VR/MR技術で医療現場のコミュニケーションを革新するHoloEyesが2.5億円を調達

VRやMR技術を用いて医療現場のコミュニケーションを支援するHoloEyesは4月26日、SBIインベストメント、三菱UFJキャピタル、みずほキャピタルの各社が運用するファンドを引受先とした第三者割当増資により、総額約2億5千万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

HoloEyesが手がける「HoloEyesXRサービス」は患者のCTスキャンデータやMRIデータから3次元のVR/MRアプリケーションを生成し、 医療分野におけるコミュニケーションを革新するサービスだ。

同社によると、医療現場では3次元的立体構造物である人体の状態を把握する際、CT/MRIなどによって撮像された2次元の状態にあるデータを閲覧し、医師の脳内で3次元に変換しているという。この作業は医師にとっても大きな負担となるだけでなく、医学生らが学習する際や患者が理解する際にも多くの労力がかかる原因になっていた。

この状況をXR(VR/MR)などのテクノロジーによって改善できないか、というのがHoloEyesのアプローチだ。

HoloEyesXRサービスはCT映像から作成したポリゴンファイルをアップロードすれば、最短10分でVR/MRアプリを自動生成してくれるのが特徴。価格は1ケース1万円から提供する。2018年4月の発売以降、39の医療施設が導入していて、444のケースで活用事例があるとのこと。発売以前のPoC事例も含めると50以上の医療施設が500を超えるケースで利用しているようだ。

今後HoloEyesでは医療機器対応を中心とするHoloEyesXRサービスのアップデートを進めるほか、調達した資金を活用して事業基盤の拡張や組織基盤の強化に取り組む計画。合わせて「新たな時代における知識や手技の優れた継承方法としての可能性が感じられるVR教育配信サービスの開発(主な用途)」にも着手するとしている。

“VR会議”で遠隔でもリッチな対話体験を実現、SynamonがKDDIのファンドらから2.4億円を調達

遠隔会議などの用途で活用できるビジネス向けのVRコラボレーションサービス「NEUTRANS BIZ」を手がけるSynamonは3月26日、複数の投資家を引受先とする第三者割当増資と金融機関からの融資により、総額で約2億4000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回同社に出資したのはKDDI Open Innovation Fund、三井不動産のCVCファンドである31VENTURES Global Innovation Fund、三井住友海上キャピタル、SMBCベンチャーキャピタルおよび個人投資家ら。Synamonにとってはジェネシア・ベンチャーズなどから5000万円を調達した2017年11月以来の外部調達となる。

熱量や空気感が伝わるVR会議

前回も紹介した通り、SynamonはXR(VR/AR/MR)領域におけるプロダクトの研究開発をしているスタートアップだ。

同社ではVR空間内で最適なユーザー体験を実現するべく、マルチデバイス対応や複数人の同時接続機能などを搭載したベースシステム「NEUTRANS」を開発。これを軸にNEUTRANS BIZやVR関連の受託事業を展開している。

4月に正式ローンチを予定しているNEUTRANS BIZは複数人がVR空間でコラボレーションできるサービス。昨年5月から運用してきたクローズドベータ版に管理画面の追加やシステム面の強化、料金体系の変更など大幅なアップデートを加え、改めて正式版としてスタートする形だ。

Synamon代表取締役社長の武樋恒氏によると、今の所はブレストなども含めて「会議」での利用が多いのだそう。コンシューマー向けのサービスとは違い、ビジネス向けに特化したサービスとしてユーザー体験に磨きをかけてきたという。

これは僕もそうだったのだけど、“VR会議”と聞いて「別にテレビ会議(ビデオ会議)で十分なのでは?何が違うの?」と思う人も多いはずだ。VRの場合はそもそも専用端末を準備する必要があり、PCさえあればすぐに始められるビデオ会議に比べて最初のハードルも高い。

ただ、武樋氏によると「テレビ会議をやっている人ほど、VR会議にも興味を抱く」ようだ。

「顔の動きや身振り手振りを交えてコミュニケーションをすることで、熱量やその場の空気感を感じやすいというのは1つの特徴。3DCGのビジュアルデータなどを用いてインタラクティブな対話ができるのはもちろん、『空中にペンで絵を書く』といったように現実を超えたVRならではの体験もできる」(武樋氏)

