Sinovation Venturesを創業したKai-Fu Lee博士の中国製SNSのアカウントには、5000万人ものフォロワーがおり、彼はそこで中国のテクノロジーの将来を予測する賢者のように扱われている。TechCrunch Beijing 2016で彼は、中国のスタートアップ業界の重要なトレンドについて私たちに話してくれた。
Sinovation Venturesは先日、中国とアメリカのファンドから6億7500万ドルを調達しており、現在では300社以上の企業に出資している。Kai-Fu Leeは「1社につき1500万ドルまで投資ができる規模になった」と話している。
そして、これからのSinovation Venturesにとって最も重要な分野となるのが人工知能だ。自動運転技術は大勢から注目されている分野だが、Kai-Fu Leeはそれに加えて、画像認識技術、人工知能の金融分野への応用技術、そしてAIを利用したヘルスケア・スタートアップに狙いを定めている。ここ数年でSinovation Venturesが出資した企業うち、その約半数はAI関連企業だ。
「AIはあらゆる職業や業界に変化をもたらしました。AIが関与していない分野など無いといっても過言ではありません」とKai-Fu Leeは話す。「例えば、AI技術の教育分野への応用は想像がしやすいでしょう。従来の教育のほとんどは、AIによる教育に切り替えられる可能性があります。医療や医薬品分野もAIが活躍する分野です」。
もちろん、AIにはまだ根本的な問題が残されている。AIが人間に取って代わることで、人間の職が奪われてしまうのだろうか?Kai-Fu Leeもこの問題に気づいてはいるが、それに対しては楽観的な意見を持っている。
「AIはとてもよく働くだけでなく、それにかかるコストは非常に低い。それによって人類全体はこれまでより多くのリソースを持つことができ、AIのおかげで全ての人々に経済的な保障を提供することができるかもしれません」と彼は語る。「生産性が低い繰り返しのタスクをこなすことが、人類が地球上に存在している理由ではないでしょう」と彼は続けた。
彼によれば、人工知能の誕生によって最も影響を受けるのは貨物運輸の分野だという。その中でも、まず初めに影響を受けるのがトラックの運転手だ。「だからこそUberがOttoを買収したのです」と彼は話す。
一方で、彼はヘルスケアに関してより慎重な考えを持っており、AIがヘルスケア分野で利用されるようになるまでには時間がかかり、変化は徐々に進んでいくだろうと話す。「この分野が少し特殊なのは、そこに人の命が関わってくるからです。この分野でAIが使われるとすれば、それは人間のアシスタントとしての役割でしょう」う。
彼らはAI分野に力を入れてはいるが、複雑なテクノロジーだけにフォーカスしている訳ではない。Sinovation Venturesはこの他にも、エンターテイメント分野やコンテンツ制作系の企業にも投資をしている。様々なTV番組にも投資しており、これはVCとしては珍しいことだ。
「米国ではより小さい規模の投資をするようにしています。そうやって市場に入り込むことで、彼らから学ぶことができるからです」とKan-Fu Leeは話す。ハードウェアや玩具の分野に投資することも考えられるだろう。
最後に、Kai-Fu Leeは中国の消費者製品の動向について話してくれた。「モバイル・インターネットという分野では、中国は米国よりも進んでいると思います。なぜなら、これまで米国に遅れをとっていた中国は、いざ前に進むときに階段を数段抜かしすることができたからです」と彼は話す。「中国の人々は現金の支払いからモバイル・ペイメントに直接シフトしていきました。モバイル・ペイメント、モバイル・ゲーミング、モバイル・コミュニケーションなどの分野では、中国が主導権を握っています」。
今後数年のうちは、中国の企業が国外で大きな成功を収めるとは思いません。
彼の意見によれば、GoogleやFacebookなどの企業は、WeChatなどの中国のコンシューマー向けサービスと争うべきではないという。時すでに遅し、とのことだ。
「FacebookやGoogleといった企業は、中国企業が持っていないようなテクノロジーにフォーカスできるのです」と彼は話す。「例えばFacebookにはOculusがあり、Googleにも中国の競合企業には無い技術を持っています。もし私が彼らであれば、そういった技術を中国でもローンチしようとするでしょう」。
だが、米国市場を狙う中国企業にとってもそれは当てはまる。「米国市場においてWhatsAppはすでに独占的な地位を確立しており、中国企業がその分野に参入するのは難しいでしょう」とKai-Fu Leeは話す。「今後数年のうちは、中国の企業が国外で大きな成功を収めるとは思いません」。
つまり、これまで通り中国企業は中国で、米国企業は米国でそれぞれ独占的な力を持つということだろう。Uberが中国市場から撤退したことからも分かるように、真のグローバル・リーダーになるのは難しいということだ。
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