「TRAVEL Now」光本氏、「ズボラ旅」有川氏に聞く新型旅行サービス誕生のトリガー

写真右からバンク代表取締役/CEO 光本勇介氏、HotSpring代表取締役 有川鴻哉氏、プレジデントオンライン編集部 岩本有平氏

東京・渋谷ヒカリエで開催中のTechCrunch Tokyo 2018。2日目の11月16日には、今年注目の旅行分野サービスを提供するスタートアップ2社が登壇し、「2018年は新型旅行サービス元年だったのか、旅領域のキーパーソンに聞く」と題してパネルディスカッションを行った。登壇したのは「TRAVEL Now」を提供するバンク代表取締役/CEOの光本勇介氏と、「ズボラ旅 by こころから(以下、ズボラ旅)」を提供するHotspring代表取締役の有川鴻哉氏。モデレーターは元TechCrunch Japan副編集長、現プレジデントオンライン編集部の岩本有平氏が務めた。

Hotspringが旅領域における新サービス、ズボラ旅を発表したのは2018年5月のこと。LINEチャットで旅をしたい日付と出発地を伝えるだけで、旅行プランを提案、予約までしてくれるズボラ旅は、旅のプランを考えることすら面倒な“ズボラ”な人でも気軽に利用できるサービスとして注目を集めた。

そして6月には、即時買取サービス「CASH」でスタートアップ界隈をにぎわせたバンクが、旅行領域に進出することを発表。与信の手続きなしで、後払いで旅行に行ける新サービス、TRAVEL Nowをスタートさせた。

ほかにもメルカリが旅行業へ参入、LINEがTravel.jpとの提携でLINEトラベル.jpをスタートするなど、今年は旅行分野でさまざまな動きが見られる年だ。その大きな渦の中、2社が旅という分野に注目した理由はなんだったのか。なぜこのタイミングだったのか。

光本氏も有川氏もシリアルアントレプレナーとして、複数の事業を立ち上げてきた人物。その2人がなぜ、今、旅行に注目したのか、まずは話を聞いた。

光本氏は「旅行領域の市場はでかい。OTA(Online Travel Agent)には巨大プレーヤーが海外にも国内にも大勢いて、楽天とじゃらんだけでも1.5兆円の規模がある。でもこの市場はお金がある人のためのもの。旅行に行きたい人はいっぱいいて、来月、再来月にはお金があるかもしれない。そういう人に旅行に行く機会を提供すれば、下手をしたら今の市場よりでかい市場があるかもしれない。『市場を作ってみないとわからない』というなら、作ってみたいと思って」と話す。

また光本氏は「個人的には毎年テーマを作っている」として「去年はお金がテーマだったので、CASHだった。今年は旅行がテーマだと思って、TRAVEL Nowを作った」とも述べている。

「なぜかといった理由がロジカルにあるわけではない。世の中、いろんな業界があって、各業界のトッププレーヤーがそれを牽引して、それなりの規模のビジネスを5年10年やっている。つまり以前に作られたメイン事業としてずっと同じことをしているわけだが、世の中や消費者はビックリするぐらい変化している」(光本氏)

光本氏は「テクノロジーやデバイスの変化に比べて、トッププレーヤーのビジネスは大きく変わっていない。既存の業界の変化もフラットに進んではいるが、世の中は想像以上に進んで変化している。そのギャップができたとき、新しい仕組みにグルッと入れ替わるんだと思う」という。

「それが去年は金融、今年は旅行と思っていたら、やはり今の消費者や世の中、デバイスに合わせた新しい旅行を提案するサービスが出てきている。タイミングだったのかな」(光本氏)

TRAVEL Nowも「思っていた以上に需要がある」と光本氏。「もっと突っ込んでいく価値がある」とサービス開始から3カ月の所感として感じているそうだ。

ちなみにバンクの光本氏はつい先日、DMMからの独立(MBO)を発表したばかりだが、事業のスピード感を上げたい、と感じたのは、このあたりの感覚もあったのかもしれない。会場では、MBO発表時のプレスリリース以上のコメントは聞くことはできなかった。

一方の有川氏も「光本さんも話すとおり、消費者とサービス提供側に差分があると感じたことが、ズボラ旅リリースのきっかけになっている」と話している。

「オンラインで旅行を買っている人は、全体の35%。服とかなら試したい、というのはわかるが、旅行は試着も何も試せないし、オフでもオンでも変わらないはず。なのにまだ3割台なのは何でだろうと考えた」(有川氏)