今回実際に試させてもらったのだけど、確かにビデオ会議とは違うメリットがあるように感じた。特に複数人で会議をする場合、武樋氏が話していたように身振りや手振りに加え、相手の顔や体の向きがわかるのは大きい。

ビデオ会議ではリアルな表情がわかる反面、複数人だと誰が誰の方を向いて話しているのかが掴みづらい。その点、NEUTRANS BIZの場合はアバター越しではあるもののお互いの体の向きがわかるから「今、この人は自分の方を向いて話してくれている」ことが良くわかった。

もちろん“VR会議室”の中に3Dデータを持ち込んだり、仮想的なホワイトボードや空間にペンでアイデアを書きながらディスカッションできるのもVRならではの特徴。一方で相手の表情をしっかりと見たい場合などはビデオチャットの方が向いているので、この辺りは「VR会議 VS ビデオ会議」のような構図ではなく、両者が共存していくことになりそうだ。

武樋氏自身もこれまでNEUTRANS BIZを展開する中で、VRが刺さる場面と刺さらない場面がわかってきたそう。「ただ単に情報を伝えるだけの会議のような場面だと、VRは手間やコストがかかりすぎてマッチしない」一方で、実践型の研修やブレストスタイルの会議、グループインタビューなどとは相性がいいという。

「テレビ会議とリアルな会議の間に新しいレイヤーが加わるようなイメージ。どれが1番優れているかという話ではなく、VRでしかできないコミュニケーションを実現することで、新しい選択肢を提供していきたい」(武樋氏)

NEUTRANS BIZはOculus、VIVE、Windows MRに対応していて、同時接続人数は1部屋10人まで。月額課金モデルで提供する計画で、料金はライセンス数やサポートのレベルによっても異なる。

KDDIと協業、他の投資家とも事業面で連携

写真右からSynamon代表取締役社長の武樋恒氏、KDDI ∞ Labo長の中馬和彦氏

武樋氏によると今回出資を受けた投資家陣とは事業面での連携も見据えているそう。KDDIとは
NEUTRANS BIZの拡販を目指した顧客開拓サポート、および5G×VRの先進事例創出に向けての協業を実施。三井不動産とは同社が運営するコワーキングスペースでNEUTRANS BIZを導入する予定だ。

特にKDDIはアクセラレータープログラム「KDDI∞Labo」を通じてSynamonのビジネスを支援してきた。KDDI∞Labo長を務める中馬和彦氏によると以前からこの領域には注目していたそうで、非公開のものも含めると今年度だけでXR領域には5社以上投資しているという。

「営業面のサポートや今後どのようにマーケットを広げるかなども一緒にディスカッションする中で、結果としてKDDIのラインナップにSynamonのコラボレーションツールを加え、自社でも売っていくことになった。それならば資本も入れてより密に連携できればと出資に至った」(中馬氏)

実際にKDDIのチームではNEUTRANS BIZを社内で活用しているが「ブレストにおいては、オブジェクトやアバターを活用するという“非日常感”がプラスに働くことを実感した」という。アバターを介すことでシャイなメンバーでも話しやすく、役職や年齢関係なく議論が円滑に進められたそうだ。

なおKDDIではコンシューマー向けのVRプロダクトにも出資しているが「(VR体験が)B2B2Cで広がっていくことを考えると、企業側の一定のパーセンテージを抑えることでコンシューマー側のパイも取れる」という考えもあるという。

今後SynamonではKDDIとも連携を取りながらNEUTRANS BIZの提供を加速させる計画。まずはビジネス領域におけるVR技術活用の一般化を目指すとともに、今年春に発売予定のOculus Questを始めとする各端末への最適化も進めていく。

また中長期的にはツールキットやSDKの提供を通じて、「NEUTRANS BIZ for ◯◯」のように特定の用途や領域に特化したプロダクトをパートナーが作れる仕組みを考えているようだ。

「あくまで『XRという技術を使って、どのように世の中に新しい価値を提供できるか』ということに焦点を当てて、今後も技術開発に注力していく。NEUTRANS BIZはそのひとつの形であり、自分たちは基盤を作る役割。その基盤を基に顧客がより自分たちにあったツールを作れるような展開も考えている」(武樋氏)