Sila Nanotechnologiesの次世代バッテリーがWhoopのウェアラブルデバイスで初めて商用利用

米国時間9月8日、Sila Nanotechnologiesの次世代バッテリー技術がWhoopのフィットネストラッカーの新製品で商用製品デビューを果たした。これは、1つのセルにできるだけ多くのエネルギーを低コストで詰め込もうとするこのシリコンバレーの企業にとって10年にわたる謎解きのような研究開発の成果だ。

バッテリーの化学的な改良にはこれまでの数年間で数十億ドル(数千億円)が投じられ、さまざまなスタートアップが、アノードやカソードを、シリコンや固体電池企業の場合はリチウムのような変換材料に置き換えようとしている。

Silaのバッテリー化学のレシピは、バッテリーセルのアノード中のグラファイトをシリコンで置き換えて、エネルギー密度が高く安価なバッテリーパックを実現する。BASFなどその他の企業は、エネルギー密度の高いカソードを作ることにフォーカスしている。

現在では、さまざまな企業がさまざまな化学構造のバッテリーの実現を目指しているが、それらはいずれも今日のリチウムイオンバッテリーのように、従来的なセルの技術をそのまま継承している。最新のヘルス&パフォーマンストラッカーであるWhoop 4.0で使用されるSilaのバッテリーは、この数十年間において世界で初めて市販の次世代バッテリー化学製品となる。

Sila Nanotechnologiesの創業者でCEOのGene Berdichevsky(ジーン・ベルディチェフスキー)氏は「小さなフィットネストラッカーは、些細なものにしか見えないかもしれませんが、市場に初めて登場する弊社の革新性を実証するデバイスです。今後、もっと大きくなりあらゆるものの電動化に使われることになるでしょう」という。

電気自動車と、それらを動かすSilaの役割が、ベルディチェフスキー氏のいう「あらゆるものの電動化」リストのトップにある。そして同社は、そこでもすでにリードしている。

Sila NanotechnologiesはBMWやDaimlerとのバッテリーに関するジョイントベンチャーで、同社のシリコンアノード技術を使ったバッテリーを開発する。自動車としての市販開始は、2025年の予定となっている。

「Whoopの成功を自動車に持ってくる方法にはさまざまなものがある。今日では、走行距離の長いクルマが欲しければ大型車を買えばいい。小型のEVはバッテリーをたくさん倒産できたいため、その距離も短くなります。しかし、弊社の技術が自動車業界で本格的に採用されることになれば、走行距離600kmのシティーカーの実現も可能です。これにより自動車産業におけるより広い分野で、電動化を目指せるようになるでしょう」とベルディチェフスキー氏は語る。

2021年9月初めに、36億ドル(約3967億円)の評価額で2億ドル(約220億円)を調達したWhoopは、Whoop 4.0をウェアラブルデバイスとして市場に投入するが、Sila製バッテリーのおかげで、そのサイズは前モデルよりも33%小さい。ベルディチェフスキー氏によれば、そのエネルギー密度は17%高いという。しかもバッテリーの高密度化でウェアラブルデバイスが小さくなるだけでなく、Whoop 4.0は、睡眠のコーチングや触覚によるアラート、パルスオキシメーター、皮膚温度センサー、ヘルスモニターなど機能が豊富になり、しかもバッテリー寿命は前モデルと同じ5日間のままだ。

関連記事:プロアスリート向けのウェアラブルトラッカーのWhoopが220億円調達

「弊社のような化学構造が可能になったことによって、これまでできなかったことができるようになったのが大きい」とベルディチェフスキー氏はいう。

Whoopの場合は、同社がAny-Wearと呼ぶ新技術により、バンドなど腕時計以外の部分もウェアラブル化し、胴体や腰、ふくらはぎなどからもデータを集めることができる。

製品の成功の鍵となるのは、Sila製バッテリーの新しい化学構造だけでなく、重要なのはむしろ製品のスケーラビリティだ。スケーラビリティは、Silaのロードマップに最初から存在する。

ベルディチェフスキー氏は「弊社のサイエンティストとエンジニアには、最初の頃からグローバルに利用される日用品向けの設計はそのまま、数百万台のクルマの設計に活かすことができると言っています。両者は大量生産の技術という点で共通しており、平面リアクターではなく体積リアクターを使える点が大きい」という。

