BIMやCIMなどデジタルツインへの位置情報統合に道筋、Cellidが建設現場において独自ARによる3次元位置情報の取得に成功

Cellidは5月26日、大林組の建設現場において、独自のAR技術「Cellid SLAM」を用い、作業員の3次元位置情報の取得に成功したと発表した。

今回の実証実験の目的は、「屋内外の大規模・複雑な構造を備える建設現場において、汎用単眼カメラを装着して巡視する職員の移動経路を3次元の動線として把握できるか」「BIM/CIMを含むデジタルツイン・プラットフォームとSLAMで取得した3次元位置情報を統合することで、安全管理や労務管理のためのツールとして発展する可能性があるか」を検証するものだ。BIM(Building Information Modeling)は、3次元の形状情報、材料・部材の仕様・性能・コスト情報など建物の属性情報を備える建物情報モデル。CIM(Construction Information Modeling)は、土木分野において国交省が提言した建設業務の効率化を目的とした取り組み。計画・調査・設計段階から3次元モデルを導入し、施工・維持管理の各段階でも連携・発展させ、事業全体で関係者間で情報を共有するというもの。

一般に、レーザーや赤外線を活用するSLAM技術(自己位置推定と周辺環境の地図を同時に実行する技術。Simultaneous Localization and Mapping)は、専用センサーを必要とすることから、デバイス費用が高額、かつセンサーの設置のためのスペースや電源供給に課題があった。またセンサーの代わりに画像データを活用する研究も進められているものの、膨大な計算負荷に加え、現場での活用に耐える精度の確保が難しく、実装には至っていないという。

一方Cellid SLAMの空間認識アルゴリズムは、すでに現場に導入されている汎用単眼カメラの映像のみを入力情報とする。そして今回、非GNSS環境を含む大規模な建設現場において、GNSS(全球測位衛星システム)やビーコンといった従来の自己位置推定技術を上回る測位精度を発揮することが確認された。

Cellidは今後、BIM/CIMなどから構築されたデジタルツイン上にウェアラブルカメラを装着した作業員などの位置情報を反映し、情報の統合を進めるとしている。また、同一現場で同時に複数の作業員がウェアラブルカメラを装着・撮影することで、位置情報だけではなく、大規模な現場の点群データなどをスピーディに収集することも可能となる。

そして将来的には、位置測位技術とAR技術などとを組み合わせることで「AR付箋」などの早期実現も期待できるとしている。AR付箋は、現実空間の特定の3次元位置に「作業ガイド」や「注意事項」を、デジタルツイン側からの入力により、設置するサービスという。

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カテゴリー:VR / AR / MR
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レーザーやLiDARで取得した3D点群データをオンラインで自動解析する「スキャン・エックスクラウド」が公開

レーザー測量やLiDARで取得した3D点群データをオンラインで自動解析する「スキャン・エックスクラウド」が正式スタート

スキャン・エックスは9月17日、レーザーやLiDAR(ライダー)など各種機器で取得した3D点群データの高精度クラス分類・解析が可能なクラウドサービス「スキャン・エックスクラウド」を正式にリリースした。1ライセンス月額税込み2万9800円で、毎月500GBまで点群データを処理・解析できる。初月はキャンペーンにより、30日間無料で利用可能。

レーザー測量やLiDARで取得した3D点群データをオンラインで自動解析する「スキャン・エックスクラウド」が正式スタート

3D点群データ(3 Dimensional Point Cloud)とは、建築物や地形などの位置や色といった情報を点の集合体として表現し、コンピューター上で扱いやすくしたもの。LiDARは、レーザー光線を使って、目的の物体までの距離や方向、形状などを高精度で測定・検出する装置。

スキャン・エックスクラウドは、地上型3Dスキャナー(TLS)、ドローン・航空機によるレーザー測量、車両搭載型のMMS(モービルマッピングシステム)、SLAMベースの背負型・手持型スキャナーなど、レーザー測量で使われる様々な機器に適したパラメーターを設定可能。

高度な点群のクラス分類機能によってノイズ除去・地表面抽出を自動で実施可能なほか、建物や樹木の分類もサポートしており、ニーズに応じて統計的手法や機械学習を用いた特定の物体も抽出も行える。個々の樹木を区別し、樹高、材積量も計算できるという。

地表面、樹木、ノイズを自動分類した後の様子 (東豊開発コンサルタント提供)

地表面、樹木、ノイズを自動分類した後の様子 (東豊開発コンサルタント提供)

等高線データを表示している様子 (東豊開発コンサルタント提供)

等高線データを表示している様子 (東豊開発コンサルタント提供)

また、点群からのメッシュデータ生成も対応しており、通常のTIN生成だけではなく、従来は難しかったオーバーハングのTINもサポート。等高線データ生成を生成し、図面データ形式でも出力できる。

​図面データとの重ね合わせによる出来形管理帳票の出力機能も年内にリリース予定で、i-Constructionを積極的に支援するとしている。

また、水流シミュレーションや冠水シミュレーションなどを用いて、災害リスク予測を通じた減災対策を支援。​災害などの被害状況をスキャンした後は、共有リンク発行により関係者に展開可能。実際の災害現場でもすでに使用されており、2020年7月の九州豪雨でも被害状況把握に利用されたという。

7月の九州豪雨で土砂崩れがおきた自然災害現場 (東豊開発コンサルタント提供)

7月の九州豪雨で土砂崩れがおきた自然災害現場 (東豊開発コンサルタント提供)

スキャン・エックスクラウドの正式リリース版を開発するにあたっては、国内外の業界関係者約10社にβ版を試験的導入してもらい、同社からの定期的なフィードバックを元に日々改良してきたという。すでに大手ゼネコン、損害保険会社、各地の測量会社において試験導入されており、様々な実績を残しているとしている。

スキャン・エックスは、イスラエルにおいてSLAMや3D点群データ解析の経験を積んだエンジニア2名が、2019年に設立したスタートアップ。世界各地の3D点群データを解析してきた創業者は、「既存3D点群データソフトは、ハイスペックPCが必要な上に、高価で使い辛い…シンプルで、誰にでも使いやすく、さらに低価格で、場所を選ばすデータ解析ができるものが欲しい」と考え、スキャン・エックスクラウドの開発に着手したという。

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