うことが多かったが、リモートワークではこれができない。paildでは必要なタイミングでカードが発行でき、不要になればすぐに停止できるので、ベータ版ユーザー企業では、そこを便利だと認識していただけた」(柳氏)

paildのベータ版は4月にローンチされたが、こうした企業のニーズもあって、既に150社以上が利用。即時発行と決済管理の容易さだけでなく、カード明細と使用部門・社員の突き合わせの問題もpaildなら解決できると柳氏は話す。

「例えばバックオフィスの支援をするコンサルティング企業などで、クライアントが利用するSaaSをカード決済で契約するケースなど、同じサービスへの支払いがクライアントごとにいくつも発生して、どれがどのクライアントの支払いか分からなくなるということも。paildなら、クライアントごとに何枚でもカードが発行できるので、明細の突き合わせの手間を省くことができる」(柳氏)

サービスの初期費用・システム利用料は無料。プラスチックカードの発行手数料は2020年12月末までは無料で、以降は1枚580円がかかる。バーチャルカードの発行については2021年1月以降も無料。Handiiでは今後、新たな機能や付加価値サービスを有料で提供する予定だ。

「今のところ、社員数が一桁〜数百人規模の企業に利用されているが、今後、より大きな規模の企業が利用するようになれば、カードの利用制限や権限の持ち方などで新しい機能も必要になると考えられる。既存のクレジットカードにとらわれない機能を用意して、有料プランとしていきたい」(柳氏)

また、バックオフィス関連のSaaSとは積極的に連携していきたいと柳氏。「今や非金融系のSaaSには便利なものが増えている。一方でお金まわりのサービスではいまだに手作業が多く、従業員も経理部門も困っていることが多いので、その部分をHandiiでは解決したい。それ以外の領域については、既存サービスもあり、顧客が既に使っているということもあるので、連携によってトータルでより良い業務フローとなるよう、サービスを提供していきたい」と語る。

Handiiは2017年の設立。2019年6月にはニッセイ・キャピタルとCoral Capitalより総額3億円の資金調達実施を明らかにしている。また2019年秋に開催されたTechCrunch Tokyo 2019スタートアップバトルではファイナリストとして出場している。

Handiiのメンバー

発行も管理も全てオンライン完結、法人カードで企業の決済課題を解決するHandiiが3億円を調達

近年世界のFinTech領域の中でも急速な成長を遂げ、注目を集めているスタートアップ・Brex。

独自のモデルで法人用クレジットカードの概念をアップデートし、スタートアップへ新しい決済の仕組みを提供する同社は、サービスローンチから約1年半でユニコーン企業リストに名を連ねるまでになっている。

今回は国内でも大きな可能性を秘める「法人カード領域」に、Brexとは少し違った角度からアプローチしようとしている日本のスタートアップHandiiを紹介したい。

同社は6月25日、ニッセイ・キャピタルとCoral Capitalより総額3億円の資金調達を実施したことを明らかにした。調達した資金を活用して今秋リリース予定の法人向けウォレットサービス「paild(ペイルド)」の開発を強化する計画。本日より同サービスの事前登録受付も開始している。

Handiiは2017年の設立。これまでニッセイ・キャピタルなどから約1億円を調達しており、今回のプレシリーズAラウンドを含めると累計の調達額は約4億円になる。

発行も管理も全てオンラインで完結する法人向けウォレット

Handiiが現在開発を進めているpaildは、法人カードをオンライン上ですぐに発行できるプリペイド式のウォレットサービスだ。

同サービスは従来の法人カードとは異なり、カードの発行や細かい権限設定が全てオンラインの管理画面から行えるのが特徴。追加発行や発行したカードの停止、個別の利用上限額の設定などをスピーディーかつ余計な手間をかけることなく実行できる。

カードは約5300万以上のVisa加盟店で使うことができ、バーチャルカードだけでなくプラスチックカードの発行も可能。使い方自体はクレジットカードの場合と変わらない。

プリペイドタイプのため与信審査やそれに伴う利用限度額の制約もなし。何枚でも発行できるので各社員に配布して立替経費精算にかかる時間やコストを削減するのにも使えるし、用途に応じて別々のカードを使い分けるというやり方もありだ。

ヒアリングで気づいた法人決済に関するペイン

Handii代表取締役社長兼CEOの柳志明氏は東京大学大学院を経てJPモルガンに入社。国内外のテック企業を中心にM&Aや資金調達のアドバイス業務に従事した後、2017年8月に創業している。

