Toyota AI Venturesが110億円規模の2号ファンドを設立、「マイクロモビリティー」などにも着目か

Toyota AI Venturesマネージング・ディレクターJim Adler氏

トヨタグループのベンチャーキャピタルファンド、Toyota AI Venturesはアメリカ時間5月2日、1億ドル(約110億円)規模の2号ファンドを立ち上げると発表した。

2017年7月に設立されたToyota AI Venturesは、2016年1月にトヨタ自動車により設立され人工知能技術の研究や開発を行うToyota Research Instituteの子会社だ。

2号ファンドの投資領域は、2017年に設立した1億ドル規模の1号ファンドと同じく、自動運転やロボティクス、AI、データ、クラウドなど。

同ファンドのマネージング・ディレクターであるJim Adler氏は、TechCrunch記者のKirsten Korosecによる取材に対し、ファンドの「主な目的」は変わらないが、「バンドリングされていないモビリティーに興味がある」と説明。Adler氏はブログで以下のように綴っている。

「100年以上も前、車社会より昔、陸上交通はバンドリングされていなかった。徒歩や馬、電車などの移動手段が使われていた。車はこのような移動を『安全で自由、便利で楽しい』、個人が所有するパッケージへとバンドリングした」(Adler氏)

だが、「スローダウン」しているものの、交通渋滞低い稼働率などが起因となり、上で説明したようなバンドルがここ10年ほどで解消されてきた、と同氏は説明。

「我々の移動手段は、自動運転技術やセンサー、配車、マイクロモビリティー、ロボティクス領域のスタートアップが引き起す業界のディスラプションにより変化してきている。スタートアップはモビリティーのランドスケープを再構築する様々なプロダクトのバンドルを実験するシャーレのような存在だ」(Adler氏)

Adler氏はTechCrunchに、配車サービスやマイクロモビリティーなど「自動運転技術により加速が見込める」ような「バンドリングされていないモビリティー」の領域に投資機会がある、と話していた。

同ファンドはこれまで19社のスタートアップに投資を実行してきた。ポートフォリオには、LiDAR開発のBlackmore、自動運転ロボットによるラストワンマイル物流のBoxbot、自動車の運行データ分析のConnected Signals以前に紹介した高齢者のお友だちロボット「ElliQ(エリーキュー)」開発のIntuition Roboticsが含まれる。

トヨタ、自動運転のスタートアップ、Parallel Domainに出資――安全にテストできるシミュレーターを提供

 

Parallel Domainは自動運転ソフト開発のためのシミュレーションを提供するスタートアップだ。自動車メーカーはシステムを利用してVR空間で自動運転車を走らせ、挙動を確認することができる。今回Costanoa Venturesがリードし、Ubiquity Venturesなどが参加した今ラウンドでParallel Domainは265万ドルのシード資金を得た。このラウンドで新たに獲得した投資家にToyota AI Venturesが含まれていることが分かった。

Toyota AI Venturesnの創立マネージャー、ディレクターのJim Adlerは「Parallel Domainはテクノロジーが優秀であるだけでなく、チームにも強い印象を受けた。彼らは自動運転車が路上で安全に走行するために必要な課題について明確なビジョンを持っており、同時にそれらを解決する能力がある」」と書いている

Parallel Domainのプラットフォームは現実の地図情報を用いて、その上にアルゴリズムで他車を含むさまざまな交通状況を設定する。ユーザーはシミュレーションによって自動運転車がどのように走行するか、また自動運転ソフトウェアがどのように学習するかを知ることができるという。シミュレーションであるため重大なミスがあっても全く安全だ。VR世界の要素はすべてプログラム可能であり、レーン数、カーブの曲率、路面状態、地形などを必要に応じてカスタマイズできる。

Parallel Domainのビジネスモデルはこのプラットフォームを自動車メーカーに販売するというものだ。メーカーは3Dで仮想現実を構成し、そこで自社の自動運転車をテストすることができる。今月、スタートアップのファウンダー、Kevin McNamaraはLinkedInに次のように投稿している。.

