「今年が勝負」LINE新社長が描く、米国市場“逆転のシナリオ”

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LINEの森川亮社長が3月31日付けで退任し、4月1日から現COOの出澤剛氏が新社長に就任する。国内では「LIFE」をテーマに掲げ、生活に密着したサービスを相次いで投入するLINE。2014年通期の売上は前年約2倍の863億円に上るなど、順調に推移している。

一方、海外に目を向けると、月間アクティブユーザー数(MAU)が7億人の米国WhatsApp、同5億人の中国WeChatが立ちはだかる。LINEのMAUは1億8000万人にとどまり、水をあけられているが、出澤氏は海外展開をどう舵取りしていくのか。

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――海外市場では苦戦しているように見えますが、どう攻略するのでしょうか?

苦戦というと言葉は悪いですが、挑戦し続けている状況。キーワードはローカライズです。現地のテイストに合うことを、表層的なスタンプのデザインレベルではなくて丁寧にやっていく。それは米国型企業の戦略とは違う考え方だと思います。フォーカスする地域はアジア全域と北米、南米市場ですね。

――ヨーロッパは対象外?

今までは欧州全域が対象と言っていたんですが、今年は絞ります。これまで海外展開している中で、ある程度、地域との相性が見えてきて、反応が良くない地域は絞っていこうというのが現状です。すでに1800万人以上が登録しているスペインについては、引き続きやっていきますけど。

――地域との相性とは?

例えば、キャンペーンの反応度合いとか。スタンプが刺さるときもあれば、現地企業とのタイアップが刺さることもありますし、セレブとの取り組みが刺さることもある。いろんなローカライズをやっているので、ユーザーの反応をかけあわせながら考えている感じですね。

インドネシアの若者の心をわしづかみに

――ローカライズの成功事例は?

例えば東南アジアのLINEには、同級生を探せる機能があります。これは日本にはなくて、東南アジア独自のものです。LINEは学校のデータベースを用意しておいて、ユーザーには学校名や卒業年度を任意で入力してもらっています。

同級生機能のマーケティングもすごくハマりました。2002年にインドネシアで「ビューティフル・デイズ」という映画が大ヒットしたのですが、LINEのキャンペーンに絡めて続編的な動画を作ったんです。この映画は、高校生の男女が主人公のラブストーリーで、最後は彼が米国に留学、彼女はジャカルタに残って離れ離れになっちゃうみたいな。

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――これまた、ずいぶんとベタなストーリー(笑)

インドネシアは民主化されて間もないのですが、2000年ぐらいから文化も活発になってきた面があるんです。「ビューティフル・デイズ」はインドネシアの国産映画としては、初めて大ヒットした国民的映画のひとつなんですね。本当に若者が全員が見ているぐらいの人気で。

それでLINEは2014年秋に、その映画を題材にした10分間のYouTube動画を公開したんです。主人公2人だけでなく、脇役にも出演してもらって。あれから12年後の2人はどうなったのか、っていう内容で。ここでのミソが、LINEの同級生を探す機能。

故郷のジャカルタ行きの出張を命じられた米国在住の彼は、同級生機能で彼女を見つけてメッセージを送るんです。2日間の滞在中に会いたいと。でも返事はなく、帰国のためにジャカルタの空港へ向かうと、そこには彼女が待っていて……。「また何か始まるかも」みたいな含みを持たせて動画は終わるんです。

――映画のファンだったら胸が熱くなりそうな展開ですね。

実際にYouTubeでは550万再生を超えましたし、ソーシャル界隈でも猛烈にシェアされましたね。こうした施策が打てるのは、きちんとローカライズをやっているからこそ。現地のLINE支社に、早い段階で優秀な人にジョインしてもらって、かなりの権限を持たせて企画してもらっています。現地でウケる企画は日本人では発想できないので、現地のセンスを取り入れようと。

インドネシアはものすごく伸びていて、登録ユーザー数は3000万人を超えました。タイや台湾、スペインのように、トップシェアを狙える次の国としては一番近い市場になっています。まさにLINEのローカライズが成功した象徴的なケースといえるでしょう。


ヒスパニック経由で米国進出

――米国市場もローカライズが攻略の鍵ですか? LINEはスペイン語圏で人気があるので、ヒスパニックを「入口」にして米国進出するという見方もあります。

スペイン語圏のユーザー動向で面白いのは、スペインで流行った後に、近隣国のフランスやイタリアではなく、海を渡ってメキシコや南米で流行ったことです。ですので、米国のヒスパニックが(攻略の)糸口になるというストーリーはありえます。

――そもそも、なぜスペイン語圏で人気が飛び火したのでしょう?