高校の同級生で三菱東京UFJ銀行のクオンツとして働いていた森雄祐氏(CTO/共同創業者)に声をかけ2人で事業案を検討し、当初は「無人ジム」事業を展開しようと動き出していたそう。最終的には事業ドメインを変更し、2人のバックグラウンドとも関連性の高いFinTech領域で再スタートを切った。

FinTechの中でも法人カード分野から事業をスタートしたのはなぜか。まさにBrexを始めとしたカード型のスタートアップが海外で急成長を遂げ「解決している課題が面白いと関心を持った」ことに加え、柳氏自身が起業後に直面した課題が大きな影響を与えているという。

「会社を設立した時に作った企業用のクレジットカードは上限金額が30万円。そのうち20万円くらいは固定で使っていたため『新しく広告を打ちたい』と思った時に上限枠を引き上げる必要があったが、結局60万円までしか上がらなかった。手元にお金自体はあったのにクレジットの上限の関係で十分に広告を打てない状況に陥って困った経験がある」(柳氏)

周囲に話を聞いてみたところ、どうやら同じような課題を抱える人が多いことがわかった。特にスタートアップの場合は資金調達をして手元にそれなりのお金があるものの、売上はまだ立っていないためクレジットの上限が限られてしまうケースがある。

その結果、30〜40社にヒアリングをしてみると「カードが止まってしまった経験のある企業」が一定数いたそうだ。

またヒアリングをする中で、スタートアップに限らず中堅規模の企業なども含めて「立替経費の精算」に関して課題を感じている企業が多いこともわかってきたという。

「経費精算に関するデータをエクセルなどに打ち込んで申請するのも、担当者がそれを個別で確認するのも大変。たとえば出張が多いような人だと金額も多くなり自腹で立て替えるのが苦しいので、(従業員側から)経費精算のスパンを短くして欲しいなど色々な要望もある」(柳氏)

柳氏によると、とある業界や企業では「仮払金」という形で会社から従業員に一定の金額をあらかじめ支給しておき、後からレシートなどを見て差し引きするような仕組みがあるそう。その場合もやはり担当者の負担が大きくなるほか、社員から盗まれるリスクも考慮しなければならない。

法人にとって最適な決済手段の開発へ

各社ごとにそれぞれ状況は異なれど「法人カードや法人決済」の領域に大きなペインと可能性があることはヒアリングを通じて明確になった。それらの課題を「プリペイド式の法人カードサービス」という形で解決しようというのがHandiiのチャレンジだ。

概要は上述した通りだが、プリペイド式にすることで入金した金額の分だけ使うことができるため与信枠で悩むことはない。またカードに関連するアクションを全てオンラインからスピーディーに実行できる仕組みを整えることで、各社のニーズに合わせた使い分けができるようになる。

「人の入れ替わりや紛失時のカード発行・利用停止はもちろん、各カードの上限金額の変更なども臨機応変にできる。経費精算もカードに置き換えればデータをすぐに飛ばせるので、面倒な業務の負担を軽減することにも繋がる」(柳氏)

経費精算については自社でプロダクトを開発するわけではなく、API連携などを通じて他社ツールと繋いでいく方針とのこと。この領域ではクラウド経費精算サービス「Staple」を運営するクラウドキャストが法人向けのプリペイドカードを準備していたりもするので、やはり大きなペインがある分野と言えそうだ。

今回Handiiでは資金調達と合わせて、paildのリリースに向けてオリエントコーポレーション(オリコ)と提携したことも発表している。今後は調達した資金を活用して組織体制の強化を進めるほか、オリコと共同でpaild の国際ブランド対応業務や、Handiiが今後提供する新しい金融サービスについても検討していくという。

「そもそも現在の法人用カードや決済サービスが最適なのか、本当にプロダクトマーケットフィットしているのかと常に考えている。たとえば日本は個人向けのカードの方が普及していることもあり、法人用のカードにも個人と同じポイントプログラムがついていたりする。でも本来企業が求めているのは複数のカードを管理したり権限を設定したりなど、個人用とは全く別の機能だ」

「そういった意味では法人の決済領域はまだまだ未開拓で、色々なチャレンジができる余地がある。従来の法人カードにはない機能や使いやすさを通じて、法人向けの新しい金融インフラを整備していきたい」(柳氏)