有川氏は「オンライン旅行サイトを触ると、いきなり目的地や日にち、人数を入れなければいけなくて、それから探し始めることになる。でもその時には行き先は決まっていないのでは?」とその理由について考えを説明している。

「友だちと会話していて『来月ぐらい温泉行きたいねー』といった感じで、旅行ができればいいのに、と思った。OTAはそことのギャップが激しい。光本さんの言う、お金がなくて旅行に行けない、という人がいるのだとしたら、申し込みがめんどくさくて行けなくなった人も、メチャメチャいるのではないか。そこでLINEのチャットで簡単に『どこかへ行きたい』と言えば予約まで行けるといいな、と思ってズボラ旅を立ち上げた」(有川氏)

現在のサービスの手応えについて有川氏は「会話で、相手が何となく見えると相談を詰めていけるので、コンバージョンは高いのではないか」と述べる。「今はサービスフローが成立して、行けるな、と思っているところ。ズボラ旅はスタッフがチャットで対応するサービスなので、オペレーションが重要。スタッフがユーザーの旅行を作っていけるのかどうか、お客さんの数を絞って検証していた。これから、ようやく増やしていくぞ、というタイミング」(有川氏)

2人ともIT畑の出身。リアルの代理店から始まっているOTAと比べて、メリットや不利と感じる点はどういうところだろうか。

光本氏は「僕たちの強みは“ド素人”なところ」という。「どのサービスでもそうだと思っているが、これまでに手がけた金融(CASH)でもオンラインストア(STORES.jp)の時も、対象にしているのはド素人の方々。旅行のド素人がド素人の方のためにサービスを作れば、気持ちをわかって作ることできる。それが強み」(光本氏)

業界ならではの知識やネットワークなどの面で弱みはあるとは思う、としながら、「いろんな企業の力を借りたり、自分たち自身が学んでカバーしている」と光本氏は話している。

「TRAVEL Nowでも情報はそぎまくった。記入するのがめんどくさい部分は、業界の人がビックリするぐらい取っちゃった。提携先の旅行会社の人からは、当たり前のように『あの情報もこの情報もほしい』とフィードバックが来たが、本当に必要かと聞くと『あったほうがいいからです』みたいな理由で。なくても予約できるし旅行はできる。ユーザーとしてはない方がいいし、実は成り立つじゃん、ということになった」(光本氏)

光本氏は「みんなが思っている以上に、旅行をガマンしている人はいると思っている」と話す。「2万円、3万円ぐらいの旅行なら行けばいいじゃないか、とよく言われるが、そういうことを言ってくるのはお金を持っている人。全国的な観点でいったら、安い温泉宿へ行くというのでもガマンしている人がいっぱいいる。『結婚記念日だから』『子どもの誕生日だから』今月旅行に行きたい。来月ならお金はどうにかなるかも。そういう人がちょっとしたお金がないから、このタイミングに旅行するのをガマンするのは悲しいし、残念だ。そういう人が旅行に行ける機会を作りまくりたい」(光本氏)

CASHもTRAVEL Nowも性善説で運営し、後払いをサービスに取り入れているが、悪用するユーザーもいるのではないか、という懸念もある。危ない人が利用するケースは「ゼロではない」と光本氏も認める。だがこの性善説で提供するサービスの領域に「興味があってチャレンジしたい」と語る。

「人を疑うのはコストでしかない。想定以上にきちんと払ってもらえるなら、ビジネスとして成り立つし、我々は疑うというコストをセーブできる。性善説に基づいたマスのサービスは世の中にない。そこに可能性と面白さがある。今はいろいろと実験しているところ。もう少し突き詰めたい」(光本氏)

有川氏は既存の旅行市場は「特殊」という。「OTAはITサービスを15〜6年やっている。ITサービスとしては長い方だ。そこには技術的負債もあり、リニューアルはされているけれど、全く新しいものではない。そこへモバイルシフト、スマートフォンの台頭とかが起きている。今このタイミングで新しく参入するからこそ、今までになかったものが出せる」とその考えを説明する。

LINEを入口としていることで、ズボラ旅のユーザーには若い人が多いのかと思いきや、お客さんの幅は広いようだ。「OTAサイトが使えない、使い方がわからない人も多い。今までインターネットが触れなかった人、60代の方が子どもに聞きながら使う、ということもある」(有川氏)

認知の部分でもLINEをベースにすることで、クリアできているようだ。今は旅行メディアとの連携により、記事を読み終わったところで申し込みできる入口を増やしているところだという。

