「ニューヨークのイチゴはまずい」植物工場で作った日本品質のイチゴを世界に届けるOishii Farmが総額55億円を調達

Oishii farm

とちおとめ、あまおう、スカイベリー。旬の冬から春にかけて、スーパーの店頭にはさまざまな品種のイチゴがずらりと並び、おいしいイチゴが手頃な値段で手に入る。日本では当たり前のことだが、海外では少し事情が違うようだ。

Oishii Farmはニューヨーク発の植物工場スタートアップで、彼らの植物工場ではイチゴを生産している。3月12日、Oishii FarmはSparx、Sony、PKSHA、米国のVCであるSocial Starts、個人投資家の川田尚吾氏や福武英明氏などから総額約55億円を調達したことを発表した。

Oishii Farmの代表取締役を務めるのは古賀大貴氏。コンサルティングファームを経て、MBAを取得するために渡米し、UCバークレー在学中の2016年12月にOishii Farmを設立した。

サステナブルな農業のあり方

そもそも植物工場は何かと説明しておくと、施設内の環境(光、温度、湿度、水分など)のモニタリングと制御を行うことで、野菜や果物などの作物を通年で計画生産する施設のことだ。日本ではさほど目新しいものではなく、しばらく前から研究が進んでいる。

植物工場との出会いはコンサルティングファーム時代に遡ると古賀氏は話す。当時、日本のメーカーが開発した植物工場が世に出始めた頃で、古賀氏はその植物工場の案件をいくつか担当していた。ただ、植物工場には農地ではないところで作物が作れたり、狭い土地でも多段式にすることで効率的に作物が作れるなどのメリットがあるものの、日本でビジネスとして成立させるには課題も多くあったと古賀氏は説明する。

「日本の植物工場は中なかなか儲からなかったのです。建てるのが高いにもかかわらず、作れるのはレタスだけという状態でした。それに加え日本には、長野で作られたレタスが、次の日には北海道や沖縄にまで届く完璧な物流システムがあります。なので、わざわざ植物工場で作る必要がありませんでした」。

だが、近年米国では、サステナビリティの観点から植物工場に注目が集まっていると古賀氏は話す。

「カリフォルニアに来た頃、大干ばつが起きて、水不足になりました。洗車するのに水使ってはダメといった規制ができるくらいに。山火事も毎年のように起きていて、気候変動が激しくなってきています。農業は、地球上で人間が消費する水の7割ほど使うと言われています。なので、農業の水問題が米国で議論され始めるようになったのです。植物工場の場合、水をリサイクルできるので、使う水の量を9割以上削減できます。農業が全体の7割を消費していることを考えると、これはすごく効率が良い。

また、植物工場は農地ではない場所でも建てられるので、作物を地産地消でき、物流を簡素化できます。さらに植物工場では基本的に無農薬で作物が作れます。こうした理由から地球に優しい農業ということで、注目が集まっているのです」。

Oishii Farmの植物工場

ニューヨークのイチゴがまずい理由

Oishii Farmが数ある作物の中で、最初にイチゴを作ることにしたのは、立ち上げ当初から利益が見込めることと、強力なブランドが作りやすいことが理由なのだそう。「今あるものに対して圧倒的な差があれば、付加価値があるので、価格プレミアムを乗せやすくなります。例えば、レタスの場合、メキシコで作って陸路で運んだものでも、植物工場で作ったものでも、多少の鮮度差はありますが、大きくは変わりません。ですが、イチゴは味にすごく差が出ます」と古賀氏は説明する。

日本でも贈答用のイチゴはスーパーで売っているものに比べて高額だが、ニューヨーク市ではそもそもスーパーでおいしいイチゴがまったく手に入らないので、価格プレミアムを乗せやすい環境であるのだそう。

「米国のイチゴの9割はカリフォルニア周辺で生産されています。約4000キロメートル、トラックでニューヨークや東海岸に運ぶので、収穫から大体1週間かかります。日本のスーパーですら、ちょっと傷んでいるイチゴがありますよね。それが、アメリカでは1週間かけて悪路で運ばれて店頭に並んでいるのです。値段は日本とあまり変わらないくらいですが、圧倒的にまずい」。

Oishii Farm販売のOmakase Berry

そう言われると気になるのがOishii Farmで作っているイチゴの味だが、Oishii Farmの植物工場では、日本のデパートが扱うような贈答用の高級イチゴの品質のものができるようになっていると古賀氏は説明する。新型コロナウイルスの影響で、ニューヨーク市がロックダウンするまでは現地のミシュランレストランからの引き合いも多くあったという。現在は主にECサイトでの販売を行っているが、今後の生産分に関してはマンハッタンの高級スーパーでの取り扱いが決まっているそうだ。

Oishii Farmは開発した技術や植物工場を生産者に提供するのではなく、自分たちが生産者として作物を販売するビジネスモデルを採用している。古賀氏はこの理由について、「これまでの経験上、箱として売ろうとした取り組みはすべて失敗していて、自分たちで物を作って売っていかないと、プロダクトを突き詰めることができないため」と話す。

今回調達した資金は工場の拡張、ニューヨーク以外で地域の展開とさらなる研究開発に投じると予定だ。今後の同社の展望について聞いたところ、古賀氏はこう話していた。

「我々のイチゴが、普通のスーパーに売っている値段で作れるようになるのは時間の問題だと思います。そうなると既存の作り方よりも、植物工場の方が一年中安定供給でき、環境にも優しく、味も良いので、こっちの方が断然良いということになると思います。高級イチゴをニューヨークで売るというのではなく、農業のあり方を変える、それを達成するのが我々にとってひとつのマイルストーンであると考えています」。

カテゴリー:フードテック
タグ:Oishii Farm資金調達

画像クレジット:Oishii Farm

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TechCrunch Japan

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