専門家の“時間”を売買するメタップスの「タイムバンク」、iOSアプリを公開

7月にサービスを発表して注目を集めていたメタップスの「タイムバンク」。そのiOS向けアプリが9月11日に公開された。App Storeから無料でダウンロードできる。Android向けアプリも提供準備中だという。

アイドルからアスリート、経営者などの専門家が時間を売買

タイムバンクは「時間」を売買するマーケットだ。アイドルやアスリート、経営者、クリエーターといった専門家の時間を10秒単位でリアルタイムに売買できる。時間の売買は、株価のように日々の取引で変動する。また、時間の売買に加えて、専門家が設定する条件を満たすと「リワード」として購入した時間を使用できる。例えば時間を売りに出している専門家と出会う、講演してもらう、ランチやディナーを楽しむ、といった具合だ。

専門家のファンであれば時間を持ち続けて応援することもできるし、それを行使して専門家と出会ったり力を借りることもできるし、その専門家の時間を求める人へ、自身が保有する時間を売ることもできるというサービスになっている。なお、時間の売買や時間購入のための出入金時には、所定の手数料がかるとしている。

メタップスでは7月のサービス発表とあわせて、時間を発行する専門家の申請(SNSの影響力や信頼性、専門性をもとにスコアを算出、同スコアが57以上でないと申請に通過しないとしていた)を受け付けている。

現在アプリ上には、タイムバンクの運営アドバイザーでもあるキッズライン代表取締役社長の経沢香保子氏ら5人の時間について新規発行がアナウンスされている状況だ。金額を見てみると、例えば経沢氏の時間は1秒72.3円で売り出される世予定となっている。メタップスによると、当初は専門家が一度に売りに出せる時間は1000万円未満。また専門家とユーザーとのお金のやり取りは、同社が仲介に入ることで、安心して利用できる運営体制を構築するとしている。

審査は「かなり硬い」、今後は1日数人ペースで専門家を拡大

ただし、アナウンスされている時間の売買はいずれも9月13日から。なお申請通過後の審査に関してはかなり時間をかけているそうで、今後1日数人程度のペースで専門家の数を拡大していくとしている。

「基本的にはSNSスコアの審査に通った方に一人ずつご連絡して、時間の内容の調整から注意事項の確認など一件一件すり合わせてやっていってるかたちです。だいぶウェブっぽくないやり方ですが、決済事業を通して審査の重要性は身に染みているので泥臭いやり方でやっていこうと思ってます。経営陣の大半が金融出身者なのと、(自社が)公開企業なので、かなり硬い人達でやっています」(メタップス代表取締役CEOの佐藤航陽氏)

仮想通貨やICOは資本主義をどう変える?——CAMPFIRE、VALU、Timebankが語る

左からフリークアウト・ホールディングス代表取締役の佐藤裕介氏、メタップス代表取締役の佐藤航陽氏、VALU代表取締役の小川晃平氏、森・濱田松本法律事務所の弁護士・増島雅和氏、CAMPFIRE代表取締役の家入一真氏

8月3日から4日にかけて北海道・札幌市で開催中の招待制イベント「B Dash Camp 2017 Summer in Sapporo」。初日のセッション「仮想通貨がもたらす信用経済と新たなビジネス」には、CAMPFIRE代表取締役の家入一真氏、森・濱田松本法律事務所の弁護士・増島雅和氏、VALU代表取締役の小川晃平氏、メタップス代表取締役の佐藤航陽氏が登壇。ICOの可能性や評価経済のこれからについて語った。モデレーターはフリークアウト・ホールディングス代表取締役の佐藤裕介氏が務めた。

そもそも、ICO(Token Sales)とは何か?