今後、2社が考える旅行サービスの展開はどのようなものなのだろうか。

光本氏は「ポテンシャルが大きすぎるので、直近数年のイメージだが」として「超カジュアルにハードル低く、旅行に行く機会を提供しまくってみたい」と言う。

有川氏は「手段はチャットであってもなくても、旅行の相談窓口であり、オススメ場所でありたい」という。「我々が提供しているのは“レコメンド事業”だと思っている。商品はたくさんあるので、それを合う人にマッチングしていく、というサービスだ。そこでデバイスは何でもいいし、音声アシスタントを使うという方法もあると思う。形は問わなくなっていくのかな」(有川氏)

ズボラ旅はイベントが行われた11月16日、サービスを大きくリニューアルした。ホテル・旅館の予約だけでなく、新幹線や特急券、航空券などの旅行手段、現地の公園や美術館などの施設のチケット、レストランなど、何でもLINEで相談すれば、まとめて予約することが可能になったのだ。

また、2019年初にも、海外旅行への対応を予定しているという。有川氏は「飛行機もホテルも現地アクティビティーもレストランも、全部日本語でLINEで会話するだけで予約して、行って帰ってこられるようになる」として「オペレーションは大変だけれど、やる価値はあると思っている」とサービスに自信を見せる。

来年にかけて、有川氏は「何も考えなくても、どこかへ行きたいね、というのがかなう世の中を実現するために、今ないものを作っていく。今、日本で1年あたりの旅行回数は2.6回と言われているが、旅行を簡単にして、その数字を増やしていくためにインパクトを与えたい」(有川氏)

光本氏のほうは、「金融」「旅行」に続いて、来年は「不動産」に注目しているという。「これもロジカルな理由はないが、単純にこれまで変わっていなかった業界。世の中が変わっている中で、今の世の中に合った新しい不動産サービスは出てくるべき。世の中と業界とのギャップが開ききるタイミングじゃないか。(自分がやるかどうかはともかく)新しい価値をもたらすような不動産サービスが、来年は出てくるような気がしている。もし本当にそうなったら、褒めてください(笑)」(光本氏)

TC Tokyo:2018年は旅行サービス元年だったのか、旅領域のキーパーソンに聞く

写真左より、BANK代表取締役の岩本有平氏、Hotspring代表取締役の有川鴻哉氏

スタートアップ界隈の人に「2018年はどんな年だった?」と聞けば、旅関連のサービスの盛り上がりを想起する人も多いことだろう。2018年5月には、キュレーションメディア「MERY」を運営していたペロリの創業メンバー有川鴻哉氏率いるHotspringが、旅領域における新サービスを発表した。「ズボラ旅 by こころから(以下、ズボラ旅)」と名付けられたその新サービスは、旅をしたい日付と出発地を伝えるだけで“外さない旅行プラン”を提案してくれるLINE@のチャットサービス。その名前の通り、旅のプランを考えることすらめんどくさいズボラな人でも気軽に利用できるサービスとして注目を集めた。

その約1ヶ月後の6月28日、即時買取サービス「CASH」が利用集中により公開後わずか16時間半で一時停止になるなど、スタートアップ業界に旋風を巻き起こしたBANKが旅行領域に参入すると発表。CASHの「与信を取らずに人を信じる」という概念を、高単価の旅行サービスにも適用できるか否かという壮大な社会実験が始まった。その新サービス「TRAVEL NOW」では、ユーザーはその時に手元にお金がなかったとしても、与信の手続きなしで後払いで旅行パッケージを購入できる。

それだけではない。日本のスタートアップ業界を牽引してきたメルカリも旅行業に参入した。メルカリの新規事業創造を担うソウゾウは、2018年7月に旅サービスの新規事業の構想を発表。2018年11月には旅行記作成サービスの「メルトリップ」を試験提供している。

モデレーターを務める岩本有平氏

このように、2018年のスタートアップ業界は旅行分野で大きな動きがある年だった。まだ年末までは時間があるけれど、今年のTechCrunch Tokyoではその大きな渦の中心にいるBANK代表取締役の光本勇介氏とHotspring代表取締役の有川鴻哉氏に登壇いただき、それぞれが旅という分野に注目した理由、なぜこのタイミングだったのか、そして今後の展望について聞きたい。

