サン・クェンティン刑務所のプログラミング学校を訪ねてみた、入所者に自尊心を与えている

サンフランシスコの北の海沿いに、ヨーロッパの要塞のような建物があり、そこが3000名あまりの囚人たちの“家”だ。風光明媚なところだが、カリフォルニアの最古の刑務所サン・クェンティンの高い壁の内側では、刑務所の中庭などからそれを楽しむことはほとんどできない。

初めてその施設に入ったとき、メディアに付き添う護衛の一人が、天国は右、地獄は左、と言った。私の右手にはチャペルと、ムスリムやユダヤ人、クリスチャン、プロテスタントなどが礼拝する場所があった。左手には矯正センターがあり、暴力犯が収監されている。そこはカリフォルニアで唯一の、死刑囚監房だ。

丘を下りて中庭を通る。中庭では一人の囚人がトランペットを吹き、何人かがバスケットボールやジョギングをしている。そしてその先に、The Last Mile(TLM)のあるCode.7370という建物がある。以前は印刷工場だったそこに、今やサン・クェンティンでもっとも革新的な部分がある。そこでは、入所者たちが起業家としてのスキルやプログラミング、そしてWebデザインの初歩を学んでいる。

入所者の一人がサン・クェンティンの中庭でトランペットを吹いている。

昨日(米国時間3/23)は、The Last Mileが、California Prison Industry Authority(CALPIA)〔入所者たちの生産活動を管轄するお役所〕およびCalifornia Department of Corrections and Rehabilitation〔矯正更生局、刑務所を担当するお役所〕とパートナーして、サン・クェンティンで育ったプログラマーとデザイナーの三度目の卒業式とデモデーを行った。

Code.7370にはプログラマーのコースが二つと、デザインのコースが一つあり、入所者はそこでHTMLやJavaScript, CSS, Python, Webとロゴのデザイン, データの視覚化, UI/UXなどを学ぶ。これまで18名が、コースを完全に終了した。

“外の人よりここの人の方が、いろんなことをよく知ってるよ”、とCALPIAの役員Charles Pattilloは言う。“私よりもね”。

この、印刷工場変じてプログラミング学校になった施設に入ってしばらくすると、The Last Mileの協同ファウンダーChris Redlitzが私をSteve Lacerdaに紹介した。彼は刑務所に11年いて、3か月後には仮出所する予定だ。Lacerdaが今いるThe Last Mile Worksは、Airbnbのような企業The Coalition for Public Safety(CPS)(公的安全のための連合、公正な刑事司法への改革を目指すNPO)とのジョイントベンチャーで、実際にWeb開発やWebデザインの仕事を受注して行う企業だ。

LacerdaはこのTLM Worksで、二人の同房者と一緒に、CPSのWebサイトを作った。Lacerdaと彼のチームメートは、インターネットにアクセスせずにこれをやった。仮出獄したらコンピュータープログラミングの勉強をもっと続けたい、とLacerdaは私に言った。

Steve LacerdaがCPSのWebサイトを作ったときの工程を私に説明した。

その日はRedlitzやTLMの卒業生Kenyatta Leal、Sirius XMのプロデューサーSway Callowayなど、何人かの人がThe Last Mileの重要性について話した。Lealは最初Rocketspaceの有給インターンになり、その後キャンパスマネージャー、インサイドセールス(内勤営業)チームのメンバーと昇進した。

“この人たちは単なる囚人ではない”、とCallowayは言う。“彼らは誰かの息子たちでもあり、甥っ子でもあり、法律家であり、機械工であり、そしてプログラマーだ。門の外にいる人たちと同じなんだ”。

終身刑で20年近く刑務所にいるThomas Winfreyは、プログラミングコースとデザインコースの両方を終了した唯一の卒業生だ。

5年前に彼は、TLMの起業家育成事業に入れてもらえた。過去6か月間、Winfreyはプログラミングとデザインの両方のクラスを同時に取った。つまり彼だけが、ほかの人の倍、勉強したのだ。

なぜそんなことをしたのか、と問うと彼は、“頑張りすぎかもしれないけど、何かを作ることがすごく好きなんだ。プログラミングとデザインの、どちらも必要だからね。お互いが、関連し合っているんだから”、と答えた。

でも自分に向いているのは、プログラミングよりもデザインかもしれない、と感想を言った。

“ぼくはビジュアル人間だから、自然にデザインに惹かれる”、とWinfreyは語る。塗ったり描いたりしてアートは作れるけど、プログラミングで頑張ることも好きだ。そっちはぼくには、頑張らないとできないけどね”。

