ドワンゴが3Dアバター向けの汎用ファイルフォーマットVRMをオープンソースで公開しました。
VRMはいわゆる「VTuber」の配信やVRゲーム、チャットなどで使うアバターに特化した、プラットフォーム非依存のファイル形式。
3Dモデルとしてのテクスチャやボーンといった情報に加えて、視線設定など一人称で操作するアバターに必要な情報を扱えるようにし、環境により異なるスケールや座標系などを統一することで、アバターを作りやすく使いやすく、お気に入りのアバターを配信でもゲームでもプラットフォームを跨いで使えるようにすることを目指します。
人が操作して人格をまとわせるアバターの特性を考慮して、このアバターを演じて良いか(人格を与えることの許諾)、このアバターで暴力表現をしても良いか、性的表現は良いか、などの「人格に関する使用許諾」までをファイルに埋め込むことができるのも大きな特徴です。
VRChat や VTuber (バーチャルユーチューバー転じてVR配信者総称)界隈が恐ろしい勢いで進化し続け、「自分用のVRアバターを持つ」ことがSNSアカウントのアイコンを設定する程度のことに近づく気配すらある昨今ですが、アバター用のデータ形式はこれといった統一規格がなく、各アプリやサービスごとに汎用の3Dモデル形式を読み込んだのち、環境によって異なる機能や作法に応じて調整する必要があります。
ドワンゴが提案するVRMはこうした状況に対して、アバター特化の簡便なファイル形式をオープンソースで公開することで、プラットフォームを跨いだアバター利用や作成、配布を助けることを目指した規格です。
具体的には、OpenGL規格を策定するKhronosグループによる汎用3DフォーマットglTF2.0に、アバター用途に特化した独自拡張と、扱いやすくするための制約を加えたフォーマットになります。
主な特徴は視線や表情など、人が一人称操作するアバターに特化した情報に対応すること。また1ファイルにアバターのサムネイル画像、「アバターの人格に関する許諾」メタデータまでを含み扱いが容易なこと。
視線情報は、VRヘッドセットなどを使ってアバターをまとう際、どこが目なのか(どこから見えるのか)、一人称視点で視界を妨げないようどの部分を消すのか、また外から見た際の目線の動かし方など。
「アバターの人格に関する許諾」は、表示だけでなくそのアバターを演じることを許すのか拒否するのか、許す範囲を記述できるユニークなメタデータ。被って演じても良いけれど暴力表現はダメ、あるいは性的表現はダメ、というフラグもあります。
再配布や改変などについては、著者名表記や改変時の同一条件配布などを定めたCreative Commonsや、そのほかのライセンス形式を設定できます。
ドワンゴではVRMのドキュメンテーションと、Unity標準実装をMITライセンスで配付中。
先日開始したVRライブコミュニケーションサービス「バーチャルキャスト」のアバターでVRM形式を採用するほか、立体投稿共有サービス「ニコニ立体」でVRM形式の投稿を受け付けています。
「フォーマットが乱立してるから扱いやすいプラットフォーム非依存の新形式を考えました!」と宣言してマイナー方言を一つ増やしたあげく真っ先に消える例もままありますが、VRアバターに特化してオープン採用を目指すのは非常にユニークな動き。VRアバターによる表現やコミュニケーションの分野が猛烈な勢いで独自の進化を遂げつつある日本から、今そこにある不便を解消しつつ、将来と世界に向けたオープンフォーマットとして提案されるのは実に興味深いところです。
髪型を変えたり服を選ぶ感覚でアバターを持ち、コミュニケーションでもゲームでも同じ「自分」を維持できる将来像は確かに魅力ですが、成否は今後この動きに追従してVRMに対応するサービスやアプリケーションが増えるかどうかにかかってきます。多種多様な商用VRサービスが普及する将来に向けて、現在の閉じたゲーム世界ですら巨大市場になっている「アバターアイテム」の扱いがどうなってゆくかも注目です。
Engadget 日本版からの転載。