なお、本セッションのモデレーターを務めるのは、元TechCrunch Japan副編集長で現プレジデントオンライン編集部の岩本有平氏が務める。

そうそう、BANKの光本氏はつい先日、DMMからの独立(MBO)を発表したばかり。これについてどれだけ聞けるかは分からないが、それについても触れられればと思っている。

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与信をとらずに人を信じるーー「CASH」運営のバンク、“いま”お金がなくても旅行できる新サービス

「これは、CASHを手がける僕らだからこそやるべき事業なんです」ーー即時買い取りサービス「CASH」を手がけるバンク代表取締役の光本勇介氏は、今日発表されたばかりの新サービスについてこう説明した。その新サービスの名前は「TRAVEL Now」。あと払い専用の旅行代理店アプリだ。

TRAVEL Nowで旅行を買うとき、その時点で旅行代金が手元にある必要はない。ユーザーは海外旅行を含む3000種類の旅行プランの中から欲しいものを選び、ボタンを押すだけ。するとハガキが送られてくるから、それを持ってコンビニに行き、2ヶ月後までに支払いを済ませればいい。そのハガキを持つ手は、TRAVEL Nowで買った旅行で日焼けしていても構わない。

一番重要なのは、TRAVEL Nowを利用するにあたり面倒な審査や手続きなどは必要ないということ。バンクは、このサービス運営にあたってユーザーの与信はとらない。

人を信じる

CASHをリリースしたとき、同サービスは性善説によって成り立つビジネスだと光本氏は言い切った。その光本氏は今回の取材で、「CASHでは、人を信じてお金をばら撒いた。TRAVEL Nowでは、人を信じて旅行をばら撒く」と話す。では、なぜ旅行という領域にテーマを絞ったのかと聞くと、光本氏は一言、「勘です」と言った。

日本のオンライン旅行代理店(OTA)市場は、楽天やリクルートなどのビッグプレイヤーたちが長年にわたり覇権を握ってきた業界だ。どれだけマーケティング費用をかけられるか、という体力勝負になりがちなOTA市場にスタートアップが参入するためには、サービスに何かしらの新しさが求められる。

先日、チャット型旅行代理店の「ズボラ旅」をリリースしたHotspringは、チャットの向こう側にいる人に日程だけ伝えれば、目的地や旅先のプランをどんどんリコメンドしてくれるという“楽さ”をウリにしてOTA市場に参入した。バンクの場合、この市場に参入するための武器は、“そもそも旅行を買う時にお金を必要としないサービスを作る”というブッ飛んだ発想だった。

「旅行はモノとは違い、『彼女の誕生日があるから』だとか『急に休暇ができたから行きたい』といった、“いま”のニーズがとても重要です。でも、その時にたまたまお金がないから旅行を諦めていた人は多いはず。既存の旅行市場は、お金がある人が旅行に行くことで形成される市場だが、TRAVEL Nowは、その既存市場が取りこぼしていた人たちに旅行を提供することで市場を創る」(光本氏)

CASHのバンクだからこそできる事業

CASHが買い取った商品を並べた倉庫

与信も取らず、お金を受け取るより先に旅行を提供するーー仮に光本氏とは別の人がこのアイデアを思いついたとしても、それを実行することは難しかったはずだ。

「ノールック買い取り」と言われたCASHでさえ、ユーザーに“ばら撒いていた”のは1人あたり2万円まで。一方、比較的高額な旅行商品を扱うTRAVEL Nowでは、その数字が10万円にまで跳ね上がる。それを可能にするのは、「人を信じるために人を知る」能力だと光本氏はいう。

「CASHを1年運営してきて、ユーザーの行動をもとに悪い人を見分けるための知見がついてきました。例えば、CASHの初回利用時にグッチ、ルイヴィトン、APPLE製品の新品を売る人がデフォルトする(お金を渡しているのに、商品が送られてこない)率は94%。そして、その人が出品から5分以内に出金ボタンを押すと、デフォルト率は96%まで上がります。即時買い取りというフォーマットやUI/UXを真似ることはできるけれど、この事業は、ユーザーの行動によって悪い人を見分けるという技術がないとできないと思っています」(光本氏)

CASHの運営に関する具体的な数字は非公開であるものの、これらの行動分析により、CASH全体のデフォルト率は1年前のサービスリリース時にくらべて「10分の1以下」(光本氏)に下がったという。

CASHで培った行動分析力を駆使して、今度は旅行をユーザーにばら撒くと決めたバンク。はたして、与信をとらずに人を信じるビジネスは成立するのか。壮大な社会実験が始まった。