200億円規模のYJキャピタル2号ファンド始動–起業経験アリの役員らがパートナーに

ヤフーグループのコーポレートベンチャーキャピタルであるYJキャピタルは1月27日、ベンチャー投資ファンド「YJ2号投資事業組合」設立と、YJキャピタルの組織強化を実施したことをあきらかにした。

新ファンドの組成自体はすでに2014年11月27日に発表されているし、2014年12月に開催されたInfinity Ventures Summit 2014 fall Kyotoの記事内でも組織強化に関する内容を紹介しているがここであらためて整理すると、新ファンド「YJ2号投資事業組合」の規模は200億円。出資の内訳はヤフーが199億円、YJキャピタルが1億円となっている。

また、組織体制としては、これまで代表取締役を務めてきた小澤隆生氏が取締役となり、ヤフーのCFO室長、企業戦略本部長などを務めてきた平山竜氏が新たに代表取締役に就任する。さらに、ヤフー執行役員 パーソナルサービスカンパニー・カンパニー長の田中祐介氏、執行役員 CMOでワイモバイル取締役の村上臣氏、執行役員 検索サービスカンパニー長の宮澤弦氏、アプリ開発室本部長兼イノベーションサービスユニットユニットマネージャー、TRILL代表取締役社長の松本龍祐氏が新たにパートナーとなる。名前を見て気付いた読者もいるかも知れないが、実は新たにパートナーとなるのは、起業経験のある人物ばかり。

ファンドの設立自体は2015年の1月1日。すでにインドネシアで会員制ファッションサイト「vip plaza.com」を展開する VIP PLAZA INTERNATIONALへの出資が決定している。出資額は非公開だが、数億円程度と見られる。

R&Dを外部のスタートアップに出す

10億円からスタートし、30億円まで規模を拡大して投資を行った1号ファンド。投資先としては、フリークアウトやみんなのウェディング、レアジョブが上場。またAmingなども直近の上場を噂されていると好調な状況だ。小澤氏も「手応えはすごくある」と語る。だが一方で投資の規模については「R&Dを外部(スタートアップ)に出すという意味、そしてネット業界へ貢献するという意味でいうと、200億円でもまだまだ少ないくらい」なのだそうだ。

小澤隆生氏

小澤氏の言う「R&Dを外部に出す」というのが気になってさらに聞いてみたのだけれども、YJキャピタルの役割として、技術を持つスタートアップに投資をすることでヤフーグループだけではできないR&Dを外部で行う、という意味もあるそうだ。

「インターネットの世界は、社内だけですべてを作れないというのは明白。それは外に出すべき。外に出すとは『外注する』という選択肢もあるが『資本を出す』という選択肢もある」(小澤氏)

そして機が熟せばそのスタートアップを買収することも視野に入れるとのことだ。新代表の平山氏も「ヤフーなんて、いろいろやっているようでやりきれていないところがある。イノベーションは外で起こる印象があるので、そういったところにはタッチしていたい」と語る。

2号ファンドで注力する分野は創業期、もしくはレイターステージにあるモバイル、IoT、インターネット領域全般のスタートアップ。すでにインドネシアで投資実績があるように、東南アジアでも積極的に投資を行うという。東南アジアでは、コマースや金融といった分野がターゲットとなる。投資額のレンジについては「かっちり決まったものは無いが、ファンドの規模が200億円あるので、当然大きくなると思う」(平山氏)とのこと。またYJキャピタルはキャピタルゲイン目的の投資がメインになる。事業シナジーなどがある案件については、ヤフー本体が投資を検討する。

また小澤氏、平山氏からはコメントを得られなかったが、別の場所では、ヤフー取締役会長である孫正義氏も1号ファンドのパフォーマンスを非常に評価しており、グループ全体として投資に積極的なムードがあるなんて話も聞いている。

元起業家がパートナーになる意味

冒頭でお伝えしたとおりだが、今回新たにパートナーとなる4人は、いずれも起業経験があり、ヤフーへのバイアウトなどを経てグループに参画した人物。彼らを選んだ理由について小澤氏に聞くと「やるからにはとにかく自由で面白いことをやりたかった」ということだが、意識したのはGoogleのCVCであるGoogle Venturesなのだそうだ。

