米国時間7月14日に、Microsoft(マイクロソフト)がWindows 365(ウィンドウズ365)という名のクラウドPCサービスをリリースすると発表したとき、私は考え込んだ。Windows 365は、仮想のWindowsビジネスデスクトップをクラウド上にパッケージ化したものだが、今回の発表を別の角度から考えてみると、以前からなにかと話題になっていた、軽量なクラウドベースのWindowsバージョンの始まりを告げるものかもしれない。
はっきりさせておくが、今回の「クラウドPC」の発表は、ハードウェアとはまったく関係がない。これは、Windowsデスクトップを完全に仮想化してクラウドに移し、どこからでも実行できるようにしたもので、WindowsデスクトップPCのレプリカをクラウド上に提供するものだ。しかし、その考えを少し拡張して、Office(オフィス)アプリケーションとともにMicrosoft 365を低価格のPCに入れてしまい、Edge(エッジ)ブラウザを第1手段としてコンピュータとやり取りするとしたらどうだろう。こうすれば、Chromebook(クロームブック)スタイルのコンピュータと直接競合することができるようになるわけだ。
これは、Google(グーグル)が10年以上にわたってChrome(クローム)やChromebookで行ってきたことだ。パートナーと協力して低価格のハードウェアを提供し、必要な演算処理はほとんどクラウド上で行う。Chromeブラウザが主要なデスクトップ環境だ。またGoogle Workspace(グーグルワークスペース、通称G Suite)が、ワープロ、表計算、プレゼンテーションソフト、メール、カレンダーなどのサービスを備えたオフィススイートアプリのデフォルトセットを提供する。実際、Microsoftのクラウド・オフィス・ツールを含め、希望するあらゆるソフトウェア・サービスをChromeで実行することができる。いずれにしても、こうすることで最終的には、ほとんどの処理をクラウドでまかなうことのできるローエンドのビジネス用(または個人用)のノートPCとなるのだ。
ほとんどの人は最新のノートパソコンを必要としておらず、かつてGoogleが述べたように、最高に強力なOSを動かすために必要なハードウェアは、基盤となるマシンのコスト高につながる。もしすべてを、ブラウザ、オフィススイート、お気に入りのツールへのウェブアクセスに簡略化してしまえるならば、従来のOSを搭載したPCを所有することにともなう管理の煩わしさを感じることなく、必要なものはほぼすべて手に入れることができるだろう。
たとえばメールとオフィスツールを使い、そしてNetflixを多少観るだけの人のことを考えてみて欲しい。こうした簡略化されたマシンは、予算を大幅にオーバーしたり、複雑になったりすることもなく、こうしたライトユーザーにぴったりなのだ。
2020年、パンデミックの発生によって、子どもたちを含めてみんながPCに向かって作業をしなければならなくなったとき、人びとは低価格の選択肢を探した。そうした人たちが向かったのがChromebookだった。Canalys(カナリス)のデータによれば、Chromebookの販売台数は3000万台を超え、第4四半期だけで1100万台を超えた。
2021年の第1四半期には成長がやや鈍化したものの、Canalys社によると、Chromebookの出荷台数は今でも275%増加している。CanalysのアナリストであるBrian Lynch(ブライアン・リンチ)氏は、レポートの中で「Chromebookは、今や十分にコンピューティング製品の主流となっています」と述べ「出荷台数の大半は依然として教育機関が占めていいますが、一般消費者や従来のビジネス顧客からの人気も、この1年間で新たな高みに到達しました」と付け加えている。
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Windowsも好調だったが、Microsoftのソフトウェアを搭載したマシンも製造しているLenovo(レノボ)やHPを筆頭にして、Chromebookが次々と販売されていることを考えると、WindowsベースのクラウドPCはChromebookへの対抗手段となるだろう。
もちろん、すでに低価格のWindows PCが販売されていることを指摘しておくことには意味があるだろう。ウォルマートではそんなPCが149ドル(約1万6400円)で販売されていて、価格的には世のChromebookコンピューターと競合している。しかし、こうした低価格Windowsマシンは、結局完全なWindows PCであることに変わりはなく、利用者はすべての管理に対応しなければならない。IT部門(または個人使用)の観点から見ると、ChromebookはWindows PCよりもはるかに管理しやすい。
2014年にSatya Nadella(サティア・ナデラ)氏がMicrosoftのCEOに就任して以来、同社はその名声(そして売上)の起点となったPCから、クラウドへと焦点を移すことに強い意欲を示してきた。これまでのところ、レドモンド(Microsoft)はその方向に向かって順調に進んでおり、最近では時価総額が2兆ドル(約220兆円)の大台を突破している。
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さらに、Microsoftのクラウドインフラストラクチャの市場シェアは約20%で、ナデラ氏が就任した2014年の2倍以上となっている。さらには、2014年にはクラウドオフィススイートのシェアは約16%だったが、それが現在では40%にまで拡大している。しかし、Statistaによると、クラウドオフィススイートの中ではGoogleが最も大きなシェアを占め、現在は60%近くとなっている。Chromebookの販売が、ユーザーをスイートに向かわせたことが少なくともその一因となっていることは間違いない。
もしMicrosoftがこのGoogleの数字を減らしたいと思うのなら、Chromebookによく似た、しかしWindowsの要素を取り入れたクラウドベースのノートブックを作るのが良い方法だろう。それは、彼らの伝統的なデスクトップPC OSの優位性を侵食することを意味するが、2014年と同様に、収益性が低下しつつある過去と、より有望な未来とのトレードオフになるのかもしれない。
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画像クレジット:Ron Miller/TechCrunch
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(文:Ron Miller、翻訳:sako)