B Dash Venturesが100億円規模のICOファンド設立へ、ICOで大成功したQUOINEも参画

今年、いろいろな意味でかなりの注目を集めたキーワードは何かと聞かれると、「ICO」と答える人も多いのではないだろうか。そのICO分野でまた大きなニュースが飛び込んできた。日本のVCであるB Dash VenturesがグローバルICOファンドを設立するのだ。

B Dash Venturesは2017年10月、仮想通貨への投資事業やICOコンサルティング事業を行うことを目的に新会社「B Cryptos」を設立しており、今回発表されたICOファンドの運営は同社が行うことになる。

写真左より、B Dash Ventures代表取締役の渡辺洋行氏、B Cryptos代表取締役の本吉浩之氏、QUOINE代表取締役の栢森加里矢氏

TechCrunch Japan読者のなかには仮想通貨まわりに詳しい人がいることは承知の上で説明しておくと、ICOとはイニシャルコインオファリングの略で、資金調達を行いたい企業が独自の仮想通貨(トークン)を発行することで資金を集めることを指す。企業が発行したトークンが仮想通貨の取引所へ上場をすれば、株式と同じように取引所経由で売買ができるようになる。また、トークンのなかには発行企業が提供するプロダクトやサービスの購入にも使えるものもある。

B CryptosのICOファンドはこれから組成していくという段階だから、どのようなLP(出資者)の顔ぶれになるのか、ファンド規模がどれくらいになるのかはまだ分からない。しかし、B Dash Ventures代表取締役の渡辺洋行氏によれば「ファンド規模は100億円ほどになる」見込みだという。これは、米Pantera Capitalが設立した1億ドルのICOファンドに匹敵する規模だ。

B Cryptosがファンドとして利益をあげる仕組みはこうだ。同ファンドは、ICOでトークンを発行したスタートアップ企業への出資の対価として、上場前のトークンを受け取る。基本的には、トークンが取引所に上場して価格が上昇したところで売却し、利益を得る。従来のエクイティ投資でいえば、これは未公開株式への投資にあたる。第三者割当増資などでスタートアップの株式を引受け、株式市場への上場(IPO)のタイミングで株式を市場に放出することだ。

しかし、B Cryptosはそういった上場前のトークン投資だけでなく、上場後のトークンにも投資を行っていくという。その割合は「外部環境がどうなるかによって変わる」(渡辺氏)ということだが、ファンドとして比較的大きな利益を狙いやすいのは上場前のトークンを取得することには変わりはない。

ICOファンドの出資者として考えられるのは、通常のVCファンドと同じく、事業会社や機関投資家、個人投資家などだ。また、その出資者リストのなかに他のVCが含まれる可能性も大いにあるだろう。VCによっては、ファンド組成時の規約もあって暗号通貨に直接投資できないこともある。前述したPantera Capitalの場合は、そういったVCが出資者としてICOファンドに参加した例もある。

登録仮想通貨交換業者であるQUOINEがファンド運営のサポート

今回組成する予定のICOファンドでは、2017年9月に仮想通貨交換業登録(関東財務局長第00002号)を受けたQUOINE(コイン)が参画する。B Dash Venturesによれば、これによりB CryptosのICOファンドは「登録仮想通貨交換業者がサポートする日本初のグローバルICOファンド」になるという。

QUOINEはみずからもICOを成功させたことでも有名だ。QUOINE CFOの紺野勝弥氏によれば、同社は2017年11月に行った独自トークン「QASH(キャッシュ)」の売り出しにより、日本円にして約100億円を調達。ICOに参加した投資家は、世界98カ国4988人だったという。ディスカウントも含めた売り出し価格が26円だったQASHは、現在100円付近の価格をつけるまでになった。

それと、ちょっとややこしいのだけれど、QUOINEはB Dash Venturesの投資先の1つでもあり、仮想通貨取引所「QUIONEX」を運営する企業でもある。また、B Criptosの投資委員会にはQUOINEから人材が拠出されることにもなっている。つまり、投資案件によっては、QUIONEXに上場予定の企業に投資するかどうかを検討する場にQUIONEの社員がいるというケースも出てくるだろう。

