「クルマのインターネット」とは?ドライバーのためのIoTについて考える

現在では何十億台ものデバイスがIoT(モノのインターネット)に接続されているが、研究者は今後10年間で驚異的な成長を遂げると予測している

IoTの中で、最もエキサイティングでチャレンジング、そして利益を生む可能性のある分野の1つが自動車だ。クルマはほとんどの人にとって日常生活の主要な構成要素であり、「スマートカー」は人々の時間とお金を節約する多くのことができるようになる可能性がある。

一方で、「クルマのインターネット(IoC)」は、広告ノイズの増加やセキュリティ上の脅威といったディストピア的な未来像も想像させる。インターネットと一体化されたクルマには、どのようなことが予想されるか(良いことも悪いことも)、そして未来のクルマを正しい方向に走らせるために、消費者は自分自身をどのように教育できるか、少し考えてみる価値がある。

コネクテッドカーの可能性と問題

たとえばもしあなたのクルマが、エンジンにトラブルの兆候が表れたら、オーナーが知らないうちに自動的に整備士に連絡が入ると想像してほしい。連絡を受けた整備士は、エンジンから送られてきたデータリポートを読み取り、必要な部品を前もって注文できると想像してほしい。それらのデータが集計されると、自動車会社には大量リコールの必要性を警告できると想像してほしい。道路が渋滞する時、あなたが乗っているクルマは周囲のクルマと通信し、クルマ同士が協力してルートを選ぶことで、渋滞が緩和されるとしたら、どうだろう?もし、あなたのクルマが駐車場やドライブスルーで自動的に支払いをすることができたら?

クルマを所有している人なら、誰もが上に挙げたような問題をよくご存じだろう。これらの摩擦を解消する新しいシステムの展望は、歓迎すべき開発となるに違いない。

しかし、スマートカーから新たに得られるこれらのデータを、セキュリティとプライバシーを確実に守りながら、適切に処理するためにはどうすればいいだろう?各自動車会社は早急に自社製品をオンライン化しようと動き出しており、クルマのインターネットを実現するため、まずは巨大テクノロジー企業の力を借りることになりそうだ。このことは、自分のデータを覗き見されたり売られたりすることに嫌気がさしている消費者にとって、懸念材料になるかもしれない。大手テック企業は、本質的に悪ではないが、その基本的なビジネスモデルの構造では、消費者のプライバシーとセキュリティの保護は最優先事項にはなっていない。

「クルマのインターネット」がより暗い方向に進むことを、想像するのは難しくない。フロントガラスには位置情報を元に更新される広告が表示され、中央のサーバーに保存さた個人の走行履歴や運転の癖は、無数の脆弱性を悪用するハッカーの脅威に常にさらされるなどなど。新たな問題に気を病むことなく、我々の生活を便利に快適にするためには、どのようにクルマをオンライン化すればよいのだろうか?

データセキュリティをIoCの基本とする

当然ながら、巨大テック企業は喜んでドライバーにコネクティビティを提供したがるだろう。だが、それは巨大テック企業のサーバーに個人データを渡すという代償と引き換えになる可能性が高い。これには例のごとく、2つの大きな問題がつきまとう。1つ目は、データの一元化がハッカーの標的になるということだ。どんなに強固なセキュリティシステムであっても、ハッカーは一度突破すればすべての情報にアクセスできることを理解している。第2の問題は、すべてのデータの価値が、そのオーナーにとって無視できないほど、金儲けの道具に利用されるということだ。匿名化を約束するとは言いながらも、データは常に売られてしまうものだ。

IoTは、我々の生活の中にIT統合の新たなレイヤーを形成する。これは少なくともインターネットそれ自体と同じくらい、我々の生活を変えることになるだろう。スマートフォンの普及によって進化を遂げたモバイルインターネットでさえ、これまでインターネットには基本的に画面やキーボード、マウスといった粗野なインターフェイスが使われてきた。IoTは、どこでどのようなインターフェイスを使うかということに、新たなレベルの洗練をもたらす。だが、それは我々の物理的な現実に対する新たなレベルの侵入を意味する。クルマの場合、この新たな発展によって起こりうる問題を我々が警戒するのは当然のことだ。しかし、その必要はない。

