空飛ぶ自動車は実現が確実約になったが、考えてみれば、空飛ぶ船のほうが簡単に作れる。
ガソリンの代わりに電気を使う「空飛ぶ」ボートのスタートアップSeaBubblesは、先週末、マイアミにて5隻(彼らが愛着を込めて「石けん入れ」と呼ぶ白い窓のない初期の作品を数に入れるなら6隻)の試作艇を披露した。この画期的な船のデザインは、造船、航空学、インテリジェントなソフトウエアといった技術の合体によって生まれたもので、水中翼で胴体を水上に浮き上がらせて航行する。抗力が小さいために荒れた海でも少ないエネルギーで進むことができ、乗り心地も比較的滑らかだ。
浮き上がると、船はまさに水上を「飛んでゆく」感じになる。
わずか3年前にパリで設立されたSeaBubblesのアイデアは、同じように船体を浮かせて抗力を減らす仕組みの水中翼式トライマランの実験艇Hydroptèreをデザインし操縦したヨットマンAlainThébaultの夢から生まれたものだ。Hydroptèreは、50.17ノット(時速約93キロメートル)という速さで、帆船の最高速度記録を2度更新している。SeaBubblesのもう一人の共同創設者Anders Bringdalは、ウィンドサーフィンで4回もチャンピオンに輝いた経歴を持ち、ウィンドサーフィンの速度世界記録51.45マイル(時速約94.3キロメートル)も打ちたてている。
この2人が、都市の交通渋滞と環境の問題を改善し、水路を活用して人々を運ぶ高速水上タクシーというSeaBubblesの構想で手を組んだのだ。
「現代の都市には、共通の問題がひとつあります。汚染と渋滞です」とBringdalは解説する。「街に水路があっても、ほとんど利用されていません。巨大なハイウエーが街の真ん中まで延びているのに誰も使っていない、そんな状況を想像してみてください。なぜでしょう?」とBringdalは言う。
「普通の船でも可能です」と彼は認める。「しかし、普通の内燃機関を備えた普通の船では、1時間あたりの燃料代は70ドルから130ドルになります。私たちの船なら2ドルです」と彼は言う。
この低コストは、完全な電動化によるものだ。つまり、この船は電気ステーションで充電するようになっている。ガソリンをがぶ飲みして起こした電気ではなく、太陽光発電で賄えれば理想的だ。
SeaBubblesでは、市場に投入する最初の水上タクシー(全長4.5メートルで操縦士を除いて4名乗船できる)に至るまで、さまざまなデザインやモデルを試してきた。しかし、この技術は拡張が可能で、もっと大きなボートから、フェリーにまで応用できる。
SeaBubblesのアメリカのパートナーDaniel Berrebiによると、彼の会社Baja FerriesがSeaBubblesに「少額」の投資をしており、彼が所有するような大型船にこの技術を導入して利益を得ることが可能だという。
そうしたビジネス上の興味とは別に、Berrebiは、SeaBubblesのアメリカでの最初の営業活動に協力している。彼は、マイアミですでに4隻を個人に販売したと話していた。そう、彼らは「小切手を握って、点線のところにサインをして」実際に買ったというのだ。購入した人たちは名前の公表を拒んでいるが、音楽界やスポーツ界の有名人も含まれているようだ(もっとも、彼らがどんなに名前を隠そうとしても、マイアミの水路でまだ4隻しかないこの空飛ぶボートを乗り回していれば、自ずと正体はバレてしまうのではないか?)。
SeaBubblesが、この技術をこれほど早く市場に送り出すことができたのは、自社製造にこだわっていないためだ。
たとえば、モーターはTorqeedo製だ。フライ・バイ・ワイヤーの操縦系統は、水中翼船と飛行機の操縦システムのエンジニアRicardo Bencatelの会社4DC Techの製品だ。彼のソフトウエアは、Artemis RacingやOracleといったアメリカズカップの複数の出場チームのヨットにも使われている。ただし、SeaBubblesのバージョンには、その船の独特な特性のために、特別な部品が使われている。
「この(SeaBubbles)ボートにはメインのセンサーが3つあります。水面からの距離を測るための高度センサーが2つと、ジャイロスコープです。携帯電話に入っているようなやつです」とBencatelは説明している。
「それらのセンサーからの測定値をコンピューターが総合して、ボートの角度、高度、速度を把握します」と彼は言う。ソフトウエアはその情報を元にボートのフラップを動かし、調整を行う。「たとえば、リフト、つまり船体の高さを調整したいときです」とBencatelは教えてくれた。「また、船体が左右に傾いてしまうとき、フラップを動かして姿勢を修正します。ピッチ、つまり船体が前後に傾くときは、前後のフラップを調整します」とのこと。
これらの調整は、ソフトウエアによって自動で制御される。なので、操縦者はただ舵輪を回して方向を決めるだけでよい。いつ浮上していつ着水するかも、自分で考える必要はないのだ。一定の速度に達すると、自動的に行われる。6ノット(時速約11キロメートル)以下のときは、船は100パーセントの抗力を受ける。そして「飛行」状態に入れば、抗力は60パーセントまで低減される。そうなると、客室の振動も少なくなる。
SeaBubblesが使用しているリチウムイオン・バッテリーは防水性能IP67等級のもの。使えば使うほど、希望小売価格の20万ドル(約2200万円)という高い船舶代金は、ガソリン代や整備費の節約分で相殺されてゆく。
SeaBubblesの試作艇は、自律航行できるのは1.5時間と短く、その技術を存分に発揮できるようになるまでの充電時間は5時間かかる。しかし同社の説明では、製品版では自律航行時間は2.5時間、充電時間は35分になるという。これは、最初に購入した人たちに向けて夏に出荷を予定しているモデルだ。
マイアミの他にも、SeaBubblesはロシアに顧客を抱えている。モスクワの豪華ホテルと、サンクトペテルブルクでも取り引きが成立した。さらに、ロッテルダムとアムステルダムでも売れている。同社はそれらの市場に向けて船を製造する計画を立てており、今年か来年の夏にはパリにも進出したい考えだ。パリでは、試作艇はゆっくり走っていた。浮上速度は6ノット。最大巡航速度は15ノット(約27.8キロメートル)だ。製品版には大型のモーターが搭載されるので、平均的な巡航速度は16ノット(時速約30キロメートル)、最高速度は20ノット(時速約37キロメートル)に達する。
SeaBubblesは、今週はマイアミに留まり、ボートを展示しながら販売を伸ばす計画だ。地元行政機関との面談も予定している。
Bringdalは、同社の初期の声明は少々野心的すぎたと明かしている。2024年までに50の都市に展開するいう内容だ。「現実には、一歩一歩といったところです」と彼は言う。「このアメリカで手応えが得られたことを、とても嬉しく感じています」
SeaBubblesには7人のフルタイムの社員と、25人の契約社員を含む従業員がいるが、今日までに1400万ドル(約15億4700万円)の投資を集めている。投資家には、ドローンのメーカーParrotの創設者Henri Seydoux、Partech Ventures、フランスの公的投資銀行BPIフランス、フランスの保険会社による投資ファンドMAIF、それに友人と家族とその他の支援者が含まれている。
同社はシリーズAの資金調達の準備を進めている。
(写真撮影:Alain ThébaultとSarah Perez)
[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)