インスタメディア/コミュニティの「古着女子」や古着ECショップ連動型のインスタグラムアカウント「9090」などを運営するyutori。同社が6月、追加資金調達を発表した際に、「インスタグラムを軸にしたIP創出」に関するものと言及していた新規事業の詳細が7月5日、明らかになった。
yutoriが展開するのは、バーチャルインフルエンサーのみが所属するモデルエージェント「VIM(ヴィム)」。VIMでは、バーチャルインフルエンサーのプロデュース、マネジメントのほか、企業やブランドとのコラボレーションなどのサポートを行っていく。
米国では開発・投資が続くバーチャルインフルエンサー
「バーチャルインフルエンサー」の概念誕生は、インスタグラムに仮想セレブアカウントのLil Miquelaが登場した時点にさかのぼる。2016年4月に投稿が始まったMiquelaのインスタグラムアカウントは現在フォロワー数160万。“彼女”はPRADAやMONCLERなど有名ブランドとのコラボレーションに加え、自身のブランドやミュージシャンとしての活動も行っている。
「Miquelaプロジェクト」を動かすスタートアップ、Brudの企業価値は、最新の調達ラウンドで少なくとも1億2500万ドルと見積もられている。ほかにも“よりリアルな”バーチャルアバターの開発と投資が、米国では盛んに行われている(参考記事〈英文〉)。
日本人により親しみやすいキャラクターでは「バーチャルガール」immaが挙げられる。ピンクのボブスタイルのimmaの写真を見たことがある、という人も多いのではないだろうか。
今回VIMに所属が決まったのは、葵プリズムとuca(ウカ)の2名のバーチャルインフルエンサーだ。“彼女”たちに共通するのは「世界観」や「キャラ」の濃さ、精密さ。葵プリズムは「バーチャルギャル」、ucaは「バーチャルドール」と銘打っており、投稿で身に付けるファッションアイテムや撮影場所、コメントなどに“彼女”たちの好みや性格が反映されている。VOCALOIDの初音ミクが「何でも歌えるし何でも歌う」のと比較すると、一口にバーチャルなキャラクターと言っても対照的に感じられる。
「インスタハックで服を売る」腹を決めた片石氏
「腹決めができた」。yutori代表取締役CEOの片石貴展氏は、古着女子アカウント開設から約1年半、会社設立から約1年を経た現在の心境について、そう語る。
2018年5月に元エウレカの赤坂優氏らから、同年10月には家入一真氏らが率いるNOWから資金調達を行ったyutoriは、今年に入ってさらにNOW、アカツキ、KVP、野口圭登氏、中川綾太郎氏を引受先とする第三者割当増資を実施した。
昨年10月の資金調達を機に「広く浅く、いろいろやってみた」という片石氏。だが「非IT出身で『インスタ起業』をきっかけにして、カルチャーやファッション、コミュニティをベースに事業を進めてきたところを、ITスタートアップの動向など情報量の多い中に入ることになり、自信が持ちきれずにいた」という。
その後「やはり、インスタグラムハックによって洋服を売る、というところが軸になる」と確信した片石氏。「インスタグラムによるファッションのコミュニティという基盤もあり、人材もいて、ECなども含めたノウハウもある。“古着”という世界観を踏まえながら、新品の洋服も売れると考えている。ファッションレーベルを生産基盤を持ってプロデュースし、他社とも協業していきたい」と、今後の古着事業の展開について述べている。
現在、古着女子をはじめ、同社が運営するインスタグラムアカウントの総フォロワー数は35万を超え、古着女子のフォロワーは現在でも毎日300〜500アカウントほど増えているという。2つあるECストアも毎月売上がアップして順調に推移し、いずれも継続的に数字を伸ばしているとのことだ。
「Tシャツなど型のあるアイテムについては、工場と提携して(新アイテムを)5日で発送できる体制も整備した。古着事業については数字はまだまだ伸びるので、ブレずにやっていこう、と話している」(片石氏)
yutoriでは「コンプレックスをベースにポップなプロダクトをつくる」ところに核があると片石氏はいう。以前から古着を通じて「好きなことを好きと言う」「誰も恐れずに好きを体現できる」ことを目指してきた、片石氏らしい言葉だ。「(小柄な女性のためのブランド)COHINAとちょっと似ているかもしれない。メディアっぽいブランド展開は、ストリートブランドより再現性がある」(片石氏)
バーチャルだからできる日本発インフルエンサー
モデルエージェントのVIM立ち上げのきっかけは、2018年秋のことだと片石氏はいう。古着女子などの運営を通して「モデルとして服を着せたり、インフルエンサーのマネジメントをしたり、人のプロデュースもしたい」と考えていた片石氏だが「インスタグラマーでは、せっかく育ててきた人がより大きな事務所へ移るといったことも起こり得るので、よりウェットに攻めなければならない」と人主軸のプロデュースに難しさを感じていた。そんなとき、友人から前述したMiquelaについて書かれた記事を紹介してもらい、求めていたものだと考えたそうだ。
「バーチャルインフルエンサーなら、今までになかったアプローチでグローバルに展開でき、日本をいろんなアングルからシームレスに世界に打ち出して、認知を取ることができる」(片石氏)
片石氏は「CGのテッキーな部分とファッション性、キャラクターによるマーケティングの3つをすべて備えてバーチャルインフルエンサーを提供できる人は、まだ日本ではいないのではないか」と話している。「VTuber(のアバター)と違い、クオリティがすごく求められる」というCG制作については、業務委託によりプロの技を借りる。
「周りにどれだけ頼れるかがカギだ」と語る片石氏。2月に葵プリズムのアカウントが開設されてから5カ月が経ち、「ファッションもCGも含めて、周りの人を巻き込んで風を渦巻きのように起こすゲーム」と新事業についての感想を述べる。
既にいくつかの企業と協業でうごいており、グローバルに向けて強いメディアを持つ企業との提携も進んでいるというVIM事業。今後グローバルで100万フォロワーを獲得するため、認知拡大をさらに進めていくという。
「今後は所属するキャラクターを育てつつ、実在する売れっ子モデルをアバター化して登場機会を増やすことや、亡くなった著名人に現代なりの解釈を付加して教育に役立てることも可能性として検討している。あるいは、葵プリズムのように全く新しい人を生み出し、世界をつくることも考えている。アバターを取り巻く人やメディアも含めて、色を付け、ぬり続けることになるので、こちらは総力戦で取りかかることになるだろう。動画作成や生配信にもチャレンジしたい」(片石氏)