最近Appleのビルボード(大きな野外広告看板)の近くに行った事はあるだろうか。おそらく立派な写真の下に「Shot on iPhone(iPhoneで撮影)」という文字を見たのではないかと思う。あなたは写真家として羨ましさに苛まれたかもしれない。なぜあなたの写真があそこにあって世の中で見られていないのだろう?
Jordan IsonはAppleの最新のキャンペーンに採用された写真家の一人である。この世界最大のアート展示に彼の作品が採用された経緯を知るために彼の話を聞いた。
最初の接触
「沢山の写真を撮影していますが、それらの写真に対するスパムメッセージも同時に沢山受け取っているのです」とIsonは言う。「今回のケースでも、私は同じ代理店の2人の異なる人物からとても謎めいたメールを受け取ったのです。しかし、そのメールには何か引っかかるものを感じたので返信をしたのですが、今ではそうしてよかったと心から思います!」。
Appleが「iPhoneで撮影」キャンペーンに採用した写真
この新進気鋭の写真家がメールに返信したところ、次に代理店が行ったことは信じられないくらい厳しい内容のNDAを提示したことだった。それにサインしたことで、彼はいかなる理由であっても、誰に対しても、何も話せなくなった。実際Isonは代理店の名前を出すことさえ躊躇っていたのだ。
「どれくらい秘密主義が徹底しているのかきっと信じられないですよ」とIsonは笑う。「私たちは2016年のキャンペーンに採用された人たちのためのFacebookグループに参加しているのですが、参加者が代理店とコミュニケーションを行う際に、Facebookグループの中で絶対に名前を使わないんですよ。いつでも『my contact』と『the agency』が使われて、名前が使われることはありません」。
Isonが代理店の名前を明かすことは決してなかったが、ここで話題になっている広告代理店がTBWAであることは公然の秘密だ。TBWAは関連会社であるMedia Arts Labを使って写真家に接触しているのである。
選考過程
最初のiPhone 4を買ったときに、Isonの撮影の旅は始まった。
彼の写真を採用したサンフランシスコのビルボードの前に立つJordan Ison
「iPhoneを買うまでは写真を撮ったことなんてなかったんですよ」とインタビューに持参したRolleiflex(iPhone とはずいぶん違ったタイプのカメラだ)のカメラストラップを弄びながら彼は語った。「でも写真を撮ってInstagramに投稿し始めたら、新しい趣味に目覚めたんですよね」。
当初からIsonは、Instagramに投稿する彼の写真に対して#shotoniphoneというハッシュタグをつけていた。それが最終的には世界中のビルボードに彼の写真を着地させることにつながる習慣の始まりだったのだ。
代理店が「iPhoneで撮影」キャンペーンの採用候補者に送ったメッセージはとても簡潔なものだった。「私どものお客様があなたの写真を、とある用途に使いたがっています」。メールは謎かけのようだった。その何かのプロジェクトはコードネームを知らされただけだったそうだが、Isonはその名前を私に教えることも拒んだ。まるでスパイ映画のようだ。
「プロセスは興味深かったですね。彼らは何の手がかりも与えてくれませんでした。本当の最後になるまで、それが「iPhoneで撮影」キャンペーンだということも言いませんでしたね」と彼は肩をすくめた。
「彼らは実際には、最初は別の写真について私と話をしたがったのです」、IsonはBonneville Salt Flatsの素晴らしい写真をiPhoneで見せながら話した。「それでも、もし他に見ることができる写真があれば見せて欲しいとも言ってきました。そこで彼らに半ダースほどの写真を送ったのですが、それが正解でした、最初の写真ではなくて、他の写真を使うことになったのです」。
Appleの広告代理店が最初に使おうとした写真
「彼らはInstagramの上のハッシュタグを使って画像を見つけたんですが」とIsonは説明した。「しかし、彼らは私のTumblrも見ていたんでしょうね。私はInstagramのアカウントではメールアドレスを公開していないので」。
更なる試練
「私が送ったそれぞれの写真に対して、代理店は中身をぎっしり書き込むアンケートに答えるように要求してきました。彼らは私がその写真を撮ると決めた事情やその裏にある物語を知りたがりました」とIsonは続けました。「写真のコンテキストは、彼らにとって本当に重要であるように見えました。誰が、なぜ、どこで、そして何を、について詳しく知りたがったのです」。
代理店はまた、写真家自身が著作権を所有していることへの誓約書と、写真を商用目的で代理店に使用させる許諾書への署名を求めた。写真家は画像の利用に対して支払いを受けるが、それはおそらく読者が想像するほど多額ではない。
目を引く写真を、世界中のポスターやビルボードで見ることができる。どれほど大規模な美術展だろう!