平山竜氏

Google Venturesでは、Googleが買収した企業の代表などが投資を手がけている。Diggなどを立ち上げたKevin Roseなどもそうだ。元起業家が投資担当になることで、実務面でも、精神面でも投資先にとっての大きい価値になっているという。小澤氏は新たな組織体制について、「YJキャピタルは日本で最も起業家がいるVC。ある意味反則ですよ。でも、どうせやるならこういうVCをやってみたかった」と語る。たしかに起業経験のあるベンチャーキャピタリストは日本にもいないわけではないが、僕も1、2人しか思い浮かばない。

新任パートナーは個人でもエンジェル投資を行っているが、それについての制限はしない。また小澤氏もヤフー参画前に行っていた個人投資を再開するという。パートナーらの個人で投資先をYJキャピタルの投資案件として検討する可能性もあるが、新任パートナーは投資委員会に参加させないことで公平性を保つとしている。小澤氏は「今のVC投資はクラブディール。人脈が極めて重要で、どこの会社でなくあなたとやりたいというところに投資する」と新パートナーによるエンジェル投資について語る一方で、「YJキャピタルとしてパートナーの投資先をどう見るかは別だ」とした。

なお小澤氏、平山氏のほか、新パートナーは、YJキャピタルのサイト刷新にあわせて鎌倉武士をテーマにした写真を撮影したとのこと。コーポレートサイトでも見ることができるが、以下にその他の写真(と歴史上のどんな人物に扮しているのか)を掲載する。

YJキャピタル代表取締役の平山竜氏:藤原秀衡

 

取締役の小澤隆生氏:太田道灌

 

新パートナーの村上臣氏:一般的な鎌倉武士

新パートナーの宮澤弦氏:源義経

新パートナーの田中祐介氏:北条時宗

新パートナーの松本龍祐氏:公暁


先着300社、ヤフーが協業・出資に興味のあるスタートアップを今年も募集


ヤフーとの協業や出資に関心のあるスタートアップを対象にしたセミナー「Yahoo! JAPAN提携・出資説明会」が今年も開催される。セミナーは昨年2月にも行われ、今回が2回目。初回は国内外の企業250社が参加し、これをきっかけにヤフー100%出資の投資子会社「YJキャピタル」がSkype英会話のレアジョブに投資するなどの成果も出ている。

今回のセミナーは2月7日、東京・ラフォーレミュージアム六本木で13時から16時まで開催。参加条件は前回同様、事業の領域や規模を問わず、ウェブサイトを持つ国内外の企業300社(1社2名まで)を先着で募集する。ヤフーとの協業やYJキャピタルなどからの出資に関心のある企業は、1月24日15時までに専用サイトから参加を申し込める。

セミナーではまず、ヤフーの宮坂学社長がベンチャー企業に対する方針を説明。続いて、グリーの田中良和社長、アスクルの岩田彰一郎社長、コミュニティファクトリーの松本龍祐社長らが登壇し、「ヤフーと組んで良かったこと、悪かったこと」と題したパネルディスカッションを行う。実際にヤフーと協業する企業のトップの話を聞くことで、参加者は「ヤフーと提携するイメージ」が湧くかもしれない。

YJキャピタルCOOの小澤隆生氏

さらに前回同様、ヤフーが展開する12〜14事業の責任者が5分ずつ、来場者にピッチ(プレゼン)を実施。会場内には事業部門ごとの名刺交換の場となるブースも設置する。スタートアップが投資家を前にピッチするのはよくある光景だが、ヤフーのセミナーは立場が逆。YJキャピタルCOOの小澤隆生氏は、「ヤフーはこういう方針なので何かあればお声がけくださいというスタンス」と話している。

ヤフーによれば、昨年のセミナーには400社の申し出があり、先着250社を招待したのだという。そのうち7割はベンチャー企業、残りは大企業が中心。全体で120社から協業の申し出があったのだとか。セミナーがきっかけとなってYJキャピタルが出資したのは、レアジョブともう1社(2月7日のセミナーで公表される予定)の合計2社だ。

出資に至った経緯について小澤氏は、「誤解を恐れずに言えば、もともと(出資する)機会があると思っていなかったが、向こうから来てくれたので『ありがとうございます』と(笑)。代表番号に電話してオファーするのもためらわれたので、きっかけとして出資説明会はよかった」と振り返る。今後は出資だけでなく、ヤフー本体との提携も月1〜2件ペースで実現していきたいという。