Thomas Winfreyはプログラミングとデザインの両コースを終了した。

終身刑のWinfreyに対し、仮出所評議会は1月に“出所適格”とした。出所は5月半ばになるだろう。ということは彼は、自分の企業TommyWinfreyArt.comの経営者になれる。今それは刑務所の外の、インターネットにアクセスできる、彼の友だちが運営している。彼は、デザイン業界に職を得ることも考えている。

Winfreyは、彼が仮出所評議会にピックアップされ、適格になったのは、ひとえにTLMのおかげだ、と感じている。

“きっとThe Last Mileがぼくを推薦したんだよ”、とWinfreyは語る。“ぼくは周囲が注目する人間になり、自分でも肯定できる人間になった。それが、すごいことさ。今のぼくは、人が見て恥ずかしいと思う人間ではないし、人が怖がる人間でもない。The Last Mileが、そうしてくれたんだ”。

Winfreyは私との話の中で、これまでの人生で犯した最悪の間違いと最悪の決定を、すべて話してくれた。でも今では、出しても安全だと彼らが確信するまでになった、と彼は信じている。“ぼくに、注目してくれるようになったんだよ”。

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〔The Last Mile関連記事: (1)(2)。〕

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

安定雇用による再犯率低下を目指して刑務所内でプログラミング教育を展開するThe Last Mile

アメリカの刑事司法がぶっ壊れていることは、今や公然たる事実だ。全国で220万人の人が刑務所や拘置所にいるアメリカは、刑務所/拘置所人口が世界最大だ。本誌がトークショウ・コンテンツBullishを提供するのは昨年の5月以来久しぶりだが、今回はTransmedia CapitalのゼネラルパートナーでThe Last Mileの協同ファウンダーChris Redlitzに、テクノロジー業界が刑事司法の改革のために果たすべき役割について聞いた。The Last Mileはサンクエンティン刑務所の中にあって、入所者に起業の心得やプログラミングを教えている。

“アメリカの刑務所の大きな問題は、出所しても仕事がないため、累犯率(再犯率)が60%以上もあることだ。彼らは、前と同じことをして、刑務所に舞い戻ってくる”、とRedlitzは語る。“彼らが、雇用してもらえるスキルを身に付けることがきわめて重要だから、刑務所でプログラミングを教えることにした。プログラミングは、雇用者がもっとも求めるスキルのひとつだからだ。したがって、学習者のモチベーションも高い”。

The Last Mileはこれまで、出所者のテクノロジー企業への就職のお世話もしてきたが、その多くは初期段階のスタートアップだ、とRedlitzは語る。

“今の刑務所は、大きな人材プールでもある”、とRedlitzは述べる。“この事業を始めてから分かったのは、才能や資質はあるのに道を踏み外してしまった人が、とても多いことだ。だから、すこし教育訓練を施せば、彼らは雇用されうるし、今日のテクノロジー企業に多くの価値を加えることができる”。

SlackのCEO Stewart ButterfieldとFacebookのCEO Mark Zuckerbergがサンクエンティンに来て、The Last Mileの事業に参加している人びとを見ていった。“彼らはここで行われていることをよく理解したから、求職者が刑務所を出たばかりの人であると分かっても、もう驚かないだろう”、とRedlitzは言う。この二つの企業はまだThe Last Mile出身者を一人も雇用していないが、感触としては彼らは前向きだったそうだ。

“まだまだ時間はかかる”、とRedlitzは語る。“現状は、理解と納得の前の議論の段階だ。でも将来的には良い結果になることを、確信している”。

先週トランプ大統領は、刑事司法に関する三つの大統領令を発令した。それらは、防犯体制の強化と、暴力団の取り締まり、そして警官への暴行の罰則強化だった。でも、刑事司法の仕組み全体をコントロールできるのは連邦政府だけなのに、これらの大統領令の具体的な中身と効果が現状では曖昧だ。でも、トランプのやることの中にThe Last Mileにネガティブな影響が及ぶものはない、と Redlitzは考えている。

“嬉しいことに、刑務所人口のうち連邦の管轄下にあるものはわずか10%だ。多くは各州の司法の下にあり、そしてカリフォルニア州はわれわれがやっていることを積極的に支持している。知事のJerry Brownも個人的に支持してくれているから、トランプ大統領になって何かが悪い方へ大きく変わる、とは考えられない”。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))