それについて渡辺氏は、「(以上のようなケースの場合、)利益相反になることを防ぐため、投資委員会ではQUOINE、B Dash Venturesに加え、外部の有識者の方に入って頂き、公正で的確な投資判断を行う」としている。

そのうえで、B CryptosのICOファンドにQUOINEが参画することによるメリットとはなんだろうか。B Cryptosによれば、QUOINEが今回のICOファンドに果たす役割は以下の通りだ。

  • ICOファンドの投資委員会に人材を拠出
  • 投資案件のソーシング
  • QUOINEがもつセキュアな取引所システムの活用(例えば、ウォレット管理システムの活用による資産保全、アービトラージ取引でのシステムの活用)

まあでも、おそらくQUIONEが参画することでB Cryptosが得られる一番のメリットは、このICOファンドの信用度が高まるということではないだろうか。ICOには大きな期待が寄せられている反面、いわゆる「ICO詐欺」が現れるなど、不安視する声があることも確かだ。これから出資者を集めるフェーズに入るB Cryptosにとっては、そのような不安を払拭することが重要になってくる。

「ファンドの構想から約半年かかった」と渡辺氏が話すB CryptosのICOファンド。彼らはこれから、どのような出資者からどれだけの金額を集めるのだろうか、そしてどのような企業に投資をしていくのだろうか。

また日本から大型ICO、今度は金融向け独自チェーン開発でQUOINが11月6日に開始

仮想通貨取引所を運営するQUOINEは、11月6日より同社が発行する仮想通貨「QASH」を仮想通貨建てで販売し資金調達するICO(Initial Coin Offering)を実施する(発表資料)。1QASHあたり0.001ETHで販売し最大5億QASHを発行する。最大枚数を販売した場合の調達額は約174億円相当(記事執筆時点のETH時価で換算)と大型のICOとなる。

調達した資金は、同社が今後開発する仮想通貨取引所および機関投資家向けプラットフォームLIQUIDの開発、後述するQASHブロックチェーンの開発、それに流動性確保のために複数の仮想通貨取引所に置くデポジット(前払い金)に充てる。またICOで販売するQASHは、ICO終了後はただちにQUOINEほか複数の仮想通貨取引所に上場し、取引可能となる予定だ。「上場の日程は12月1日にしたいが、11月にビットコインの再度の分岐が発生する可能性があり、その対策でICOの時期が伸び縮みする可能性がある」とのことだ。

同社CEOの栢森加里矢氏は「自分達の取引所に上場するだけでなく、すでに提携を発表している香港の大手仮想通貨取引所Bitfinexのほか、複数の仮想通貨取引所にQASHを上場する予定だ」と話している。

同社が発表文で強調するのは「金融庁登録の仮想通貨交換業者として世界で初めて法令を遵守した形でICOを実施する」という点である。栢森氏によれば「今回ICOで発行するデジタルトークンQASHを取引所QUOINEに上場することに関して、法律事務所立ち会いのもと金融庁に説明し、口頭で了解をもらった」とのことだ。今までの日本のICOの法的解釈は、デジタルトークン販売の時点では仮想通貨扱いではなく、販売したデジタルトークンが仮想通貨取引所に上場されて広く一般に売買できるようになった時点で「仮想通貨」になる。また日本の取引所に上場するにあたっては金融庁がそれを認める必要がある。QUOINEが強調する今回のICOのポイントは、日本の仮想通貨取引所に仮想通貨として上場することで金融庁も了解している、ということになる。ただし口頭での了解ということなので、第三者が確認できるエビデンスがある訳ではない。

同社のICOホワイトペーパーから開発ロードマップの図を引用した。ICOの終了後、QUOINEの取引エンジンを中核として資金流動性や機関投資家向け各種サービスを提供する新プラットフォームLIQUIDを構築する(なお、米BlockstreamもLiquidと呼ぶ製品を提供しているが両者の関係はない)。

LIQUIDの狙いは、機関投資家が仮想通貨分野に参入してきたときに、それに耐えられる流動性とサービスを提供することだ。「今後、投資銀行やヘッジファンドのような機関投資家が仮想通貨に参入する。そこで求められるのは、現状の仮想通貨取引所では処理できない大きな単位の取引や、資金移動やレバレッジなど機関投資家向けのサービスだ。そこで、複数の仮想通貨取引所を束ねて流動性を提供し、サービスを提供する」(栢森氏)。