最近ではTechCrunchの誌面でもよく見かける「ICO」というキーワード。Initial Coin Offering、つまり仮想通貨を発行することでの資金調達を指すこの言葉だが、実はまだその実情を理解できている人は少ないのではないだろうか。モデレーターの佐藤氏はまずそう語り、増島氏がICOの特徴を解説するところからセッションはスタートした。

ICO(増島氏はToken Salesとも表現した)はつまりトークン(独自の仮想通貨)を発行することで、資金を調達する手法。これを有価証券(株式)を使った資金調達と比較すると、次の図の通りだ。

増島氏が説明した有価証券とICO(Token Sales)の違い

株式でもトークンでも、特定の資金調達目的のために発行するが、その価値の基準は、株式での調達は事業体のキャッシュフローの割引現在価値を表す(ざっくり言えば、事業体が金を稼いでいるか、今後稼げるか)ことに対して、トークンでの調達はネットワーク全体の価値を表す(事業体が稼げるかだけでなく、ソーシャルグッドなアクションをすることで価値が高まることなども価値になる)という。

また株式はリアルな取引を行うため、流動性は低く国ごとの規制がかかる、トークンの取引はインターネットで完結するため、流動性が高く、国ごとの規制にはかからないという。流動性が高い分、ボラティリティも高くなるという。増島氏はICOについて、「やってることの本質は『グローバルな購入型のクラウドファンディング』だ」とまとめる。

ICO設計時の注意点

日本では昨日テックビューロがICOプラットフォーム「COMSA」を発表したばかりだが、世界を見ると、すでに直近12カ月(6月時点)でブロックチェーン関連企業がICOで調達した資金の総額が、VCからの調達額を上回っているのだという。

そのCOMSAの導入第3弾企業としてプレスリリースにも名前が挙がっていたのがCAMPFIREだ。家入氏は「早速株主から電話がかかってきて『どういうことだ』と聞かれた」と導入についてぼかして語った上で、クラウドファンディングとICOの関係について説明する。

「サービスを開始して6年、7年とやってきて、ICOの流れが急にやってきた。クラウドファンディングとしてこの波に対して“我関せず”のままではむしろ死んでしまう。自分たちに何ができるかを考えた結果、自分たちがICOをやろうかと。そう検討している中で(COMSAに)声をかけてもらった」(家入氏)

CAMPFIREが取り組むのはICOだけではない。ビットコインでプロジェクトを支援できる仮想通貨取引所の「FIREX」、プロジェクト終了後の資金ニーズを支援する融資サービス「CAMPFIREレンディング」なども展開している。家入氏は、「インターネットの本質は声を上げたくても上げられなかった人が声を上げられるという1点に尽きる。経済格差も広がっている中で、社会からこぼれ落ちてしまう人がいる」と語った上で、ICOが社会貢献的な領域の資金ニーズを解決できることがまだまだあるのではないかとした。

仮想通貨でプロジェクトを支援する「FIREX」

ここでフリークアウト佐藤氏は、ICOがIPO、つまり既存の証券取引所に上場することの代替になるのかを増島氏に尋ねる。

「まだ実証されていない領域なので試行錯誤ではあるが、現状トークンを出している上場企業があるかないかというとある。(東証JQGの)フィスコが『フィスココイン』をやっている。問題があるか、ないか、というと『ないはず』だと思っている。トークンと株の関係が論点になるかもしれないが、(トークンは)有価証券ではないので不明だ」(増島氏)

VALUのユーザーは想定の10倍に成長

テック業界から人気に火が付いたVALUは、ユーザーが自身を上場企業に見立てて、自分の価値を「VA」という単位でビットコインをつかって売り買いできるサービスだ。小川氏はVALUが直接的にICOであることを否定した上で、「個人をトレーディングカードのようにして上場させるサービス」だと説明する。

サービスのローンチは6月だが、ICOの隆盛といった追い風もあって、「想定していたユーザーは5000人くらい。だがそれが10倍ほど集まった。土日や夜9時以降のサービスは提供していなかったが、想定外の反響を集めている」(小川氏)と語る。サービス開始当初は取引の制限がなかったこともあって、価格が高騰するような事態にもなったが、その後はマンガ家やクリエーターなどが続々参入。コミュニティも形成されつつあるという。小川氏はVALUのミッションについて、「人の価値を発掘し、高める」ことにあると語る。

Timebankは個人の価値が大きい時代のためのサービス

メタップスが今秋提供予定のサービスは「Timebank」。これはスペシャリストの「時間」を時価で売買するというサービスだ。メタップスの佐藤氏はサービス提供の経緯について、「『空間』を売買することは『不動産』として以前からあるが、『時間』を売買できないのが不思議だった。時間こそ時価でやり取りすべきものではないか」と語る。