自動運転車のテスト走行距離は毎年何百万キロにもなっている。自動運転車の安全性を高めるのは緊急の課題だ。シミュレーションはソフトウェアを改良すると同時にテスト運転に伴う危険性を減少させるために非常に有効な手段だ。自動車メーカーは資金や人員などのリソースを自動運転車のエンジニアリングそのものに集中できる。今日〔シード・ラウンド〕の発表は、この目標の実現に向けてわれわれがさらに一歩を進めることができたことを意味する。

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滑川海彦@Facebook Google+

Toyota AI Venturesが考えるモビリティーは3次元的なソーシャル——#tctokyo 2018レポート

Toyota AI VenturesマネージングディレクターのJim Adler氏

11月15日(木)に開始されたTechCrunch Tokyo 2018 Day1冒頭のFireside Chatは、Toyota AI Venturesでマネージングディレクターを務めるJim Adler氏の招いてのセッションとなった。同社は、2017年7月に設立されたトヨタグループのベンチャーキャピタルファンド。人工知能やロボティクス、自動運転、データ・クラウド技術の4分野においてスタートアップの発掘と投資を行っている。

登壇したAdler氏は、Toyota AI Venture設立時からのマネージングディレクターであり、またVoteHereという電子投票のスタートアップを創業した起業家でもある。同セッションでは直接的な言及は少なかったものの、参加者は多くのヒントを得られたハズだ。

人工知能やロボティクス、自動運転、データ・クラウド技術の4分野に注目しているといいつつも、会場に到着するまでにGPSシグナルが弱く、迷子になったエピソードを交えつつ、マッピングのローカリゼーションとデータサイエンスの重要性に触れた。例えば、ドライバーのクセとGPSシグナルを組み合わせたらどうなるのか。セッションは知見とヒントを散りばめたものだったともいえる。

まずToyota AI Venturesの方向性について。同氏は、TOYOTAのイメージであれば車となるが、モビリティー全体を見ており、あらゆる交通手段に関わると語った。車から見れば、ほかの交通機関の影響はあり、その逆でも同様だ。また車はソーシャルであり、その国の文化に応じた約束事の存在にも触れた。

同氏曰く「ソーシャルコントラクト」。自動運転の安全レベルを設計するにあたり、地域ごとの決まり事をAIに教えるにはどうしたらいいのか、歩行者によって配慮を変えなくてはいけない。親子の場合、自転車の場合、スケボーの場合で異なる。また自動運転の安全レベルについても、社会として答えを出す必要があり、コミュニティーで答えを出していけるのではないか、さらに安全とはなんだろうかといった疑問の提示もあった。またAdler氏はモビリティー全体に関わるため、テックに留まらず、パッケージとして考える必要があるとも語った。

そこにイノベーションが必要であり、スタートアップによるアクションをサポートしていくというのが、Toyota AI Ventureのスタンスになる。スタートアップを市場に投入して、反応/判断を得えて、また次のステップへ。Toyota AI Ventureは、投資だけでなく生産から安全設計までサポートをする。

投資基準はどうだろうか。Adler氏自身も起業家であった経験から、起業家の視点や気持ちがわかると踏まえたうえで、最終的には技術も大事だが、スタートアップチームの性能や社内文化を見ていると述べた。市場に投入したのちの市場反応を受け入れる姿勢だけでなく、一度社会文化が出来ると変更しにくく、フローを実行しやすい文化形成の推奨のほか、アドバイスとしてハードとソフトの入念なチェックや、競合のいる市場を選ぶといった話も出た。競合はライバルでもあるが、友人であるといった点であり、競合のいない市場はオススメしないそうだ。

最後に再び、社内文化の重要性を触れてAdler氏のFireside Chatは終了した。

(文/写真 林祐樹)