QASHは、当初はERC20トークン(Ethereum上で発行するデジタルトークンの仕様で、多数の仮想通貨発行に使われた実績がある)として発行する。今後開発する「QASHブロックチェーン」が立ち上がった後は、そちらに移行する予定だ。金融機関向けシステムに実績があるウルシステムズがQASHブロックチェーンの開発に参加する。なおウルシステムズの持ち株会社ULSグループは、2016年9月にQUOINE株を引き受け資本提携を結んでいる。

ところでQASHブロックチェーンとは何なのだろうか? 栢森氏は「大手銀行ではなくFinTechスタートアップを主な利用層とする、金融向けのパブリックブロックチェーンだ」と説明する。

背景として、今の金融サービスのニーズと、既存のブロックチェーン技術との相性は良くないと栢森氏は考えている。例えば最大の仮想通貨でありパブリックブロックチェーンであるビットコインは、金融機関から見ると誰が責任を負うのかが見えにくい。またマイナーが中国に偏っていることにカントリーリスクがあると考える人もいる。金融分野向けというとRippleやR3の名前が思い浮かぶが、彼らは大手銀行向けのプライベートなインフラ技術を提供しようとしている。「大手銀行向けのビジネスは時間とコストがかかる。一方、金融サービスと親和性があるパブリックブロックチェーンはエアポケット。まだ誰も手を付けていない」と栢森氏は説明する。

栢森氏の説明によれば、QASHブロックチェーンは、金融機関が求める処理性能、AML/KYC(アンチマネーロンダリング/本人確認)の機能を備え、またノードが特定の地域に偏らないようにする管理機能を設ける方向だ。具体的な開発はQASHのICO終了後に始まる。QASHブロックチェーンは2019年2Qにローンチする計画である。

ビットコイン取引所QUOINEが本社を日本に移し15Mドルを調達、金融サービス事業者向けB2B展開に本腰

QUOINE

ビットコイン取引所を運営するQUOINEは、ジャフコをリードインベスターとして15Mドルの資金を調達した(プレスリリース)。今後、日本を含むアジア市場でビットコイン取引所の市場1位を狙う。日本の仮想通貨法(改正資金決済法)成立を受け、複数の金融サービス事業者向けに同社の仮想通貨取引エンジンをOEM提供するB2Bの事業にも本腰を入れる。

QUOINE(「コイン」と読む)は2014年11月にシンガポールで設立されたが、今回の資金調達に先立って2016年3月末に本社機能を日本法人に移し、また2016年4月1日付けで栢森 加里矢(かやもり かりや)氏がCEOとして着任している。栢森氏の前職はソフトバンクグループのシニアバイスプレジデントでアジア統括を担当。今までは投資家の立場でQUOINEに参画してきた。なおQUOINEは2014年末に1.8Mドルの資金を調達している。

日本のビットコイン取引所を運営する企業の資金調達の事例を見ると、2016年4月にbitFlyerが約30億円を調達し(関連記事)、2016年4月から5月にかけてビットコイン取引所Zaifを運営するテックビューロが約7.2億円を調達している(関連記事追加調達のプレスリリース)。今回の15Mドル(プレスリースは「約17億円」と表記)は大きい数字だ。なお、海外メディアではこの後の追加調達の金額を含めて「QUOINEが20Mドルを調達」と報じている記事もある。

B2Bで仮想通貨取引エンジンを提供

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QUOINEのCEOに就任した栢森 加里矢氏。

取材で印象に残ったのは「B2Bに本腰を入れる」との方向性を聞けたことだ。自社の仮想通貨取引エンジンのB2B展開に取り組む。「我々の強みは毎秒100万件をアップタイプ99.99%で処理できる堅牢な仮想通貨取引エンジンにある。これを複数の金融事業会社に提供していく。すでに使って頂いている事業者もいる」(栢森氏)。