「Timebank」のイメージ

また佐藤氏は、Timebankがいわゆる「評価経済」の文脈から提供されているのではなく、中国のライブストリーミングなどに影響されて企画されたサービスだと語る。「中国の女の子たちが、働かないで(ライブストリーミングで)歌って投げ銭が来るとかそういうところからきた。まずは私の価値か会社の価値、どちらが大きいか試してみたい。個人的には個人の(価値が大きい)時代になって欲しいと思っている」(佐藤氏)

ところで、こういった新しい「価値」たちは、実際にどんな機能を果たしているのだろうか。小川氏はVALU上でのクリエーターの立ち位置についてこう語る。「今は画像しか投稿できないが、クリエーターやマンガ家さん、面白いことをやっている人はかなり人気になっている。フリーランスは社会的信頼は低いが、VALU内では人気を集めている」(小川)。これに対して、増島氏は、ネットワークを作るタイプのビジネスと、ICOや新しい価値の経済がマッチすると語る。

評価経済は資本主義をひっくり返す?

フリークアウトの佐藤氏は、最後にICOをはじめとした新しい価値の経済が広がれば、どんな世界が待ち受けているのかとパネリストに問いかけた。

「あまり中央集権化が重要ではなく、経済も自由に選べるようにしたい。選択肢が増えれば、勝ち組負け組もない。(今の経済での負け組は)『自分の経済が違う』となる。それをやっていきたい」(メタップス佐藤氏)

「色んなものが『価値化』されていくと思う。NPO法人などを、今のVCが支援してもいい。それをトークンで担保したりできる。生まれた時点で違う価値をどう評価するのか、そこに面白みを感じる」(小川氏)

「CAMPFIRE自体はいろいろ考えていかないといけないが、ICO的な手段がどうなっていくかというと、時代がやってくるのは分かっていて、その先にあるのが評価経済。『こいつだめだなあ』という人を助ける世界。今シェアハウスを作ろうとしているが、ICO的なものでできないか考えている」(家入氏)

“専門家の価値×スキマ時間”を売買する時間市場「タイムバンク」、メタップスが今秋ローンチ

5月末にローンチした「VALU」はユーザー自身の価値を株式に見立てて、ビットコインで取引を実現するサービスとして注目を集め続けている。特にシェアリングエコノミーという言葉を聞くようになってからだろうか、自分の信頼や価値をどうお金に変えるのかという話は至るところで話題にされている。

そんな中でマザーズ市場に上場するメタップスが打ち出したのは、ユーザー自身の価値、そして使う時間を10秒単位で取引する「時間市場」を作り出すという構想。同社は7月18日、時間取引所「タイムバンク(Timebank)」を提供すると発表した。サービスのローンチは初秋の予定だが、時間発行者(専門家)の申請を受付中だ。

メタップスいわく、タイムバンクはさまざまな専門家(時間発行者)の「時間」を売買できる取引所。ユーザーは専門家が発行する時間を購入、使用、売却、保有可能。保有した時間を使って専門家に事業の相談をしたり、食事をしたりできるという。また専門家は隙間時間を売り出すことで、収益を得ることができる。専門家を長期的に応援したい場合は、時間を使用せずに保有し続ける「タイムオーナー」という選択肢もあり、保有する時間はいつでも市場価格で欲しい人に譲ることができるという。また、運営アドバイザーとして、元陸上競技選手の為末大氏やキッズライン代表取締役社長の経沢香保子氏らが参画している。

冒頭で紹介したVALUに、「ココナラ」や「TimeTicket」といったタイムシェアリング系のサービスを組み合わせたサービスと考えるとしっくりくるだろうか。メタップスはこのタイムバンクで、「個人が主役の経済」「時間を通貨とする経済」「経済を選べる時代」の実現を目指すとしている。

なお、時間発行者の申請には、Twitter、Facebook、Youtubeいずれか、もしくは複数にアカウント連携が必要となる。これら各SNSのネットワークグラフデータをもとにメタップスがスコアを算出。スコアが57以上でない場合、申請ができない仕組みとなっている。

メタップスではタイムバンクのリリースに向けて、YouTuberやInstagramer、ライブ配信者などのインフルエンサー、エンジニアやクリエイター、ライターなどのフリーランス活動を支援する企業に対して1社あたり3000万〜1億円程度を出資して資本業務提携を進める。複数の企業と連携することで、個人の時間の価値を最大化するエコシステムの形成を進めるとしている。