分散型台帳技術(DLT)は、接続されたデバイスの基盤にデータのセキュリティとプライバシーを構築するため、クルマのインターネットに向けた道筋を示すと考えられる。DLTはどんなモデルにも、データはコンピュータとサーバーの分散化されたネットワーク上で運ばれるという基本的な概念が含まれている。また、データは永久に保存され、データの新しいエントリーは数学的な検証の対象となる。DLTは大量のデータを扱う方法として、中央集中管理型とは根本的にまったく異なる。DLTは攻撃に対して非常に強いことが証明されており、これらのネットワーク上に分散するデータを収集して売ることはほぼ不可能だ。

仕事に適したツールを選ぶ

現在すでにインターネットに接続されたクルマは何百万台も公道を走っているが、そのほとんどは音楽ストリーミングや天気情報のような素朴なサービスを提供するだけのものだ。だが、今後はさらなる進化にともない、コネクティビティの利用分野は大幅に拡がることが予想される。公道を走る一般的なクルマには、最大で200個ほどのセンサーが搭載され、それぞれが1種類のデータを分刻みで記録する。その総量はあっという間に膨大なものになり、緊急時には高速なデータ処理の必要性が明らかになるだろう。

たとえば高速道路を中程度の交通量で走行しているとしよう。数百メートル先で誰かのタイヤがパンクすると、その情報はすぐに周囲の車両に伝わり、それらのドライバーに急ブレーキの必要性をあらかじめ警告することができる。DLTソリューションには、これらすべての新しい情報パケットを、瞬時にネットワークに取り込み、搬送するために、非常に敏捷な検証プロセスが必要になる。

さらに計算が複雑になるため、今日ではほとんどすべてのDLT が、ネットワークに新たなデータ処理の要求が入る度に料金を請求している。

実際に、この料金は多くの計算モデルの構造に不可欠なものとなっている。しかしこれは、毎日何十億もの「トランザクション」が発生する都市交通のようなシステムでは、明らかにうまく機能しそうもない。分散型データネットワークは、このような大規模なユースケースのシナリオを扱うように設計されていなかったというのが実情だ。たとえばブロックチェーンは、ネットワーク内の検閲耐性において非常に洗練されており、これは特定の金融分野のユースケースにおいて価値があることが証明されている。

しかし、クルマのエアコンが出力を報告するたびに小額のお金を請求するようなDLTは、そのような用途には使えない。高いレベルのセキュリティとリアルタイムの接続性を実現するDLTには、無料で使えることも求められるだろう。

「クルマのインターネット」をバックアップするネットワークには、セキュリティ、スピードそして無課金による採用しやすさという3つが重要なポイントとなる。DLTが最も安全なオプションであることは明らかだが、それに加えて、スケーラビリティと無課金で利用できる構造が提供できなければならない。

駐車場を利用した際に自動で料金の支払いができるという一例は、陳腐な便利さのように思えるかもしれないが、実際には、このような小さなトランザクションを最初から適切に実装することができれば、クルマの交通データ環境における複雑さと膨大さを解決するために我々が越えるハードルは、安全で消費者に優しいIoT全般の実現に、大きな役割を果たすだろう。

完全に接続された物理環境を考えると、それに取って代わるものとして、拡張性が高く料金のかからないDLTが実現すれば、率直に言って最高だ。

【Japan編集部】著者のMathew Yarger(マシュー・ヤーガー)氏は、IOTA Foundationのモビリティおよび自動車部門の責任者。分散型台帳技術をベースにしたイノベーションによるデータ利用の戦略とソリューションを開発している。

カテゴリー:モビリティ
タグ:IoT自動車

画像クレジット:Viaframe / Getty Images

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(文:Mathew Yarger、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

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TechCrunch Japan

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