B2B強化を打ち出した背景には、日本でこの2016年3月に仮想通貨を扱う法案(改正資金決済法)が提出されて5月には成立したことがある。「法案成立により、今後は仮想通貨取引所だけでなく従来の証券会社やFX業者など金融サービス事業者が仮想通貨をサービスに加える。それらの企業に仮想通貨の取引用取引エンジンを提供していく」(栢森氏)。

栢森氏は、携帯電話ビジネスに例えて「MVNE(仮想移動体サービス提供者)のようにイネーブラーの立場になる」と付け加えた。大手の携帯電話事業者(MNO)の回線を借りてビジネスをするMVNO(仮想移動体通信事業者、いわゆる「格安SIM」の事業者)のイネーブラーとなるMVNEのように「多くの個性的なプレイヤーが仮想通貨ビジネスを立ち上げられるイネーブラーになりたい」。

金融機関の技術、ノウハウを仮想通貨ビジネスに

QUOINEシンガポール法人の前CEOだったMario Gomez Lozada氏は、栢森氏のCEO着任以降はQUOINEのCTO、プロダクト担当プレジデントとして事業を支える。栢森氏の説明によれば、QUOINE設立のきっかけはクレディスイス日本法人のCTO/CIOだったMario Gomez Lozada氏と栢森氏が共鳴したことだった。「Marioは、メリルリンチとクレディスイスで金融プラットフォームを作ってきたプロ。仮想通貨ビジネスの新しい世代を担うのは彼のような人材だ」(栢森氏)。栢森氏がQUOINEの取引エンジンに自信を持っているのも、金融機関譲りの技術やノウハウが強みになると考えているからだ。

「仮想通貨取引所のハッキング事件も内部犯行による例が多い。我々は金融機関のノウハウを生かした厳しいプロセスを定めている」(栢森氏)。

ブロックチェーンによる「金融の民主化」の波に乗りたい

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QUOINEのビットコイン取引高の推移。

 

B2Bに本腰を入れる一方で、従来からのビットコイン取引所のビジネスも拡大していく。QUOINEの1日あたりビットコイン取扱高を見ると、2015年10-12月の四半期が4700BTC/日、2016年1-3月の四半期で7388BTC/日、2016年4月〜5月の2カ月で1万2507BTC/日と、急激に数字が伸びている(グラフを参照)。背景としてビットコイン市場全体の取引高が急増していることがあるが、QUOINEがビットコイン市場の活性化に対応して、着実に実績を上げていることを数字が示しているともいえる。

ビットコイン取引所は日本に複数ある中で、QUOINEはまだ知名度が低い。シンガポールが本拠地だったこともあり、日本でのメディア露出も乏しかった。「今までマーケティング活動はほとんどやってこなかった」(栢森氏)。今後は、日本を含むアジア市場で積極的にビットコイン取引所としてのシェアを拡大していきたい考えだ。「アジア市場で1位を狙う」。中国市場への参入は難しいと見ているが、一方でこれまでのキャリアを振り返りつつ、「ソフトバンクグループではインド事業を1から立ち上げた。インド市場は必ず取りたい」(栢森氏)と話す。

資金調達後の見通しを聞いた。「金融サービスは公共性、社会性が重要だ。長く続け、大きなビジネスにしたい」。栢森氏に言わせれば、現状の仮想通貨ビジネスの規模は他の金融分野と比べてまだまだ無視できるほど小さく「今後1000倍以上にスケールする可能性がある」と見ている。栢森氏の構想によれば、仮想通貨取引所の次の段階は「ユビキタスウォレット」だ。法定通貨(ドル、円など)建て金融サービス(クレジットカード、デビットカード)、仮想通貨、企業ポイント、ギフトカード、プリペイド通信料など、複数のサービスを一般消費者が(例えばスマートフォン上で)ワンストップで利用できる「ユビキタスウォレット」が普及すると見て、QUOINEはウォレットの事業者に取引エンジンを提供していく。事業会社のB2Cの情報システムとブロックチェーンの間の橋渡しをし、ワンストップで必要な機能を提供してくれるサービス(あるいはミドルウェア)の需要は今後高まっていくはずだ。

「ブロックチェーンで民主化された未来の金融機関を作り上げていく」と栢森氏はビジョンを語った。