同じ言語だと、見ているメディアが同じだったりするじゃないですか。テレビ番組やニュースサイトだったりとか。スペインで伸びたきっかけは、あるブロガーがLINEを紹介してくれたのがきっかけなんですが、そのブログを南米の人が見たかもしれない。そういう意味では、見ているメディアが一緒というのは大きいと思います。

ヒスパニックユーザー以外にも、攻略の仮説はあります。中には、インドネシアの成功例みたく、爆発の起点となる施策が出てくるかもしれません。「これが海外展開の成功法則だ」みたいなものがあればいいんですが、国によって端末普及や通信速度、文化も違うので、1つ1つ丁寧にトライアルしていく感じですね。

非・LINEブランドのアプリが攻略の糸口に

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B612

――ヒスパニックユーザー以外の仮説とは?

米国で言うと、ティーンネイジャーの間でセルフィーが人気なので、自撮り写真でLINEのスタンプが作成できる「ycon」が流行るかもしれません。このように、LINEブランドを名乗らないLINEのアプリがきっかけとなって、米国のユーザーに浸透する可能性もあると思っています。

LINEブランドを全面に出さないアプリとしてはほかにも、北米や中南米で自撮り専用アプリ「B612」が人気を集めていて、世界では2000万ダウンロードに達しました。ゲームでも、ディズニーキャラクターを使った「LINE:ディズニー ツムツム 」は米国で数字が出ています。

あくまでこれらがすべてではありませんが、ティーンネイジャー、LINE本体とは違うアプリ(yconやB612、ツムツムなど)、ヒスパニックといった3つ軸はあるかと思います。

今年1年が本当に勝負

――米国市場の勝算は?

まだまだチャンスはあると思いますよ。でも、そんなに長く空いているドアじゃないので、他のマーケットにしても、今年1年が本当に勝負。(長く空いているドアじゃないというのは)トップシェアを取るときに、端末普及状況を考えると、ある程度たったら固定化するので。

――米国市場のドアはほぼ閉まっているようにも思えますが。

米国はすでに固定化している可能性もありますが、固定化するとひっくり返せないかというとわからないですし、逆に日本でもひっくり返される可能性もはらんでいますので、そこはチャンスはあると思います。

――日本ではマネタイズが進んでいますが、他国の状況は?

日本はまだ「面」を広げるのが主眼です。まずはプラットフォームとして、使っていただく接点や時間を増やすことを目指していて、まだまだマネタイズは抑制している段階。ユーザーに使っていただくシーンを増やすのがプラットフォームとしては正しいと思います。

line04――森川さんと出澤さんの戦略で異なる点は?

方向性としては、2014年1月にCOOになって、昨年4月から代表権を持ってやっているので、基本的に大きな変更はありません。LINEのユーザーファーストのカルチャーやスピード感は、森川時代から言っていることで、それはDNAとして定着しています。私はこれまでの動きをさらに速いスピードで成功させて、世界で認められるステージに持って行くのがミッションだと思っています。

――出澤イズムみたいなのはあるのでしょうか?

どちらかというと私は現場が長いですし、LINEの各事業に関してもハンズオンでやってきました。そういう意味では、現場感というか、自分も一緒にプレイしながらまとめていくスタイルかもしれません。森川さんは、経営寄りなスタンスで大所高所から見る部分がありましたが、私はより、現場に近い目線でスピードを上げていく。提携交渉はもちろんですが、実際にビジネスを進めるところでも、なんでもやっていく感じです。

――ところで、LINE Musicはいつ始まるのでしょう?

もうすぐだと思います(苦笑)。始まると言いつつ、なかなか始まらないのは、ユーザーにとって良いものを届けるために調整しているためです。

――レコード会社との条件で交渉決裂みたいな話はないのですか?

レーベルさんとは非常に友好的な関係でやっていて、そのフェイズはとっくに超えています。あとはアプリの完成度を調整している段階。合弁自体はうまくいっていますよ。上半期にはリリースできるかと思います。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。