「まあストックイメージに対して通常払われる金額よりは、随分良いペイでしたけどね」、正確な金額は教えてくれないながらもIsonはこう話した。
「2000ドル位ですかね?」と私は適当に尋ねてみた。
「それよりは少なかったですけどね」とIson。
「代理店は、まだ写真に対する選択と鑑定が続いていること、その中で私は候補の一つであることを仄めかし続けました。しかし同時にビルボードが仕上がる瞬間まで何も最終決定ではないということも念押ししていましたね」とIsonは謎に満ちた4か月のプロセスを付け足した。
結局ビルボードが世界中で公開される4日前まで、彼は自分の写真が選考を勝ち抜いたことを知ることはなかったが、やがて自分の写真があらゆる場所で使われていることを知ることになる。沢山の雑誌の中や、世界中の小さなビルボードとして。そして最大の栄誉は、サンフランシスコ、ミネアポリス、ミラノ、ベルリン、クアラルンプール、パース、広州に出現した壁画サイズのビルボードだった。
Isonは言う「キャンペーンに採用されることは素晴らしいけれど、少し屈辱的なところもありましたね」。しかしそのことが彼の写真のキャリアに対して与える影響に関しては現実的に捉えている。「このことで、私はより多くの注目を集めるかもしれませんが、そうはならないかもしれません。私にとって大事なことは、このことが写真を撮り続ける気持ちに拍車をかけたということですね。私の写真が、このようなキャンペーンに使われる目的に、十分良いものであることを知ったことは本当にやる気にしてくれます」。
「iPhoneで撮影」キャンペーンの写真家たちはFacebook上でお互いをフォローしていて、世界中の建物にあるお互いの写真をシェアしあっている。これは、グループのメンバーの一人が広州(中国)のショッピングモールの壁を覆うIsonの写真を見つけたときのものだ。
「iPhoneで撮影」キャンペーンに採用されるには
今年のキャンペーンは「色」と呼ばれた。それぞれの写真はほぼ単色のトーンだ。
次の機会にはあなたの写真にスポットが当たり、採用され、ビルの側壁一面を覆いたいだろうか。それも世界中の国々で?
選択されるための魔法の弾丸は存在しないが、候補の山の頂上付近にあなたの写真を浮かび上がらせる可能性を増すための5つのヒントを紹介しておこう。
- Appleが製造している最新のiPhoneで撮影する。 あなたがiPhone 5で素晴らしいショットを撮れるかどうかは関係ない – 彼らはただiPhoneの最新モデルを宣伝したいだけなのだから。
- Instagramの写真にはマメにタグをつけること、そしてあなたのInstagramのフィードの残りの部分も、同様に高品質であることを保つこと。#shotoniphoneと#shotoniphone6sでタグ付けするのは良いアイデアだが、写真をテンコ盛りのハッシュタグでスパム化する誘惑には耐えること。
- 元のファイルを保存しておくこと。 Appleは対象となる写真が、本当にあなたが撮影したものか、そして間違いなくあなたが使ったと主張している電話機(ここではiPhone6s)で撮影されたものかを確認する。
- 連絡先を見つけやすくしておくこと。 代理店は何千人もの候補の中から選別を進めている。もしあなたに電子メールを送ることが難しいようなら、彼らは手間をかけることはしない。
- メールから目を離さないこと − 肩をいつ叩かれるか、あらかじめ知ることはできないのだ!
- 素晴らしい写真を撮ること 。まあおそらくこれが秘訣ナンバー1であることに間違いはない。
さあやってみよう!
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(翻訳:Sako)