この、リアクターのタイプの違いについては、次の例がわかりやすいかもしれない。小さな広場で大群衆に食事を提供するためには、大鍋でチリをつくる、つまり体積型の方が1人1人にピザパイを提供する、つまり平面型よりも効率がいい。

また、ベルディチェフスキー氏は、スマートフォンや自動車、ドローンなどのバッテリーを供給するあらゆるのバッテリー工場のプロセスに、シームレスに組み込むことができるものでなければならないとチームに語っている。

ベルディチェフスキー氏によると、Silaはすでにスケーラビリティを2度実証している。最初は、ラボからパイロット事業への100倍のスケールで、約1リットルサイズの体積リアクターから始まった。9月8日に結んだWhoopとのパートナーシップが2度目のスケールアップで、5000リットルのリアクターを実現した。5000リットルのリアクターは、その上に人間が2人乗れるような大きさだ。次の段階のスケールアップは、3年後を狙っている自動車に載せられる量となる。

「現在、自動車に搭載されていない理由は、実際に自動車に搭載するためには100倍のスケールアップが必要であるためです。しかし、材料は同じです。”粒子や粉末は、これまでに作ったどのスケールのものも同じです」とベルディチェフスキー氏はいう。

画像クレジット:Whoop

原文へ

(文:Rebecca Bellan、翻訳:Hiroshi Iwatani)

プロアスリート向けのウェアラブルトラッカーのWhoopが220億円調達

2012年創業のWhoop(ウープ)はフィットネストラッカーの世界では馴染みのないブランドだ。しかしここ数年、同社はかなりの乗り換えユーザーをひきつけてきた。同様に、ベンチャーキャピタルをひき寄せるのにも苦労はしなかった。ボストン拠点の同社にTechCunchが最後に話を聞いたのは、同社が5500万ドル(約60億円)を調達した2019年後半だった。そしていま、Whoopはさらに2億ドル(約220億円)という巨大な資金調達を行った。

今回のシリーズFラウンドでWhoopの累計調達額は4億500万ドル(約446億円)近くになった。この規模の企業にしてはかなりの額だ。ソフトバンクのVision Fund 2がリードしたFラウンドでのバリュエーションはなんと36億ドル(約3965億円)だ。

その他の投資家にはIVP、Cavu Venture Partners、Thursday Ventures、GP Bullhound、Accomplice、NextView Ventures、Animal Capitalが名を連ねている。既存投資家は全国フットボールリーグ選手協会、Jack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏、その他数多くのプロアスリートだ。

Whoopがアスリートをターゲットとしているのは、Apple WatchやFitbitなど主要な消費者向けウェアラブルとはかなり対照的だ。事実、Whoopはスポーツチーム、企業やヘルスケア、政府 / 防衛向けソリューションのための特別販売を行っている。

Whoopは、このほどFitbitが新製品Charge 5のための「Daily Readiness Score(体の準備ができているかを示すスコア)」を発表したときに社名を響かせた。このスコアについては、多くの人がより高度なWhoopの分析を引き合いに出した。

Whoopは追加の資金調達を模索するモチベーションとして、2020年の会員数の「大幅な成長」を挙げている。それはおそらく部分的に、18カ月のサービスが月18ドル(約2000円)〜というサブスク(サービス利用期間が短いほど月額料金は高くなる)に注力する一方で、500ドル(約5万5000円)のウェアラブルを無料にするという2019年の決断によるものだった。

Whoopは米国以外のマーケットへの進出もにらんでいて、膨大な額の調達資金をハードウェアのR&D、ソフトウェア、分析ソリューションに注ぐ。また、現在500人超の従業員数の増加にも使う(従業員の半分近くは2020年加わった)。

「当社は国際的に成長していて、ソフトバンクとの提携をさらに深化させることに胸躍らせています」と創業者でCEOのWill Ahmed(ウィル・アーメッド)氏はリリースで述べた。「2020年驚くほどの成長を経験しましたが、当社のテクノロジーの潜在性ならびに健康モニタリングの広大なマーケットの大部分は未開拓のままです」。

画像クレジット:Whoop

原文へ

(文:Brian Heater、翻訳:Nariko Mizoguchi