「建設DX」のスパイダープラスが上場、現場出身の創業者「俺にわかるものを作れ」

今、デスクレスSaaSが熱い。物流ラストワンマイルの変革を目指す207は、TechCrunch Startup Battle Online 2020で優勝を飾った。また、製造工場から紙をなくすカミナシは、2021年3月シリーズAで約11億円を調達している。

そして2021年3月30日、「建設DX」を推進するスパイダープラスがマザーズに上場した。SPIDERPLUSは、建設現場の施工管理者(現場監督)の業務を効率化するクラウドアプリだ。

大量の図面をiPadに収める

ビルやマンションといった大型の建設現場では、現場監督がA1サイズの図面(紙)を大量に持ち歩く光景は日常的だ。さまざまな箇所の検査を行う中で、図面にメモを記入したり、記録写真を数百枚から数千枚という単位で撮影していく。現場を巡回し終えると、現場監督は事務所に戻り「どの写真がいつどこで撮影されたものか」などの整理を行い、最後に報告書を作成する。この膨大な「まとめ作業」は深夜にまで及ぶことも珍しくないという。

このような「建設現場の非効率」を解決するのがSPIDERPLUS(スパイダープラス)だ。同アプリは、建築図面をクラウド上で管理することができ「iPad1台」で、現場での業務が完結させられる。大量の図面、記録写真、検査記録をいつでもどこでも参照できるため、現場で起こりがちな「忘れた書類を事務所に取りに帰る」こともなくなる。現場での記録写真やメモは、クラウド上で図面に直接紐づけることができ、後の「まとめ作業」も削減可能だ。つまり、現場監督は1台のiPadで現場での検査からレポートの作成までを一気通貫で完結できるというわけだ。

スパイダープラスの導入効果は明確にあらわれている。同社が行ったアンケートによると、ユーザーの40%以上が月20時間以上の業務時間の削減に成功した。現場監督の残業時間が月間約50時間に及んでいたある電気設備工事業者では、スパイダープラスを導入したことで月100時間近くの業務時間削減に至ったという。

画像クレジット:スパイダープラス

現場出身の創業者

スパイダープラス創業者兼CEOの伊藤謙自氏も、かつては作業着を身にまとい建設現場で働く職人の1人だった。2010年頃に初代iPadが発売された頃「こんな便利なものがあるのに、なぜウチの会社には未だに紙や色鉛筆が転がっているんだ」と疑問に思ったことが、スパイダープラス誕生のきっかけとなった。

伊藤氏は早速、幼馴染でともに上京していたエンジニアの友人に相談。伊藤氏のアプリのアイデアを聞いた友人は「作れると思う」と答え、そこからスパイダープラスの開発が始まった。この友人が、現在同社でCTOを務める増田寛雄氏だというからおもしろい。

建設現場出身であり、同時にSaaS創業者でもある伊藤氏の口癖は「俺にわかるものを作れ」だ。同社はあくまでも現場目線に立った使いやすいプロダクトを作ることで、顧客の支持を獲得してきた。現場でアプリを使うユーザーからは「スパイダープラスはとにかく簡単に使える。ボタンが1つしかないくらいにシンプルだから」との声が聞こえてくるという。

それでも、2011年のリリースからしばらくは顧客に受け入れられない期間が続いた。とにかく現場に足繁く通い、顧客と対話を重ねてプロダクトの改良を続ける他なかったという。転機は2013年の東京オリンピック開催決定だった。建設業界の人手不足が顕在化し、大手企業を中心に「建設DX」を真剣に検討する機運が高まり始めた。このニーズに、それまで「もがきながら」地道に改良を続けてきたスパイダープラスがフィットしたのだ。

スパイダープラスは、2017年から3年連続で契約社数を昨対比200%伸ばし、2021年1月時点で鹿島建設をはじめとする大手ゼネコンやサブコンなど約800社が導入し、約3万5000人のユーザーが利用する。既存顧客の売上継続率を測るNRRは145%、また解約率は0.6%という。

建設DXはスパイダープラスの独壇場というわけではない。Forbes JapanのCloud Top 10に選出されたアンドパッドをはじめ、今後さらに競合が増える可能性は十分にある。しかし、アプリ開発前より行う保温断熱工事業を「祖業」として継続するスパイダープラスの視線の先にあるのは、あくまで顧客だ。同社は「建設業者」として顧客と同じ目線に立ち続けることで、他のSaaS企業との差別化を図る。上場企業となった今こそ、現場を重視するスパイダープラスの姿勢は大きな強みになるだろう。

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カテゴリー:ソフトウェア
タグ:スパイダープラス建築DX日本新規上場

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TechCrunch Japan

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